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職務記述書(ジョブディスクリプション)

職務記述書(ジョブディスクリプション)

しょくむきじゅつしょ

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

職務記述書(ジョブディスクリプション)とは、個々の職務について、その目的、担う責任の範囲、期待される成果、遂行に必要な知識・技能・経験を文書として記述したものである。人ではなく仕事の側を記述する点に特徴があり、職務等級制度における等級決定、採用要件の定義、待遇差の説明の基礎資料として用いられる。

背景・時事文脈

職務記述書への関心が高まった直接の契機は、同一労働同一賃金への対応である。

短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との待遇差を説明するには、職務の内容と責任の程度を客観的に示す必要がある。

厚生労働省は同一労働同一賃金特集ページで対応の考え方を示すとともに、実務手法として職務分析実施マニュアルと要素別点数法による職務評価を公開している。

企業の取り組み事例集も併せて公表されており、職務を可視化する手法は公的な形で整備されている。

もう一つの契機がジョブ型人事制度への関心である。

ただし、職務記述書を作成することとジョブ型に移行することは同義ではない。

記述書があっても、配置・報酬・育成の意思決定が従来のままであれば、文書が増えただけの結果に終わる。

人事制度設計上の論点

職務記述書の設計で最大の論点は内容ではなく、維持できる仕組みになっているかである。

作成時点では精緻でも、事業と組織が変われば記述は陳腐化する。

更新されない職務記述書は、実態と食い違う分だけ有害になる。

この違いを踏まえると、両方を作るか、等級定義書のみで運用するかが設計上の分岐点になる。

職務が安定していて外部からの採用が多い組織では職務記述書の投資対効果が高い。

配置転換が頻繁で職務が流動的な組織では、職務記述書の維持コストが便益を上回りやすく、役割等級制度の役割定義書で代替するほうが現実的である。

粒度の設計は、更新負荷と有用性のトレードオフである。

業務を細かく列挙する方式は、採用時のミスマッチを減らす一方で、業務が少し変わるたびに更新が必要になる。

加えて、列挙されていない業務を「自分の仕事ではない」と解釈する余地を生む。

日本企業で職務記述書が敬遠されてきた理由の多くはこの点にある。

実務上は、業務の列挙ではなく成果責任(アカウンタビリティ)を軸に記述する方式が扱いやすい。

「何を達成する責任を負うか」を4〜6項目で示し、そのための主要業務を例示にとどめる。

こうすれば、業務の細部が変わっても記述書の改訂は不要になる。

職務記述書の作成主体を人事部門に置くと、実態を把握していないため記述が抽象化する。

現任者に書かせると、自分の現在の業務をそのまま記述する傾向が生じ、職務ではなく人が記述されるという本末転倒が起きる。

実務上は、現任者と上司が原案を作成し、人事部門が全社横断で粒度と表現を統一し、上位の職位が承認するという三段構えが機能しやすい。

統一の観点がないまま部門ごとに作成すると、記述の詳しさが部門によって大きく異なり、職務評価の点数が記述の丁寧さに左右されるという問題が生じる。

職務記述書は、それ自体では処遇を決めない。

職務の価値を点数化する職務評価を経て、はじめて賃金テーブルや範囲給のレンジと結びつく。

要素別点数法では、必要な知識・技能、問題解決の複雑さ、責任の大きさといった要素ごとに配点し、合計点で職務を序列化する。

どの要素に高い配点を置くかが、その企業が何に報いるかの表明になる。

人事評価制度との関係では、職務記述書に書かれた成果責任が、そのまま目標設定の出発点になる。

目標管理制度(MBO)の目標が毎期ゼロから設定されている組織では、職務記述書を整えることで目標の一貫性が改善する。

右列の第二項目は、EU賃金透明性指令が求める説明可能性の観点でも重要である。

職務記述書は待遇差を正当化する根拠として用いられるため、記述の中に正当化できない要件が混ざっていると、根拠そのものが崩れる。

右列の第四項目も見落とされやすい。

慣行として資格要件を書き加えていくと、実際には不要な要件が採用の母集団を狭め、社内公募の応募も抑制する。

作成時ではなく更新時に、要件の必要性を都度検証する運用が求められる。

よくある質問

職務記述書は全職務について作成する必要があるか。

必ずしも必要ではない。職務数が多い組織では、類似の職務を職種と等級の組み合わせで束ねた「職務群」単位で作成する方式が現実的である。個別作成は、外部採用が多い職務や待遇差の説明が必要な職務に絞る判断もありうる。

職務記述書を作ると配置転換ができなくなるのか。

記述書の存在自体が配置転換を妨げるわけではない。配置転換の可否は労働契約と就業規則の定めによる。ただし職務を限定する合意をした場合は、その範囲を超える配置転換に制約が生じうる。個別の判定については専門家への確認が必要である。

更新はどの頻度で行うべきか。

定期更新は年1回、加えて組織改編や職務内容の実質的な変更が生じた時点での随時更新を組み合わせる方式が一般的である。成果責任を軸に記述しておけば、定期更新の負荷は大幅に下がる。

より深く読む

職務を軸にした人材配置と、専門性の育て方の関係については、平康慶浩による論考『ゼネラリスト vs スペシャリストはもう古い―勝つのは「第三の人材」』で詳しく解説している。

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