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ワークエンゲージメント

ワークエンゲージメント

わーくえんげーじめんと

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

ワークエンゲージメントとは、仕事に対して「活力」「熱意」「没頭」の三つが揃った、持続的かつ肯定的な心理状態である。バーンアウト(燃え尽き)の対極に位置する概念として提唱され、一時的な感情の高まりではなく、特定の対象や出来事に限定されない継続的な状態を指す点に特徴がある。

背景・時事文脈

日本の人事実務でこの語が急速に広まった契機は、厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析』第Ⅱ部第3章「『働きがい』をもって働くことのできる環境の実現に向けて」が特集として取り上げたことである。

同章はワークエンゲージメントを「活動水準」と「仕事への態度・認知」の二軸に置き、バーンアウト・ワーカホリズム・職務満足感との位置関係を整理している。

同時に、ワークエンゲージメントが新入社員定着率、個人および企業の労働生産性、役割外パフォーマンス、顧客満足度と正の相関を持ち、過度なストレスや疲労と負の相関を持つことが示されている。

もう一つの推進力は人的資本開示である。

内閣官房・金融庁・経済産業省による人的資本可視化指針(改訂版)は、開示すべき指標を一律に定めるのではなく、経営戦略と人材戦略の連動を説明する形での開示を求めている。

従業員の状態を示す指標として、エンゲージメントサーベイのスコアを開示する企業が増えているのはこの文脈にある。

人事制度設計上の論点

この語の実務上の難しさは、測りたいものが心理状態であるのに、人事制度が扱えるのは行動と成果であるという点にある。

この非対称を無視した設計が、制度の空回りを招く。

この4区分が示す実務的な含意は、「よく働いている」ように見える状態が二種類あることである。

労働時間や成果指標だけを見ると、ワークエンゲージメントの高い社員とワーカホリズムに陥っている社員は区別できない。

区別できるのは、態度・認知の側を測る手段を持っている組織だけである。

ワークエンゲージメントは概念であり、エンゲージメントサーベイはそれを測定する手段の一つである。

日本企業でしばしば起きているのは、サーベイのスコアを上げることが目的化し、質問文の解釈や実施タイミングの調整でスコアが動いてしまう状態である。

スコアは状態の代理指標であって、状態そのものではない。

制度設計の順序としては、①何を測るか(概念の定義)②どう測るか(設問設計と実施設計)③測った結果を誰の意思決定に使うか、の3段を先に決める必要がある。

③が空欄のまま実施されたサーベイは、集計されて共有されるだけで終わる。

結論として、ワークエンゲージメントそのものを従業員個人の評価項目に置くことは避けるべきである。

心理状態を評価対象にすると、評価者は観察できないものを評価することになり、考課者エラーを構造的に招く。

加えて、被評価者には「前向きに見せる」という誤ったインセンティブが働く。

代わりに置くべき場所は2つある。

第一に、管理職の役割定義である。

部下がワークエンゲージメントを保てる環境を整えることは管理職の職責であり、これは行動として観察可能である。

役割等級制度における管理職層の役割記述に、この観点を明記する形になる。

第二に、組織単位の指標である。

個人評価ではなく部門評価や賞与の組織業績部分の一要素として扱えば、個人への逆インセンティブは生じにくい。

報酬の水準を上げてもワークエンゲージメントは直接的には上がらない。

一方で、報酬水準が市場や社内の均衡から明確に外れている場合、それは「熱意」を阻害する要因として働く。

特に賃金圧縮が進み、後輩と先輩の報酬差が責任差を反映しなくなっている状態は、上位者の熱意を確実に削る。

報酬制度がワークエンゲージメントに対して果たせる役割は、引き上げる要因ではなく、阻害要因を取り除くことである。

この非対称を理解しないまま報酬を積み増しても、効果は一時的にとどまる。

むしろ効くのは、心理的契約——明文化されていない相互期待——が守られているかどうかである。

年1回の大規模サーベイのみで運用している組織では、スコアが動いた原因を特定できない。

測定から施策までの間隔が長すぎるため、その間に生じた組織変更や人事異動の影響が混ざるためである。

実務上は、年1回の全項目調査と、四半期または月次の短縮版を組み合わせる方式が扱いやすい。

短縮版は3〜5問に絞り、変化の検知を目的とする。

詳細な原因分析は年1回の全項目調査で行う。

粒度については、個人単位のスコアを管理職に開示するかどうかが分岐点になる。

開示すれば具体的な対処が可能になるが、回答者は特定を恐れて率直に答えなくなる。

組織単位で最低回答者数を定め、それを下回る単位ではスコアを開示しない運用が、回答の質を保つ前提条件となる。

なお、従業員のメンタルヘルスに関わる個別の判断については、産業医など専門家への確認が必要である。

より深く読む

サーベイのスコアには表れない形で関与が低下していく現象については、平康慶浩による論考『静かな退職という経営リスク―離職率に表れない損失の正体』で詳しく解説している。また、働くことへの意味づけと承認の関係については『働くことに自己実現を見出せない人は、「甘え」でも「自意識過剰」でもない―「承認の需給ギャップ」と人事の打ち手』を参照されたい。

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