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心理的契約

心理的契約

しんりてきけいやく

監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)

心理的契約(psychological contract)とは、雇用関係において、雇用主と従業員が互いに何を提供し合う義務を負っているかについて、個人が抱く明文化されない信念・期待を指す組織行動論の概念である。 雇用契約書に書かれた条件とは別に存在し、当事者の主観の中で成立している点に特徴がある。

背景・時事文脈

心理的契約の研究は1960年代に始まり、デニス・ルソー(Denise Rousseau)らの研究により1990年代以降に理論化が進んだ。

金銭的・短期的な交換に基づく取引的契約と、信頼・忠誠・成長機会など長期的な関係に基づく関係的契約に大別される。

日本企業では、終身雇用・年功処遇を核とした関係的な心理的契約が長く共有されてきたが、雇用流動化・ジョブ型化・賃金の市場連動が進む中で、旧来の契約内容が一方的に変質し、従業員側の「約束が破られた」という認識(心理的契約の不履行)が離職やエンゲージメント低下の要因となることが指摘されている。

人事制度設計上の論点

人事制度の改定は、明文の規程変更であると同時に心理的契約の書き換えである。

第一に、制度改定時のコミュニケーション設計である。

年功的処遇からの転換は、旧制度下で入社した従業員には暗黙の約束の破棄と受け止められうる。

新しい制度が「会社は何を提供し、従業員に何を期待するのか」を明示し、経過措置とセットで新たな契約を提示するという論点がある。

第二に、等級・評価制度は心理的契約を可視化する装置として設計できる。

等級要件は会社が期待する貢献の言語化であり、キャリアパスと育成投資の明示は会社が提供する価値の言語化である。

第三に、企業と従業員が互いに投資し合う関係を制度化する相互投資型人事制度の考え方は、関係的な心理的契約を現代の雇用環境で再構築する試みとして位置づけられる。

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