[第一部]上場企業の役員報酬制度設計で押さえるべきポイント ~中堅・中小規模の企業だからこそ考えたい、あなたの企業の役員報酬制度を再点検~

目次

<第一部>報酬ポリシー/その報酬の支給根拠、ちゃんと説明できますか?


上場企業の役員報酬の現在地


「役員報酬?役員レベルは、社長や会長の言い値で決まってるよ!」
「役員の報酬は毎年変わらず固定的に決まってるけど、、、他に何か決めないといけないの?」
「有価証券報告書なんかで報酬実績を載せておけば事足りるのでは?」

役員報酬についてこういった考えを持つ人は多かったのではないでしょうか?
しかし、2015年のコーポレートガバナンス・コードの公表、その後の複数改訂に伴い、上場各社の役員報酬に関する考え方・取り組みは、以下のような変化を見せています。

■パフォーマンス連動型報酬の増加
短期インセンティブ(STI)や長期インセンティブ(LTI)を含む、企業業績や株主価値と連動した報酬体系の導入の進行
■株式報酬制度の採用拡大
長期的な企業価値向上を目指すため、譲渡制限付き株式(RS)やパフォーマンスシェアユニット(PSU)など株式報酬制度の導入が増加​
■報酬委員会の設置とガバナンスの強化
報酬委員会の設置が増加し、報酬決定プロセスに係る企業の説明責任が求められ、役員報酬制度に対する透明性と公平性が向上
■ESG要素の反映
近年、役員報酬の評価基準にESG(環境・社会・ガバナンス)要素を組み込む企業が増加

このように、企業価値向上に向けて各社で様々な取組みが推進されています。他方、経済産業省発表のデータでは、以下のような実態もうかがえます。

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例えば、固定報酬以外のインセンティブの導入実態についてですが、時価総額一兆円を超える超大手企業ではインセンティブの導入が非常に進んでいますが、時価総額500億円未満、いわゆる中堅・中小規模企業においては、まだまだ導入途上の段階のようです。
「な~んだ、じゃあうちもしばらくは今の制度のままで大丈夫!」と片付けてしまうのは早計かもしれません。


実は役員報酬制度は自社の経営課題の解決の強力なツールとなり得るのです。

今回は、コーポレートガバナンス改革が叫ばれている今だからこそ中堅・中小規模上場企業には考えていただきたい、経営課題解決にむけた役員報酬との向き合い方について、3つのポイントをお話ししていきます。
 

向き合い方①報酬ポリシーを考える


<企業視点/経営目標との連動性確保>
役員報酬制度は、企業の経営戦略を支える「うつし鏡」であり、単なる報酬額の設定にとどまりません。経営目標と役員報酬を連動させた「役員報酬の目的・考え方=報酬ポリシー」をまずは検討するようにしましょう。
報酬ポリシーを設定することで企業全体としての価値観が共有・強化され、役員層がその責任と役割を理解し、経営目標に対するコミットメントを高められるようになります。

経営目標の役員報酬への関連付け方は企業によって様々ですが、例えば以下のようなマトリクスを使って、自社の経営の方向性と役員報酬の考え方を整理することができます。

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<従業員視点/社内における一貫性・公平性の確保>
また、報酬ポリシーを持つことは従業員視点からも大変重要です。
従業員層では、「組織目標達成」という目的に向けて「個人目標設定⇒達成度確認⇒報酬反映」という報酬プロセスが当たり前のように運用されていることが多いですが、役員層にはこうした仕組みがあまり厳格には適用されていないのが現実です。
「目的は何か?」「目的達成によってどのように報いるか」を報酬ポリシーによって明らかにすることで、従業員の仕組みとの連続性を持たせることができ、目標達成に向けた企業の一体感を高めていくことができるのです。(ただし、無理に一致させる必要はありません)
 

ポイント②定量分析による客観的な裏付けを/市場動向もしっかり確認


役員報酬設計ではポイント①のように企業内での戦略性・一貫性を確保することが重要ですが、それとともに客観的なデータや事実に基づくアプローチが求められます。
すなわち、業界内外のベンチマーク企業を設定し、ベンチマーク企業との比較の下、役員報酬の水準・仕組みが市場の期待に沿ったものになっているかを確認していきます。
同業他社や競合企業と比較しながら、報酬水準と企業成長における自社のポジションを定義することでより確からしく自社の現在地を把握し、役員制度を通じた役員のパフォーマンス向上施策を効果的に検討することができるでしょう。
 
特定に企業との比較でも構いませんが、以下のような切り口を用いてベンチマーク企業を設定することでより客観的で解像度の高いデータ収集が可能となります。

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ポイント③あるべき姿と現実のバランスをとる/中長期的な視点を持つ


役員報酬制度は一度で完成するものではなく、企業の実態・成長に合わせて段階的に進化させていく必要があります。そのため、企業のあるべき姿と現実の状況を踏まえたロードマップを策定し、制度改革を段階的に実行することが望ましいです。

初期段階では、現行の報酬制度を見直し、短期的な課題解決から着手します。例えば、基本報酬の基準を市場ベンチマークに合わせるといったアプローチや、役員の業績連動報酬の導入を検討することで、役員の全社業績への意識向上を図る報酬制度にシフトします。
次のステップでは、複数の目標達成度合いに応じてインセンティブが強化される仕組みを取り入れるなど、企業の中長期的な成長戦略にも各役員が主体的にコミットできる、柔軟かつ持続可能な制度を構築していくのがよいでしょう。

このように一回きりの改定に終わらせず、役員報酬の設計には自社の社風、役員体制を踏まえた長期的な戦略性を持たせることが求められます。
ロードマップを通じて、企業成長の強力なエンジンとして推進力として役員報酬制度を活用していくことが、重要な視点となるでしょう。

最後に


ここまで、上場企業、特に中堅・中小規模企業の役員報酬の向き合うポイントを紹介してきました。
これらは報酬設計にあたっての心構えのようなものです。
じゃあ実際の設計はどうすればいいのか?
次回以降は、そうした設計実務における様々なポイントを紹介していきますのでお楽しみに!

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