よそでも通用する人材を育てる会社ほど、後継者に恵まれる

後継者がいない会社ほど、人材戦略で決まる|15年後から逆算する組織のつくり方

「息子は継ぎません」。後継者不在という現実に直面したとき、多くの経営者はまず「誰に譲るか」を考え始めます。しかし後継者難倒産が過去最多の461件を記録するいま、消えているのは業績の悪い会社ではありません。

本稿では後継者がいない前提で15年後から逆算する人材戦略を整理します。

この記事を読んで分かること
  • 後継者難倒産が「黒字の会社」でも起きる理由と、倒産統計が示す構造
  • 「継がせる人を探す」から「人が集まる会社をつくる」への発想転換と、中堅製造業での具体像
  • 役員・幹部の育成と登用で、15年後に選択肢を持つための実務ステップ
この記事の想定読者
  • 後継者が決まっていない中堅中小企業のオーナー経営者・役員
  • 親族承継と社内登用のどちらも検討している経営者
  • 経営を担える人材の育成を任されている人事責任者
目次

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倒れているのは、業績の悪い会社ではない

2025年度の後継者難倒産は461件と、調査開始以来もっとも多くなりました。注目すべきは、その中身です。461件のうち代表者の死亡が219件、体調不良が172件。合わせて391件、構成比84.8%を占めます。この比率は6年間ずっと8割を上回り続けています。

つまり後継者難倒産の大半は、業績が悪化して力尽きたものではありません。準備が整う前に、経営者が突然倒れたことで起きています。決算書の上では健全に見える会社が、決算書に載らない経営者の健康という一点によって、ある日突然機能を止める。ここが通常の倒産との決定的な違いです。

図1 後継者難倒産の要因内訳
(出典:東京商工リサーチ各年度調査、2020〜2025年度。件数は各年度発表時点の値)

出口は4つ。その価値はすべて、組織の状態で決まる

後継者不在の会社がとりうる出口は、おおむね4つです。親族への承継、社内幹部への承継、外部からの経営者招聘、第三者への譲渡。どれを選ぶかは、実のところ最後に決まります。先に決まるのは、その組織が「引き受ける価値のある状態か」どうかです。

判断も取引先との関係も経営者一人に集中し、人が育つ仕組みもない会社は、社内幹部も手を挙げず、外部の経営者も来ず、買い手からも高く評価されません。承継の受け皿そのものは広がっています。日本企業のM&Aは2025年に5,115件と過去最高を更新し、後継者不在率も10年で16ポイント改善しました。それでも同じ10年で、後継者難倒産は約7割増えています。

逆に、人が育ち、事業が仕組みで回っている組織であれば、4つの出口すべてが選択肢として生きてきます。出口を選ぶより先に、組織を育てる。順番はこちらです。

卒業を前提に設計する

社長の平均年齢は60.8歳、引退時の平均年齢は68.5歳です。50代前半で後継者不在を自覚したなら、残された時間はおよそ15年。長いようですが、人事制度を設計して運用が定着するまでに3〜5年、幹部が経営を担えるようになるまでに10年前後かかることを考えると、15年は間に合う長さです。

裏を返せば、15年あれば組織はつくり変えられます。後継者不在という事実を、悲観の材料にするのか、設計の起点にするのか。分かれ目はそこにあります。

継いでくれる人を探すのか、人が集まる会社をつくるのか

従業員80名、売上約30億円の自動車部品メーカーを想定します。社長は63歳。長男は別業界の企業に勤めており、戻る意思はありません。取引先からの信頼は厚く、直近3期は黒字。それでも技術部門の中核は50代後半に偏り、若手の採用は年々難しくなっています。

従来の発想であれば、「長男をなんとか戻ってきてもらう」もしくは「そろそろ譲渡先を探す」という結論になります。しかしそれを決めた瞬間から、設備投資も採用も止まります。5年後の会社の価値は、いまより確実に下がっています。この会社が選んだのは、逆の道でした。15年後に「引き受ける価値のある会社」になっていることを目標に置き、そこから人材戦略を逆算するという道です。

「うちで3年やると、原価と工程まで語れるようになる」

出発点は、自社の何が若手にとっての資源なのかを言語化することです。この会社の場合、それは試作から量産までを一つの工場で経験できることと、図面段階から顧客と設計を詰める協業の場に若手が入れることでした。大手メーカーでは分業が進み、若手が全工程を見る機会はほとんどありません。ここに差があります。

そこで打ち出したのが、「うちで3年やると、原価と工程まで語れる技術者になる」というメッセージです。重要なのは、これを採用コピーで終わらせず、制度に落とし込んだことでした。到達すべき技能と経験を等級として定義し、原価計算と工程設計を必須の到達要件に組み込む。技能検定や展示会での発表機会を、計画的に若手へ割り当てる。工場そのものを、顧客にも採用候補者にも開かれた技術のショールームとして位置づけ直す。

「卒業を前提にする」とは、辞めさせることではない

もっとも発想の転換を要したのが、ここです。集まった若手に長く定着してもらうことだけを目的にしません。3〜5年で次の段階へ進むこと、場合によっては他社や独立へ進むことも織り込んで設計します。

一見すると、育成コストの垂れ流しに見えます。しかしそうではありません。「あそこを出た技術者は、図面が読めるだけでなく原価と工程まで語れる」という評判が立てば、次の優秀な若手が自然に集まります。人が通り抜けることで価値が蓄積していく、いわばショールーム型の組織です。

社内の行き先を示すことと、社外で通用する力を与えることは、対立しません。むしろ研究が示しているのは、両立させたときにだけ育成が定着につながるということでした。「卒業」を織り込むのは、辞めてもらうためではありません。「ここで数年働くと市場価値が上がる」という評判を意図的につくり、次の優秀な人材を引き寄せるためです。

そしてこれは、気持ちの問題ではなく制度の問題です。到達段階を等級として定義し、その段階に応じて報酬を決め、社外での挑戦の支援までを運用ルールにする。「育てて送り出す」を経営者個人の善意に委ねると続きませんが、制度にしておけば担い手が代わっても回り続けます。

結果として、4つの出口がすべて開く

この設計を15年続けた会社は、どうなるでしょうか。

第一に、通り抜けていった人材や社内に残った幹部のなかから、「経営を担いたい」という人が現れる可能性が生まれやすいです。第二に、仮に現れなかったとしても、技術と人材育成の仕組みを備えた会社は、譲渡先から見た価値が格段に高くなります。第三に、技術も顧客との関係も社長一人に依存しない体制になっているため、経営者の健康リスクにも耐えられます。

後継者を探したわけではありません。後継者が現れうる組織をつくった結果として、4つの出口が同時に開いた。これが、後継者不在に「承継対策」ではなく「人材戦略」として向き合うということです。

一人の後継者ではなく、経営を担える層をつくる

ここからは、もう少し具体的な制度の言葉に置き換えていきます。起点は、一人の後継者を探すのではなく、経営を担える層を複数つくることです。

候補者を一人に絞った状態は、その一人が辞めた瞬間、あるいは健康を損ねた瞬間に計画が崩れます。複数の候補者を意図的に育てておくことは、公平性の問題である以上に、リスク管理の問題です。

育たない会社に共通する、3つの設計ミス

後継者・幹部の育成に着手しても機能しない会社には、共通したつまずき方があります。

第一に、育成を人事部門任せにすること。経営戦略との接続がないまま人事部門に委ねると、育成計画が形骸化し、戦略の実行を担う人材が生まれません。

第二に、決め打ちで候補者を選ぶこと。必要な経営能力や役割の定義を後回しにして人を先に決めると、評価軸が曖昧になり、公平性を欠きます。

第三に、他社の形式だけを移植すること。自社の戦略・規模・フェーズとの整合を取らないまま枠組みだけを導入すると、運用実態と乖離し、現場の納得感が失われます。

起点は「戦略から逆算した経営能力の定義」

「誰を育てるか」の前に、「どんな経営能力が必要か」を決めます。中期経営計画や自社のビジネスモデルから、次の経営陣に求められるスキルと役割を特定する。そのうえで候補者を潜在能力と意欲の両面から評価し、複数の層を意図的につくります。外部からの招聘は、内部育成を補完する位置づけとしてあらかじめ明確に定義しておくと、場当たり的な採用を防げます。

評価・育成・選抜を、一体で設計する

育成は、場当たり的な研修の積み上げではありません。役職段階ごとに担うべき役割を定義し、そこに必要な実践経験と知識を割り付けます。たとえば課長は部門運営の補佐と業務遂行、部長は部門運営、執行役員は各管掌領域の経営というように段階を定義し、それぞれの段階で評価・育成・選抜を一体で回す。この設計があってはじめて、育成が選抜につながり、選抜が本人の納得感につながります。

15年後から逆算して、いま着手する3つのこと

① 15年後の組織像を、後継者名を空欄にしたまま書く

15年後にこの会社が何で稼ぎ、誰がその中核を担い、なぜそこに人が集まるのかを一枚にまとめる。後継者が誰かは空欄のままで構いません。空欄のままでも成立する組織像が描けるかどうかが、そのまま現在地の診断になります。

② 経営を担える層を「複数」特定する

現在の役員・幹部のなかから、10年後に経営を担いうる候補者を3名挙げ、それぞれに不足している経験を一つずつ特定する。次回の役員会で、その育成計画を正式な議題にのせる。もし一人しか挙がらないなら、それ自体が最優先の課題です。

③ 「卒業」を前提とした育成設計を検討する

自社に「人が通り抜けることで価値が残る領域」があるかを検討する。加工技術、品質管理、営業手法、専門資格など、育成そのものが対外的な評価につながる領域を一つ選び、その育成過程を明文化する。定着だけを目的にした育成からは、この価値は生まれません。

自社の現在地を確かめる5つの問い

着手の緊急度は会社によって異なります。以下の5問で現在地を仮置きしてみてください。

自社の現在地を確かめる5つの問い
  1. 中期経営計画に、後継者候補の育成計画が明示されていますか
  2. 後継者候補が複数特定され、育成されていますか(一本足になっていませんか)
  3. 選抜基準は客観的かつ明文化されていますか
  4. 候補者本人に、経営者候補であることが伝わっていますか
  5. その育成計画は、金融機関や取引先に説明できる水準ですか

後継者が現れる組織を設計する ― それが私たちの役割

  • リスト後継者難倒産は2025年度に461件と過去最多。引き金の8割超は業績悪化ではなく経営者の死亡・体調不良で、黒字の会社にも起こる
  • 休廃業・解散は倒産の約6.5倍。その約半数は黒字のまま会社をたたんでおり、統計に表れる461件は氷山の一角にすぎない
  • 後継者不在は、出口の問題である前に人材戦略の問題。4つの出口の価値はすべて組織の状態で決まる
  • 「継がせる人を探す」のではなく「人が集まる会社をつくる」。卒業を前提とした育成が、結果として組織の価値を高める
  • 一人の後継者ではなく、経営を担える層を複数つくる。戦略から必要な経営能力を逆算し、評価・育成・選抜を一体で設計する
  • 後継者がいないという事実は、会社の終わりを意味しません。残された15年をどう使うかを決めるための、出発点です。

セレクションアンドバリエーションは、組織人事コンサルティング会社として、経営を担える人が育ち、集まる組織を、制度として設計します。後継者の名前を空欄にしたまま、15年後の組織像を描いてみる。その最初の一枚から、ご一緒できればと思います。

よくある質問

「卒業を前提にした育成」は、結局のところ離職を推奨しているのではありませんか?

逆です。本稿が紹介した研究が示しているのは、社内のキャリア機会を明示したうえでの育成投資は離職を減らす、ということでした。卒業を前提にするというのは、社内の行き先を示さないという意味ではありません。社内の行き先を明示したうえで、到達水準を社外でも通用するレベルに置く、という意味です。定着率を下げるための設計ではなく、結果として定着と採用力の両方を高めるための設計です。

後継者が決まっていない段階で、育成の制度をつくる意味はありますか?

むしろ決まっていない段階だからこそ着手すべき領域です。役割の定義、権限委譲の仕組み、評価基準の明文化は、誰が後継者になっても必要になります。先に組織側を整えておけば候補者を選ぶ判断基準も明確になり、結果として親族承継・社内登用・外部招聘・第三者譲渡のいずれを選ぶ場合にも有利に働きます。

15年後を見据えた組織・人材戦略の立案や、役員・幹部の育成計画、役員報酬制度・等級制度の設計については、セレクションアンドバリエーション株式会社までお気軽にご相談ください。

▶ お問い合わせはこちら(https://sele-vari.co.jp/contact/)

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