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無期転換ルール

無期転換ルール

むきてんかんるーる

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

無期転換ルールとは、同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合に、労働者の申込みによって期間の定めのない労働契約へ転換される仕組みである。労働契約法第18条に根拠を持ち、使用者は申込みを拒むことができない。転換されるのは契約期間の定めの有無であり、賃金や職務内容などの労働条件は、別段の定めがない限り従前のまま引き継がれる。

背景・時事文脈

この仕組みは、有期契約の反復更新によって雇用が不安定なまま長期化する状態を解消する目的で導入された。

厚生労働省は無期転換ルールに関する情報を公表しており、条文はe-Gov法令検索の労働契約法で確認できる。

実務上の転機となったのは労働条件明示ルールの改正である。

2024年(令和6年)4月1日以降、有期労働契約の締結・更新のタイミングで、更新上限の有無と内容を明示することが必要となり、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに無期転換の申込みができる旨と転換後の労働条件を明示することが求められるようになった。

従来は申込権の存在を労働者が知らないまま権利行使の機会が過ぎることがあったが、この改正により、企業は転換後の労働条件をあらかじめ設計しておく必要が生じている。

人事制度設計上の論点

無期転換は労務手続きの問題として扱われがちだが、実際には等級制度に新しい層をどう組み込むかという設計問題である。

手続きだけ整えて等級を設計しないと、社内に「正社員でも有期契約社員でもない、処遇の根拠が説明できない層」が滞留する。

太字の3点が実務上の落とし穴である。

とりわけ定年の定めの欠落は見落とされやすい。

無期転換社員に適用される就業規則に定年の規定がない場合、雇用の終期が存在しない契約になりうる。

転換前に、無期転換社員に適用される就業規則を整備しておく必要がある。

なお、無期転換社員に対する個別の労働条件の適否については、専門家への確認が必要である。

選択肢は3つある。

第一に、正社員と同一の等級体系に組み入れる方法である。

制度の一貫性は最も高いが、職能資格制度を採用している場合、これまで能力開発の対象としてこなかった層を能力基準で格付けることになり、実態と等級が乖離しやすい。

第二に、職務や勤務地を限定した別コースを設ける方法である。

複線型人事制度の一類型として設計する形になる。

処遇差の説明は職務・責任の範囲の違いに求めることになり、同一労働同一賃金の考え方とも整合しやすい。

実務上はこの選択が多い。

第三に、転換前の労働条件をそのまま維持する方法である。

手続きとしては最も簡便だが、無期になったにもかかわらず処遇の上限が変わらないため、心理的契約の観点で不満が蓄積しやすい。

無期転換を避ける目的で更新上限を設ける運用が見られるが、これは2つの理由で推奨できない。

第一に、明示義務の対象となったことで、更新上限の存在は契約時点で労働者に伝わる。

上限が近づいた時点で離職が起きるため、5年目直前に人材が抜ける構造を自ら作ることになる。

第二に、既に契約を反復更新してきた労働者に対して後から上限を設ける変更は、労働契約法上の論点を生じさせる。

制度設計としては、回避ではなく転換を前提とした等級と処遇の受け皿を先に用意するほうが合理的である。

実務上、5年という期間は基幹的な業務を任せられる水準に達するのに十分な長さであり、その人材を手放す設計は事業側の要請とも整合しない。

無期転換は契約期間の定めを外すだけであり、それ自体で人件費が増えるわけではない。

人件費が動くのは、転換に合わせて処遇を引き上げる設計を選んだ場合である。

転換対象者数を年次で把握し、処遇設計の選択肢ごとに人件費の増分を試算しておくことが、意思決定の前提になる。

試算にあたって見落とされやすいのが、退職金と定年後の扱いである。

無期転換社員に退職金制度を適用するかどうかは、適用する就業規則の定めによる。

適用する設計を選ぶ場合、引当の要否を含めて長期の負担を見込む必要がある。

転換の申込みは労働者の権利であり、企業側が時期を選べない。

したがって、申込みがあってから設計を始めるのでは間に合わない。

転換前に整備すべき事項は次の4点である。

無期転換社員に適用する就業規則 — 定年、退職金、異動の範囲、休職の取扱いを明記する

等級上の位置づけ — 既存等級への組み入れか、限定コースの新設かを決定する

明示する労働条件の内容 — 更新のタイミングごとに、転換後の労働条件を具体的に示せる状態にする

転換対象者の年次見込み — 契約開始日から通算5年到達時期を一覧化し、人件費と要員計画に織り込む

第1点の欠落が最も重大である。

適用される就業規則が存在しないまま転換が成立すると、労働条件の解釈が事後的に争われる余地が残る。

第4点は人事データから機械的に作成できるため、着手の起点として適している。

よくある質問

通算5年はどのように数えるのか。

同一の使用者との有期労働契約の期間を通算する。契約期間の間に一定以上の空白期間(クーリング期間)がある場合は通算がリセットされる。個別の判定については専門家への確認が必要である。

無期転換を申し込まれたら断れるのか。

断ることはできない。労働者が申込みをした時点で、現在の契約期間の満了日の翌日から無期労働契約が成立する。

転換後に賃金を引き上げる義務はあるか。

別段の定めがない限り、労働条件は従前のまま引き継がれるため、賃金を引き上げる法的な義務はない。ただし処遇を据え置くか改定するかは、等級制度全体の整合性と定着施策の観点から判断すべき設計事項である。

より深く読む

契約形態の違いが処遇と関与にどう跳ね返るかについては、平康慶浩による論考『静かな退職という経営リスク―離職率に表れない損失の正体』で詳しく解説している。