年俸制
ねんぽうせい
監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)
年俸制とは、賃金を1年単位の総額で決定し、それを分割して支給する報酬制度である。年間の総額を先に確定させる点が月給制との違いだが、労働基準法上の毎月1回以上・一定期日払いの原則は適用され、時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金の支払義務も免除されない。
背景・時事文脈
年俸制は、成果に応じた処遇を実現する仕組みとして1990年代以降に導入が広がった。
ただし実務上は「年俸制だから残業代は不要」という誤解が長く残っている。
労働基準法上、賃金の支払方法には毎月1回以上・一定期日払いの原則があり、年俸制であっても年1回払いにすることはできない(条文はe-Gov法令検索の労働基準法で確認できる)。
また、割増賃金の算定基礎から除外できる賃金は限定的に列挙されているため、年俸額のうち賞与の名目で支払われる部分についても、年俸額があらかじめ確定している場合には「臨時に支払われた賃金」には当たらず、算定基礎に含めるべきものとされている。
年俸を16分割し4か月分を賞与として支給する形をとっても、割増単価は年俸総額をもとに計算される。
人事制度設計上の論点
年俸制の設計で最初に決めるべきは、年俸額が何によって決まるかである。
年俸額を個別交渉で決める運用にすると、等級制度との対応関係が失われる。
同一等級内で年俸額が説明のつかない幅を持ち、賃金カーブも等級を反映しなくなる。
これを避けるには、等級ごとに年俸のレンジを設定する——実質的に範囲給の構造を年俸に適用する——形が現実的である。
第二の論点は、業績連動部分をどこに置くかである。
年俸に業績連動分を組み込むと、本来変動費であるべき賞与が年俸として固定化される。
業績が悪化した年に年俸を下げるという処理は、就業規則の不利益変更の論点に触れる。
業績連動性を維持したい場合は、年俸を固定部分に限定し、賞与を年俸の外に置く設計が整合的である。
第三に、年俸額の改定手続きである。
年度ごとに年俸を改定する仕組みは、評価結果を翌年度の年俸に反映させるうえで機能する一方、下方改定の要件と手続きを就業規則および個別契約に明記しておかなければ、実際の減額は難しい。
改定を評価結果と機械的に連動させる場合は、洗い替え方式との違い——洗い替えは毎期ゼロベースで再決定する仕組みであり、年俸制の下方硬直性とは前提が異なる——を整理しておく必要がある。
なお、年俸制の適用者を管理監督者として扱い割増賃金を支払わない運用が見られるが、年俸制の適用と管理監督者性は別の判断である。
個別の判定については専門家への確認が必要である。
より深く読む
報酬の総額ではなく見せ方が従業員の受け止めを左右する構造については、平康慶浩による論考『なぜ昇給よりも手当が刺さるのか――「それ、会社に騙されてない?」への行動経済学の答え』で詳しく解説している。