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製薬業の再雇用制度改革|60歳以降の処遇を役割と評価に連動させる

製造業

60歳以降のエンゲージメント向上と貢献の可視化を両立させる再雇用制度改革

設立1960年代

従業員約2,400名

売上約1,500億円

提供サービス再雇用制度設計

実施期間5ヶ月

支援時期2025年

対象層・対象人数再雇用者

事例サマリー

四国地方の製薬会社(従業員2,000名台)の再雇用制度改革を、セレクションアンドバリエーションが支援した。60歳到達を境に一律の比率で処遇を引き下げる仕組みから、定年時の役割水準と当年度の発揮に応じて処遇が決まる構造へ転換した事例である。正社員の人事制度改革と同一プロジェクト内で並行して設計した。

背景

四国地方に本社を置く医療用医薬品メーカー(従業員2,000名台)である。輸液・経腸栄養などの臨床栄養関連製品を中核とし、当該領域では国内トップクラスの市場地位を長年にわたり維持してきた。

同社は現行の中期経営計画において、新規領域への挑戦と海外市場への進出を掲げ、その実現に向けて人財力の強化と最大化を人材マネジメント戦略の中核に据えていた。人財力の最大化という命題は、性別・年齢を含む多様性をいかに事業成長へ結びつけるかという問いを避けて通れない。健康で就業意欲の高い高齢者が増加し、60歳以降も高度な専門性と現場知見を発揮できる人材が社内に厚く存在するようになっていた。

しかし同社の再雇用制度は、こうした変化を前提に設計されたものではなかった。60歳到達を境に、定年時の基本給に対して一律の比率を適用する仕組みであり、担う役割や発揮する成果の違いが処遇に反映されない構造にあった。評価も形式的な運用にとどまり、活躍を認めて処遇へ反映する経路が実質的に存在していなかった。

さらに構造的な問題があった。正社員側で実施する賞与リバランス(賞与の一部を基本給へ振り替える基本給引き上げ)を放置すれば、新たな不公平が生じる。リバランス後に定年を迎える社員は引き上げ後の基本給を起点に再雇用処遇が決まる一方、それ以前に定年を迎えた社員は旧水準に据え置かれるためである。

2025年、セレクションアンドバリエーションは正社員向けの人事評価・報酬制度改革と同一プロジェクトのなかで、同一の人事ポリシーを起点として再雇用制度改革を担った。

課題(Before)

四国地方の製薬会社(従業員2,000名台)における改定前の課題は、次の8点である。

1.60歳到達を境に、定年時基本給に対して一律の比率を適用する仕組みであった。担う役割や発揮する成果の違いが処遇に反映されないため、意欲と貢献の高い人材ほど納得感を失いやすい構造にあった。

2.基本給の上限・下限水準が、同一資本系列内の他社水準を下回っていた。処遇レンジそのものが外部との比較において競争力を欠いていた。

3.正社員側の基本給引き上げを前提とすると、再雇用の処遇レンジの下限が実態と整合しない状態になっていた。正社員と再雇用の水準が逆転しかねない構造である。

4.制度改定の時期をまたぐことで、同じ役割を担う社員の処遇に断絶が生じる構造があった。正社員の基本給引き上げ以前に定年を迎えた社員が、引き上げの恩恵を受けられないまま長期にわたり処遇差を負う。

5.再雇用者に対する評価が形式的な運用にとどまっていた。活躍を認め処遇へ反映する経路として機能しておらず、年齢を問わず貢献を賞賛するという方針を制度で裏付けられていなかった。

6.評価項目が現行の役割実態に適合していなかった。とりわけ製造・管理部門において、シニア層に期待される技術伝承や後進育成という貢献が評価対象として明示されていなかった。

7.報酬に変動要素が存在せず、年功的な固定支給が中心であった。手当は在籍そのものに対して支給される性格が強く、その年度の発揮に応じて報われる仕組みになっていなかった。

8.定年前から在籍していた嘱託社員の処遇との間に整合性を欠く部分が存在した。同種の働き方に対して異なる基準が併存していた。

目的と設計方針

四国地方の製薬会社(従業員2,000名台)における本プロジェクトの目的は、60歳以降のエンゲージメント改善という喫緊の課題に応えるとともに、年齢を問わず貢献を賞賛し成長機会を提供するという会社の姿勢を制度として発信することであった。

具体的には3点である。第1に、一律の処遇引き下げから、定年時に担っていた役割と発揮する成果に応じた処遇へ転換すること。第2に、シニア層に対して実質的に機能する評価を導入し、評価結果を処遇に反映する経路を確保すること。第3に、制度改定の時期による処遇の断絶を生じさせないことである。

設計方針は次の5点とした。

1.正社員制度改革と同一の人事ポリシーを起点とした。挑戦と公正さの両立という会社の基軸は60歳を境に切り替わるものではない。年齢によって適用する原理が変わる制度ではなく、同一の原理を年齢期に応じて具体化する制度として設計した。

2.基本給・評価・賞与の3点を一体で改める方針とした。処遇レンジを見直しても評価が機能しなければ役割との対応は生まれず、評価を導入しても報酬への反映経路がなければ意味を持たない。3者を相互に依存する論点として同時に設計している。

3.外部水準と内部整合の双方を検証した。基本給の上限は同一資本系列内の他社水準を踏まえて設定し、下限は正社員側の基本給引き上げと整合するよう引き上げた。

4.移行に伴う不利益と不公平を徹底的に潰す方針とした。制度改定の前後で定年時期が分かれる社員、誕生月によって在籍期間が異なる社員、契約満了年度を迎える社員のいずれについても、制度の切れ目が個人の不利益として現れないよう個別に検証している。

5.運用可能性を優先した。正社員の評価が多段階の精緻な設計である一方、再雇用社員については評価段階を簡素化し、そのうえで分布目安によって整合を確保する構成とした。

セレクションアンドバリエーションは、この方針を正社員制度の設計と同時並行で経営層に提示し、全社の人件費配分として一体で判断できる形を整えた。

実際に構築した制度のポイント

四国地方の製薬会社(従業員2,000名台)において構築した再雇用制度の要点は、次の6点である。

1.定年時の等級区分に応じた基本給の上限・下限を設定した。担っていた役割の水準が再雇用後の処遇レンジに反映される構造である。上限は同一資本系列内の他社水準を踏まえて引き上げ、下限は正社員側の基本給引き上げと整合するよう引き上げた。定年時基本給に一律比率を適用する単線的な決定方式から、役割水準に応じたレンジのなかで処遇を決定する方式へ転換している。

2.世代間の断絶を解消する移行措置を講じた。正社員の基本給引き上げ以前に定年を迎えた社員については、定年時の基本給に遡ってリバランス相当分を引き上げたうえで再雇用処遇を算定する。定年時期が制度改定の前後いずれであっても、同じ役割を担う社員の処遇に構造的な差が生じない状態を確保した。既に再雇用されている社員への遡及的補正は追加原資の投入を伴う判断である。

3.正社員の行動評価に準じた評価体系を導入した。評価段階を簡素化したうえで、期待水準に対する発揮度を示す評語を正社員と共通のものとし、60歳の前後で評価の考え方が断絶しない設計とした。評価分布目安を設定し、正社員と同様に中心化・寛大化の抑制を図っている。

4.評価項目をシニア層への役割期待に合わせて再構成した。全部門共通の項目として、知識・技術・ノウハウを後進へ伝承し人材育成に努めること、企業グループの一員としての使命感と自己実現に向けた努力、心身の健康維持のための自己管理を設定した。製造・管理部門には業務成果、業務プロセス・実行力、顧客価値創造、協働という専用項目を追加し、営業部門は評価の大部分を正社員と同一の項目で構成している。コンプライアンス・ハラスメントに関する事項は評価項目とは別枠に設定し、最終評価において加味する構成とした。本人コメント欄も新設している。

5.従来のシニア層向け手当を廃止し、評価結果に連動する賞与を新設した。前年度の評価結果に応じた金額を年2回支給する仕組みであり、在籍そのものに対する固定支給から、その年度の発揮に応じた変動支給へと報酬の性格を転換している。標準を下回る評価については支給を行わない設計とし、最下位評価の場合には翌年の減給の可能性があることを制度上明記した。減給幅は明示せず、運用における対話の余地を残している。

6.移行期の不利益を排除する按分設計を行った。60歳到達年度については、正社員としての賞与と再雇用社員としての賞与を在籍月数に応じて按分し、両者の合計が誕生月にかかわらず常に同一となる設計とした。到達年度の翌年についても、誕生月に応じて評価反映分と標準評価相当分を切り分けて算定する方式を定義している。65歳到達年度についても同様に在籍月数に応じた按分を行った。

在籍する再雇用社員、嘱託社員、執行役員経験者、および翌年に60歳到達を迎える社員を対象として、継続率と法定福利費を織り込んだ人件費影響を試算した。基本給の変動率変更、上限の引き上げ、下限の引き上げそれぞれの影響を分解して可視化し、上限到達者数や下限未満者数といった実態を踏まえた意思決定を可能にしている。規程改定と従業員向け説明資料を整備し、2026年1月からの新制度運用に接続させた。

なお、基本給の上限・下限額、変動率、賞与額、評価分布目安の数値、人件費影響額は守秘義務のため非公開とする。

導入後の変化

四国地方の製薬会社(従業員2,000名台)において、新制度は2026年1月から運用を開始している。エンゲージメントの実測値による検証はこれからであり、現時点で確認できている変化は次のとおりである。

1.60歳以降の処遇について、水準の根拠を説明できる状態になった。年齢到達を理由とする一律の引き下げから、定年時に担っていた役割水準と当年度の発揮に基づく決定へ根拠が移ったことで、本人・上司・人事の3者が同じ前提に立って対話できるようになっている。

2.シニア層の報酬に評価連動の変動要素が生まれた。固定支給の手当を賞与へ振り替えたことにより、その年度に発揮した成果が半年ごとに処遇として返ってくる構造となった。60歳以降も評価の対象であるという事実が、報酬の形で毎期示される。

3.期待する役割が制度上明示された。技術伝承と後進育成が評価項目として全部門共通で設定されたことにより、シニア層の貢献が現役同様の業務遂行だけでなく次世代への継承としても位置づけられた。製造現場において長年蓄積された技能の継承は同社の事業基盤に直結する論点であり、評価対象としての明文化は事業戦略との接続を意味している。

4.制度改定の時期による処遇の断絶が回避された。遡及的な引き上げ措置により、既に再雇用されている社員と今後定年を迎える社員が、同一の基準のもとで処遇される状態が確保されている。

5.年齢による制度の断絶が解消された。正社員制度と同一の人事ポリシー、共通の評価言語で設計されたことにより、60歳の前後を通した一貫した人材マネジメントの基盤が整っている。

なお、本制度の改定は人件費の増加を伴う判断である。正社員側では年収総額を維持したままの構造転換によって中期的な人件費の適正化を図っており、セレクションアンドバリエーションはこの2つを全社の原資配分として一体で設計した。個別制度ごとの増減ではなく、どこに原資を厚く配るかという配分の判断として整理している。

本プロジェクトの特徴

本プロジェクトの特徴は、次の5点である。

1.正社員制度改革との同時並行設計

一般に、再雇用制度は本体の人事制度から切り離された例外制度として、別のタイミングで個別に改定される。本案件では、正社員の評価・報酬制度改革と同一プロジェクト、同一の人事ポリシーのもとで設計した。根拠は、年齢によって適用する原理が変わる制度は、必ず60歳の前後で説明の断絶を生むという判断である。評語体系と評価項目の思想を共通化したことで、断絶が構造的に解消された。

2.直接的原因ではなく本質的課題からの設計

一般に、一律の報酬カットに対する不満には、カット率の緩和という水準調整で応じることになる。本案件では、役割の不明確さ、役割と処遇の属人性、人事戦略としての位置づけの欠如という背後の課題に遡って論点を設定した。根拠は、水準を調整しても役割と処遇の対応関係が定義されない限り、数年後に同じ不満が再発するためである。

3.制度改定の谷を先回りして潰す移行設計

一般に、制度改定に伴う世代間の有利不利は、移行措置の範囲を限定したうえで、残る差は説明によって受け止める。本案件では、正社員の基本給引き上げが既存の再雇用社員との断絶を生む構図を設計段階で特定し、遡及的な引き上げによって解消した。根拠は、この断絶が本人の努力や選択とは無関係な、定年時期という偶然によって生じるものだからである。

4.誕生月による不利益の排除

一般に、年度途中で身分が切り替わる社員の賞与は、在籍実績に応じた按分によって機械的に処理される。本案件では、正社員としての賞与と再雇用社員としての賞与の合計が、誕生月にかかわらず常に同一となるよう設計した。根拠は、本人が選択し得ない条件によって年間の支給総額に差が生じることは、制度の公正さに対する信頼を直接損なうためである。

5.運用可能性を優先した設計判断

一般に、同一企業内の評価制度は正社員と再雇用者で同一の精緻さをもって設計される。本案件では、正社員側は多段階の精緻な設計を採用する一方、再雇用社員については評価段階を簡素化し、分布目安によって整合を確保する構成とした。根拠は、対象者数と評価者の運用負荷を踏まえたとき、精緻さより回りきることを優先すべきという判断である。

担当コンサルタント: 岡安 楓西村 悠佑

最も判断を要したのは、既に定年を迎えた方々の処遇まで遡って引き上げるかどうかでした。追加の原資が必要になりますので、見送るという選択もありました。しかし定年の時期が数か月違うだけで処遇に差がつく制度を、公正だと説明することはできません。経営層にその一点をお伝えし、ご決断いただきました。制度の信頼は、こうした細部で決まると考えています。

よくあるご質問

Q1. 60歳以降の処遇は、定年時の給与から一律の比率で引き下げてよいのか。

現在の法令上は不可能とまではいえないが、意欲の高い人材の定着という観点では合理性を欠く。一律の引き下げは、担う役割や発揮する成果の違いを処遇に反映しないため、貢献の大きい人材ほど納得感を失うからである。人手不足が続くなかでは、この層の離脱が事業に直接影響する。本事例では、定年時の等級区分に応じた処遇レンジの上限・下限を設定し、役割水準に応じて処遇が決まる方式へ転換した。

Q2. 再雇用者に評価制度を適用すべきか。

適用すべきである。評価がなければ、発揮した成果を処遇に反映する経路が存在せず、年齢を問わず貢献を賞賛するという方針が制度上の裏付けを持たないためである。ただし正社員と同一の精緻さは不要であり、対象人数と評価者の負荷に見合った設計とすることが実務的である。本事例では、評語は正社員と共通としたうえで評価段階を簡素化し、分布目安によって中心化を抑制する構成とした。

Q3. なぜ役割等級制度を新設せず、定年時の等級区分に基づく処遇レンジとしたのか。

再雇用者専用の役割等級を新設すると、役割定義、格付け基準、格付け決定プロセスを新たに構築する必要があり、対象人数に対して運用負荷が過大になるためである。定年時の等級は、その社員が長年にわたり担ってきた役割水準の評価結果そのものであり、これを起点とすることで新たな格付け作業を伴わずに役割水準を処遇へ反映できる。本事例では、定年時等級区分ごとに上限・下限を設定し、当年度の発揮は評価と賞与で反映する二層構造とした。

Q4. 正社員の基本給を引き上げると、既に再雇用されている社員との間に不公平が生じないか。

生じる。再雇用の処遇が定年時の基本給を起点に決まる仕組みでは、引き上げ前に定年した社員だけが旧水準に据え置かれるためである。定年の時期という本人が選択できない条件で処遇差が固定されるため、この点を放置すると制度全体への不信を招く。本事例では、引き上げ以前に定年を迎えた社員について、定年時の基本給に遡って引き上げ相当分を反映したうえで再雇用処遇を算定する措置を講じた。

Q5. 再雇用者向けの賞与は必要か。固定的な手当のままではいけないのか。

評価を処遇に反映する経路を確保するのであれば、賞与の形が適している。固定的な手当は在籍そのものに対する支給であり、その年度の発揮に応じて金額が変わらないため、評価制度を導入しても処遇に接続しないからである。本事例では、従来のシニア層向け手当を廃止して評価連動の賞与へ振り替え、前年度の評価結果に応じた金額を年2回支給する仕組みとした。