参照点依存の処遇認知
さんしょうてんいぞんのしょぐうにんち
監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)
参照点依存の処遇認知とは、社員が自らの処遇を絶対額ではなく、直前の自分の処遇という参照点との差によって評価するという、セレクションアンドバリエーションが提唱する捉え方である。比べる相手は他人ではなく、去年の自分であるという点に要点があり、賞与を大きく増やした翌年に前年を下回れば、水準そのものは高くても「減らされた」と受け取られる。
背景・時事文脈
参照点は社内だけで形成されるわけではない。
厚生労働省「令和6年雇用動向調査(転職入職者の状況)」によれば、転職入職者の賃金は「増加」40.5%、「減少」29.4%、「変わらない」28.4%で、増加が減少を11.1ポイント上回っている。
「増加」した割合は前年より3.3ポイント上昇した。
転職すれば賃金が上がるという経験が広がるほど、社内にとどまることの基準も引き上げられる。
処遇の受け止めが意欲と定着に及ぶことも示されている。
厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」は、「新入社員の定着率(入社3年後)の上昇や従業員の離職率の低下は、働きがいと正の相関関係がある」「個人の労働生産性の向上は、働きがいと正の相関関係がある」としている。
金額の絶対水準ではなく、その受け止め方が成果側に接続する。
人事制度設計上の論点
第一に、変動の大きい報酬ほど参照点の問題が強く現れる。
賞与(業績連動賞与)を業績に強く連動させると、好業績の翌年に必ず「下がった」という認知が生じる。
連動させること自体を否定する必要はないが、増額時にその理由と、翌年の変動可能性を同時に伝えておかなければ、増額が次年度の不満の原因になる。
第二に、月例給と一時金の役割分担である。
ベースアップ/定期昇給によって月例給を上げると参照点そのものが恒久的に切り上がるため、原資の負担は続く。
一時金であれば単年で完結するが、翌年の減額は損失として認知される。
どちらで報いるかは、原資の継続性と認知の両面から判断する必要がある。
第三に、洗い替え方式のように、毎期の評価で額を決め直す仕組みでは、参照点の切り替わりが毎年起きる。
制度としては合理的でも、運用では「昨年と同じ働きで下がった」という説明を毎年求められることになる。
導入時に、何が変われば額が変わるのかを本人が事前に理解できる状態にしておくことが要点である。
より深く読む
賞与の増額が翌年の不満に転じる仕組みについては、平康慶浩による論考『賞与を増やした翌年、社員は「減らされた」と感じます — 比べる相手は去年の自分』で詳しく解説している。