人事評価制度
じんじひょうかせいど
監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)
人事評価制度とは、従業員の成果・行動・能力を一定の基準に従って判定し、その結果を報酬・昇格・配置・育成に反映させる仕組みである。何を評価するか(評価対象)、誰が評価するか(評価者)、どのような尺度で判定するか(評価尺度)、結果を何に反映するか(反映先)の四つの要素で構成され、いずれかが欠けると制度は運用段階で機能しなくなる。
背景・時事文脈
人事評価は、処遇の決定根拠としてだけでなく、待遇差の説明責任という文脈でも重みを増している。
厚生労働省の同一労働同一賃金特集ページが示すとおり、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との待遇差については、職務の内容・配置の変更の範囲・その他の事情に照らして不合理と認められる相違を設けてはならないとされている。
同一労働同一賃金ガイドラインは、基本給・賞与・各種手当のそれぞれについて、能力や経験、業績や成果に応じて支給する場合の考え方を示しており、評価の基準と運用が説明できなければ、処遇差の合理性も説明できない構造になっている。
もう一つの流れが人的資本開示である。
人的資本可視化指針に基づく開示では、人材育成方針とその実行状況の説明が求められる。
評価制度は、その方針が現場でどう運用されているかを示す証跡でもある。
人事制度設計上の論点
評価制度の議論は「どの手法を採用するか」から始まりがちだが、手法の選択は設計の最後の工程である。
順序を誤ると、流行の手法を導入したにもかかわらず運用が定着しないという結果になる。
反映先を最初に決めるのは、評価の精度に対して払うべきコストが反映先によって変わるためである。
報酬に直結させるなら評価者訓練と調整会議に相応の投資が必要になる。
育成にのみ用いるなら、精度より対話の頻度が重要になる。
等級制度がある以上、評価は「その等級に期待される水準に対してどうだったか」を測るものになる。
したがって、等級によって評価対象の比重は変わるのが自然である。
下位等級では、成果が本人の努力以外の要因に左右されやすいため、行動や能力の比重を高くする。
上位等級では、結果に対する責任が明確であるため成果の比重を高くする。
全等級で同一の評価シートを用いている場合、等級制度と評価制度が接続していない可能性が高い。
手法との対応で言えば、成果を測るのが目標管理制度(MBO)やOKR、行動を測るのがコンピテンシー評価、多面的に行動を捉えるのが360度評価である。
MBOとOKRは対概念として理解されることが多いが、OKRは野心的な目標設定によって組織の方向づけを行う手法であり、報酬への直結を前提としない点がMBOとの実務上の最大の違いである。
絶対評価と相対評価のいずれを採るかは、原資の配分方法と直結する。
絶対評価は本人の納得を得やすいが、全員が高評価となった場合に原資が不足する。
相対評価は原資管理に適するが、成果を上げても他者との比較で評価が下がる状況が生じ、協働を阻害しうる。
実務上は、評価は絶対評価で行い、処遇への反映段階で分布を調整する方式が多い。
この調整を担うのが評価調整会議(キャリブレーション)である。
調整会議を置かずに分布規制だけを課すと、各評価者が個別に辻褄を合わせることになり、考課者エラー——中心化傾向やハロー効果——が是正されないまま結果だけが歪む。
第一に、期初の目標設定が形骸化する場合である。
期末の評価だけを精緻にしても、測る対象が期初に合意されていなければ判定は事後的な理由づけになる。
第二に、フィードバックが年1〜2回に限られる場合である。
評価結果を伝える場と、行動を修正する場は本来別物である。
1on1を運用に組み込むのは、修正の機会を期中に確保するためである。
第三に、評価をやめれば問題が解決すると考える場合である。
ノーレイティングは評語による格付けを廃止する考え方だが、処遇の決定そのものが不要になるわけではない。
格付けを廃止した分、管理職の判断と説明の負荷はむしろ増える。
運用品質に投資できない組織が採用すると、処遇決定の根拠が不透明になるだけに終わる。
評価制度の失敗の多くは、設計の誤りではなく評価者が負担しきれない量を課したことに起因する。
管理職一人あたりの被評価者数、評価項目の数、面談の回数、記述式の分量を掛け合わせると、期末に必要となる時間が算出できる。
この試算をせずに項目を追加していくと、期末に形式的な処理が発生し、どれほど精緻な基準を作っても判定の質は上がらない。
負荷を下げる手段は3つある。
評価項目を絞ること、記述を求める箇所を限定すること、そして一次評価者一人あたりの被評価者数に上限を設けることである。
第三の手段は組織設計の問題であり、人事制度の側だけでは解けない。
評価制度の改定を検討する際は、組織の階層構造と管理スパンを併せて点検する必要がある。
よくある質問
評価の段階数は何段階が適切か。
5段階が広く用いられるが、段階数そのものより、各段階の定義が評価者間で共有されているかが重要である。段階を増やしても定義が曖昧であれば、中心化傾向が強まるだけになる。
評価結果は本人に開示すべきか。
開示を前提に設計すべきである。開示しない運用は、評価者が説明責任を負わないため判定の精度が上がらず、被評価者は改善の方向を知りえない。ただし開示するなら、評価者が結果を説明できる水準の訓練が前提になる。
評価制度を改定する頻度はどの程度が適切か。
制度そのものの大幅な改定は数年に一度が目安である。一方で、評価項目の文言や運用ルールは毎期の振り返りをもとに調整する必要がある。制度と運用を同じ周期で扱わないことが要点である。
より深く読む
評価結果が組織内の感情にどう作用するかについては、平康慶浩による論考『悪役令嬢や転生系の「逆転幸せストーリー」は喜べるのに、隣の同僚の昇進は喜べない理由―妬みの脳科学と、嫉妬を生まない人事制度設計の話』で詳しく解説している。