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社員数の壁

社員数の壁

しゃいんすうのかべ

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

社員数の壁とは、組織の人数が一定の規模を超えるたびに、それまで機能していた経営と人事の仕組みが通用しなくなり、作り替えが必要になる現象を指す、セレクションアンドバリエーションが提唱する概念である。人類学者ロビン・ダンバーが示した、人が安定的な社会関係を維持できる人数の上限に関する知見を組織経営に応用したもので、5人・15人・50人・150人という段階で、経営のあり方が質的に変わると捉える。

背景・時事文脈

規模によって組織の性質が変わることは、統計にも表れる。

厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和6年10月25日公表)によれば、令和3年3月卒業者の就職後3年以内の離職率は、大学卒で従業員5人未満の事業所が59.1%であるのに対し、1,000人以上の事業所では28.2%と2倍以上の開きがある。

高校卒でも5人未満が62.5%、1,000人以上が27.3%と同様の傾向を示す。

規模の小さい組織で定着が難しい理由を、待遇の差だけに帰することはできない。

令和6年雇用動向調査が示す入職・離職の動向も含めて考えれば、規模ごとに必要とされる仕組みが異なり、その移行に失敗した組織で人が定着しないという説明のほうが実態に近い。

社員数の壁は、この移行のタイミングを人数という観測可能な指標で捉える枠組みである。

人事制度設計上の論点

この概念の実務的な価値は、制度を作るタイミングを人数で判断できることにある。

売上や年数ではなく人数を指標とすることで、準備の着手時期が具体化する。

第一の段階(5人前後)では、経営者が全員の仕事を直接把握できる。

制度は不要であり、作っても運用コストが便益を上回る。

この段階で他社の人事制度を導入すると、形式だけが残る。

第二の段階(15人前後)では、経営者が一人で全員を見ることが難しくなる。

ここで必要になるのは等級制度ではなく、評価の記録と、処遇決定の理由を言語化する習慣である。

制度の前段階として、判断の根拠を残すことから始まる。

第三の段階(50人前後)では、階層が生まれ、経営者以外が処遇の判断に関与するようになる。

ここで初めて等級制度と人事評価制度が必要になる。

評価者が複数になった時点で、基準の共有が不可欠になるためである。

考課者エラーへの対処もこの段階から課題になる。

第四の段階(150人前後)では、相互に顔と名前が一致する範囲を超える。

ここでは、賃金テーブルによる報酬の体系化と、複線型人事制度によるキャリア経路の複線化が必要になる。

個別の事情に応じた調整で処遇を決める運用は、この規模を超えると公平性を保てなくなる。

壁の手前で準備を始めることが要点である。

人数が壁を超えてから制度を作り始めると、その間に生じた不公平の是正という追加の課題を抱えることになる。

より深く読む

各段階で経営のあり方がどのように変わるかについては、平康慶浩による論考『ダンバー数で読み解く”社員数の壁”―5人、15人、50人、150人で経営のあり方は変わる』で詳しく解説している。

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