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心理的安全性

心理的安全性

しんりてきあんぜんせい

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

心理的安全性とは、対人関係上のリスクを恐れずに、意見・疑問・失敗を口に出せると組織の成員が感じている状態を指す。仲が良いことや居心地がよいことを意味するのではなく、率直に指摘し合っても不利益を被らないという共通の認識が成り立っている状態を指す点に特徴がある。

背景・時事文脈

率直に発言できる職場が成果に結びつくという関係は、公的な分析でも示されている。

厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」は、働きがいを高める雇用管理面の取組として「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」「業務遂行に伴う裁量権の拡大」を挙げ、人材育成面では「指導役や教育係の配置(メンター制度等)」「キャリアコンサルティング等による将来展望の明確化」等が効果的であるとしている。

そのうえで、「新入社員の定着率(入社3年後)の上昇や従業員の離職率の低下は、働きがいと正の相関関係がある」こと、「個人の労働生産性の向上は、働きがいと正の相関関係がある」ことを示している。

相談できる状態をつくることは、管理監督者の職務としても位置づけられている。

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」は、管理監督者が担う「ラインによるケア」として、「部下である労働者の状況を日常的に把握」すること、「労働者からの相談対応を行う」ことを挙げ、そのために「話の聴き方、情報提供及び助言の方法」を身につけることを求めている。

心理的安全性は個人の性格の問題ではなく、管理職の行動と職場の仕組みの問題として扱われている。

人事制度設計上の論点

失われている職場に共通する兆候

兆候 背景にある制度上の要因
会議で質問が出ず、決定が一部の発言者で進む 発言の量や質が評価に反映される仕組みがなく、黙っているほうが損をしない
失敗やトラブルの報告が遅れる 評価が減点方式で、問題の発見者が責任を問われる運用になっている
上位者の案に異論が出ない 評価者が直属上司一人に固定され、異論のコストが本人に集中する
サーベイの自由記述が空欄ばかりになる 過去の回答が改善につながった経験がなく、書く動機が失われている

いずれも個人の姿勢ではなく、制度の設計が生んでいる行動である。

研修で「率直に話そう」と伝えても、率直に話した者が損をする構造が残っていれば行動は変わらない。

評価制度との関係

心理的安全性を最も強く損なうのは、失敗の扱い方である。

人事評価制度が減点方式で運用されていると、挑戦して失敗した者の評価が、何もしなかった者を下回る。

絶対評価と相対評価のうち相対評価を採る場合は、限られた上位枠を同僚と奪い合う構造になるため、情報を共有しない動機が働く。

制度を変えずに風土だけを変えることはできない。

対処としては、評価の対象から失敗そのものを外し、失敗の後に何をしたかを見る方法がある。

挑戦して未達に終わった場合に、その過程で得た知見を組織に共有したかどうかを評価項目に置けば、報告することが本人の利益になる。

目標管理制度(MBO)を運用している企業では、目標の難易度を評価に反映させる仕組みがすでにあるため、高い目標を掲げた者が不利にならない設計に寄せやすい。

どこから着手するか

全社的な風土改革として始めると、効果が出るまでに時間がかかり、途中で失速しやすい。

実務的には、部署単位で現状を測り、差が大きい部署の管理職と個別に対話するところから始めるほうが早い。

心理的安全性は部署ごとの差が大きく、全社平均では実態が見えないためである。

あわせて、会議の運営方法という具体的な行動から変えるのが有効である。

結論を出す前に反対意見を求める、発言していない参加者に必ず順番を回す、決定事項と保留事項を分けて記録する、といった手順は、その日から実行でき、効果も観察しやすい。

制度の見直しは時間がかかるため、並行して進める。

管理職の行動として定義する

心理的安全性は状態であって、本人の努力目標にはしにくい。

制度に落とすなら、管理職の行動として定義するほうが機能する。

たとえば、1on1を定期的に実施しているか、会議で反対意見を求める発言をしているか、報告された問題に対して報告者を責めずに対処しているか、といった観察可能な行動である。

コンピテンシー評価の項目として置く場合も、この水準まで具体化しなければ評価者によって解釈が割れる。

測り方

測定にはエンゲージメントサーベイの設問を用いるのが一般的である。

ただし「この職場は心理的安全性が高いと思うか」と直接問う設問は、回答者が語の意味を各自の解釈で理解するため、部署間の比較に耐えない。

「わからないことを質問しやすいか」「失敗を報告しても責められないと思うか」といった行動に即した設問に分解するほうが、改善点も特定しやすい。

回答が匿名であっても、部署の人数が少なければ特定への懸念が残るため、集計単位の設計にも注意を要する。

よくある質問

仲の良い職場と何が違うのか。

仲の良さは対立を避けることで保たれる場合があるが、心理的安全性は対立を持ち出しても関係が壊れないという前提を指す。両者は別のものであり、仲が良いのに問題提起が出ない職場は、心理的安全性が高いとはいえない。

サーベイで測定できるか。

行動に即した設問に分解すれば測定できる。抽象的な語をそのまま設問にすると解釈が割れるため、質問のしやすさ、失敗報告時の扱い、異論の出しやすさといった具体的な場面で問う。

管理職を交代させれば改善するか。

一時的には変わるが、評価が減点方式であるなど制度側の要因が残っていれば、後任も同じ行動をとりやすい。人の交代と制度の見直しは、どちらか一方では足りない。

より深く読む

失敗の扱い方が部下の成長をどう左右するかについては、平康慶浩による論考『失敗との向き合い方が、部下の成長マインドセットを決める』で詳しく解説している。

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