答え合わせ完了)2026年人事院勧告―「5年連続の引き上げ」の先にある、給与制度の構造転換

定年延長・役職定年の行方を含む4つの予測と、自治体・民間企業それぞれの実務論点

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 平康慶浩
平康慶浩|セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役|グロービス経営大学院客員准教授 人事コンサルタントとして30年以上、等級・報酬・評価制度の設計に携わる

【2026年8月7日 追記】答え合わせを掲載しました。
本日、令和8年人事院勧告が発表されました。本稿の4つの予測がどこまで当たり、どこを読み違えたのかを、本文の末尾に検証章として追記しています。
7. 【追記】答え合わせ――4つの予測は当たったか
なお、以下の本文(1〜6章およびまとめ)は勧告発表前の8月5日時点のままで、加筆・修正はしていません。

まもなく、今年の人事院勧告が発表されます。例年どおりであれば8月上旬、過去3年はいずれも8月7日前後でした。

「今年も上がるのか」「どれくらい上がるのか」。

多くの方の関心はそこにあるのではないでしょうか。

私の予想では、まず間違いなく上がるでしょう。
すでに5年連続の増額勧告になる方向が報じられていますし、今年の春闘は5%超の高水準でした。
官民較差を埋めるという勧告の仕組み上、引き上げ自体にサプライズはありません。

私が本稿でお伝えしたいのは、率の話ではありません。
いま人事院勧告で起きているのは、給与を「何に対して払うか」という設計思想の転換です。
その転換がどこまで進むのか。
昨年の勧告文書に書かれていた「予告」を手がかりに、今年の勧告を先読みしてみます。


目次

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1. 「率」の議論はすでに決着している

まず、多くの報道が注目する改定率について、先に私の予測を示しておきます。

昨年(2025年)の勧告は、官民較差15,014円、3.62%という高水準のベースアップでした。
行政職俸給表(一)の平均改定率で3.3%、定期昇給分を加えたモデル試算では月収約5.1%の改善です。
ボーナスも4.60月から4.65月へ引き上げられました。

では今年はどうでしょう。
春闘の賃上げ率が昨年を上回った以上、較差がこれを大きく下回る理由は見当たりません。
3%台の大幅改定が3年続く、という予測が最も自然です。

ただ、ここで改めて、昨年時点からの変化として見てみましょう。
昨年の勧告文書には、率の話とは別に、給与制度の骨格そのものを作り替える「予告」がいくつも書き込まれていました。
今年の勧告は、その予告の答え合わせの年になると考えています。


2. 昨年の勧告に書かれていた「予告」を復習する

2025年の勧告・報告を、制度の観点から読み直してみます。ポイントは4つありました。

第一に、在級期間表の廃止です。
昇格の前に一定期間同じ級に留まることを求める制度が、2026年4月に廃止されました。
勧告文書はこれを「職務・職責をより重視した新たな給与体系に移行するため先行して行う見直し」と明記しています。
年次で昇格を縛る仕組みを、人事院自身が捨てたということです。
ちなみに民間企業ではこのような考え方はずいぶん前に廃止していますので、やっと、という感じではあります。

第二に、最低賃金との逆転への対応です。
月例給与水準が地域別最低賃金相当額を下回る場合に差額を補填する手当が、2026年4月から措置されました。
公務員給与が最低賃金を意識しなければならない時代になった、という象徴的な措置です。

第三に、官民比較方法の見直しです。
比較対象企業規模が「50人以上」から「100人以上」に引き上げられ、昨年の官民比較からすでに適用されています。
公務の職務・職責に見合った比較相手を選び直した、ということです。

そして第四が本丸です。
「職務・職責をより重視した給与体系を含む、新たな人事制度の構築に向けて、給与、勤務時間、任用等を一体的に検討」し、2026年度に骨格を、2027年度に具体的内容を報告する
――昨年の報告には、こうスケジュールまで明記されています。

つまり今年の勧告・報告では、新しい人事制度の「骨格」が示されるはずなのです。
人事の専門家としては、とても期待が膨らみます。

余談ですが、私自身は1990年代半ば(たしか1996年頃)に、大阪市役所の人事制度改革プロジェクトの担当コンサルタントとして、当時在籍していたアクセンチュアの一員として参画していました。
しかしこのプロジェクトは、市役所側の諸事情により中止。
その後、2006年に目標管理制度の形で人事制度が導入されたので、検討し始めて10年もかかったことを覚えています。
ちなみにその後、2012年に区長公募制、校長公募制の導入に伴い、私も公募基準の策定支援と外部面接官として公募を担当しました。
その際には、参考情報として、目標管理制度に基づく評価結果が用いられたので、導入した制度としては、しっかり機能できていました。

3. 2026年勧告・4つの予測

さて、これらの状況を踏まえて、私の予測を4つ挙げます。

予測1:改定率は3%台の大幅ベア。ただし今年の見どころは「率」ではなく「配分」。

春闘の結果を踏まえれば、較差3%台はほぼ固いと考えます。注目すべきは、その較差をどの層に配るかです。

予測2:配分の重心が、若手から中堅層へ半歩動く。

この3年、勧告は初任給と若年層に厚く配分してきました。
昨年は一般職大卒初任給が232,000円(+5.5%)、高卒が200,300円(+6.5%)です。
その結果、30代から40代前半の係長・主任層のカーブが相対的に圧縮されています。
採用競争の次は中堅の引き留めです。
この層への配分がどこまで戻るかが、今年の配分面の焦点だと私は見ています。

予測3:幹部・管理職の新給与制度の「骨格」が示される。これが今年の本丸。

予告どおりであれば、職務・職責に応じた簡素な号俸構成、時々の職務・職責の変化に応じた給与水準の調整といった方向性が、骨格として示されるはずです。
もしこれが出てくれば、公務員給与は幹部層から事実上のジョブ型に接近することになります。
民間で言えば、管理職への役割等級・職務給の導入に相当する転換です。

予測4:生活関連手当の再編が続く。方向は「子」への重点化。

2024年の勧告は、配偶者に係る扶養手当を段階的に廃止し、子に係る手当を増額する見直しを打ち出しました。
この路線は継続すると考えます。
育児期・教育期への支援を厚くする方向の措置が、今年も何らかの形で盛り込まれるのではないでしょうか。

もちろん、予測ですから外れる可能性はあります。特に予測3は、骨格の提示が総論に留まる可能性もあります。
ただしその場合でも、2027年度の具体的内容の報告という期限は動きません。
時期が半年ずれるかどうかの違いです。


4. 4つの予測を貫く一本の線――配慮の単位が「年齢」から「子」へ

ここまでの予測を、バラバラの制度改正として読むこともできます。しかし私は、一本の線でつながっていると考えています。

給与が配慮する単位が、「年齢」から「職務」と「子」へ移っている、という線です。

私は先日、自治日報への寄稿(2026年7月13日発行の第4373号)で、50代の生計費の山の正体はほぼ教育費である、と書きました。
総務省の家計調査を見ると、確かに50代の消費支出は最大です。
しかしその山は50代全員にあるのではありません。子を大学に通わせている世帯だけにあります。
「年齢」という特定の時期ではなく、「子の教育」という予測可能な一過性のイベントについているのです。

かつては、年齢を見ればライフイベントがおおよそでわかりました。
職員の大半が同じような年齢で結婚し、子をもうけ、50代で一斉に大学費用に直面した。
だから年齢に応じた給与カーブが、教育期への支援として十分に機能したのです。

その前提が薄れてしまっている、ということを示しています。
未婚率の上昇、晩婚化・晩産化、共働きの一般化。
同じ50代の中に、教育費の山に直面している人と、山がそもそも存在しない人と、山がさらに後ろに来る人が混在しています。
年齢はもはやライフイベントの代理変数ではない。
これが、扶養手当の再編が「配偶者」から「子」へ、つまり「世帯の形」から「子」へと配慮の単位を移している理由だと私は考えています。

在級期間表の廃止も、職務・職責重視の新制度も、子への手当の重点化も、すべて同じ設計思想の表れです。
基本給は職務と職責と習熟で決め、生活への配慮はイベントに着目した手当で行う。
私はこの組み合わせこそ、職務給原則と生計費への配慮を両立させる現実解だと考えています。


5. 定年延長と役職定年――60歳以降に残された「最後の年齢基準」

さて、この設計思想の転換を踏まえると、どうしても目が行く場所があります。
60歳以降の給与です。
そのためにも、まず制度の現状をあらためて示しておきます。

国家公務員の定年は2023年度から2年に1歳ずつ引き上げられており、現在は62歳、2031年度に65歳で制度移行が完了します。
同時に導入された役職定年(管理監督職勤務上限年齢制)により、管理職は原則60歳で降任します。
そして60歳を超えた職員の給与は、「民間の実情等を踏まえ、当分の間」、60歳前の7割水準に設定されています。

さて、役職定年で職責が下がった職員の給与が下がるのは、同一労働同一賃金における、均衡待遇の論理で説明がつきます。
しかし、60歳を過ぎても同じ職務を続けている職員がいるとすれば、年齢を基準に一律7割にする措置は、勧告自身が進めてきた「職務・職責に応じた給与」と正面から矛盾していないでしょうか。

在級期間表の廃止で「年齢で昇格を縛る仕組み」を捨てた人事院が、60歳では「年齢で減額する仕組み」を残している。
この非対称は、制度を設計思想のレベルで読むと、どうしても目についてしまうのです。

生計費の観点から見ると、問題はさらに鮮明になります。
晩婚化・晩産化により、教育費の山は後ろへずれています。
50代後半から60代前半に子の大学教育期を迎える職員は、現実に増えています。
その層にとって、いまの制度は教育費の山の頂上で、3割の給与カットが来る設計になっているのです。

では、今年の勧告でこの論点はどう扱われるでしょうか。
私の読みは二段構えです。

第一に、7割水準は制度設計時から「当分の間」の経過措置です。
民間の高齢層従業員の給与実態を踏まえて見直すという建て付けである以上、民間シニア層の処遇改善が進んでいる現在、今年の報告で見直しの検討方向に言及がある可能性は十分にあります。

第二に、より本質的な読みとして、7割ルールは新人事制度における職務給で吸収する可能性があると私は考えています。
予告されている新制度が「時々の職務・職責の変化に応じた給与水準の調整」を含むなら、それは役職定年前後の給与の段差を、年齢ではなく職責の変化で説明し直す枠組みになり得ます。
60歳の給与カットを、職務給の連続的なカーブに置き換える。
今年の骨格でそこまで踏み込むかは五分五分と見ますが、踏み込まなかったとしても、2027年度の具体化までに必ず処理しなければならない宿題として残ります。


6. 実務への示唆――自治体人事と民間人事、それぞれの宿題

最後に、実務面での話をします。

自治体の人事・給与担当の方へ。
国の勧告は、各人事委員会勧告や給与条例改正を通じて地方に波及します。
3年連続の大幅改定となれば、12月の差額支給を含む給与改定経費は、これまでの経験則が通用しない規模になります。
原資の最大値シミュレーションと、首長・議会への早めの説明準備が必要です。

そしてもう一つ。
定年引上げの完成する2031年度までの経過期間、皆さんの組織では、暫定再任用との並存、管理職ポストの新陳代謝、役職定年で降任した元管理職の処遇とモチベーションという、制度をそのまま適用するだけでは解けない設計問題が続きます。
国の7割ルールが見直しの方向に動けば、条例でこれに準じてきた各団体は、自前の設計判断を迫られることになります。

民間企業の人事の方へ。
公務員初任給の大幅引き上げは、地域の採用市場における賃金の基準線を確実に押し上げます。
特に都心だけではなく、地方においてその傾向は顕著となるでしょう。
新卒だけではありません。中堅層への配分が戻れば、30代・40代の転職市場の相場観にも波及します。
自社の若手・中堅の給与カーブを、公務員給与という「地域で最も可視性の高い賃金表」と並べて点検しておくことをお勧めします。

そして、自治体にも民間にも共通する宿題があります。
私はかねて、給与の設計は生計費の実態を解剖することから始まる、と申し上げてきました。
自組織の職員・社員の年齢構成と、教育費の山が実際にどこにあるのかを重ねてみる。
年功カーブが支えてきたものの正体を数字で確かめる。
そこから、職務・職責の基本給と、イベントに着目した手当の再設計が始まります。


まとめ――勧告を「率のニュース」で終わらせないために

今年の勧告の見出しは、おそらく「連続の大幅ベア」になるでしょう。
しかし本稿で見てきたとおり、水面下で進んでいるのは、給与を年齢から職務とライフイベントへ付け替える構造転換です。

その転換の最前線が、幹部・管理職の新制度の骨格であり、最後に残された未処理の論点が、60歳の7割ルールです。

勧告が発表され次第、本稿の4つの予測を検証する続報を掲載します。答え合わせを楽しみにお待ちください。

7. 【2026年8月7日追記】答え合わせ――4つの予測は当たったか

ここから下は、勧告発表当日(2026年8月7日)に追記した検証です。
上の本文は8月5日時点のまま、一字も直していません。予測は予測として、そのまま残しておくのが誠実だと考えるからです。

さて、結論から言うと、予測1から3までは当たりました。
予測4は、外れました。
そして本文第5章の60歳論点は、半分だけ状況が動きました。

まず全体像を一覧にしておきます。

予測した内容結果ひとことで言えば
予測1改定率は3%台の大幅ベア3.51%(15,056円)。見どころは配分に移った
予測2配分の重心が若手から中堅層へ半歩動く勧告文が「中堅層以上」を明記。まさに半歩
予測3幹部・管理職の新給与制度の骨格が示される骨格どころか、任用と勤務時間まで一体で出た
予測4生活関連手当の再編。方向は「子」への重点化×「子」への言及はなし。重点化されたのは「転勤」だった
第5章60歳の7割ルールに何らかの言及があるか言及はあった。見直し措置はなかった

7-1. 予測1は的中。ただし「3年続く」の書き方は正確ではありませんでした

官民較差は15,056円、3.51%でした。行政職俸給表(一)の平均改定率は3.3%、定期昇給分を加えると月収で約4.9%の改善です。
ボーナスは4.65月から4.70月へ。平均年間給与は712.3万円から739.0万円へ、26.6万円の増加となりました。

3%台という予測は当たりました。

ただ、本文で私は「3%台の大幅改定が3年続く」と書きました。ここは正確ではありませんでした。実際の推移はこうです。

較差額較差率ボーナス
令和4年921円0.23%4.40月
令和5年3,869円0.96%4.50月
令和6年11,183円2.76%4.60月
令和7年15,014円3.62%4.65月
令和8年15,056円3.51%4.70月

3%台としては2年連続、2%台後半以上の大幅改定としては3年連続です。お詫びして訂正します。

なお、率は昨年の3.62%をわずかに下回りましたが、較差額は15,014円から15,056円へ、僅差ながら上回りました。
分母となる公務の給与水準そのものが上がっているので、率が下がっても額が下がらない。
5年連続の引き上げが積み上がると、こういう見え方になります。人件費原資を計算する立場では、率ではなく額の累積で見ておく必要があります。

7-2. 予測2は的中。「半歩」という表現が、ちょうど合っていました

これは、勧告文書の書きぶりがはっきりしていました。
「業務遂行において重要な役割を担っている中堅層以上の職員について、令和7年を上回る改定」と明記されたのです。総裁談話も中堅層以上への重点配分に触れています。

ただし、級別の平均改定率を見ると、話はもう少し立体的になります。

平均改定率
1級4.0%
2級3.6%
3級3.4%
4級3.1%
5〜10級3.0%
全体3.3%

率の傾斜は、依然として若年層のほうが高いのです。
初任給も一律9,500円引き上げられ、総合職(大卒)251,500円、一般職(大卒)241,500円、一般職(高卒)209,800円となりました。若年層への配分をやめたわけではありません。

では何が変わったのか。
昨年の初任給引き上げ率が大卒+5.5%、高卒+6.5%だったのに対し、今年は+4.1%、+4.7%です。若年層の伸びが鈍化し、その分だけ中堅層以上の改定が昨年を上回った。
つまり、重心が動いたのは事実ですが、動いた幅は本当に「半歩」でした。一歩ではありません。

自治体の給料表に落とすときに、ここは丁寧に見てください。
「国は中堅重視に転換した」と要約して自団体の配分を組み替えると、率の傾斜を読み間違えます。国がやったのは、若年層を厚くしたままで中堅層の絶対額を積んだ、という二階建ての操作です。

7-3. 予測3は的中。しかも私が予測した範囲を超えていました

本丸は、予告どおり出てきました。それも、私が「総論に留まる可能性もある」と留保をつけた水準を、はっきり超えていました。

示されたのは、本府省の事務次官級から課長級までを対象とする新しい俸給表です。
ポストと給与を強く結び付け、各ポストの職務・職責に応じて俸給月額を決める。給与構成も、俸給・業績等手当・通勤手当・転勤手当という簡素な形に整理する。具体的な内容は令和9年夏に報告されます。

私が民間でいう「管理職への役割等級・職務給の導入に相当する」と書いたものが、そのまま出てきた形です。

そして、私の予測が届いていなかった部分が三つあります。

第一に、業績等手当という新しいボーナスの設計です。
人事評価結果に基づく「業績相当分」と、一時的な職務・職責の高まりに応じた「職責相当分」の二階建てで、年2回支給する。
評価反映と、期間限定の重責への報い方を、別々の部品として設計しています。これは民間の賞与設計でもなかなか見ない、かなり整理された発想です。

第二に、昇任時の見極めスキームの見直しです。
条件付昇任期間を延長して再度評価し、改善措置なしで降任可能とする。
「上げたら下げない」という日本の人事運用の背骨に、国が正面から手を入れると言ったことになります。
前向きにとらえるなら、お試しでの昇任を可能とする、ということです。一方で、ダメなら下げる、という仕組みにより、緊張感も高めようとするのかも。
このあたり、民間企業ではよくある形ですが、管理職罰ゲーム時代に逆行している気もしなくもないです。

第三に、幹部職員について、民間企業の管理監督者と同様に勤務時間にとらわれない勤務を可能とする制度の導入検討です。
これも給与ではなく勤務時間の話です。勤務時間の裁量については重要なポイントですね。

昨年の報告にあった「給与、勤務時間、任用等を一体的に検討」という一文を、私は本文で引用していました。
しかし正直に申し上げると、私はそれを給与制度の枕詞として読んでいました。実際には、給与・任用・勤務時間の三つについて同時に変革の方向性が示されました。読みが浅かったところです。

7-4. 予測4は外れました。「子」ではなく「転勤」でした

こちらははっきり外れました。
扶養手当や子に係る手当の新たな増額措置は、今年の勧告には入っていません。

代わりに大きく動いたのは、転勤に伴う手当です。

  • 単身赴任手当の加算額を廃止し、転勤手当を新設する。転居を伴う転勤(異動前の住居から60km以上、かつ異動前後の住居間が60km以上)をした職員に、単身赴任か否かを問わず、距離区分に応じた定額を異動から3年間支給する(令和9年4月)
  • 広域異動手当の支給割合を引き上げる。60km以上300km未満は5%→8%、300km以上は10%→16%(令和8年4月)
  • 特地勤務手当に準ずる手当の指定基準を見直し、支給対象官署を拡大する(令和9年4月)
  • 単身赴任手当の基礎額(月3万円)は存置

東京から大阪への異動で年額約22万円、単身赴任なら約49万円という水準です。

自分なりに間違えた理由を考えてみました。

もとの本文第4章で私は、「基本給は職務と職責と習熟で決め、生活への配慮はイベントに着目した手当で行う」と書きました。この設計思想の線は、今年の勧告でむしろ強まりました。
私が間違えたのは、その「イベント」を家族形成の側からだけ見ていたことです。

人事院が今年優先したイベントは、子の教育ではなく、転勤・転居でした。
理由は考えてみれば明快です。いま公務が直面している最大の課題は人材の確保と定着であり、転勤忌避は若手・中堅の離職理由として無視できない大きさになっています。
生計費への配慮という「あるべき論」より、人材が逃げていく穴をふさぐことが優先された。手当の再編は、生計費政策ではなく採用・定着政策として動いたのです。

この視点は、私自身の設計観に対する修正でもあります。
イベントに着目した手当を設計するとき、私はライフイベントを先に並べる癖がありました。しかし組織にとって切実なイベントは、ライフイベントだけではありません。組織が職員に要求するイベント――転勤、単身赴任、不便な地への配置――にも、同じ論理で手当を当てられる。
むしろこちらのほうが、費用対効果は測りやすいはずです。

なお、生活関連手当がまったく変わらなかったわけではありません。
非常勤職員について、扶養手当及び住居手当の支給に努めるよう指針に明記されました(令和8年10月)。
同一労働同一賃金に対する判例が積み重なってきたことがきっかけと思われます。
「子」への重点化ではありませんが、生活関連手当の対象範囲を広げるという別の方向に動いています。会計年度任用職員を抱える自治体には、こちらのほうが実務インパクトは大きいでしょう。

7-5. 60歳の7割ルールは、半分だけ動きました

本文第5章で私は、7割ルールについて二段構えの読みを示しました。見直しの検討方向への言及があるかもしれない、より本質的には職務給で吸収されるだろう、と。踏み込みは五分五分と書きました。

結果は、こうです。

報告文には、60歳を超える職員の給与水準が60歳前の7割に設定されているのは「当分の間の措置」であることがあらためて記され、そのうえで「年齢にかかわらず職務上の役割や能力・実績をより反映した処遇を目指していく必要がある」と書かれました。
別の箇所でも、幹部職員以外の職員について「年齢にかかわらず、能力・実績がより反映され」という表現が使われています。

つまり、方向の言明はありました。私の第二の読み――7割ルールは職務給の側から解消される――に、文言のレベルで一歩近づいたと見ています。

ただし、7割水準そのものを見直す措置は、今年は出ませんでした
そのかわり、隣接する領域で実質的な改善が入っています。再任用職員の月例給を、行政職俸給表(一)の平均で8.5%改定するというものです。全体の3.3%の2.5倍を超える改定率です。
理由は「民間におけるフルタイム勤務再雇用者の係長級の水準に見合ったものとなるよう」。つまり、高齢層の処遇は年齢ではなく民間の職務相場に合わせて決める、という考え方です。

7割ルールのそのまま改定するのではなく、再任用の水準を民間相場に寄せることから段階的に始めた形です。
私は、これは順序としては筋が通っていると考えています。ただし、宿題は令和9年夏の具体的内容の報告へ持ち越されました。

自治体の実務としては、ここを見誤らないようにしましょう。
今年の勧告に「7割ルール見直し」の文字はありません。したがって今年の条例改正で動かす話ではない。
しかし報告文には「年齢にかかわらず」が入りました。令和9年夏に具体案が出れば、条例で国に準じてきた団体は、その次の年度に一斉に判断を迫られます。準備期間は実質1年です。

7-6. 私が予測できていなかったこと――「事由を問わない」休暇

答え合わせをする以上、予測の枠にすら入れていなかったものにも触れておきます。
勤務時間・休暇の改定です。

  • 全ての職員を対象に、事由を問わず年7日まで取得できる無給休暇を新設(日単位・時間単位、令和9年4月)
  • 代休日の指定を、より細かい単位で可能とする見直し
  • フレックスタイム制について、1日の最短勤務時間を見直し、コアタイムを設定しないことも可能とする
  • 月100時間等の上限を超える超過勤務の最小化に向けた伴走支援の対象府省の拡大

私が驚いたのは、「事由を問わず」という設計です。

これまで公務の特別休暇は、育児、介護、看護、災害と、事由ごとに枠を切って設計されてきました。
制度が個人の事情を審査し、認定された事情にだけ休暇を与える。そういう構造です。
今回はそれをやめて、年7日分は事情の中身を問わずに渡す、としました。想定利用として「小1の壁」や妊娠初期の体調変化、親の体調変化などが挙げられていますが、それはあくまで例示です。

これは、本文第4章で私が書いた線の、もっと先の姿だと思います。
年齢を代理変数として使うのをやめ、イベントに着目する。そこまでは私も書きました。
しかし人事院はさらに進んで、イベントの中身を制度が特定することもやめたのです。個人の事情は多様すぎて、制度側が列挙しきれない。ならば枠だけ渡して中身は本人に委ねる。

無給であることも重要です。有給にすれば「本当にその事情があるのか」を確認する必要が生じます。無給だから、事由を問わないという設計が成り立つ。
制度設計としては、なかなか鮮やかだと感じました。

自治体では条例にどう反映するかが検討事項になるでしょう。既存の特別休暇体系との整合と、会計年度任用職員への適用範囲が、そのまま設計論点になります。

7-7. 宿題を書き換えます

本文第6章で挙げた宿題を、勧告を踏まえて更新します。

自治体の人事・給与担当の方へ。

令和8年度内にやるべきことは、大きく二つです。

一つは、これまでどおりの給与改定実務です。較差3.51%、ボーナス0.05月、4月遡及。人事委員会勧告と12月議会に向けた原資試算は、5年連続の累積で見てください。率ではなく額の累積です。
あわせて、非常勤職員への扶養手当・住居手当の指針明記が、会計年度任用職員の処遇にどう跳ね返るかの試算も必要になります。

もう一つは、令和9年夏に向けた準備です。こちらのほうが重要です。
新俸給表の具体案が出てから等級・職責の整理を始めても、間に合いません。令和8年度内に、自団体の管理職ポストの職務・職責を棚卸ししておくことが先行条件になります。
「部長」「次長」「課長」という役職名ではなく、ポストごとに何を担い、何に責任を持つのかを書き出す作業です。
そして、業績等手当のような設計に耐えられるだけの評価精度が自団体にあるか。勤勉手当が実質的に一律配分になっている団体では、ここが最大のボトルネックになります。

なお、勧告文書には「地方の幹部ポストの職務・職責を踏まえた給与措置等も併せて考慮」という一文が入っています。国は地方を視野に入れています。

民間企業の人事の方へ。

初任給の基準線は、一般職(大卒)241,500円、一般職(高卒)209,800円になりました。地方の採用市場では、これが最も可視性の高い比較対象になります。

もう一つ、転勤手当という発明に注目してください。
転居を伴う異動に対して、距離区分に応じた定額を3年間支給する。単身赴任か否かを問わない。
転勤を渋る若手・中堅への対処に頭を抱えている企業は少なくないはずです。国が「異動を要求する側が、そのコストを距離に応じて明示的に負担する」という形を提示したことは、民間の異動政策を設計し直すうえで参考になります。

7-8. 次の答え合わせは、令和9年夏です

今年の勧告の見出しは、やはり「5年連続の引き上げ」でした。

しかし中身を読むと、動いたのは給与だけではありませんでした。
ポストと給与を直結させる俸給表、評価と職責の二階建てのボーナス、降任を織り込んだ昇任、勤務時間にとらわれない幹部の働き方、事由を問わない休暇。
給与・任用・勤務時間が同時に動きました。これは、日本の公務員人事の設計思想が入れ替わる過程だと私は見ています。

そして本当の本番は、令和9年夏の具体的内容の報告です。
そこで新俸給表の具体像と、60歳の7割ルールの処理が示されます。

その日にまた、答え合わせをします。


参考資料

  • 人事院「令和8年 人事院勧告・報告の概要」「報告文・勧告文」「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み」「本年の職員の勤務時間及び休暇の改定に関する勧告のポイント」「人事院総裁談話」(2026年8月7日)
  • 人事院「令和7年 人事院勧告・報告の概要」(2025年8月)
  • 人事院・内閣官房内閣人事局「国家公務員の60歳以降の働き方について」(令和7年4月版)
  • 総務省「家計調査」(2024年平均)、「令和6年全国家計構造調査」
  • 平康慶浩「五〇代の生計費の山、その正体は教育費である」自治日報(2026年7月13日付)


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