「自律的に考える社員がほしい」という言葉は、人事や経営者からよく聞かれます。ただ、「自律的」とはどういう姿を指すのでしょうか?
本稿では社員を二つの軸で分け、四つの型に分類して、「自律」の姿を整理します。そのうえで、欠けている軸ごとの打ち手と、次期経営者に見るべき要素を示します。
- 社員を二つの軸で分けたときに現れる、四つの型
- 優秀な一般社員が管理職で行き詰まる理由
- 欠けている軸ごとの打ち手と、次期経営者に見るべき追加の二つの要素
- 「うちの社員は指示待ちだ」と感じている中小企業の経営者
- 自律型人材の育成に取り組みながら、成果が出ていない人事担当者
社員を二つの軸で分ける

一つ目の軸は、自分の考えを出せるかどうかです。考えを持っていても場に出さなければ、周囲からは持っていない人と区別がつきません。持つことと出すこと、両方あわせて一つの軸とします。
二つ目の軸は、相手の意図を受け止められるかどうかです。相手が何を心配しているのか、なぜそう言うのかが分かっている状態を指します。同意することではありません。
二つの軸を組み合わせると、四つの型になります。
| 相手の意図を受け止められる | 相手の意図を受け止められない | |
| 自分の考えを出せる | 統合型 | 主張型 |
| 自分の考えを出せない | 同調型 | 沈黙型 |
四つの型を見分ける

統合型 考えを出せて、相手の意図も受け止められる
経営者が「自律的に考える社員がほしい」と言うとき、実際に思い描いているのはこの型です。
「今は〇〇という課題があり、△△の対策が必要です」と言ったように、会社が解決してほしい問題に対し、解決策を自主的に提案してくれるような社員が「統合型」の姿です。まさに優秀な社員ですよね。
また、上司から、「△△だと、リスクが無いか?」と言われても、「ではリスクを踏まえた◇◇ではどうでしょうか?」と落としどころを見つけて提案できます。
自分の考えを持ち、相手の意図も把握したうえで、進められる接点を探すことのできる社員です。
主張型 意見は出るが、周囲の懸念が届かない
「絶対に〇〇すべきです!」と強く主張するような社員ですね。
自分の考えは出せるが、相手の意図を受け止められない状態です。意見は明確で行動も早い一方、周囲との衝突が増えます。扱いにくいと評されることが多い型です。企業家に多い型ですので、創業社長はここに当てはまる場合が多いです。
自分の考えを出すという点では自律的に考えられてはいるものの、「そうじゃないんだよ」と上司や経営者は感じてしまうかもしれません。
同調型 相手の意図は受け取るものの、自分の考えはもたない
聞き分けの良い社員はここに分類されます。
一般社員の段階では、同調型は高く評価されます。指示を正確に理解し、上司に歯向かうことなく、任された仕事をやり切る。真面目で優秀だという評価がつき、実際に組織の運営を支えています。
ただ、上位の役職になるにつれて、この型では役割の全うが難しくなってきます。不確実な要素が多い、少ない情報の中で自分なりの判断をして前に進める際には、人から言われるだけでなく、自分で新たな情報をつかみ決断しなければなりません。
沈黙型 意見は出さないが、聞く耳ももたない
自分の考えを出さず、相手の意図も受け止めていない状態です。具体的に指示された作業は行いますが、それ以上の関与がありません。
この型には、いわゆる「静かな退職」が含まれます。必要以上の仕事はしない、自分の意志を仕事に込める、会社が求めることをくみ取るといったことはせず、まるでロボットのようなふるまいとなります。マイナビの調査では、静かな退職をしている正社員は46.7%、20代では50.5%と半数を超えます。特殊な状態ではありません。
ただし、沈黙型の全員が静かな退職というわけではありません。意図的に関与を下げている人と、判断に必要な情報が届いておらず関与のしようがない人が混在しています。外から見れば同じですが、前者には下げた理由があり、後者には材料がないだけです。
同じ人でも、場面によって型は動く

四つの型は、固定的なラベリングではありません。同じ人が、状況によって別の型になります。
普段は同調型でも、どうしても自分の価値観とそぐわない場合は主張型になる。主張型だったけれども、全然自分の意見は聞いてもらえないと諦めて、沈黙型になる。このように、型を移り変わっていくことは自然なことです。
ですので、統合型を目指す場合、今どの型に置かれている状況で、そのためにどうすべきかを考えることが重要です。
欠けている軸から打ち手を考える
統合型以外の三つは、いずれかの軸が欠けています。欠けている軸が違えば、打ち手も変わります。
同調型で自分の考えを出せないとき
状況は把握しているので、聞き方を変えるだけで意見が出てきます。
「何か意見はありますか」では答えが出ません。「この案の問題点はどこだと思いますか」「あなたが担当するならどこを変えますか」というように、判断を求める問いにします。
あわせて、意見を出したこと自体を評価します。結論の正しさではなく、出したという行為を評価します。発言しないのは、発言に価値が置かれていないと認識しているためです。
管理職候補については、この転換を昇進前に始める必要があります。昇進後に求めても間に合いません。
主張型で相手の意図を受け止められないとき
意見を控えるよう求めるのは適切ではありません。必要なのは、このスキルを評価対象にすることです。
- 反対意見が出たときにどう扱ったか
- 他部門の懸念をどこまで把握しているか
- 自分の案を修正した場面があるか。
この三点を評価面談で確認します。
ここでも、同意したかどうかは見ません。相手が何を心配しているかを言えるかどうかを見ます。
沈黙型で両方が欠けているとき
最初に行うのは、情報を届けることです。自部門の数字、会社の方針、自分の仕事が何につながっているか。この三つが分かれば、意見を持つ前提が整います。
次に、発言しても不利にならないことを経験させます。小さな提案を採用し、採用した事実を本人に伝える。採用しない場合も理由を伝える。この積み重ねがない限り、発言は増えません。
順序を逆にすると機能しません。
なお、これは上司個人の努力だけの話ではありません。同じ調査では、目標設定を会社や上司が決めている企業が33.7%、評価基準を非公開としている企業が27.6%ありました。目標も評価基準も本人に開かれていない状態では、届けるべき情報が制度の側でふさがれています。ここは会社として手を打つ範囲です。
会社が社員の自律を奪っているかもしれない
型ごとの打ち手を示しましたが、実はその前に確認すべきことがあります。
次の場面に心当たりはないでしょうか。
- 「何か意見はないか」と聞き、出てきた意見にその場で「それは難しい」と答えている
- 任せると言った案件に、途中で口を出している
- 仕事の取り組み方まで、すべて教えてしまっている
いずれも、その場の判断としては正しいものかもしれません。ただ、社員にとっては自律的に動いたのに認められないと感じてしまうことが多いでしょう。
こうして同調型と沈黙型が作られていきます。「うちの社員は指示待ちだ」という言葉は、しばしば正確です。ただしそれは社員の性質を指しているのではなく、その会社で最も合理的な行動を指しています。
型を変えたいのであれば、最初に変えるのは上司側の反応です。ここまで任せると部下とあらかじめ握り、任せた分はしっかり任せ、上司は責任だけ取る、ということができると、自律性を育てるとともに、上司部下間の信頼関係も構築されるでしょう。
次期経営者に見るのは、判断力と実行力
さて、統合型になれる社員は、次期経営者の素質があります。ただし二つの軸だけでは、経営者に必要な要素を測りきれません。判断力と実行力が必要です。
経営者が問われるのはその先です。全員の意図を把握し、自分の考えも示した。それでも合意に至らない。この場面で、反対を残したまま決めて、結果を引き受ける。これが判断力です。考えを出すことと決めることは違います。考えは自分のもので、外れても一意見で済みます。決定は組織のものであり、外れれば結果を負うのは決めた人です。
実行力も二つの軸の外にあります。関係者を巻き込むこと、段取りを組むこと、決めたことを最後まで進めること。統合型で実行力を欠く人が経営者になると、議論の質は高いのに会社は動かないという状態になります。
ただし、いきなりすべてを兼ね備えることはできません。相手の意図を汲む経験を積み、判断を任される場面を経て、実行を最後までやり切る。この順に育つものです。次期経営者の育成とは、この三つを鍛える場を別々に用意することだといえます
まとめ
- 自律は「自分の考えを出せるか」「相手の意図を受け止められるか」の二軸で分けられる
- 二軸から、統合型・主張型・同調型・沈黙型の四つの型が導かれる
- 型は個人の性格ではなく、同じ人でも場面によって動く
- 次期経営者には、統合型であることに加えて判断力と実行力を見る
自律という言葉を定義しないまま研修や制度を導入しても、意図した結果にはなりません。まず自社が求める型を決め、社員がどの型に分布しているかを把握し、そのうえで打ち手を選ぶ。この順序で進めることを勧めます。
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