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非ゼロサム型エンゲージメント

非ゼロサム型エンゲージメント

ひぜろさむがたえんげーじめんと

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

非ゼロサム型エンゲージメントとは、限られた原資を社員どうしで奪い合う形ではなく、配っても総和が減らない手段によって納得と意欲を高めるという、セレクションアンドバリエーションが提唱する考え方である。昇給や賞与のように原資の制約を直接受ける手段と、手当・承認・裁量のようにその制約を受けにくい手段を区別し、後者を意図的に設計する点に特徴がある。

背景・時事文脈

賃金以外の要因が働きがいを左右することは、公的な分析でも示されている。

厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」は、働きがいを高める雇用管理面の取組として「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」「業務遂行に伴う裁量権の拡大」を挙げ、人材育成面では「指導役や教育係の配置(メンター制度等)」「キャリアコンサルティング等による将来展望の明確化」等を挙げている。

いずれも賃金原資を直接消費しない手段であり、そのうえで「新入社員の定着率(入社3年後)の上昇や従業員の離職率の低下は、働きがいと正の相関関係がある」としている。

離職の理由も賃金に一元化されない。

厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」によれば、転職入職者が前職を辞めた理由は、「その他の個人的理由」を除くと、男性で「給料等収入が少なかった」10.1%、女性で「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%、「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%などに分散している。

人事制度設計上の論点

原資の配分はゼロサムである。

総額人件費管理の枠が決まっている以上、誰かの昇給幅を増やせば誰かの幅は減る。

評価の精度をどれだけ上げても、配分の場面では必ず相対的な敗者が生じ、不満は残り続ける。

これに対し、使途が明確な手当は、金額以上の意味を持つことがある。

住宅手当や家族手当は、同じ金額を基本給に上乗せする場合と比べ、会社が自分の状況を認識しているという意味を伴う。

承認や裁量の付与も同様に、配る側の原資を直接は減らさない。

ただし、非ゼロサム型の手段は賃金水準の不足を代替しない。

市場水準を大きく下回る状態で承認や裁量だけを増やしても、静かな退職を招くだけである。

水準の是正を行ったうえで、そこから先の納得をどう積み上げるかという順序で用いるべき考え方である。

設計にあたっては、エンゲージメントサーベイで、不満が水準にあるのか配分の納得にあるのかを切り分けることが出発点になる。

より深く読む

昇給より手当が刺さる理由については、平康慶浩による論考『なぜ昇給よりも手当が刺さるのか』で詳しく解説している。