報酬水準調査(マーケットベンチマーク)
ほうしゅうすいじゅんちょうさ
監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)
報酬水準調査とは、自社の賃金水準を、外部の労働市場や比較対象企業の水準と突き合わせて位置づけを把握する調査である。統計を参照する方法と、同業他社の求人・実データを収集する方法がある。賃上げの要否や、等級ごとの賃金レンジの妥当性を判断する際の外部基準として用いられる。
背景・時事文脈
公的統計としては厚生労働省「賃金構造基本統計調査」があり、産業・事業所規模などの区分で賃金の実態が公表されている。
無償で利用でき、時系列の比較にも耐えるため、自社水準の位置づけを把握する出発点になる。
比較の方法論として参考になるのが、国家公務員の給与決定で用いられている手続である。
人事院「職種別民間給与実態調査」は、「国家公務員及び地方公務員の給与を民間の従業員の給与と比較検討するための基礎資料の作成」を目的とし、「企業規模100人以上かつ事業所規模50人以上の事業所」を対象に、4月分の給与を調査する。
さらに人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み」によれば、比較は「主な給与決定要素である①役職段階、②勤務地域、③学歴、④年齢を同じくする者同士の4月分の給与を対比させ」るラスパイレス比較によって行われる。
単純な平均額どうしの比較では意味をなさないという前提が、手続として明示されている。
人事制度設計上の論点
第一の論点は、何と比べるかである。
自社の賃金が高いか低いかは、比較対象を変えれば逆転する。
同業他社と比べるのか、同一地域の他業種と比べるのか、採用で実際に競合する企業と比べるのかで結論は変わる。
人材が流出している先を比較対象に置くのが、実務的には最も判断に結びつく。
第二に、比較の単位である。
前述のラスパイレス比較が示すとおり、役職段階・地域・学歴・年齢といった構成要素を揃えなければ比較は成立しない。
自社の平均年収と統計の平均額を直接比べる方法は、年齢構成や職種構成の違いをそのまま拾ってしまう。
等級制度を持つ企業であれば、等級ごとのコンパレシオを算出し、市場のミッドポイントとの差を見るほうが精度が高い。
第三に、調査結果の使い方である。
市場水準に合わせて範囲給の上限・下限を引き直すのか、初任給など一部の入口だけを合わせるのかで、必要な原資は大きく異なる。
入口だけを引き上げると、既存社員との逆転が生じ、賃金圧縮の問題が顕在化する。
調査は、どこを直すかを決めてから設計する。
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賃上げの原資と配分をどう判断するかについては、平康慶浩による論考『賃上げの基準を「率」で決めてはいけない|原資と配分の経営判断』で詳しく解説している。