年収500万円のあなたには、1億円の価値がある ー自己投資を「感覚」ではなく「利回り」で考える時代が来た

平康 慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表・人事コンサルタント)

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 平康慶浩
平康慶浩|セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授 人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる

目次

あなたは今、NISAで何%を期待していますか?

「長期・分散・積立で5〜7%程度のリターンを期待しています」

そう答える方が、今は珍しくなくなりました。2024年に始まった新NISAの口座数は、わずか9ヶ月で2,500万口座を超えました。就業者のほぼ3人に1人が口座を持っている計算です。利回りという概念が、ようやく日本人の日常語になりつつある。

ところで、ひとつ質問をさせてください。

あなたは、自分自身に何%のリターンを期待していますか?

NISAの運用には真剣に向き合いながら、自分への投資については「なんとなく」のままという方が、実はとても多いのではないでしょうか。


年収500万円は、1億円の資産と同じ

少し見方を変えてみます。

金融投資の世界では、「元本 × 利回り = 年間リターン」という計算式が基本です。これを逆から読むと、「年間リターン ÷ 利回り = 元本」になります。

あなたが今年500万円の給与を得ているとすれば、それを5%利回りの資産から得られるリターンとみなすと——

500万円 ÷ 5% = 1億円

つまり、年収500万円の人は、1億円の人的資本を持っているということになります。

「人的資本」という言葉は、経済学や人事の世界では以前から使われてきました。しかし、具体的な金額で語られることは少なかった。NISAで5%運用が当たり前になった今だからこそ、この計算式が直感的に腑に落ちる時代になったと私は考えています。


インフレ時代、金利の上昇はあなたの「味方」か「敵」か

ここで、もう少し踏み込んで考えてみましょう。

インフレが進み、金利が上昇する局面では、利回りの前提も変わります。仮に将来、期待利回りが10%になったとしたら——

500万円 ÷ 10% = 5,000万円

同じ年収500万円でも、人的資本の現在価値は半分になります。これは金融資産でいえば、インフレによって預金の実質価値が目減りするのと同じ構造です。自己投資をしないまま年収が変わらなければ、人的資本は相対的に「劣化」していく。

しかし逆に考えると、金利上昇の局面こそ、自己投資のリターンが最も大きくなる時代でもあります。

自己投資によって年収が600万円になれば——

600万円 ÷ 10% = 6,000万円

元本が1,000万円増えたことになります。金融投資で元本を1,000万円増やすのは容易ではありませんが、人的資本であればキャリアの中で十分に起こりうる変化です。

金利の上昇を、自分への追い風にするか向かい風にするか。それはあなたの行動次第です。


転職データが示す「年収100万円アップ」の現実

「自己投資で年収が上がる」は、感覚論ではありません。

厚生労働省「令和5年版 労働経済の分析」では、転職が賃金に与える影響をパネルデータを用いて分析しています。その結果によれば、転職直後は年収が下がる傾向があるものの、転職から2年後には、転職前の企業で勤続した場合と比べて年収が100万円以上増加する確率が約7%ポイント高くなることが示されています。

また、賃金決定に「職務内容(いわゆるジョブ型)」を重視する企業では、一人当たり定期給与の増加率が5%以上になる割合が、年功型や能力型の企業より顕著に高いこともわかっています。日立製作所や富士通をはじめ、ジョブ型人事制度への転換を進める大企業では、職務の再格付けによって社内にいながら年収が大幅に変わる事例も出始めています。

1万円の昇給ではなく、100万円の付け替えが同じ会社の中でも起きうる時代に、私たちはいます。


自己投資の4つの領域

では、人的資本を高める「自己投資」とは具体的に何でしょうか。私は4つの領域に整理しています。

1. 知識・スキルへの投資

最もイメージしやすい領域です。専門資格の取得、語学、財務・法務・マーケティングなどの知識習得が該当します。ただし注意が必要なのは、知識・スキルは陳腐化しやすいという点です。5年前に最先端だったスキルが、今では当たり前になっていることは珍しくありません。だからこそ、継続的な更新が前提になります。

2. 経験への投資

修羅場、異動、越境、副業——快適なゾーンの外に出ることで得られるものです。知識は本で学べますが、経験は買えません。私がこれまで見てきた経営幹部たちに共通していたのは、誰もが「傷のついた経験」を持っていたことでした。左遷、大失敗、組織の立て直し。それらが後から効いてくる。

3. 関係性への投資

「あなたの年収は、あなたの友人たちの平均年収に近い」という俗説があります。これは単なる俗説ではなく、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の研究が示す事実に近いものです。誰と時間を過ごすか、誰と仕事をするか。関係性は、じわじわと確実にあなたの人的資本に影響します。

4. 非認知能力への投資——AI時代の本丸

そして、今この時代に最も重要性が増しているのが、非認知能力への投資です。

AIツールの性能は、使う人間を選びません。同じClaudeを使っても、アウトプットの質に大きな個人差が出ます。その差を生み出しているのは、認知スキル(知識・資格)ではありません。問いを立てる力、文脈を読む力、判断する力、他者と協働する力——これらは、AIが代替しにくい能力であり、AIを使いこなすための基盤でもあります。

非認知能力は、読書や資格取得では直接身につきません。多様な人との対話、自分の思考を言語化する習慣、失敗から学ぶ内省の力——こうした地道な積み上げが、AI時代の人的資本を左右します。


「人事評価を気にしない人」は、実は最も賢く投資していた

私は長年、出世する人たちを観察してきました。そして気づいたことがあります。

人事評価を気にしない人たちは、評価をないがしろにしていたわけではありません。彼らは評価される側ではなく、自分の人的資本を育てる側に立っていた。毎年の昇給額に一喜一憂するのではなく、自分という資産の元本を増やすことに集中していた。

金融投資で言えば、毎日の株価に振り回される人と、10年後の複利を信じて淡々と積み立てる人の違いです。

NISAで5%運用が当たり前になった今、同じ発想を自分自身に向ける人が増えれば、日本のビジネスパーソンの景色はずいぶん変わると思います。

あなたには、1億円の資産があります。

その元本を、あなたはどう育てますか?


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