役割型人事制度でシニア活用を進める―雇用動向調査が示す50代の賃金逆転

この記事を書いた人
岡安 楓

岡安 楓(おかやす かえで)

セレクションアンドバリエーション株式会社 シニアコンサルタント

最大手証券会社での営業職、人材紹介会社を経て入社。採用力の強化やインセンティブ設計に携わり、制度を「つくって終わり」にしない浸透支援に取り組む。

プロフィール詳細 →

本稿の要点

シニアの人事制度を役割型へと見直す動きが、多くの大手企業で本格化しています。

背景には、50代で処遇が頭打ちになり、社員の意欲と貢献が噛み合わなくなるという共通の課題があります。本稿では、厚生労働省の雇用動向調査が示す「50代の賃金逆転」という事実を起点に、シニアの活躍を引き出す制度設計の要点を解説します。

この記事でわかること

  • 雇用動向調査が示す、50代で転職賃金が逆転する「年齢断層」の実態
  • 年功型・役職定年に依存した制度がシニア活用を阻む構造的な理由
  • 役割型の等級・報酬設計でシニアの谷を越えるための具体的なステップ

想定読者

  • シニア層の処遇と活躍に課題を感じている大手企業の人事責任者
  • 役職定年・定年後再雇用の制度を抜本的に見直したい経営・人事部門
目次

お困りごとがあれば人事制度設計30年・400社超の実績「セレクションアンドバリエーション」へ!

\ 話を聞くだけでも大歓迎です !人事の専門家が対応します!/

雇用動向調査が示す「50代の賃金逆転」という事実

転職市場は拡大しているのに、50代だけが下がる

厚生労働省の令和6年雇用動向調査によると、2025年の転職入職者数は約506万人で、前年から約14万人増加しました。転職入職率も9.9パーセントへと上昇し、労働移動そのものは活発になっています。ところが、この活況は年齢によってまったく異なる様相を見せます。

転職に伴う賃金の変化を年齢階級別に見ると、49歳以下では賃金が「増加」した人の割合が「減少」した人を上回る、いわゆる増加超過の状態です。20代前半では増加が減少を37ポイント以上も上回り、若い世代ほど転職が処遇改善につながっています。ところが50代に入ると、この関係が反転します。50から54歳では「増加」から「減少」を差し引くとマイナス12.6ポイント、55から59歳ではマイナス13.4ポイントとなり、転職すると賃金が下がる層へと転じるのです。

20〜24歳(増加-減少)+37.7pt転職で賃金が上がる
50〜54歳(増加-減少)−12.6pt転職で賃金が下がる
55〜59歳(増加-減少)−13.4pt谷の底

つまり、労働市場全体が「転職で賃金が上がる」方向へ動くなかで、50代だけが取り残されている構図が浮かび上がります。これは景気の一時的な現象ではなく、日本の雇用構造に根ざした断層と考えるべきものです。

60代で「底打ち」する二段構造

興味深いのは、この谷が60代でいったん底を打つ点です。同じ調査で、60から64歳の賃金変動は前年のマイナス47.3ポイントからマイナス33.2ポイントへと14ポイント以上改善し、「増加」した人の割合も13.6パーセントから21.1パーセントへと大きく伸びました。定年・契約期間の満了を理由とする転職は、男性で前年比プラス2.0ポイントと全理由のなかで最も大きく増えています。

◆ 読み取れること

日本の中高年労働市場は二段構造になりつつあります。50代は役職定年などによって処遇が下がる「谷」であり、60代は定年後再雇用や転職を経て条件が底打ち・改善する局面へと移ります。この谷と底打ちの落差こそ、シニアの人事制度を設計するうえで直視すべき論点です。

なぜシニアの処遇は50代で行き詰まるのか

年功で積み上げた賃金と、役割で決まる市場価値のズレ

50代で賃金が逆転する最大の要因は、社内で積み上がった年功的な賃金水準と、その人が担っている役割に対する市場評価との間に生じたズレにあります。年功型の制度では、勤続や年齢に応じて賃金が上がり続けます。その結果、50代の社員は担う役割の大きさ以上の賃金を受け取っている状態になりやすく、社外に出た瞬間、市場価値との差が「賃金減少」として表面化します。

これは社外への転職に限った話ではありません。社内においても同じ構造が働いており、役割に見合わない高い人件費が、シニア層の配置や登用を硬直させる要因になっています。多くの企業でシニアの活躍が進まない背景には、この年功と役割のミスマッチが横たわっています。

役職定年が「意欲の崖」を生む

50代の処遇の行き詰まりを制度面で象徴するのが役職定年です。一定の年齢に達した管理職から役職を外し、賃金を一律に引き下げるこの仕組みは、人件費の抑制とポスト循環を目的として広く導入されてきました。しかし運用の実態を見ると、役割や貢献の中身を問わないまま年齢だけで処遇を下げるため、対象者の意欲が急激に低下する「意欲の崖」を生みやすいという問題があります。

本来まだ十分に貢献できる人材が、制度によって一律に戦力外と位置づけられてしまう。これはシニア個人の問題ではなく、年齢を基準に処遇を決める制度設計そのものの限界です。50代の谷は、こうした年齢依存の制度がもたらした帰結だと捉える必要があります。

シニアの人事制度を役割型へ転換する意義

「何歳か」ではなく「何を担うか」で処遇する

50代の谷を越える鍵は、処遇の基準を年齢から役割へと移すことにあります。役割型の人事制度とは、社員が担う役割の大きさや責任、期待される成果に応じて等級と報酬を決める仕組みです。年齢や勤続ではなく「今、何を担っているか」を評価の軸に置くため、シニアであっても大きな役割を担えば相応の処遇を受けられます。

この考え方は、雇用動向調査が示す事実とも整合します。60代で転職条件が底打ち・改善しているのは、市場が年齢ではなく担える役割と成果で人材を評価し始めている表れとも読めます。社外の労働市場がすでに役割型へと動いているのであれば、社内の制度だけが年功に留まっている状態は、優秀なシニアの流出を招く危険をはらんでいます。

役割型はシニアだけの施策ではない

役割型への転換は、しばしばシニア対策として語られますが、本質的には全社の等級・報酬制度の再設計です。シニアの谷という形で最も顕在化しているだけで、根の問題は年功的な処遇構造そのものにあります。したがって、50代・60代だけを切り出した個別対応では、谷の根本原因は解消されません。

役割を基準にした一貫した等級体系を全世代に敷くことで、若手からシニアまで処遇の論理が統一され、役職定年のような年齢による断絶を設ける必要がなくなります。シニアの活躍を制度で支えるとは、シニアを特別扱いすることではなく、年齢に依存しない仕組みへと全体を作り替えることに他なりません。

役割型でシニアの谷を越える3つのステップ

STEP 1

役割等級の再定義

等級を役割基準で定義し直し、年齢・勤続と切り離す。シニアが担いうる役割を等級表に位置づける。

STEP 2

報酬と役割の連動

報酬を役割等級に連動させ、移行措置・調整給を設計。年齢による一律引き下げを避ける。

STEP 3

評価と対話

誰がどの役割を担うかを見極める評価と、本人との合意プロセスを整える。

土台

全世代への一貫適用

役割の論理を全世代に敷き、年齢による断絶をなくす。

ステップ1:役割等級の再定義

はじめに取り組むべきは、自社の等級制度を役割基準で定義し直すことです。各等級がどのような役割・責任・期待成果に対応するのかを言語化し、年齢や勤続と切り離します。ここで重要なのは、シニアが担いうる役割を等級表のなかに明確に位置づけることです。管理職を外れた後も、専門性を活かす役割や後進育成の役割など、貢献の形を等級として用意しておくことで、役職定年に代わる受け皿が生まれます。

ステップ2:報酬と役割の連動

次に、報酬を役割等級に連動させます。年功で積み上がった現行賃金と、役割に基づく新しい水準との間には差が生じるため、移行措置や調整給の設計が欠かせません。ここで年齢による一律の引き下げを避け、あくまで役割の変化に応じて処遇が動く仕組みとすることが、意欲の崖を防ぐうえで決定的に重要です。役割が変わらなければ処遇も維持される、という納得感が制度の信頼を支えます。

ステップ3:役割を見極める評価と対話

最後に、誰がどの役割を担うのかを見極める評価と、本人との対話の仕組みを整えます。役割型は、社員一人ひとりの役割を定期的に確認し合意するプロセスがあって初めて機能します。とりわけシニア層については、キャリアの後半で何に貢献したいのかを本人と対話し、役割を合意していくことが欠かせません。制度という器を作るだけでなく、それを運用する評価者と対話の質が、シニアの活躍を最終的に左右します。

よくある質問

役割型人事制度とジョブ型は同じものですか?

厳密には異なります。ジョブ型が職務記述書に基づき「職務」そのものを基準にするのに対し、役割型は職務よりやや広い「役割」の大きさや責任を基準に等級・報酬を決めます。日本企業では配置転換の柔軟性を保ちやすい役割型が選ばれることが多く、シニア活用の文脈でも役割型の方が移行の現実性が高い傾向があります。

役職定年はすぐに廃止すべきでしょうか?

一律の廃止が常に正解とは限りません。重要なのは、年齢で処遇を下げる仕組みから、役割の変化で処遇が動く仕組みへと転換することです。役割等級と報酬の連動が整えば、役職定年という年齢基準の制度は不要になります。まず役割型の土台を築いたうえで、段階的に役職定年を見直すのが現実的な進め方です。

シニアの処遇見直しは人件費削減が目的になりませんか?

目的を人件費削減に置くと、結局は年齢による一律引き下げと変わらず、意欲低下を招きます。役割型の狙いは、役割と処遇を一致させ、シニアの貢献を正当に評価して活躍を引き出すことにあります。結果として人件費の適正化につながることはあっても、削減それ自体を目的化しないことが、制度を機能させる前提です。

本稿の要点

  • 雇用動向調査では、転職市場全体が拡大するなか50代だけ賃金が逆転し、60代で底打ちする二段構造が確認できる。
  • 50代の谷の原因は、年功で積み上がった賃金と役割の市場価値のズレ、そして年齢で処遇を下げる役職定年にある。
  • 解決の鍵は、処遇の基準を年齢から役割へ移す役割型人事制度への転換にある。
  • 役割型はシニアだけの施策ではなく、全世代を通じた等級・報酬制度の再設計として取り組む必要がある。
  • 役割等級の再定義、報酬との連動、評価と対話の3ステップで、シニアの谷を越える制度を築ける。

シニアの活躍は、個人の意欲や気概の問題として語られがちですが、その多くは制度が生み出した構造です。年齢に依存した仕組みを役割基準へと作り替えることから、取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

関連するサービス

セレクションアンドバリエーション...
お問い合わせ | セレクションアンドバリエーション お急ぎの場合はお電話でお問い合わせください 0120-849-859 受付時間/10:00~18:00(土日・ セレクションアンドバリエーションは、「組織・人事」領域を専門としたコンサ...

本稿に関するご質問や、役割型人事制度・等級制度の設計、役職定年やシニア活用の見直しについては、セレクションアンドバリエーション株式会社までお気軽にご相談ください。

お問い合わせはこちら
参考資料(クリックで開く)
  1. 厚生労働省「令和6年雇用動向調査 結果の概要」(2025年公表)表3・表5・表6

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

目次