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情報サービス業の人事制度改定|スキルマップ連動評価と月例給の是正

IT・情報通信

専門性の評価と育成を同じ基準に載せる、スキルマップ連動型の人事制度改定

設立2020年代

従業員約90名

売上約30億円

提供サービス人事制度設計

実施期間12ヶ月

支援時期2023年~2024年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

近畿地方の受託システム開発・運用会社(企業グループ向けの情報システムを担当、支援当時 従業員50名前後)に対し、セレクションアンドバリエーションが等級・評価・報酬の詳細設計を担当した。改定の軸は2つである。スキルマトリクス(スキルマップ)を作成して評価と育成を同じ基準の上に載せたこと、そして年収の枠内で構成を組み替え、月例給を市場水準に合わせたことである。新人事制度は2024年4月に稼働している。

背景

企業グループ向けの情報システム開発・運用を担う同社は、近畿地方に本社を置く。2022年の新設分割によって独立した会社として設立され、グループの中期経営計画において、既存事業の変革と新規事業の創出を企画段階から担う位置づけを与えられていた。

これに先立つ支援フェーズで、進行中の離職に対する喫緊対応と、人事グランドデザインの策定を完了している。求める人材像、キャリア・育成方針、報酬・評価方針は、この段階で文章として確定していた。

残されていたのは、方針を制度に落とす作業である。専門性を高めるキャリアを本流に置くという方針は決まっていたが、その専門性をどう測るかは未確定であった。測れなければ、評価もできず、育成の目標も示せない。

報酬にも構造上の制約があった。同社の年収は賞与の比重が大きく、月例給が相対的に低い。転職市場でIT人材が比較するのは提示される月例給であるため、年収が同水準でも採用の場面で見劣りする状態にあった。

課題(Before)

支援当時 従業員50名前後の同社において、詳細設計の対象となった現行制度の課題は次のとおりである。

1.専門性を測る基準が存在しなかった。何ができれば一人前で、何ができれば上位等級かを示す物差しがなく、判定は上司の印象に委ねられていた。専門性で市場価値が決まる職種において、最も重要な軸が制度から抜けていた。

2.評価と育成が接続していなかった。評価で不足を指摘しても、本人が何を学べばよいかを示せない。教育体系は形骸化しており、評価表と育成計画が別々のものとして扱われていた。

3.基本給が年齢給と職能給で構成されていた。年齢の上昇に応じて自動的に基本給が増える構造であり、専門性の獲得やスキルの更新が報酬に反映されなかった。

4.月例給が市場水準を下回っていた。同一地域・同一業種・同一規模帯の統計値と比較すると、月額の基準内賃金で明確な差があった。年収の総額ではなく、月例給の水準が採用競争力の制約となっていた。

5.生活関連手当が基本給と切り離されていた。家族手当と住宅補助が別建てで支給されており、扶養の有無や世帯状況によって手取りが変わる。同じ等級で同じ成果を出しても報酬が異なる構造であった。

6.賞与が生活給として一律に支給されていた。会社業績にも個人の成果にも連動せず、成果配分としての機能を持っていなかった。年収に占める比重が大きい一方で、変動の根拠が存在しなかった。

7.等級が7段階で、役職と一対一に連動していた。等級が上がるには役職に就く必要があり、役職の空きがなければ処遇も上がらない。専門職等級は上位等級にのみ設定されており、技術を深める道筋が制度として存在しなかった。

8.昇格に複数年の在籍要件があった。直近5年間の考課で一定回数以上の高評価という卒業基準に加え、在籍年数の要件が課されていたため、能力が伴っても早期の昇格ができなかった。加えて、出向者とプロパー社員とで受験時期が異なり、公平性への不満が蓄積していた。

9.評価項目が多く、顕在化していない要素を含んでいた。成果、6つの行動特性、5つの取組姿勢という構成であり、取組姿勢は観察に基づく判定が難しい。何を評価されているかが被評価者に伝わらず、評価者による甘辛の差も生じやすい状態であった。

10.評価が6段階で、最終的に相対評価による調整が入っていた。一次評価の結果が調整で覆るため、評価者にとっても被評価者にとっても、評価の意味が説明しにくい状態であった。

目的と設計方針

セレクションアンドバリエーションが詳細設計にあたって置いた目的は2つである。専門性の獲得を評価と育成の共通基準に載せること、そして月例給を市場水準に合わせることである。

第1の目的に対する設計方針は、スキルマトリクス(スキルマップ)を制度の中心に据えることである。担当業務ごとに習得度の段階を定義し、等級ごとの期待レベルを明示する。同じマトリクスを、専門性の評価にも、昇格の判定にも、育成計画の起点にも用いる。評価表と育成計画を別々に作ると、評価で指摘した不足に対して次の行動を示せなくなるためである。

第2の目的に対する設計方針は、年収の総額を動かすのではなく、年収の内訳を組み替えることである。生活関連手当を基本給へ統合し、賞与の算定基礎も基本給に一本化する。年収を月例基本給の一定倍率で表せる構造にしたうえで、市場水準との比較軸である月例給を引き上げる。人件費の増加を最小限に抑えながら、採用と定着の場面で見える金額を改善する狙いである。

この2つを支える前提として、等級の軸を専門性と行動に置いた。職務等級制度(ジョブ型)は上位の職責層に限定し、それ以外には適用しない。職務の輪郭が動いている組織で職務を等級の基準に据えると、処遇が担当替えのたびに動くためである。

あわせて、評価対象を顕在化しているものに絞った。成果、行動、専門性の3つとし、取組姿勢は廃止した。行動と専門性は基本給へ、成果は賞与へという反映経路を一対一で固定し、何が何に効くかを明確にしている。

実際に構築した制度のポイント

スキルマトリクスと報酬構成の組み替えを軸に、等級・評価・報酬・賞与を一体で設計した。構築した要素は次のとおりである。

【スキルマトリクスによる評価と育成の接合】

1.スキルマトリクス(スキルマップ)を作成した。担当する業務領域ごとに習得度を4段階で定義した。概要を理解している、部分的に単独で実践可能、すべての業務を単独で実践可能、実践に加えメンバーへ技術伝承している、の4段階である。判定の観点は、スキルを活用できているか、正しいプロセスを踏んでいるか、量と質の両面で成果を出せているかの3つとした。

2.等級ごとの期待レベルをマトリクス上に明示した。現等級で特に習得・発揮してほしいスキルを指定することで、本人が次に何を身につければよいかを自分で確認できる状態とした。

3.新卒経路と経験者経路の双方に対応する構造とした。基礎から段階的に幅を広げる経路と、特定領域の専門スキルを持つ人材が途中から参画して周辺へ広げる経路の両方が、同じ一枚のマトリクスで読める形にしている。

4.担当システムの範囲を重み付けして点数化した。交通、流通・不動産、会計、人事給与、ITインフラ、ITサービス、デバイス、コンテンツなど各業務領域に重みを設定し、上位等級への卒業基準として必要点数を定めた。専門性の深さだけでなく、対応できる領域の広さも判定の対象としている。

5.スキルマトリクスを専門性評価の基準として用いた。期待される専門性を獲得している、もう少しで獲得できる、獲得に努力を要する、の3段階で判定する。判定の根拠がマトリクス上の位置として示されるため、評価者が本人へ説明できる。

6.スキルマトリクスを昇格判定の基準として用いた。行動評価の累積ポイント、担当システムの点数による卒業基準、業務に関連する資格の取得、上位者による申請と面談を組み合わせ、在籍年数のみに依存しない判定とした。累積ポイント方式のため、高い評価を継続した人材は標準より短い期間で昇格できる。

7.スキルマトリクスを育成計画の起点として用いた。等級ごとに必要なスキルが定義されているため、評価で不足と判定された項目に対し、集合教育、社内外の研究会参加、eラーニングのいずれで補うかを示せる。評価のフィードバックが、そのまま次期の育成テーマになる構成である。

8.資格制度を担当業務別に設定した。全等級共通の必須資格を段階的に定めたうえで、部署別ではなく担当業務別に推奨資格を割り当てた。スキルマトリクスの領域区分と資格の区分を一致させることで、担当が変わっても取得の意味が失われない構成としている。

9.行動側にも同じ構造を用意した。コンピテンシーディクショナリを整備し、全社共通の6項目(協調性、社内外の関係構築、巻き込み、課題遂行力、課題管理力、課題計画力)に加え、マネージャには人材育成とチャレンジの2項目を上乗せした。等級ごとにウェイトを変えることで、その等級で何を重く見るかを示している。専門性はスキルマトリクス、行動はコンピテンシーディクショナリという二本立てで、評価と育成の基準を揃えた。

【年収内での基本給リバランス】

10.年収を月例基本給の16か月分で表す構造とした。月例基本給の12か月分に、賞与4か月分を加える形である。等級ごとに基本給レンジと年収想定を対で提示し、月例給と年収のどちらからも水準を確認できるようにした。

11.生活関連手当を基本給へ統合した。家族手当と住宅補助を廃止し、原資を基本給へ振り替えた。扶養の有無や世帯状況ではなく、等級と評価によって報酬が決まる構造へ改めている。

12.賞与の算定基礎を基本給に一本化した。従来は賞与が月例給と切り離されていたが、基本給を算定基礎とすることで、基本給が上がれば賞与も連動して上がる。年収の設計を、月例基本給という単一の変数で扱える構造とした。

13.市場水準を踏まえて基本給の水準を引き上げた。同一地域・同一業種・同一規模帯の統計値を参照し、月例の基準内賃金で比較して見劣りしない水準に設定した。転職市場でIT人材が比較するのは提示される月例給であるため、比較軸に合わせた設計としている。

14.等級ごとのレンジレート(範囲給)を設定した。下限、中央値、上限の3点で賃金テーブルを構成し、最上位等級のみ上限を設けない形とした。

15.号俸表と接続型マトリクス昇給を導入した。1号俸あたりのピッチは上位等級ほど大きく設定した。昇給号数は評価とレンジ内の位置の組み合わせで決まり、レンジの下方では昇給しやすく、上方に滞留するほど昇給幅が逓減する。人件費の総額を管理しながら、早期の成長に報いる設計である。

16.役職手当を残業手当との関係で再設定した。管理職と一般職の給与の逆転が生じないよう、中間管理層の手当額を残業見合いとして設定した。

17.賞与を業績連動型に改定した。基本給を算定基礎とし、全社業績に基づく支給月数と、個人評価に基づく係数を乗じる方式に変更した。冬季は定額支給を維持し、夏季に新方式を反映する段階的な移行とした。

【等級と評価の骨格】

18.複線型の等級体系を構築した。システム開発・運用を担う部門は専門性と行動の2軸、管理部門は行動の1軸で等級を定義し、いずれも6段階とした。上位の職責を担う層のみ職務等級制度(ジョブ型)を適用し、兼任を認めない専任配置とした。中間管理層は等級と役職を分離し、兼任を基本としている。

19.等級呼称を職務内容に合わせて設定した。専門職系はエンジニアとしての専門性が伝わる呼称、管理部門系は組織の統括を担う役割が伝わる呼称とし、社外に対しても等級の意味が通じる形にした。

20.等級定義を成長段階の記述として作成した。基本的な知識と技能を有する段階から、独力で課題を発見し解決する段階、周囲を巻き込んで課題解決をリードする段階、社内外でテクノロジやメソドロジを創造しリードする段階までを、6段階の文章として明示した。

21.評価対象を成果・行動・専門性の3つに絞り込んだ。顕在化していない取組姿勢は廃止した。行動と専門性は基本給(昇給・昇格)へ、成果は賞与へ反映する経路とし、何が何に効くかを一対一で対応させた。

22.1on1ミーティングを制度に組み込んだ。月1回、1回20分から30分を目安に、振り返りと改善点の共有を行う。期末の評価だけで判断しない運用とし、評価の納得性を運用面から支える設計とした。

23.降格プロセスを定義した。最低評価が2年連続した場合に対象としてノミネートし、本人への通達と改善要請を経て、1年間の改善期間の評価を踏まえて処遇を決定する。専門性が発揮できていない場合も評価会議での協議対象とした。

24.異動ルールを職種特性に応じて分けた。専門性を担う部門では、一定の専門性を習得した段階での異動を原則とし、幅広い専門性の獲得を促す構成とした。管理部門では原則を設けず、会社判断と本人希望による柔軟な運用とした。

【移行と浸透】

25.新賃金レンジに対する実在者の分布を確認した。レンジの上限を超える人材を特定し、移行時の取り扱いを個別に設計した。

26.移行原資を試算した。年収ベースで、喫緊対応前からの人件費増を算出した。生活関連手当の統合と賞与算定基礎の変更が年収に与える影響を含めて示し、意思決定を費用の見通しとセットで行える状態にしている。

27.過去の評価履歴を新制度のポイントへ換算した。旧制度の6段階評価を新制度の累積ポイントに読み替え、中途入社者にはスキルと実績に応じてポイントを付与した。制度切替時に、それまでの積み上げが一度ゼロに戻ることを避けている。

28.規程化と試行評価を実施した。本格稼働の前に試行評価を行い、給与移行の作成とあわせて制度を最終化した。

導入後の変化

新人事制度は2024年4月に稼働し、以降も運用が続いている。稼働の前後で確認された変化は次のとおりである。

1.評価の論点が「基準の有無」から「判定の精度」へ移った。スキルマトリクスと点数化した卒業基準により、何を満たせば上がるかは明示された。一方で、習得度をどこまで客観的に判定するかが次の課題として認識されており、運用側の議論の水準が上がっている。

2.昇格判断の根拠を数値で説明できるようになった。担当システムの重み付けと点数化により、上位等級で何を担う必要があるかが示されている。評価者が本人へ判定の理由を伝えられる状態となった。

3.評価から育成への接続が可能になった。等級ごとに必要なスキルが定義されているため、評価で不足と判定された項目に対し、次に受けるべき教育を示せる。形骸化していた教育体系が、スキルマトリクスを起点として再構築されている。

4.月例給の水準が改善した。生活関連手当の統合と基本給水準の引き上げにより、転職市場での比較軸である月例給が引き上げられた。あわせて基本給の上限が撤廃され、担当業務に見合う処遇が受けられるようになっている。

5.報酬に対する不満の質が変わった。負担と報酬が釣り合わないという不満から、成果を出せば報われるという前提での議論へ、社内の論点が移った。

6.採用時の等級判定と条件提示が可能になった。レンジレートの導入により、応募者の経験と専門性に応じて、どの等級で迎えるかを判断したうえで条件を提示できる状態となった。

7.組織規模が拡大した。従業員数は50名前後(2022年度)から86名(2026年3月末時点)へ増えている。担当する業務領域も、グループ全体のIT可視化やセキュリティ強化を含む形へ広がっている。

8.親会社側のグループ再編と経営体制の交代を経ても、制度の骨格は維持されている。株主構成の変更、事業の分社化、社長の交代があったが、等級・評価・報酬の体系は差し替えられていない。

9.制度の内容が採用広報の素材になっている。プロフェッショナルコースを軸としたキャリアパス、スキルマトリクスによる専門性の可視化、成果・行動・専門性の3軸評価は、同社自身の採用サイト上で説明されている。設計した内容が、社外に対する説明言語として使われている状態である。

人事制度は、導入時点の完成度ではなく、その後に自社で運用し更新できているかどうかで評価される。セレクションアンドバリエーションが設計したスキルマトリクスと等級・評価・報酬の骨格は、グループ体制と経営体制の変化を経てなお運用され、同社自身の言葉で語られている。

本プロジェクトの特徴

本案件の判断は4つある。

1.専門性の判定を、資格の取得に委ねなかった。

IT職種では資格が客観指標として使いやすく、資格の有無を昇格要件に据える設計は成立する。取得数で運用できるため、判定も容易である。本案件では、スキルマトリクスによる習得度の判定と、担当システムの範囲を点数化した卒業基準を主軸に置き、資格はその一要素として位置づけた。資格は知識の証明であり、実務での発揮を保証しない。担当領域が細分化している組織では、実務の広がりを測る指標を別に持たなければ、専門性の実像を捉えられないと判断したためである。

2.スキルマトリクスを、評価表としてではなく共通基準として設計した。

スキル一覧は、評価のための帳票として作られることが多い。期末に埋めて提出し、次の期にはまた別の育成計画が立てられる。本案件では、同じマトリクスを専門性評価の基準、昇格判定の卒業基準、育成計画の起点、資格制度の区分に共通して用いた。評価と育成を別の書式で運用すると、評価で指摘した不足に対して次の行動を示せなくなる。基準をひとつにすることが、評価と育成をつなぐ唯一の方法であると判断したためである。

3.年収の総額を増やすのではなく、年収の内訳を組み替えた。

報酬水準の改善は、人件費の追加投入によって行われるのが通例である。本案件では、生活関連手当を基本給へ統合し、賞与の算定基礎を基本給に一本化することで、年収を月例基本給の16か月分で表せる構造に整理した。そのうえで市場水準を踏まえて基本給を引き上げている。IT人材が転職市場で比較するのは年収の総額ではなく提示される月例給であり、同じ人件費でも配分の仕方によって採用競争力が変わると判断したためである。

4.職務等級制度(ジョブ型)を全面適用しなかった。

IT人材の処遇に職務等級制度を用いる例は多い。職務の市場価値が明確で、専門性と報酬の対応がとりやすいためである。本案件では、担当するシステムが多数かつ小規模に分散しており、職務記述書を単位に等級を確定させると、担当替えのたびに処遇が動く構造になる。加えて設立直後で職務の輪郭自体が動いていた。そのため職務等級制度は上位の職責層に限定し、それ以外は専門性と行動に基づく行動等級(コンピテンシー等級)とした。安定しない職務を等級の基準に据えないという判断である。

担当コンサルタント: 松木 宏晃山田 沙樹平康 慶浩

一番時間をかけたのは、スキルマップの形をどうするかでした。IT分野の標準的なスキル体系を当てはめる案もありましたが、それでは貴社が実際に抱えているシステムの実態と噛み合いません。最終的に、新卒から段階を上がる方と、専門スキルを持って途中から入る方の両方が一枚で読める形に落ち着きました。報酬のほうは、総額を増やす前に配分を見直しています。年収は同じでも、月例給が市場と比べて低ければ採用では負けてしまうからです。

よくあるご質問

Q1. スキルマップ(スキルマトリクス)は何を解決するのか。

専門性の評価を「上司の印象」から「習得度の確認」へ移すことを解決する。専門性は成果や行動と違って外から見えにくく、基準がなければ判定が属人的になる。本事例では、担当業務ごとに習得度を4段階で定義し、等級ごとの期待レベルを明示した。本人が次に何を身につければよいかを自分で確認でき、評価者は判定の根拠をマトリクス上の位置として示せる。

Q2. スキルマップと人事評価・育成は、どのように接続すればよいか。

同じマトリクスを、評価・昇格・育成の共通基準として使うことで接続できる。評価用のスキル一覧と、育成用の研修計画を別々に作ると、評価で指摘した不足に対して次の行動を示せなくなる。本事例では、習得度4段階の判定を専門性評価の基準に用い、担当領域の点数を昇格の卒業基準に用い、等級ごとの不足項目を集合教育・研究会参加・eラーニングの選定に用いた。資格制度の区分もマトリクスの領域区分に合わせている。

Q3. 年収を増やさずに、月例給だけを市場水準に近づけることはできるのか。

できる。年収の内訳を組み替えることで対応する。転職市場でIT人材が比較するのは提示される月例給であり、年収の総額が同水準でも、賞与の比重が大きいと採用の場面で見劣りする。本事例では、家族手当と住宅補助を基本給へ統合し、賞与の算定基礎も基本給に一本化した。年収を月例基本給の16か月分で表せる構造に整理したうえで、市場水準を踏まえて基本給を引き上げている。

Q4. なぜ職務等級制度(ジョブ型)ではなく、専門性と行動を軸にした複線型等級を選んだのか。

職務の輪郭が安定していない組織では、職務等級制度を全面適用すると処遇が担当替えのたびに動くためである。職務等級制度は職務記述書を単位に等級を確定させる仕組みであり、担当する職務が固定されていることが前提となる。本事例では、担当システムが多数かつ小規模に分散していたため、職務等級制度は上位の職責層に限定し、それ以外は専門性と行動に基づく行動等級(コンピテンシー等級)とした。

Q5. 家族手当や住宅補助を基本給へ統合すると、何が起きるか。

同じ等級で同じ成果を出した社員の報酬が揃う。生活関連手当は、扶養の有無や世帯状況によって支給額が変わるため、成果とは無関係の要因で報酬に差が生じる。基本給へ統合すれば、等級と評価だけで報酬が決まる。ただし、統合によって個人単位では手取りが減る層が発生しうるため、実在者の分布を確認し、移行時の取り扱いを個別に設計する必要がある。

Q6. 昇格を在籍年数で縛らない場合、何を判断基準にすればよいか。

評価の累積と、担当範囲の広がりを組み合わせるとよい。単年度の評価だけでは偶然が入り、在籍年数だけでは能力を反映できない。本事例では、評価ランクをポイントに換算した累積方式を用い、等級ごとに必要な累積ポイントを定めた。あわせて、担当するシステムに重み付けを行って点数化し、上位等級への卒業基準とした。高い評価を継続した人材は、標準より短い期間で昇格できる。