急成長ベンチャーにおける人材のばらつきとローパフォーマー問題を、行動変容支援を組み込んだ研修・制度整備により解決し、組織基盤を強化
設立2010年代
従業員約80名(単体・グループ約130名)
売上約20億円
提供サービス人材育成・教育研修
実施期間全3回
支援時期2021年
対象層・対象人数全社
事例サマリー
背景
AIサービス開発業である同社は、AI人材育成サービスを軸に事業を急拡大させていた時期にあった。採用が先行し、創業初期からの社員、中途入社者、経験の浅い若手が短期間で混在する構成となっていた。
事業の伸びに対して、仕事の進め方の共通基準が追いついていなかった。個々の能力は高いものの、問題をどう捉え、どう議論するかが人によって異なり、部門をまたぐ議論ほど時間がかかっていた。
同社は次の成長段階を見据えており、組織としての判断品質を安定させる必要があった。セレクションアンドバリエーションの短時間集中型研修と、ナッジメール®による定着支援の組み合わせを評価いただき、ご相談をいただいた。
課題(Before)
AIサービス開発業である同社では、相談時点で以下の課題が認識されていた。
1.問題の所在は認識できても、分解の手順が共有されていなかった。何から考え始めるかが各人の経験に依存し、議論の出発点が揃わなかった。
2.上位者への報告で論点がかみ合わなかった。事実と解釈が分離されないまま伝えられるため、認識合わせに時間を要していた。
3.検討した施策が承認されにくかった。選択肢の比較軸が示されないため、判断する側が可否を決められなかった。
4.創業期からの社員と中途入社者とで、仕事の前提が異なっていた。急拡大により、暗黙の共有では追いつかなくなっていた。
5.部門ごとに使う言葉が異なっていた。部門横断の議論のたびに、用語の定義確認から始める必要があった。
6.学びを業務へ持ち帰る仕組みがなかった。研修を実施しても、実務での使用に結びつく経路が用意されていなかった。
目的と設計方針
セレクションアンドバリエーションが本研修に設定した目的は、思考力の向上そのものではなく、部門横断で通じる共通言語の整備である。個人のスキルとしてではなく、組織の議論の作法として定着させることを狙いとした。
設計方針は以下のとおりである。
1.1回90分の短時間構成とし、全3回に分割した。通常業務を止めず、1回あたりの集中力を確保するためである。
2.「分解する」「検証する」「施策を考える」の順で3回を連続させた。単発研修では扱いきれない一連の流れを、順序どおりに体験させることを優先した。
3.題材は業界を問わない一般的なケースを用いた。参加者が自部門の利害から離れ、型の習得に集中できるようにするためである。
4.全回にワークを組み込み、発言と傾聴の機会を必ず設けた。共通言語は、聞くだけでは共有されないためである。
5.研修の前後および研修期間中に、ナッジメール®を配信した。学びの想起の頻度を上げることを、理解の深さより優先した。
実際に構築した制度のポイント
AIサービス開発業である同社向けに構築したプログラムは、以下の構成である。
1.第1回「フレームワークで問題を分解する」。問題を分解して考える手順と、フレームワークの正しい使い方および誤用の典型を扱った。
2.第2回「問題を検証し本質にたどりつく」。検証のための情報収集、確証バイアス、相関関係と因果関係の区別を扱い、表面的な問題設定から離れる手順を共有した。
3.第3回「問題解決の施策を考える」。施策の比較整理と、判断の軸をどう設定するかを扱った。軸の設定こそが合意形成の要であることを、ワークを通じて確認した。
4.全回でグループディスカッションとロールプレイを併用した。参加者が相互に説明し合う場面を必ず作り、用語の共有度をその場で検証できるようにした。
5.オンライン実施に合わせた運用を設計した。講師からの指名によって発言を促し、通信環境の差を織り込んで検討時間を長めに確保した。
6.【移行と浸透】研修開始1週間前から研修終了後4週間まで、ナッジメール®を継続配信した。設問は「今週、問題の分解を考えてみましたか」といった短い問いかけとし、回答負荷を最小限にとどめた。
導入後の変化
1.研修内容の理解度は、「理解できた」「やや理解できた」の合計で83.3%であった。ワークで実際に手を動かす構成が、理解の実感につながっている。
2.業務での有用度は、「役に立つ」「やや役に立つ」の合計で91.7%であった。開発、法務、採用など職種が異なる参加者から、それぞれの実務場面を挙げた回答が寄せられている。
3.気づきや学びが「あった」との回答は91.7%であった。既知の内容を含む参加者からも、体系として整理し直せたという趣旨の回答があった。
4.講師の教え方への評価は、「良かった」「やや良かった」の合計で91.7%であった。オンライン実施そのものへの満足度も同水準であった。
5.研修で共有した用語が、その後の社内対話で使われるようになった。「それは分解するとどうなるか」といった問い返しが、上司から部下へのフィードバックの場面で用いられている。
6.同社はその後、事業領域をAI人材育成からAI・DX内製化支援へ広げ、子会社を含むグループ体制へと移行している。従業員数も支援当時の100名規模から、グループ連結で130名規模へ拡大している。研修は、その拡大局面の入口で行われた取り組みの一つである。
研修の価値は、実施直後の満足度ではなく、その言葉が半年後の会議で使われているかどうかで決まる。セレクションアンドバリエーションは、研修の設計と同じ比重で、研修と研修のあいだに何を送るかを設計している。
本プロジェクトの特徴
1.一般に、ロジカルシンキング研修は1日集中型で実施されることが多い。本案件では90分×全3回に分割した。思考の型は一度の講義で身につくものではなく、実務で試す期間を挟むほうが定着するためである。
2.一般に、研修の題材は自社の実課題を用いるほうが良いとされる。本案件では、あえて業界を問わない一般的な題材を用いた。自部門の課題を扱うと、型の習得よりも自分の結論を正当化する議論に流れやすいためである。
3.一般に、研修効果の測定は終了直後の満足度アンケートで完結する。本案件では研修後4週間にわたってナッジメール®を配信し、実務での使用有無を問い続けた。目的は測定ではなく、忘れる前に思い出させることにある。
担当コンサルタント: 平康 慶浩
最も判断を要したのは、題材に自社の実課題を使わないと決めた点です。実務直結のほうが喜ばれることは分かっていました。それでも一般的な題材を選んだのは、急拡大中の組織では、部門ごとの立場の違いがそのまま議論に持ち込まれてしまうからです。まず全員が同じ土俵で型を覚え、そのうえで自社の課題に戻る。この順序が結果的に近道になると考えました。
よくあるご質問
定着を目的とするなら複数回に分割すべきである。思考の型は知識ではなく習慣であり、一度に長時間学んでも、実務で試す機会がなければ翌週には使われなくなる。本事例では1回90分を全3回に分け、回と回のあいだに実務で試す期間を設けた。
Q2. なぜeラーニングではなく、集合型のワーク研修を選んだのか
共通言語の整備が目的だったためである。eラーニングは個人の理解には有効だが、同じ言葉を同じ意味で使えているかは、他者と議論しなければ確認できない。本事例では全回にグループディスカッションを組み込み、参加者が相互に説明し合う場面を必ず設けた。
Q3. 研修の効果はどのように測ればよいのか
終了直後の満足度だけで判断してはならない。満足度は講師の話し方に強く影響され、行動が変わったかどうかを示さない。本事例では研修後4週間にわたって短い問いかけメールを配信し、実務で実際に使ったかどうかを継続的に確認した。
Q4. ロジカルシンキング研修は何年ごとに実施すべきか
組織の人員構成が変わるたびに再実施が必要である。研修の効果は個人に蓄積されるが、共通言語は組織に蓄積されるため、入社者が一定割合を超えると共有度が下がる。急成長期の企業では、1年から2年ごとの再実施を目安とするのが現実的である。