「AI退職」が現実になる時代に、選ばれる人材であり続けるために

AI退職
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静かに広がる「AI退職」

AIの進化が止まりません。
ChatGPTのような生成系AIに限らず、業務自動化ツールやナレッジ共有の高速化も日々進んでいます。今まで「人」が担っていた仕事は、確実に置き換えられ始めています。

人事の世界も例外ではありません。
例えば、AIが昇格時の面接担当を行い、評価コメントまで作成する。面接官が誰だったかと問えば「AIでした」と返ってくるような時代が目前に迫っています。

そして今、静かに広がる言葉が「AI退職」です。

かつては、事業の赤字やポートフォリオ再編のタイミングで人員整理が行われることが一般的でした。

ところが現在では、業績にかかわらず、黒字経営の企業でも将来を見据えて人材構造の最適化に着手する企業が増えています。

事実、2025年時点で早期退職者数はすでに1万人を超えたとも報じられています。

管理職がAIに代替される時代へ

中でも、早期退職の対象となりやすいのが、40〜50代の管理職層です。

かつてプレイヤーとして実績を上げてきたものの、
年功によって賃金水準が高止まりし、
一方でAIやITには不慣れで、環境変化への適応も後手に回っている。

こうした人材は、「将来の非選抜対象」として結果的に静かに退場を促されつつあります。

バブル崩壊、就職氷河期、リーマンショック、震災、コロナ、ようやく落ち着いたと思った矢先に、今度は「AIに替えられる側」としてのプレッシャーが襲ってくる。

厳しい現実かもしれませんが、企業は、過去の経験だけに頼る人材を必ずしも残そうとはしなくなりつつあります。

どれだけ過去の経験が豊かでも、それが再現される見込みがないなら、AIの方が合理的だと判断されてしまうのです。

「替えが効かないか?」ではなく、
「替えても問題ない」と思われたとき、代替は現実のものとなります。

AI時代に求められる「社内で選ばれる力」

こうした時代において、企業が求める人材像は明確です。
それは「成果を出せる人材」、すなわち「社内で選ばれる力」を持つ人です。

能力があること、スキルがあること。それ自体は当然として、それを「どう発揮し、どのような成果を残したか」が評価の中心になります。

AIの進化が加速する今だからこそ、改めて人材マネジメントの原点に立ち返る必要があります。

問い直すべきは、「職務」と「評価」の仕組み

スキルや成果を正当に評価しようとするならば、「誰が・何を担っているのか」「どこまでが責任範囲か」を明確にする必要があります。

つまり、「職務の定義」です。

これは現在の制度がジョブ型であるかどうかにかかわらず、AI時代の組織にとって本質的な問いです。

  • 何をもって成果とするのか
  • どうすれば次のステップに進めるのか
  • どこまでが個人の責任で、どこからがチームの責任か

これらが曖昧なままでは、優秀な人材ほど不信を抱き、組織を離れていくリスクが高まります。

「何が評価されているのかわからない」という声が出るとしたら、
それはマネジメントの設計に見直しが必要であることのサインかもしれません。

職務記述書は「人を動かす」ために書く

「職務記述書を書くと、人が動かしづらくなる」といった懸念の声を聞くことがあります。
しかし、実際にはその逆です。

異動や配置転換をスムーズにするためにこそ、能力・経験をベースに職務をポータブルに言語化する必要があります。

特に、複数部門にまたがる配置や、成果主義的な運用を目指すのであれば、「誰が・どんな役割を担っているか」を職務記述書という形で見える化することで、納得性と透明性の高い人材活用が可能になります。

近年では、スキルベースで人材を評価・配置しようとする企業も増えています。

その際、ひとつ注意すべき点があります。

スキルを「持っている」ことそのものよりも、スキルを「活かして成果を生んだ」経験やストーリーこそが、組織にとって再現性のある価値だということです。
たとえば、「○○の資格を持っている」ではなく、「○○のスキルを活用して、△△という成果を実現した」と語れることが、人材としての価値を大きく左右します。

AIではなく、「人に選ばれる存在」に

AIがどれほど進化しても、最後に人を選ぶのは人です。

「人に選ばれ続ける存在であること」が、今後求められる人材像ではないでしょうか。

  • 自分の職務は明確に定義されているか?
  • その役割は、組織にどのような価値をもたらしているか?
  • 評価と報酬は、その役割ときちんと連動しているか?

今一度、自分自身に問い直してみるきっかけとなれば幸いです。

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