企業ロゴ画像
企業ロゴ画像

リスキリング

リスキリング

りすきりんぐ

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

リスキリングとは、技術革新や事業構造の転換にともなって新たに必要となる知識・技能を、既存の従業員に習得させる取り組みである。現在の職務を前提としてその熟練度を高めるアップスキリングと異なり、職務そのものが変わることを前提に、これまでとは異なる領域の能力を身につけさせる点に特徴がある。

背景・時事文脈

日本でこの語が政策用語として定着した背景には、公的な助成の枠組みが整備されたことがある。

厚生労働省の人材開発支援助成金には「事業展開等リスキリング支援コース」が設けられており、同コースの案内では「事業展開」を「新たな製品を製造し又は新たな商品もしくはサービスを提供することにより、新たな分野に進出すること」と定義し、業種転換や既存事業における製造方法・提供方法の変更も含むとしている。

助成の対象は「新たな分野で必要となる知識及び技能の習得をさせるための訓練」であり、経費助成は中小企業75%・それ以外60%、賃金助成は1人1時間あたり中小企業960円・それ以外480円が基本となっている。

政策の上流には第11次職業能力開発基本計画があり、産業構造・社会環境の変化に対応した職業能力開発の推進が柱として置かれている。

注意すべきは、厚生労働省の助成金制度において「リスキリング」という語そのものの定義は置かれていないことである。

定義されているのは「事業展開」であり、リスキリングは「新たな分野で必要となる知識及び技能の習得」として機能的に説明されている。

この語の意味内容は、政策文書と企業実務、人材サービス各社の用法の間でなお揺れている。

人事制度設計上の論点

リスキリングが施策として空回りする最大の理由は、学び直しの結果が等級・評価・報酬のどこにも接続していないことである。

研修予算を積み増しても、習得した能力が処遇に反映されなければ、従業員から見れば業務時間外の負担が増えただけになる。

この整理から見えるのは、リスキリングは要員計画とセットでしか意味を持たないということである。

どの事業領域に何人が必要で、現在どこに何人が過剰なのか。

この算段がないまま「学ばせる」ことは、リスキリングではなく単なる研修の追加である。

習得した知識・技能を等級要件に組み込むかどうかが、最初の分岐点になる。

職能資格制度を採用している企業では、能力を等級の基準としている以上、新領域の能力を等級要件に加える改定は制度の論理と整合する。

一方で、これまで蓄積してきた能力の価値が下がる領域が生じるため、既存等級者の格付けをどう扱うかという難問が発生する。

既存能力を保護すれば新領域への移行が進まず、切り下げれば就業規則の不利益変更の問題に触れる。

職務等級制度や役割等級制度では、能力そのものではなく職務・役割が等級を決めるため、学び直しは「新しい職務に就くための前提条件」として位置づけられる。

この場合、リスキリングの成果は社内公募や配置転換の機会として現れるべきものになる。

習得しても異動の機会が用意されていなければ、制度は動かない。

学習を評価に組み込む場合、学習行動と学習成果を分けて扱う必要がある。

学習行動(受講の完了、時間の投入)を評価するのは運用が容易だが、受講すること自体が目的化する。

学習成果(新領域における業務遂行)を評価するのは妥当だが、配置が変わらなければ成果は発現しない。

実務上は、目標管理制度(MBO)の目標項目として新領域の業務課題を設定し、学習はその手段として位置づける形が機能しやすい。

選択肢は大きく2つある。

スキル手当として支給するか、等級の昇格として反映するかである。

スキル手当は導入が容易で、習得と報酬の対応関係が従業員に見えやすい。

ただし一度支給を始めると既得権化しやすく、技術の陳腐化に応じて減額することが難しい。

加えて、手当は割増賃金の算定基礎に含まれるため、時間外単価を押し上げる。

等級の昇格として反映する場合、賃金テーブルの枠内で処理されるため総額人件費の管理はしやすいが、昇格ポストの制約を受ける。

複線型人事制度や専門職制度を併用し、管理職ポスト以外の昇格経路を用意しておくことが前提になる。

リスキリングは、企業と従業員の間の暗黙の相互期待——心理的契約——の変更をともなう。

「会社が指示する仕事をこなせば処遇される」という前提から、「自ら能力を更新し続けることが処遇の条件になる」という前提への移行である。

この変更を明示せずに研修だけを増やすと、従業員には一方的な負担増としてしか映らない。

同時に、企業の側にも受け取るべき負債がある。

企業内でしか通用しない企業特殊的人的資本を蓄積させてきた結果として、従業員の外部労働市場における価値が低くなっている場合、学び直しへの動機は「不安」ではなく「あきらめ」に向かう。

リスキリングを機能させる前提として、能力の可搬性を認めることが必要になる。

よくある質問

リスキリングとアップスキリングはどう使い分けるべきか。

職務そのものが変わることを前提とするのがリスキリング、現在の職務の熟練度を高めるのがアップスキリングである。要員計画上、余剰が生じる領域から不足が生じる領域へ人を動かす必要がある場合はリスキリング、同一領域内で生産性を高めたい場合はアップスキリングが該当する。

受講を義務化してよいか。

業務命令として就業時間内に実施する場合、当然に労働時間として扱われ賃金の支払いが必要となる。就業時間外の自主学習として位置づけながら事実上強制する運用は、労働時間管理の観点で問題を生じうる。個別の判定については専門家への確認が必要である。

学び直しの成果を測る指標は何を置くべきか。

受講率や受講時間は投入量の指標であり成果の指標ではない。成果側の指標としては、新領域の職務への配置転換者数、社内公募の応募・充足率、新規事業領域の売上に占める内部人材の貢献などが候補になる。

より深く読む

学び直しと外部労働市場における価値の関係については、平康慶浩による論考『40代後半で転職できるプロ人材を増やすことが会社を伸ばす』で詳しく解説している。また、専門性と汎用性のどちらに投資すべきかという論点については『ゼネラリスト vs スペシャリストはもう古い―勝つのは「第三の人材」』を参照されたい。

関連する支援サービス

AI時代の人材育成についてのご相談

リスキリングの成果を等級・評価・報酬に接続する仕組みづくりを支援します。

サービス詳細を見る