処遇不満の第二の谷
しょぐうふまんのだいにのたに
監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)
処遇不満の第二の谷とは、給与への不満が最も高まるのは入社直後ではなく、入社7〜10年目に訪れるという、セレクションアンドバリエーションが提唱する捉え方である。入社3年以内の離職が第一の谷として広く認識されているのに対し、中堅層に生じる第二の谷は統計の区分に現れにくく、対策が遅れやすい点に特徴がある。
背景・時事文脈
第一の谷は公的統計で可視化されている。
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」によれば、令和4年3月卒業者の就職後3年以内の離職率は、大学卒33.8%、短大等卒44.5%、高校卒37.9%、中学卒54.1%であり、学歴別・事業所規模別・産業別の水準まで把握できる。
企業が対策を講じやすいのは、この区分に自社の数値を当てはめられるためである。
これに対し、入社7〜10年目にあたる層の動きは、新卒3年以内という区分の外にある。
厚生労働省「令和6年雇用動向調査(転職入職者の状況)」によれば、転職入職者の賃金は「増加」40.5%、「減少」29.4%で、増加が減少を11.1ポイント上回っている。
社外に出れば賃金が上がる経験が広がるなかで、社内の昇給ペースが据え置かれていれば、勤続を重ねた層ほど差を実感することになる。
人事制度設計上の論点
第一に、初任給の引上げが第二の谷を深くする場合がある点である。
入口だけを引き上げると、数年先輩との差が縮まり、賃金圧縮(ペイ・コンプレッション)が生じる。
入社7〜10年目は、後輩との差が最も見えやすい位置にあたる。
第二に、等級の滞留年数である。
多くの企業で、この時期は等級が上がりにくい段階にあたる。
範囲給を採用している場合、等級内の上限に近づくほど昇給幅は小さくなり、評価が良くても額が動かない状態が続く。
賃金カーブのどこで傾きが寝ているかを確認すれば、第二の谷が制度上どこに生じるかは事前に特定できる。
第三に、金額以外の打ち手である。
この層は、処遇そのものよりも、この先どこまで行けるのかという見通しの不在に反応することが多い。
昇格と昇進の違いを説明し、次の等級の要件を明示すること、複線型人事制度(コース別)によって管理職以外の道筋を示すことは、原資を増やさずに実行できる。
より深く読む
給与不満のピークがどこに来るかについては、平康慶浩による論考『【働く人の本音調査2026 #2】初任給引き上げの死角――給与不満のピークは新人ではなく「入社7〜10年目」【正社員500名規模調査】』で詳しく解説している。