2026年版 40代・50代・60代社員を大切にする会社になるという選択ー専門技術・知識依存型の企業に問われる、人事制度の覚悟

文:平康 慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表・人事コンサルタント)

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 平康慶浩
平康慶浩|セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授 人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる

【この記事のポイント】

  • 建設・建設コンサルタント、放送・通信インフラ、システム保守系ITなど、専門技術・知識が事業の根幹にある企業では、40代・50代・60代が組織の中核を担っている
  • 人事制度と実態のギャップは数年前から静かに広がっており、2026年現在、それが一斉に顕在化しはじめている
  • ミドルシニアの転職市場は活況を呈しており、「一律処遇カット」をきっかけに専門人材が流出するリスクが現実のものになりつつある
  • 40代・50代・60代社員を大切にするかどうかは、企業が意識的に「選べる」経営判断である

対象読者:専門技術・知識依存型の事業を営む企業の経営者・人事責任者


目次

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「うちの会社は50代が支えている」という自覚がありますか

2026年に入って、異なる業界から立て続けに、似たような相談を受けました。

まず、建設コンサルタント会社の経営幹部からの相談はこんな感じ。
「受注はあるのに回しきれなくなりつつあるんです。若手の採用をしていますが育っていないし、ちょうど中堅どころが業界全体的に少ないんです」

また、放送系技術会社では、こう言われました。
「基幹職の8割以上が50代以上なんですよ。今の人事制度のままだと、一律給与カットでデモチベートする未来しか見えなくてどうしたものかと」

で、振り返ってみれば、私たちが人事コンサルタントとして、ここ数年でご支援してきた専門技術・知識依存型の企業に、共通して見られるお悩みなんですよね。

50代・60代が文字どおり会社を「支えている」。
40代の中堅が薄く、後継がいない。
若手採用は進んでいるが、すぐ戦力にはなれない。
この3つの現象がが同時に起きているわけです。

で、昨年までだったら「だからこそスキルベースでの人事制度に切り替えて、育成を早期化しましょう」とか「管理職による現場での育成をしかりしましょう」とか「高齢層からの技術承継を急ぎましょう」とか言ってました。
でも、その潮目が変わったな、というのが2026年の今です。


ギャップは数年前から育っていた

考えてみれば、50代・60代が組織の中核を担う構造は、一夜にして生まれたわけではないんですよね。
就職氷河期(2000年前後)に採用を絞った結果、40代が構造的に薄い業界や企業が多数生まれて、その会社が10年・20年の時間をかけて今の姿になったわけです。
ギャップは、ずっと前から静かに育っていたたけれど、それがようやく顕在化してきたわけです。

10年後に引退すると見込まれる層が、今の事業の中核を担っていて、それらを補填するための人材がどこにもいない、ということは予想されていたのに誰も手を打っていなかった。
それがこの問題の本質ではないでしょうか。

私たちが2026年の直近でご支援しているプロジェクトでも、この構造が一斉に顕在化しています。

あるインフラ企業では従業員の約52%が50〜64歳のボリュームゾーンであり、ある建設業では「受注があっても回しきれない」という経営上の壁に直面していました。
しかし人事制度は、10年前・20年前に設計されたままです。
60歳到達時の一律給与カット、管理職以外にキャリアパスがない等級体系。
シニア層の働き方を想定していない評価制度。

制度と実態のギャップが、今まさに限界を迎えているわけです。


専門技術・知識依存型の企業で、問題がとりわけ深刻な理由

なぜ、この種の企業でこの問題が深刻なのか。理由は業種や職種の特性にあります。

建設・建設コンサルタントでは、技術の継承に問題があると答える企業は全産業平均で41%ですが、建設業に絞ると63%に達するという調査があります。
(厚生労働省「令和4年度能力開発基本調査」(2023年6月)より)

施工管理技士や技術士など、取得に10年単位の経験を要する資格・技能が事業の根幹にあるためです。

放送・通信インフラ企業でも同じことが言えます。
設備保守の技術は、マニュアルに書けるものではなく、20年・30年の経験の積み重ねがそのまま事業継続の土台になっています。
属人的すぎて困る、と言いながら、実はその属人性こそが品質を支えていたりするんですよね。

こうした企業において、50代・60代は「コストが高い社員」ではなく、「今すぐ替えの利かない事業の柱」なっています。

そのことを頭ではわかっていながら、制度はその人たちを60歳になった瞬間に「コストとして管理する対象」に切り替えてしまっている。

さらにそこに労働市場の変化が加わっています。


労働市場の変化により「雇ってあげている」という前提が崩れつつある

かつて、ミドルシニアは「転職しにくい」存在でした。だから多少処遇に不満があっても、定年まで在籍してくれました。
企業はそれを当然のこととして、60歳前後での一律処遇カットという制度を設計してきました。

それが今どうなっているのか。
2025年の正社員転職率は7.6%で過去最高になり、かつ注目すべきは40代・50代のミドル層の転職率が2021年以降ずっと右肩上がりという点です。
転職サービスへのミドルシニア新規登録数は2019年比で164%増、転職決定者数は約2倍に拡大しています。

受け入れる企業側も変わっています。企業の4割以上が「40代後半以上の採用を増やす見込みがある」と答えており、専門職・技術職を中心にミドルシニアの採用意欲が高まっています。

ただ、だからといって、給与を増やすために転職いているわけではない、という奇妙な統計データもあります。
転職した50代の平均年収は、転職後にむしろ下がっているというものです(マイナビ転職動向調査2026年版)。
では、なぜわざわざ転職いているのか。

それは、転職理由を見ると明らかになりました。

調査では、50代の転職理由として「今後の昇進や昇給が見込めないと思った」という項目が、2023年比で約4ポイント増えているのです。
役職定年による手当の削減や、60歳以降の一律給与カットへの不安が、今の会社を離れるきっかけになっている、ということです。
そこに、先ほど示した、40代以上の採用を増やしたいという企業ニーズがマッチしているわけです。

年収が下がるかもしれないけれど、今の会社に居続けたいわけではない。
なぜなら、今の会社にいる限り、必ず給与がカットされてしまうからです。
つまり、転職しないことがリスクになる人事制度になってしまっているのです。

「一律カットがあるから出ていく」。これが実態に近い因果関係です。


「選ばれる会社」になるか、「送り出す会社」になるか

だから、もしあなたの会社が専門技術・知識依存型の企業であるなら、40代・50代・60代社員を大切にするかどうかは、「心情の問題」ではなくなりつつあります。

実際に変革を行った、リアルタイムの事例をご紹介しましょう(リアルタイムすぎて社名はお出しできないのですが)。

あるインフラ系企業では、60歳時の一律給与カット(xx%水準への引き下げ)を廃止し、役割・成果に応じた処遇に切り替える方向を決めました。
背景には、同一労働同一賃金の考え方から「年齢だけを理由とした賃金差は合理性の説明ができない」という法務上の整理と、物価上昇のなかで実質的な生活水準が圧迫されるという問題がありました。

ある建設業では、「受注があっても回しきれない」という経営上の壁を打ち破るために、シニア層が活躍できる仕組みを制度として整え直すことを選びました。
等級の定義を見直し、管理職以外の専門性を正当に評価できるプロフェッショナル等級の新設を検討しています。

どちらの企業にも共通しているのは、「大切にする」という経営判断を、気持ちの話で終わらせず、制度として具体化しようとしている点です。


「大切にする」を制度として設計するとはどういうことか

40代・50代・60代社員を大切にする制度設計には、少なくとも3つの論点があります。

第一に、年齢に連動した処遇カットをやめることです。

60歳到達時の一律給与引き下げは、役割も仕事の中身も変わらないのに年齢だけを理由に処遇が下がる仕組みです。
同一労働同一賃金の観点からも、2025年4月の65歳雇用義務化をはじめとする法令の方向性からも、見直しの必要性は明らかです。
年齢ではなく、役割と成果に応じた処遇に切り替えることが、まず最初の一手です。

第二に、専門性をきちんと評価できる等級を設けることです。

多くの企業の等級体系は、管理職の道と専門職の道の二本立てになっています。
しかし実態として、管理職になれない・なりたくないベテランが処遇的に行き詰まる構造になっています。
管理責任は持たないけれど高い専門性を発揮し続ける人材をきちんと評価できる仕組みを設けることで、「出ていく理由」を制度の側から取り除けます。

第三に、「大切にされている」と感じられる仕組みを作ることです。

処遇だけでは足りません。
キャリアの見通しが見えること、役割が明確なこと、評価が納得感を持って伝えられること。
これらがセットで機能してはじめて、40代・50代・60代は「この会社にいてよかった」と思えます。
若手だけでなくミドルシニアにも育成の機会を投じる姿勢も、じわじわ効いてきます。


「送り出す会社」になってからでは遅い

建設業では、2026年度内に大型工事を新規受注できないと見込む大手・中堅会社が約7割に上るという調査があります。仕事はあるのに人手が足りなくて取れない、という話です。
この状況で、もし専門技術・知識を持つ50代・60代が「処遇が下がるなら転職も考えよう」と思いはじめたとしたら、どうなるでしょうか。

年収が下がるとわかっていても人は動きます。そして専門性の高い人材ほど、動いた先で受け入れてもらえます。
残るのは動けない人だけ、という状況が起きかねません。

「うちの50代は辞めない」という確信は、どこからきているでしょうか。

制度がそれを担保しているわけではないなら、今がちょうど見直しのタイミングです。40代・50代・60代社員を大切にする会社になるという選択は、今ならまだできます。


この記事を読んでいただいているあなたが30代以下なら、正直あまり関係ないかもしれません。
逆にむいろ「高齢層がポストを空けてくれたほうがありがたい」と思ってもおかしくないでしょう。
それはそれで、一つの合理的な考え方です。

けれどもあなたが40代後半か50代なら、少し立ち止まって考えてみてください。
自分はどう処遇されたいか、と。
そして、その答えを持ったまま、自分の会社の制度を見てみてください。

「大切にする会社」と「送り出す会社」、どちらになっているでしょうか。


40代・50代・60代社員の処遇・等級・評価制度の見直しに関するご相談は、セレクションアンドバリエーション株式会社までお気軽にお問い合わせください。

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