自社調査(2026年6月実施・正社員507名)/監修:平康慶浩(セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役)
公開日:2026年6月22日
御社の初任給引き上げを、いちばん複雑な気持ちで見ているのは誰でしょうか。
新卒採用競争を背景に、初任給の引き上げはこの数年で一気に広がりました。私たちセレクションアンドバリエーションが2026年6月に全国の正社員約500名を対象に実施した「初任給引き上げと給与に関する意識調査」でも、勤務先で初任給が引き上げられたと答えた人は62.9%にのぼっています。ただ、この調査からは、引き上げの陰で見過ごされがちな層の存在がうかがえます。
調査結果の分析
給与不満のピークは新人ではなく「入社7〜10年目」
現在の給与に「不満」「やや不満」と答えた人の割合を、勤続年数別に見たのが図1です。


全体では45.0%が給与に不満を持っていましたが、その分布は一様ではありません。入社1〜3年目では38.2%にとどまる一方、4〜6年目で47.5%、7〜10年目では52.8%と半数を超え、ここをピークに11年目以降は下がっていく山型の分布がみてとれます。
初任給引き上げの恩恵を受けた若手よりも、その恩恵が及ばない中堅層に不満が集まっている――そうした構図が浮かびます。初任給だけが採用市場の相場で先に動き、既存社員の昇給は後から社内の原資の範囲で追いかける。この時間差が、中堅層の「置き去り感」を生んでいるとみられます。
不満の理由に「新人・後輩との差が縮まった」が4割超
給与に不満がある人に、その理由を尋ねた結果が図2です。


最も多いのは「物価上昇に賃上げが追いついていない」の58.4%で、これは想定通りといえます。注目したいのは3番目の「初任給引き上げで新人・後輩との差が縮まった」が43.0%にのぼった点です。さらに7〜10年目に限定すると、この回答は55.1%と「物価上昇」を上回って最多になりました。中堅層の給与不満は、世間一般の賃上げ論とは別の、社内の相対比較から生じている可能性が示唆されます。
もうひとつ気になるデータがあります。給与に不満を持つ層のうち、転職活動をしている人は12.7%、情報収集をしている人は27.2%で、60.1%は「特に行動はしていない」と答えました。不満が表立った退職にはつながらず、組織の中に静かに滞留している様子がうかがえます。離職率だけを見ていると、この層の存在には気づきにくいかもしれません。
調査票の主な項目
本調査では、全国の20〜59歳・正社員507名(従業員数50名以上の企業に勤務)に対し、次の項目を尋ねました。
- 現在の会社での勤続年数(Q1)
- 勤務先での初任給引き上げの有無(Q2)
- 現在の給与への満足度(Q3)
- 給与に不満がある理由(複数回答)(Q4)
- 新人・後輩との給与差への受け止め(Q5)
- 不満に対する行動(転職活動・情報収集・行動なし)(Q6)
- 昇給・昇格の見通し(賃金カーブ)の説明の有無(Q7)
- 昇給の道筋が示された場合の勤続意向(Q8)
- 現在の離職意向(Q9)
弊社の提言:初任給を上げるなら、賃金カーブごと見直す
この結果は、私たちが賃金制度設計のクライアントワークで感じてきた体感と、とても近いものでした。
初任給の引き上げをご支援すると、必ずと言っていいほど数カ月後に「中堅社員から不公平だという声が出ている」というご相談が続きます。初任給は採用市場を見て決まり、既存社員の昇給は社内の昇給原資で決まる。この二つが別々のロジックで動くため、接続部分にあたる入社5〜10年目あたりで賃金カーブが寝てしまい、新人との差が不自然に縮まるのです。
つまり中堅層の不満は、わがままでも待遇への過剰な期待でもなく、賃金カーブの構造的なゆがみへの自然な反応と捉えたほうが、実態に合うように思います。実際、あるクライアント企業で賃金テーブルを並べて検証したところ、新卒初任給を3年連続で引き上げた結果、入社8年目の主任クラスとの差が月1万円台まで縮まっていたことがありました。本人たちが声を上げる前に、数字の上ではすでに「逆転寸前」だったのです。
そして「行動していない6割」を安心材料と見るのは、少し危ういかもしれません。クライアント企業の現場では、静かな不満を抱えた中堅層こそ、新人教育や現場のとりまとめを担う中核人材です。辞めなくても、後輩に「この会社は報われない」と伝わってしまう影響は小さくありません。
着手しやすい打ち手を3つ挙げるとすれば、次のようになります。第一に、初任給を引き上げる際は、勤続3〜10年目の賃金カーブをセットで再計算すること。第二に、等級ごとの昇給ピッチを見直し、若いうちに差がつき始める設計に改めること。第三に、昇給・昇格の道筋を社員に開示し、「この先どう増えるのか」を見える状態にすることです。
初任給の引き上げ自体は、採用のために避けて通れません。だからこそ、その影響を最も受ける中堅層への目配りまで含めて、賃金制度全体で設計することが大切ではないでしょうか。
調査概要
- 調査名:初任給引き上げと給与に関する意識調査
- 調査主体:セレクションアンドバリエーション株式会社
- 調査方法:インターネット調査
- 調査時期:2026年6月
- 調査対象:全国の20〜59歳の正社員(従業員数50名以上の企業に勤務)507名
※本調査は、セレクションアンドバリエーション株式会社「働く人の本音調査」シリーズとして継続実施しています。
※本調査結果の引用・転載の際は「セレクションアンドバリエーション株式会社調べ」と出典を明記のうえご利用ください。
監修者

平康 慶浩(ひらやす よしひろ)
セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役。人事コンサルタントとして30年以上、400社超の人事制度改革を支援。著書に『決定版 7日で作る人事考課』(明日香出版社)、『出世する人は人事評価を気にしない』(日本経済新聞出版)など多数。
関連サービス
- 人事戦略・制度設計:等級・評価・報酬をグランドデザインから再構築します。本稿で取り上げた賃金カーブのゆがみを、等級別の昇給設計から是正します。
- 人材育成・定着支援:キャリアパス設計やエンゲージメント向上の取り組みを通じて、中堅層が「この会社で報われる」と感じられる定着の仕組みをつくります。
- HRM Sprint:50〜300名規模の成長企業向けに、AIを活用しながら最短3ヶ月で賃金テーブルを含む制度の骨格を整えます。初任給改定への緊急対応にも適しています。
本稿に関するお問い合わせ、賃金制度・等級制度の設計に関するご相談は、セレクションアンドバリエーション株式会社までお気軽にお寄せください。

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