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役員報酬

役員報酬

やくいんほうしゅう

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

役員報酬とは、取締役・監査役などの役員が、その職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益である。従業員の賃金が労働契約に基づくのに対し、役員報酬は委任契約に基づくものであり、会社法上、定款の定めまたは株主総会の決議によって定めることとされている。実務上は、固定報酬・業績連動報酬・株式報酬の三つの構成要素を組み合わせて設計される。

背景・時事文脈

役員報酬の決定手続きは会社法第361条に定められている(条文はe-Gov法令検索の会社法で確認できる)。

株主総会で総額の上限を決議し、その枠内での個人別配分を取締役会に委ねる運用が広く行われてきたが、配分の考え方が外部から見えないという課題が指摘されてきた。

ガバナンス改革の文脈でも役員報酬は継続的な論点である。

コーポレートガバナンス・コードは2026年7月21日に改訂版が確定・公表された(金融庁「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」、コード本文)。

この改訂は「成長投資の促進」を主題としており、取締役会が設備投資・研究開発・人的資本・知的財産等への経営資源の配分を具体的に説明することや、独立社外取締役の役割・責務、ステークホルダーとの協働における人的資本への投資と適切な分配が論点として整理されている。

役員報酬の設計は、この経営資源の配分に関する説明責任の一部として位置づけられる構造になっている。

人事制度設計上の論点

役員報酬は従業員の報酬制度とは別の法的枠組みにあるが、設計を切り離すと組織の内部で矛盾が生じる。

経営が何に報いるかという方針が、役員層と従業員層で食い違っていないかが実務上の核心である。

比率の設計は、その企業が経営陣に何を求めているかの表明になる。

固定報酬の比率が高ければ安定した執行を、業績連動と株式報酬の比率が高ければ企業価値の向上を優先していることになる。

比率を決めずに個別の金額から積み上げると、この方針が事後的にも説明できなくなる。

役員報酬と従業員報酬の断絶は、3つの形で組織に現れる。

第一に、業績が悪化した局面での対称性である。

従業員の賞与を業績連動で減額しながら、役員報酬の固定部分が維持される構造は、業績連動という考え方そのものへの信頼を損なう。

役員報酬に十分な変動幅を持たせておくことは、従業員の業績連動報酬を機能させる前提条件でもある。

第二に、役員一歩手前の層の処遇である。

執行役員や部門長クラスで、従業員としての賃金テーブルの上限に達しているにもかかわらず役員報酬の水準には届かない断層があると、その層の役割拡大に対して報いる手段がなくなる。

役割等級制度の最上位等級と役員報酬の最下位水準を連続させる設計が必要になる。

第三に、サクセッションプランとの整合である。

後継者候補に経営者としての意思決定を経験させたいのであれば、報酬の構成もそれに対応して変化すべきである。

従業員としての報酬構成のまま経営責任だけを負わせる状態は、候補者の側から見て合理性を欠く。

役員報酬の議論は水準から始まりやすいが、実務上は誰がどのような根拠で決めるかを先に設計するほうが機能する。

任意の報酬委員会を含む諮問機関を設置し、報酬方針・構成比率・指標を先に決議したうえで個人別の配分を行う手順にすれば、水準そのものへの説明が事後的にも成立する。

同時に、外部の報酬水準データを参照する場合、比較対象の選定基準(業種・規模・上場区分)を明示しておく必要がある。

基準を示さずに「同業他社並み」とだけ説明する方式は、人的資本可視化指針が求める説明の水準に達しない。

役員報酬の議論は上場企業を前提に語られやすいが、非上場企業やオーナー企業では別の論点が前面に出る。

第一に、所有と経営の分離度である。

株主と経営者が同一である場合、報酬の決定に外部からの牽制が働かない。

この状態で従業員の処遇制度だけを精緻に作っても、配分の考え方に一貫性がないという印象は組織の内部に残り続ける。

第二に、事業承継との接続である。

後継者が役員に就任する際の報酬水準は、その役割の大きさに対して設定されるべきものであって、承継予定者であることを理由に設定されるものではない。

ここが曖昧なままだと、サクセッションプランにおける候補者間の比較そのものが成立しなくなる。

第三に、役員と従業員を兼務する場合の扱いである。

使用人兼務役員については、役員としての報酬部分と従業員としての賃金部分を区分して管理する必要がある。

後者には割増賃金を含む労働基準法の規定が及びうる。

なお、役員報酬に関する税務上の取扱い(損金算入の要件等)および使用人兼務役員の判定については、個別に専門家への確認が必要である。

よくある質問

役員報酬は株主総会で個人別に決める必要があるか。

会社法上は定款の定めまたは株主総会の決議によって定めるとされているが、実務では総額の上限を決議し、個人別配分を取締役会に委任する運用が一般的である。委任する場合、決定方針を定めて開示することが求められる。

業績連動報酬の指標は何を置くべきか。

単一の財務指標のみに連動させると、その指標に偏った意思決定を誘発する。財務指標に加えて、中長期の企業価値に関わる非財務指標を組み合わせる設計が検討される。指標の数を増やしすぎると連動の実感が薄れるため、3〜5程度に絞ることが多い。

役員報酬の水準を従業員賃金との倍率で説明することは適切か。

倍率は説明の一要素にはなるが、それ単独では根拠にならない。役員に求める職責の範囲と、その職責を担いうる人材の外部市場における水準を併せて示す必要がある。

より深く読む

後継者不在の状態から経営人材を確保していく設計については、平康慶浩による論考『後継者がいない会社ほど、人材戦略で決まる|15年後から逆算する組織のつくり方』で詳しく解説している。

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