管理監督者(いわゆる名ばかり管理職)
かんりかんとくしゃ
監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)
管理監督者とは、労働基準法上、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されない「監督若しくは管理の地位にある者」をいう。該当するかどうかは役職名ではなく実態によって判断され、職務内容と権限、出退勤に関する裁量、待遇の三つの要素から総合的に判定される。社内で管理職として扱われていても、これらの要素を満たさない場合は管理監督者に当たらず、時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払いが必要となる。
背景・時事文脈
管理監督者に該当しないにもかかわらず管理職として扱い、割増賃金を支払わない運用は「名ばかり管理職」と呼ばれ、社会的な問題として取り上げられてきた。
厚生労働省は多店舗展開する小売業・飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化についてを示し、判断の考え方を整理した資料を公表している。
留意すべきは、管理監督者に該当した場合でも深夜業に関する規定は適用されることである。
午後10時から午前5時までの労働については、管理監督者であっても深夜割増賃金の支払いが必要となる(厚生労働省「時間外・休日労働と割増賃金」)。
また、年次有給休暇に関する規定も適用される。
管理監督者を労働時間管理の対象外とすることと、労働時間を把握しなくてよいことは別である。
なお、管理監督者性の個別の判定については、専門家への確認が必要である。
人事制度設計上の論点
管理監督者の問題は労務コンプライアンスの論点として扱われることが多いが、根本には等級制度と役職の対応関係、および管理職層の処遇設計がある。
制度設計が適切であれば、管理監督者性の判断は自ずと明確になる。
第三の要素は、制度設計の巧拙が最も直接的に表れる箇所である。
管理職に昇格した結果、割増賃金がなくなることで年収が下がる——いわゆる「逆転」——が生じている場合、待遇の要素を満たさないと判断される可能性が高まる。
逆転は、非管理職層の時間外労働が常態化している組織で生じやすい。
非管理職の年収に相当額の割増賃金が含まれていると、管理職の年収がそれを上回るには、基本給と役職手当で相当の水準を確保する必要がある。
この解消には二方向のアプローチがある。
第一に、管理職等級の報酬水準を引き上げる方法である。
範囲給のレンジ下限を、直下等級の実支給額の上位水準より高く設定する。
コンパレシオで管理すれば、逆転の発生を数値で監視できる。
第二に、非管理職層の時間外労働そのものを削減する方法である。
逆転の原因は管理職の報酬が低いことだけでなく、非管理職の割増賃金が常態化していることにもある。
前者だけを是正すると総額人件費管理の観点で無理が生じる。
昇格と昇進を区別しない制度では、「管理職等級に上がること」と「管理監督者としての権限を持つ役職に就くこと」が同一視される。
その結果、権限を持たない専門職や担当部長職までが管理監督者として扱われる状態が生まれる。
等級と役職を分離しておけば、管理職等級であっても、労務管理上の権限を持たない者は管理監督者として扱わないという運用が制度上明確になる。
専門職制度を設ける場合は、専門職等級の労働時間管理の扱いを、管理職等級とは別に定めておく必要がある。
役職を外れた後も管理職等級に留まる運用をしている場合、労務管理上の権限を失った時点で管理監督者性は失われる。
役職定年制を導入している組織では、役職離任と同時に労働時間管理の対象へ戻す手続きを規定しておかないと、権限のない管理監督者が滞留する。
管理監督者性の点検は、法務的な検討の前に、人事データで機械的に絞り込むことができる。
第一に、管理監督者として扱っている者の一覧を作成し、それぞれの職位について採用・配置・評価に関する決裁権限を有するかを確認する。
権限規程に名前が出てこない職位は、その時点で要検討の対象となる。
第二に、管理職と直下の非管理職の年収分布を重ねる。
両者の分布が重なっている範囲があれば、その範囲に属する管理職は待遇の要素で説明が難しくなる。
コンパレシオで管理していれば、この確認は数分で終わる。
第三に、遅刻・早退による賃金控除の規定を就業規則で確認する。
管理監督者に対して控除の規定が適用される建て付けになっている場合、出退勤の裁量という要素と矛盾する。
第四に、実際の勤怠データを確認する。
管理監督者として扱っている者が、非管理職と同一のシフトで拘束されている実態があれば、裁量の要素は認められにくい。
この4点は、いずれも人事部門が保有するデータで確認できる。
制度の建て付けと運用実態のどちらに問題があるかを切り分けたうえで、専門家の判断を仰ぐのが効率的な手順となる。
よくある質問
部長・課長という役職名があれば管理監督者に当たるか。
役職名では判断されない。職務内容と権限、出退勤の裁量、待遇の実態から総合的に判定される。組織図上の位置づけと実態が乖離している場合、実態が優先される。
管理監督者には残業代を一切支払わなくてよいのか。
時間外労働・休日労働に対する割増賃金は不要だが、深夜業の割増賃金は必要である。また年次有給休暇の規定も適用される。労働時間の把握義務も、健康確保の観点から別途課される。
管理監督者の労働時間は把握しなくてよいのか。
割増賃金の算定のためには不要でも、健康確保措置の観点からは把握が必要である。長時間労働による健康障害のリスクは管理監督者にも同様に生じる。
より深く読む
管理職層の処遇と役割をどう設計するかについては、平康慶浩による論考『自律的に考える社員とは何か?社員の四つの型と、次期経営者に必要な要素を解説』で詳しく解説している。