目標設定(SMART)
もくひょうせってい/すまーと
監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)
目標設定(SMART)とは、目標を具体的・測定可能・達成可能・関連性がある・期限が明確という5つの観点から記述する考え方である。Specific、Measurable、Achievable、Relevant、Time-boundの頭文字をとった呼称であり、目標管理制度の運用において、期末に達成状況を判定できる目標を立てるための枠組みとして用いられる。
背景・時事文脈
同趣旨の要件は、国家公務員の人事評価でも明示されている。
内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《被評価者の手続編》」は、目標について「できるだけ具体的(何を、いつまでに、どの水準まで、どのように(方法・手段))なものにします」と述べている。
何を・いつまでに・どの水準まで、という3点は、SMARTのSpecific、Time-bound、Measurableにそのまま対応する。
同ガイドはさらに、目標の水準についても「達成が容易な目標ではなく、職位に応じた目標を設定」することを求め、期首面談において「評価者と目標についての意見交換等を行い、認識を共有します」としたうえで、「目標と各目標の困難度・重要度を確定させます」と記している。
目標は本人が一人で決めるものではなく、難易度と重要度を上司と合意して確定させる手続として設計されている。
期中の扱いも定められている。
同「評価者・調整者の手続編」は、評価者が「日常の業務管理を通じ、被評価者の行動等を把握するとともに、積極的にコミュニケーションを行う」こととし、そのために「1on1ミーティングなどを活用して、定期的な対話の機会を設定する等」の取組を挙げている。
目標は立てて終わるものではない。
人事制度設計上の論点
5要素と、それぞれの落とし穴
| 要素 | 意図 | 実務で起きる失敗 |
|---|---|---|
| Specific(具体的) | 何をするのかを読み手が同じ意味で理解できるようにする | 「◯◯の推進」「◯◯の強化」で止まり、行動が特定できない |
| Measurable(測定可能) | 期末に達成/未達を判定できるようにする | 測れる指標を優先した結果、重要度の低い業務が目標になる |
| Achievable(達成可能) | 努力で届く水準に置き、意欲を保つ | 確実に届く水準に寄せられ、期初の時点で達成が決まっている |
| Relevant(関連性) | 組織の目標や自分の役割と結びつける | 個人の関心に沿った目標が並び、部門目標と合算できない |
| Time-bound(期限) | いつまでに行うかを明確にする | すべてが期末締切になり、期中の進捗確認ができない |
このうち実務で最も頻繁に起きるのがMeasurableの副作用である。
測定できることを優先すると、本来重要だが数値化しにくい業務が目標から落ちる。
前掲の人事評価ガイドが、達成状況の判定に際して「業務遂行中のプロセス等も勘案」するとしているのは、この偏りへの手当てと読める。
難易度をどう揃えるか
目標の難易度が部署によって違えば、同じ達成率でも意味が変わる。
難易度を揃える方法は二つある。
一つは、人事評価ガイドのように困難度・重要度を目標ごとに設定し、評価時にそれを加味する方法である。
もう一つは、目標そのものの水準は各部署に委ね、評価の段階で評価調整会議(キャリブレーション)によって調整する方法である。
前者は期初に手間がかかり、後者は期末に手間がかかる。
どちらも採らずに運用すると、目標の甘い部署が有利になる状態が固定する。
MBO・OKRとの関係
SMARTは目標の書き方の作法であり、制度そのものではない。
目標管理制度(MBO)は目標の達成度を処遇に反映させる制度であり、SMARTはその運用品質を上げるための道具として使われる。
一方、OKRでは、あえて達成困難な目標を掲げて到達度を測る運用が採られることがあり、AchievableをSMARTと同じ意味で適用すると噛み合わない。
制度の目的に応じて、5要素のうちどれを厳格に適用するかを決める必要がある。
個人目標と組織目標をどうつなぐか
SMARTは個々の目標の書き方を整える道具であり、それ自体は目標どうしのつながりを保証しない。
部門目標を分解して個人目標を割り当てる方式は、合算すれば部門目標に一致するという利点がある一方、割り当てられた範囲の外にある課題は誰の目標にもならない。
逆に、本人の問題意識から目標を立てる方式は当事者意識が生まれるが、部門全体として抜けが出る。
実務では、部門目標から分解する部分と、本人が提案する部分を分けて、それぞれ何割を占めるかをあらかじめ決めておく方法が扱いやすい。
Relevantの要件は、この接続を各人が説明できる状態を指している。
期中の見直しをどう扱うか
事業環境が変われば、期初に立てた目標は陳腐化する。
見直しを認めないと、意味を失った目標を追い続ける運用になり、見直しを無制限に認めると、達成できそうな目標へ書き換える運用になる。
実務的な解は、見直しの契機を組織側の事情に限定し、上長の承認と記録を必須とすることである。
1on1を定期的に置いている場合は、その場を見直しの起点とすると記録も残りやすい。
よくある質問
数値化しにくい職種では、どう目標を立てればよいか。
数値以外にも、いつまでに何がどの状態になっていれば達成といえるかを記述すれば、判定は可能である。人事評価ガイドが求めているのも「何を、いつまでに、どの水準まで、どのように」の明確化であり、数値そのものではない。
目標はいくつ設定するのが適切か。
期中に進捗を確認し、期末に一つずつ根拠を示して評価できる数が上限になる。数が多いほど網羅的に見えるが、一つあたりの記述は粗くなり、結局は印象で評価される。重要度の高いものから3つ前後に絞る運用が扱いやすい。
期中に前提が変わって目標が達成不能になった場合はどうするか。
組織側の事情による変更であれば、上長の承認を得て目標を修正し、その経緯を記録する。修正せずに未達として処理すると、次期以降、本人が達成確実な目標しか掲げなくなる。
より深く読む
自発性を引き出す目標運用が事業にどう跳ねるかについては、平康慶浩による論考『なぜSaaSがWill・Can・Mustを徹底すると、赤字期間が拡大するのかー自発性を促す仕組みが、Jカーブを毀損してしまう三つの理由』で詳しく解説している。