自己校正(セルフ・キャリブレーション)
じここうせい
監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授。人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる)
自己校正とは、仕事に何をどこまで求めるかという期待の水準を、本人が自分で調整していく営みを指す、セレクションアンドバリエーションが提唱する概念である。働くことに自己実現を見出さない状態を、意欲の欠如や甘えとして扱うのではなく、自分と仕事の距離を測り直す正常な適応の過程として捉える点に特徴がある。
背景・時事文脈
将来の見通しを持てるようにすることは、働きがいを高める取組として挙げられている。
厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」は、人材育成面の取組として「キャリアコンサルティング等による将来展望の明確化」「企業としての人材育成方針・計画の策定」等が効果的であるとし、雇用管理面では「業務遂行に伴う裁量権の拡大」を挙げている。
会社が方向づけを与えることと、本人が自分の期待を調整することは、同じ過程の両側にある。
一方、自ら学ぶ行動は広がっていない。
厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」によれば、自己啓発を実施した労働者は35.5%で、前回より1.3ポイント低下している。
自己啓発支援に支出した費用の労働者一人当たり平均額は0.4万円であった。
キャリア自律を掲げる企業が増える一方で、実際に自ら動く層は限られているということである。
人事制度設計上の論点
第一の論点は、キャリア自律を全社員に一律に求める設計の是非である。
自己実現を仕事に求めない働き方を、制度が暗黙に低く扱っていると、その層は表向き同調しつつ距離を取る。
結果として現れるのが静かな退職である。
求める水準を一つに固定せず、複数の在り方を制度上認めることが出発点になる。
第二に、受け皿の設計である。
複線型人事制度(コース別)や専門職制度は、管理職を目指さない選択を正当な進路として示す手段になる。
ただし、実質的な処遇差が大きければ、選択肢ではなく敗者復活の受け皿として認識される。
自律性の四つの型で整理したとおり、自律の現れ方は一様ではない。
第三に、対話の位置づけである。
期待の調整は、上司との面談のなかで進むことが多い。
1on1を目標の進捗確認だけに使うと、この調整の場は失われる。
何を大事にして働きたいかを言語化する機会として設計するほうが、本人の納得は形成されやすい。
より深く読む
働くことに自己実現を見出せない状態をどう捉えるかについては、平康慶浩による論考『働くことに自己実現を見出せない人は、「甘え」でも「自意識過剰」でもない』で詳しく解説している。