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情報サービス業の教育制度設計|等級と連動した階層別研修と資格制度

IT・情報通信

新制度が求めるスキルと行動の習得経路を用意する、等級連動型の階層別教育制度設計

設立2020年代

従業員約90名

売上約30億円

提供サービス人材育成・教育研修

実施期間12ヶ月

支援時期2024年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

近畿地方のシステム開発会社(企業グループ向けの情報システムを担当、従業員80名規模)に対し、セレクションアンドバリエーションが教育制度の設計と研修の実施を担当した。形としては存在しながら機能していなかった教育体系を、等級ごとのコンピテンシーと対応させた階層別研修として再構築し、新入社員と中堅社員に各4本のプログラムを2024年度に実施している。

背景

企業グループ向けの情報システム開発・運用を担う同社は、近畿地方に本社を置く。2022年の新設分割によって独立し、離職への喫緊対応、人事グランドデザインの策定、等級・評価・報酬の制度改定を経て、新人事制度を2024年4月に稼働させている。

新制度では、専門性と行動の2軸で等級を定義し、各等級に求められるスキル要件とコンピテンシーを明文化した。何ができれば上位等級に上がれるかは、制度として示された状態にある。

一方で、そこへ到達するための手段が用意されていなかった。育成はOJTに依存し、教育体系は制度として存在するものの運用されていなかった。基準だけを示し、到達手段を用意しない状態は、評価される側にとって基準の押し付けとしてしか機能しない。

グループのDX推進という文脈においても、既存サービスの着実な運用と、グループ全体の生産性を高める新しい価値の創造という2つの成果が求められていた。この成果を担う人材を、採用だけで賄うことはできない。

課題(Before)

従業員80名規模の同社において、インタビューを通じて確認された育成上の課題は次のとおりである。

1.教育体系が形骸化していた。制度としては存在するが運用されておらず、実質的にOJTのみで育成が行われていた。教える内容も教える人も、配属先によって異なる状態であった。

2.業務が特定の人材に集中していた。教育体系が機能していないため、任せられる人に任せる運用が続く。業務に習熟した人材ほど負荷が高まり、その負荷が離職リスクへ直結していた。

3.自己研鑽の時間が確保できなかった。日常業務に追われ、資格取得のための学習時間が取れないという声が多く挙がっていた。制度として資格取得を促しても、時間の裏付けがなければ機能しない。

4.部下育成の指導が行われていなかった。管理職自身の業務量が多く、育成に時間を割けない。誰が何を教えたかを共有する仕組みもなく、育成が個人の裁量に委ねられていた。

5.組織知が蓄積されていなかった。成功事例も失敗事例も部署内にとどまり、他部署を含めたノウハウの共有の仕組みが存在しなかった。

6.資格取得の支援方法が効果を上げていなかった。一時金としての報奨金を設定していたが、取得の促進につながっていなかった。金銭以外の動機づけが必要な状態であった。

7.新卒と中途で必要な支援が異なっていた。新卒には社会人としての基礎的なコミュニケーション能力が、中途には全体的なスキルの底上げが求められており、単一のプログラムでは対応できなかった。

8.派遣社員への説明教育の時間が確保できていなかった。増員した人員に業務を依頼する余裕がなく、体制を厚くしても稼働につながらない状態が生じていた。

目的と設計方針

セレクションアンドバリエーションが教育制度の設計にあたって置いた目的は、新人事制度が求めるスキルと行動を、実際に習得できる経路を用意することである。評価の基準と、育成の内容を一致させることを条件とした。

設計方針は4点である。

第1に、教育の区分を年次ではなく等級で切る。新人事制度で定義した等級ごとのコンピテンシーと、研修で扱う内容を対応させる。年次で区切ると、中途入社者が対象から外れるためである。

第2に、OJTとOff-JTを組み合わせる。職務を通じた育成に、研修での気づきと職場での実践、振り返りを重ねる循環として設計する。研修を単発のイベントにしない構成とした。

第3に、成果に至る道筋を3段階で定義する。社会人化(ビジネスパーソンとしての意識と立ち振る舞い)、組織人化(チームの一員として成果に貢献する仕事の進め方)、成果(チームであることを活かした高い成果)の順に積み上げる。何が足りないのかを、段階として特定できる構成とした。

第4に、資格を部署別ではなく担当業務別に設定する。担当が変わっても取得の意味が失われず、業務との関連性が保たれるためである。

実際に構築した制度のポイント

等級のコンピテンシーと対応させた教育体系を構築した。内容は次のとおりである。

【教育体系の骨格】

1.OJTとOff-JTを循環として設計した。職務を通じた育成に、研修での気づき、職場での実践、振り返り、自己研鑽を重ねる構成とし、計画的育成として位置づけた。研修を受けて終わりにしない前提を、体系の設計段階で組み込んでいる。

2.成果創出までを3段階で定義した。社会人化、組織人化、成果の3段階とし、それぞれに必要な意識と行動を明示した。新入社員は社会人化から、中堅社員は組織人化から着手する構成である。

3.等級ごとに必要なスキルを定義した。新人事制度のスキルマトリクスおよびコンピテンシーディクショナリと対応させ、集合教育、社内外の研究会参加、eラーニングを組み合わせる形で習得手段を用意した。

【新入社員向けプログラム】

4.ビジネスマインドとストレスコントロールを扱う研修を設計した。学生から社会人への意識の切り替えに加え、ストレスを感じる仕組みと対処の基礎を扱う。会社を取り巻く利害関係者、経営資源と提供価値、コンプライアンス意識までを含め、なぜ働くのかを自分の言葉で説明できる状態を目指す構成とした。

5.報連相を扱う研修を設計した。報告・連絡・相談の違い、事前準備、相手と情報のレベルを揃える方法、忙しい上司から時間をとる方法までを、演習を交えて扱う。習慣ではなく技術として扱う構成である。

6.チームワークを扱う研修を設計した。命令ではなく依頼を意識すること、情報を整理して伝えること、感謝を具体的に伝えることなど、チームの成果を高める行動を扱う。あわせて、自分の原動力を自覚する演習を含めた。

7.ロジカルシンキングを扱う研修を設計した。問題を枠組みで分解する方法、確証バイアスへの注意、相関関係と因果関係の区別、複数の施策を基準に沿って評価する方法を扱う。説得力のある意見を伝えられる状態を目指す構成とした。

【中堅社員向けプログラム】

8.プロフェッショナルマインドを扱う研修を設計した。プロフェッショナルの条件、ジェネラリストとスペシャリストの違い、専門性を更新し続けるための行動を扱う。専門性を軸にキャリアを築く新人事制度の考え方と、直接対応する内容である。

9.コミュニケーション(巻き込み)を扱う研修を設計した。心理的に安全な組織とは何か、1on1は何のために行うのか、傾聴と発信のスキルを扱う。評価者研修で扱う1on1の内容と接続し、部下や後輩と関わる側の基礎を固める構成とした。

10.イシューの特定を扱う研修を設計した。何を考えるべきかを特定する方法、答えの出せる問いかどうかの見極め、根拠と主張の連動を扱う。顧客や社内関係者と共通認識を持って業務を進める状態を目指す構成である。

11.インバスケットを扱う研修を設計した。仕事の核を見極める方法、選択肢の広げ方、優先順位付けの考え方を扱う。業務量の集中という課題に対し、担当者側の対処能力を高める観点から設計した。

【資格制度と運用】

12.必須資格を等級の段階に沿って設定した。全社共通の情報処理系資格を下位から上位へ段階的に配置し、等級の進行と資格の難度を対応させた。

13.推奨資格を担当業務別に設定した。部署単位ではなく、担当する業務領域(クラウド基盤、ネットワーク、セキュリティ、ITサービス、デバイス、コンテンツ、業務システムなど)ごとに資格を割り当てた。担当が変わっても取得の意味が失われない構成である。

14.資格取得を昇格要件の一部として位置づけた。行動評価の累積ポイント、担当システムの点数による卒業基準とあわせ、複数の指標のひとつとして組み込んだ。資格の取得だけで昇格しない設計とすることで、実務での発揮を伴わない資格取得を避けている。

15.研修の実施形態に選択肢を用意した。対面型研修に加え、動画研修と理解度テストの組み合わせを提示した。対象者が増えた場合や、配属先が分散した場合の運用を想定した構成である。

導入後の変化

教育プログラムは2024年度に設計と実施を行い、以降も運用されている。確認された変化は次のとおりである。

1.教育が体系として動き始めた。制度としては存在しながら機能していなかった仕組みが、等級ごとに必要なスキルを定める形で再構築され、集合教育、社内外の研究会参加、eラーニングを組み合わせた運用に移行している。

2.評価の基準と育成の内容が接続された。等級のコンピテンシー項目と研修の内容が対応しているため、評価で指摘された不足に対して、どの研修を受ければよいかを示せる状態となった。

3.新入社員の受け入れ体制が整った。社会人としての基礎知識とマナー、IT基礎知識から開発演習までを3か月かけて習得する構成が確立し、配属前の育成が計画として運用されている。

4.教育の内容が採用広報の素材になっている。専門性スキル研修とヒューマンスキル研修を両輪とする方針、等級ごとに必要なスキルを定めて集合教育とeラーニングで習得する仕組みは、同社自身の採用サイト上で説明されている。

5.育成が経営課題として語られる位置に移った。制度の外形が一区切りついた段階で、社員一人ひとりの成長、業務プロセスと成果物の品質、それを重視する文化の醸成が、経営から発信される課題となっている。

6.社外での学習機会が体系に組み込まれた。社内研修に加え、国内外の展示会や海外カンファレンスへの参加機会が設けられている。等級が上がるほど社外での専門性の発揮を求める等級定義と、整合する運用である。

教育制度は、研修を実施した回数では評価できない。評価の基準と育成の内容が接続され、社員が次に何を身につければよいかを自分で確認できる状態になって初めて機能する。セレクションアンドバリエーションは、等級のコンピテンシー項目を起点に研修を設計することで、この接続を制度として担保した。

本プロジェクトの特徴

本案件の判断は3つある。

1.管理職層からではなく、新入社員と中堅社員から着手した。

教育体系を整備する際、影響範囲の大きさから管理職層の研修を先行させる例は多い。本案件では、下位から中位の等級を先に対象とした。同社では業務が特定の人材に集中しており、その原因が下位層の戦力化の遅れにあった。管理職の育成力を高めても、任せられる相手が育っていなければ負荷は分散しない。ボトルネックの位置から着手すべきと判断したためである。なお、管理職層に対しては同時期に、多面評価と行動変革研修を別の枠組みで実施している。

2.階層を年次ではなく等級で切った。

階層別研修は、入社年次で区切る設計が一般的である。運用が単純で、同期という括りが研修の場としても機能するためである。本案件では、新人事制度の等級を区分の基準とした。中途入社が一定割合を占める組織では、年次で区切ると経験を持つ人材が対象から外れる。加えて、等級で切れば評価の基準と研修の内容を直接対応させられる。年次ではなく等級を基準にしたのは、育成を評価制度と接続させるためである。

3.資格の取得だけで昇格できる設計にしなかった。

IT職種では資格が客観指標として使いやすく、資格を昇格要件に据える設計は成立する。取得数で運用できるため、判定も容易である。本案件では、必須資格と業務別の推奨資格を整備したうえで、それを昇格要件の一要素にとどめた。資格は知識の証明であり、実務での発揮を保証しない。過去に報奨金を設定しても取得が進まなかった経緯もあり、資格を目的化する設計は機能しないと判断したためである。

担当コンサルタント: 松木 宏晃塚越 真悠子

教育のご相談をいただいたとき、まず管理職研修から始めるべきかを検討しました。ただ、貴社の場合は「できる人に仕事が集まる」ことが最大の課題でしたので、上を鍛えても負荷は分散しないと考えました。若手と中堅が独力で任せられる範囲を広げることが先だという判断です。研修の内容を等級のコンピテンシー項目に紐づけたのも、評価で指摘した不足に対して、次に受けるべき研修を示せるようにしたかったからです。

よくあるご質問

Q1. 教育体系を整備するとき、何から着手すべきか。

等級ごとに求めるスキルと行動の定義から着手すべきである。研修の一覧から作ると、実施した回数は積み上がるが、何ができるようになったのかを説明できない。本事例では、新人事制度で定義したスキルマトリクスとコンピテンシーディクショナリを起点とし、各等級で求める内容に対応する形で研修を設計した。評価で指摘された不足に対し、どの研修を受ければよいかを示せる状態にすることが目的である。

Q2. なぜ管理職研修からではなく、新入社員と中堅社員から着手したのか。

業務の集中というボトルネックが、下位層の戦力化の遅れにあったためである。教育体系の整備では、影響範囲の大きさから管理職層を先行させる例が多い。しかし、管理職の育成力を高めても、任せられる相手が育っていなければ負荷は分散しない。本事例では下位から中位の等級を先に対象とし、管理職層には同時期に多面評価と行動変革研修を別の枠組みで実施している。

Q3. 階層別研修は、入社年次で分けるべきか、等級で分けるべきか。

等級で分けるべきである。年次で区切ると、中途入社者が対象から外れるか、経験に合わない内容を受けることになる。等級で区切れば、評価の基準と研修の内容を直接対応させられる。本事例では、新入社員(下位等級)に社会人化から組織人化までを、中堅社員(中位等級)に組織人化から成果までを扱う構成とし、いずれも新人事制度の等級区分を基準とした。

Q4. 資格取得支援は、一時金と手当のどちらがよいか。

金額の形式より、資格を何に接続するかを先に決めるべきである。一時金は取得時点で完結するため、取得後の実務での発揮につながりにくい。手当は継続的な人件費増となり、資格を持たない人材との公平性の議論が生じる。本事例では、必須資格と業務別の推奨資格を整備したうえで、資格を昇格要件の一要素として位置づけた。資格の取得だけでは昇格せず、行動評価の累積と担当範囲の広がりを併せて満たす設計である。

Q5. 研修と人事評価は、どのように接続すればよいか。

評価で用いるコンピテンシー項目と、研修で扱う内容を一対一で対応させることで接続できる。評価と育成が別々に運用されている組織では、評価で不足を指摘しても、本人がどう改善すればよいかを示せない。本事例では、全社共通のコンピテンシー6項目とマネージャ向けの2項目を起点に研修内容を設計し、評価のフィードバックから育成へ接続する経路を用意した。

Q6. 少人数の組織でも、教育体系を整備する意味はあるのか。

ある。むしろ人数が少ないほど、業務の集中が個人の離職リスクに直結するため、整備の効果が大きい。人数が多い組織では、任せられる人材が複数いることで負荷が分散するが、少人数の組織ではその余地がない。本事例では従業員80名規模の段階で階層別研修を設計し、集合教育、社内外の研究会参加、eラーニングを組み合わせることで、人数の制約のもとでも体系として運用できる構成とした。