株式報酬(RSU・ストックオプション)
かぶしきほうしゅう
監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)
株式報酬とは、自社の株式または株式を取得する権利を報酬として付与する仕組みの総称である。ストックオプション、譲渡制限付株式(RS・RSU)、株式交付信託などの形態がある。現金報酬と異なり、受け取る側が得る利益が将来の株価に連動するため、中長期の企業価値向上と個人の利益を結びつける手段として用いられる。
背景・時事文脈
株式報酬の活用は、上場企業に対しては要請として示されている。
東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」(2026年7月21日)は、経営陣の報酬について、「健全な企業家精神の発揮に資するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定」すべきとしている。
現金と自社株の比率が設計事項として明示されている点が要点である。
税務上の扱いは形態によって大きく異なる。
国税庁「No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について」によれば、税制非適格の場合は権利行使時に「(権利行使時株価-権利行使価格)×株式数」が所得となり、雇用関係に基づく場合は給与所得として課税される。
その後の株式譲渡時には「(売却価格-権利行使時株価)×株式数」が譲渡所得となる。
これに対し、国税庁「No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合」が示すとおり、租税特別措置法第29条の2第1項の適用を受ける税制適格ストックオプションでは、権利行使時の経済的利益について課税が繰り延べられ、譲渡時に経済的利益とキャピタルゲインを合わせて申告分離課税の対象となる。
課税のタイミングが一度で済み、かつ分離課税となる点が、付与される側にとっての違いになる。
人事制度設計上の論点
形態による性格の違い
| ストックオプション(税制適格) | ストックオプション(税制非適格) | 譲渡制限付株式(RS・RSU) | |
|---|---|---|---|
| 渡すもの | 株式を取得する権利 | 株式を取得する権利 | 譲渡に制限を付した株式そのもの |
| 課税の時期 | 権利行使時は繰延べ、譲渡時に課税 | 権利行使時と譲渡時の二段階 | 制限解除時等に課税(個別の確認を要する) |
| 株価が付与時を下回った場合 | 行使しなければ利益も損失も生じない | 同左 | 株式は残るため一定の価値が残る |
| 動機づけの性格 | 株価上昇への強い動機 | 同左 | 在籍と株価の両方に連動 |
上表は一般的な整理であり、適格要件の充足や具体的な課税関係については専門家への確認が必要である。
設計の実務では、株価が下がったときに何が残るかという点が、対象者の受け止めを最も大きく左右する。
誰に付与するか
経営陣に限定するか、従業員まで広げるかは、株式報酬の目的によって決まる。
役員報酬の一部として設計する場合は、株価への責任を負う立場との対応が明確である。
一方、従業員に広く付与する場合は、個人の努力と株価の関係が遠くなるため、動機づけの効果は薄れ、代わりに一体感や採用競争力といった別の効果を狙うことになる。
何を目的とするかを決めずに付与範囲だけを広げると、費用に見合う効果を説明できなくなる。
既存の報酬制度との関係
株式報酬は現金報酬の置き換えとして設計する場合と、上乗せとして設計する場合がある。
置き換えであれば総額人件費管理の枠内で処理できるが、対象者の手取りは当面減る。
上乗せであれば納得は得やすいが、人件費の総額は増える。
賞与(業績連動賞与)や退職金との役割分担を整理しないまま追加すると、報酬項目が積み上がるだけになる。
導入時に決めるべき5点
形態を選ぶ前に決めておくべき事項がある。
第一に目的である。
株価への責任を負わせたいのか、離職を抑えたいのか、採用時の提示水準を上げたいのかによって、適する形態は変わる。
第二に対象範囲で、役職か、等級か、個別選抜かという基準を先に定めておかないと、付与のたびに交渉になる。
第三に権利が確定するまでの期間で、在籍年数や業績条件をどう組み合わせるかを決める。
第四に中途退職時の扱いで、自己都合と会社都合で差を設けるかどうかは、後から変更しにくいため設計時に確定させる必要がある。
第五に希薄化の上限で、発行済株式数に対してどこまで許容するかを既存株主に説明できる水準に置く。
この5点を先に決めておけば、形態の選択は技術的な問題に収まる。
非上場企業における制約
非上場企業では株式に流通市場がないため、付与された側が現金化する機会は上場や株式譲渡の場面に限られる。
株式報酬を用いる場合は、上場を具体的に想定しているか、あるいは譲渡の受け皿を会社が用意できるかが前提になる。
それが難しい場合は、株価に連動した金銭を支給する仕組みなど、株式そのものを渡さない設計を検討することになる。
よくある質問
税制適格ストックオプションと非適格は何が違うのか。
課税のタイミングと所得区分が異なる。非適格では権利行使時に経済的利益が課税され、雇用関係に基づく場合は給与所得となる。適格では権利行使時の課税が繰り延べられ、譲渡時に申告分離課税の対象となる。適格となるには租税特別措置法の要件を満たす必要があり、個別の判定については専門家への確認が必要である。
株価が下がった場合、動機づけの効果はどうなるか。
ストックオプションは権利行使価格を株価が下回ると行使する意味がなくなり、動機づけの効果は失われる。譲渡制限付株式は株式そのものを渡すため一定の価値が残る。株価の変動幅が大きい企業ほど、この違いが設計上の分岐点になる。
非上場企業でも株式報酬は使えるか。
制度上は可能だが、株式に流通市場がないため、付与された側が現金化できる場面が限られる。上場の具体的な想定がない場合は、株価連動の金銭報酬など別の手段を検討するほうが、目的と手段が噛み合う。
より深く読む
従業員への株式報酬をどう考えるかについては、平康慶浩による論考『従業員株式報酬は4社に1社|日米比較から見る導入前に押さえるべき論点』で詳しく解説している。