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裁量労働制

裁量労働制

さいりょうろうどうせい

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

裁量労働制とは、業務の遂行方法や時間配分を労働者本人の裁量に委ねる業務について、実際の労働時間にかかわらず、労使協定または労使委員会の決議で定めた時間を労働したものとみなす制度である。対象となる業務が法令で限定されている専門業務型と、事業運営に関する企画・立案・調査・分析の業務を対象とする企画業務型の二種類がある。

背景・時事文脈

裁量労働制は2024年(令和6年)4月1日施行の改正により、導入・運用の要件が見直された。

厚生労働省は専門業務型裁量労働制の解説および企画業務型裁量労働制の解説を公表している。

改正の核心は、専門業務型において本人の同意を得ることが要件に加わった点である。

従来、専門業務型は労使協定の締結によって導入でき、個々の労働者の同意は要件ではなかった。

改正後は、本人の同意を得ること、同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと、同意の撤回の手続きを定めることが必要となった。

企画業務型についても、同意の撤回に関する手続きの定めが追加されている。

この変更は、裁量労働制を個々の労働者との合意に基づく制度として位置づけ直すものである。

制度を包括的に適用してきた企業では、対象者ごとの同意取得と記録の管理という運用負荷が新たに生じている。

なお、裁量労働制の対象業務への該当性や個別の運用の適否については、専門家への確認が必要である。

人事制度設計上の論点

裁量労働制は労働時間制度の選択肢として語られることが多いが、実務上の本質は時間ではなく成果で処遇するという方針を、制度として担保できるかにある。

時間管理だけを外して評価と報酬が従来のままであれば、労働者から見れば負担だけが増える。

対象業務の限定は厳格である。

業務名が近いというだけで対象になるわけではなく、遂行方法の裁量が実際に本人に委ねられているかが問われる。

上司が日々の業務手順と時間配分を指示している状態では、名目上対象業務であっても制度の要件を満たさない。

みなし労働時間は、対象業務を遂行するために通常必要とされる時間として設定する。

ここで設定した時間が法定労働時間を超える場合、超過部分については割増賃金の支払いが必要となる。

深夜労働と法定休日労働の割増賃金も、裁量労働制の適用によって免除されるわけではない。

実務上の設計論点は、みなし時間を実態より短く設定していないかである。

実際には恒常的にみなし時間を大きく上回る労働が発生しているにもかかわらず、みなし時間を法定労働時間ちょうどに設定している運用は、制度の趣旨に反する。

健康確保措置の実施状況とあわせて点検すべき箇所である。

裁量労働制を適用する対象は、多くの場合専門職制度や研究開発職など、成果の発現までに時間を要する職務である。

この層に対して、投入時間を前提としない評価基準を用意できているかが制度の成否を分ける。

目標管理制度(MBO)を用いる場合、期間内に成果が出ない性質の業務に対して単年度の目標達成度だけで判定すると、挑戦的なテーマを避ける行動を誘発する。

プロセスの質や中間成果を評価対象に含める、評価期間を業務のサイクルに合わせるといった調整が必要になる。

人事評価制度の側で等級別に評価対象の比重を変える設計が前提となる。

等級制度との関係では、裁量労働制の適用を等級の要件と結びつけるかどうかが論点になる。

特定等級以上を一律に対象とする運用は簡便だが、業務の実態が対象業務に該当するかの確認を省略する結果になりやすい。

等級ではなく職務単位で適用可否を判断するほうが、制度の要件と整合する。

時間配分の裁量を与えたいだけであれば、フレックスタイム制で足りる場合が多い。

裁量労働制は業務の遂行方法についても裁量を委ねる制度であり、適用の前提が異なる。

時間の柔軟性が目的なのか、成果基準の処遇への移行が目的なのかを切り分けることが、制度選択の出発点になる。

裁量労働制の下では、実際の労働時間にかかわらず一定時間を労働したものとみなすため、労働時間の把握が形骸化しやすい。

しかし、みなしの対象となるのは割増賃金の算定であって、健康確保の責任ではない。

労働時間の状況の把握と、それに基づく健康確保措置は、裁量労働制の適用者に対しても必要である。

実務上は、在社時間やアクセスログなど客観的な記録によって実労働時間を把握し、一定の水準を超えた者に対して医師の面接指導等につなぐ運用を、制度の導入と同時に設計しておく必要がある。

この運用がないまま制度だけを導入すると、長時間労働が可視化されないまま進行する。

勤務間インターバルやつながらない権利が労働基準法の抜本改正の検討項目に挙がっているのも、この文脈に位置づけられる。

より深く読む

時間ではなく成果で処遇する制度が、働く側の意識にどう作用するかについては、平康慶浩による論考『働くことに自己実現を見出せない人は、「甘え」でも「自意識過剰」でもない―「承認の需給ギャップ」と人事の打ち手』で詳しく解説している。