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自動車部品業の人事制度改革|行動等級と職責等級の二軸で運用

製造業

変化する環境に対応し、継続的に発展するための 人事マネジメント改革

設立1950年代

従業員約520名

売上非公開

提供サービス人事戦略策定・人事制度設計

実施期間10ヶ月

支援時期2019年~2020年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

中国地方の自動車部品製造業(従業員500名規模)に対し、セレクションアンドバリエーションが人事制度改革を支援した事例である。全社一律の職能等級を行動等級と職責等級の複線型へ改め、定年再雇用制度まで一体で設計した。

背景

自動車部品製造業を営む同社は、中国地方に本社を置く従業員500名規模のティア1サプライヤーである。創業から70年を超え、複数の完成車メーカーと直接取引を行ってきた。

事業面では、自動車部品の枠を超えた展開が進んでいた。自社開発のモビリティ製品事業と、地域向けの食事宅配サービス事業をそれぞれ独立させ、事業部制へ移行した直後であった。海外については、北米を中心に生産・販売拠点を広げ、グローバルな品質基準への対応を進めていた。

人事面では、前回の制度改定から8年が経過していた。事業構造が変わったにもかかわらず、等級・評価・報酬の枠組みは全社一律のまま据え置かれていた。加えて、従業員の年齢構成上、今後は定年到達者が継続的に発生する見通しであった。

セレクションアンドバリエーションが選定された理由は、グローバル展開に耐える先進的な設計と、地域に根ざして発展してきた社風への配慮を、同時に成立させられる点にあった。

課題(Before)

自動車部品製造業を営む同社の人事制度には、現状分析の結果、以下の課題が確認された。

1.現行制度は8年前の改定のまま据え置かれており、事業部制への移行という組織構造の変化を反映していない。制度が想定する組織像と、実際の組織が乖離していた。

2.等級制度が全社共通の1本立てであり、職種による業務内容の差異を反映していない。製造の現場と企画管理の職場では、求められる能力の性質も、昇進機会の密度も異なる。

3.昇格が人事考課の累積点数と滞留年数で決まる仕組みであり、選抜の意思が働かない。時間の経過が昇格の主要因となり、早期抜擢の余地がなかった。

4.評価は3種類が併存していたが、いずれも結果の測定にとどまり、行動の改善につながる指標がない。評価が育成の道具として機能していなかった。

5.基本給が年齢給と職能給で構成され、年齢給は32歳で上限に達する設計であった。若年層の昇給が緩やかで、成長実感と処遇が結びつきにくい。

6.賞与のポイントが出勤率に依存しており、業績連動は管理職層に限定されていた。一般職層に対して、事業の成果が処遇に反映される経路がなかった。

7.個人の成果を前提とした評価設計であり、チーム単位での協働を重視するという経営方針の転換に対応していない。

8.定年後再雇用者の増加が見込まれていたが、再雇用者向けの等級・評価・報酬の枠組みが存在しない。処遇が個別判断に委ねられる状態であった。

目的と設計方針

自動車部品製造業である同社のプロジェクトでは、「既存事業を維持・拡大しながら、グローバル展開を進める」ことをゴールとし、そのための課題を「人材の成長を下支えする人事制度を構築する」ことと定義した。

セレクションアンドバリエーションは、詳細設計に先立ってグランドデザインを策定する順序を採った。採用と退職という外部労働市場との関わりを前提に、内部労働市場における「役割設定」「職務遂行」「成果創出」「成長実現」の循環を整理し、どの段階に何の仕組みが必要かを先に確定させた。

設計の起点は、求める人材像の明文化に置いた。経営層インタビュー、キーマンインタビュー、従業員アンケートを組み合わせ、経営が期待する職責と、働く個人のキャリア意識の双方から人材像を導いた。等級・評価・報酬は、この人材像から逆算して設計している。

もう1つの方針は、直接部門と間接部門で制度を分けることである。全社統一の美しさより、それぞれの職場の実態に合う設計を優先した。

実際に構築した制度のポイント

自動車部品製造業である同社に対して構築した制度は、以下の要素で構成される。

1.求める人材像を5項目で明文化した。挑戦、協調、責任完遂、社内外への敬意、専門性の向上である。この人材像が、等級定義・行動評価項目・昇格基準の共通の出発点となっている。

2.行動等級(コンピテンシー等級)を軸とし、そこに職責等級を重ねるダブルラダー(複線型等級)を採用した。行動等級は能力の伸長に応じて昇格し、職責等級は担当職務に応じて付与される。長期的な育成と早期抜擢を、1つの体系で両立させる構造である。

3.直接部門と間接部門で、等級の階層数を分けた。直接部門は管理職相当4段階・一般職相当6段階、間接部門は管理職相当4段階・一般職相当4段階とした。昇格の刻みが職場の実態と合うように調整している。

4.職責等級には、管理職系の職位に加えて専門職コースを併設した。管理職ポストに就かなくても、専門性の発揮度合いに応じて処遇が上がる経路を確保している。

5.昇格基準を入学基準と卒業基準の二段構えで設計した。入学基準は評価結果・標準昇格年数・研修受講・通信教育修了・上司推薦、卒業基準は論文と面接である。管理職相当層への昇格には、他の階層より高いハードルを設定した。

6.昇格の決裁権限を階層ごとに分けた。下位等級は一次評価者と人事責任者、中位等級は人事委員会と社長、最上位等級は社長と取締役による決裁とし、階層が上がるほど合議の範囲を広げている。

7.降格については、評価結果による自動ノミネート、役員会での降格審査、上司からの改善面談、1年の再チャレンジ期間、再審査という手続きを定めた。行動等級の降格と職責等級の降職を分け、職責の変更で対応できる場合は降格を用いない。

8.行動評価の項目を、全社共通4項目と部署別3項目の計7項目に絞り込んだ。共通項目は人材育成・自己研鑽・チームワーク・専門的な知識と経験である。部署別項目は、営業・開発・生産管理・品質管理・工作・購買など、部署ごとの成果構造に合わせて設定した。

9.コンピテンシーディクショナリを作成し、各項目について7段階の行動レベルを文章で明示した。評価者による解釈のばらつきを抑え、被評価者が次に何をすればよいかを読み取れる状態にしている。

10.業績評価では、目標を上司がマトリクス形式で先に記入する運用とした。所属ミーティングで全員の目標を共有したうえで、個別面談で本人のアクションプランを検討し、最終化する。事業別のKPIは、バリューチェーンの各機能から逆算して設定した。

11.報酬制度では、行動等級に対応する号俸表を整備した。直接部門は年齢給を残しつつ若年層の昇給ピッチを引き上げ、間接部門は年齢給を廃止して行動給に統合している。

12.昇給はマトリクス昇給とし、同一等級内をステージに分けて、上位ステージほど昇号数が逓減する設計とした。同一等級に長く滞留するほど昇給が緩やかになり、昇格への動機づけが働く。

13.職責給(役職手当)を全階層で増額し、専門職コースには時間外相当分を織り込んだ設定を行った。管理職と専門職の処遇差が、キャリア選択の障害にならないようにしている。

14.賞与は、管理職相当層を評価係数方式、一般職相当層を等級ポイント方式とした。監督職に対するポイントは、等級ポイントへの乗算ではなく加算とし、等級が低い監督職が不利にならない構造にしている。

15.語学力の外部検定スコアに応じた資格手当を新設した。有効期限を設け、継続受給には再受検を必要とする設計とし、取得時点の実績ではなく現在の能力に対して支給する形とした。

16.定年再雇用制度では、58歳時点での対象者抽出と面談、60歳時点での再面談という2段階のプロセスを定めた。本人の意向・体力・専門性を踏まえ、管理職コース、専門職コース、一般コース、短時間勤務コースに区分する。

17.再雇用後の等級は、定年前の行動等級と1対1で対応する再雇用者用等級を設けた。給与テーブルは定年前と同一のものを用い、水準のみ一定率で調整する。賞与ポイントは給与とは異なる率を用い、給与ほどは引き下げない設計とした。

18.再雇用後も、定年前と同じ評価を実施し、昇給と賞与に反映する。処遇を下げて据え置く仕組みではなく、評価対象であり続ける仕組みとした。

19.制度移行では、2019年9月から評価制度を先行して試行し、2020年4月に新報酬制度へ移行した。新等級への格付け後に現行給与を下回る者には調整給を付与し、段階的に解消する方式を採っている。

20.移行と浸透のため、全社員を対象とした新制度説明会を実施した。制度の完成を待たずに評価制度の試行を始めたことで、説明会の時点では現場に運用経験が蓄積されている状態をつくった。

導入後の変化

自動車部品製造業である同社では、2020年4月の新制度移行から継続して制度を活用している。

1.専門職と技術職の採用が広がっている。女性技術者の募集と留学生採用が拡大している。管理職ポスト以外の処遇経路を等級体系に組み込んだことあ、こうした多様な人材の受け入れが処遇上の行き止まりにならない条件を提供していた。

2.国内拠点が増えている。制度設計当時に存在しなかった営業拠点が新設されている。等級・評価・報酬の共通体系が先に整っていたため、拠点が増えるたびに処遇の枠組みを個別に定める必要がなかった。

3.グループの事業構成が広がっている。持株会社のもとで、自動車部品製造に加え、海外現地法人、生活サービス事業、通信事業を含む複数の事業会社が運営されている。行動等級を軸とした設計は職種や業種に依存しないため、事業構成が変わっても等級の考え方を引き継ぎやすい。

人事制度は、導入時点の完成度ではなく、6年後に自社で運用し続けられているかどうかで評価される。セレクションアンドバリエーションが設計した等級・評価・報酬の骨格は、同社において、事業構成と拠点構成の変化を経てなお運用されている。

本プロジェクトの特徴

自動車部品製造業である同社のプロジェクトでは、一般的な設計とは異なる判断を複数行っている。

1.等級体系を全社で統一しなかった。
一般的には、全社一律の等級体系を置くほうが管理は容易であり、部門間の異動も説明しやすい。本案件では、直接部門と間接部門で階層数の異なる等級体系を採用した。判断の根拠は、両部門で昇進機会の密度と標準的な滞留年数が実際に異なっていた点にある。一本化すれば、どちらか一方の昇格が実態より速すぎるか、遅すぎるかになる。制度の見た目の整合より、当事者から見た納得性を優先した。

2.目標を本人に起案させなかった。
一般的な目標管理制度(MBO)では、本人が目標を記入し、上司が面談で確認する。本案件では、上司がマトリクス形式で先に目標を記入し、所属ミーティングで全員分を共有したうえで、個別面談に入る順序とした。根拠は、本人起案の方式が2つの副作用を持つためである。1つは目標水準が低く設定されやすいこと、もう1つは面談が上司による否定から始まりやすく、信頼形成を阻害することである。会社として期待する指標をあらかじめ示すほうが、目標設定は速く、面談は建設的になる。

3.再雇用者を別制度に切り離さなかった。
一般的には、定年再雇用者は現役の等級体系から外し、独立した処遇区分を設けることが多い。本案件では、定年前の行動等級と1対1で対応する再雇用者用等級を設け、給与テーブルも評価の仕組みも定年前と同じものを用いた。根拠は、再雇用者を「処遇を下げる対象」として扱った瞬間に、本人の意欲と周囲の期待の双方が失われるためである。水準は調整しつつ、評価対象であり続ける構造を維持した。

4.降格を評価結果だけで決めなかった。
一般的には、一定の評価結果が続けば降格を適用する。本案件では、ノミネートから決定までに改善面談と1年間の再チャレンジ期間を挟む手続きを定めた。根拠は、降格の運用実績がない組織に即時降格を導入すると、制度そのものが運用されなくなるためである。手続きを厚くすることで、実際に発動できる制度になる。

5.賞与の監督職ポイントを乗算にしなかった。
一般的には、役職に応じた係数を等級ポイントに乗じる。本案件では、監督職に対するポイントを加算方式とした。根拠は、乗算方式では等級ポイントの低い監督職ほど役職の見返りが小さくなり、現場の第一線で監督業務を担う層が相対的に不利になるためである。

担当コンサルタント: 平康 慶浩

最も判断を要したのは、等級体系を全社で1本にするかどうかでした。統一したほうが管理は簡単ですが、製造の現場と企画管理の職場では、昇格までにかかる年数の実感がまったく違います。同じものさしを当てれば、どちらかが必ず割を食います。制度の整合性より、日々働く方が納得できるかどうかを優先すべきだと考え、2本立てをご提案しました。

よくあるご質問

Q1. 製造業の人事制度は、直接部門と間接部門で分けるべきか、統一すべきか。
分けるべき場合が多い。理由は、昇進機会の密度と標準的な滞留年数が両部門で異なるためである。全社一律の等級体系を当てはめると、一方の昇格が実態より速すぎるか遅すぎるかになり、納得性が損なわれる。本事例では、行動等級の考え方と評価の共通項目は全社で揃えたうえで、階層数と部署別の評価項目のみを部門ごとに分ける設計とした。


Q2. なぜジョブ型(職務等級制度)ではなく、行動等級を選んだのか。
人材の長期育成と早期抜擢を同時に成立させる必要があったためである。職務等級制度は同一労働同一賃金と人件費管理に優れる一方、ポストがなければ処遇を上げられず、職責が変わると処遇が激変する。本事例では、能力の伸長で上がる行動等級を軸に据え、担当職務に応じて職責等級を重ねる複線型とした。これにより、ポストの空きを待たずに育成を進めつつ、職責の変化には職責等級側で対応できる。


Q3. 目標管理制度(MBO)で、目標は本人と上司のどちらが起案すべきか。
上司が先に起案するほうが機能しやすい。本人起案の方式では、目標水準が低く設定されやすく、上司との面談が引き上げ交渉から始まるため、信頼形成を阻害する。会社として期待する指標をあらかじめ示せば、面談の主題は「何をやるか」ではなく「どう達成するか」に移る。本事例では、上司がマトリクス形式で目標を記入し、所属ミーティングで全員分を共有したうえで、個別面談でアクションプランを検討する順序とした。


Q4. 定年再雇用制度では、給与水準をどの程度下げるのが妥当か。
水準の下げ幅そのものより、下げ方の設計のほうが定着に影響する。再雇用者を独立した処遇区分に切り離すと、評価も昇給もない据え置き処遇になりやすく、本人の意欲と周囲の期待が同時に失われる。本事例では、定年前の等級と1対1で対応する再雇用者用等級を設け、給与テーブルと評価の仕組みは定年前と同一のものを用い、水準のみ一定率で調整した。賞与については給与とは異なる率を用い、評価による変動幅を残している。


Q5. 人事制度は何年くらいで作り直す必要があるのか。
年数そのものより、事業構造が変わったかどうかが判断基準になる。本事例では、前回改定から8年が経過し、その間に事業部制への移行と海外展開の本格化が起きていたことが、改定の直接の契機となった。逆に、等級の考え方が職種や事業に依存しない設計であれば、事業構成が変わっても骨格は使い続けられる。本事例で構築した制度は、移行後も運用が継続されており、その間にグループの事業構成は自動車部品以外へ広がった。


Q6. 人事制度改革は、離職率にどの程度影響するのか。
人事制度単独で離職率を説明することはできない。離職は労働市場の需給、事業の状況、職場ごとの人間関係など多数の要因に左右されるため、制度改定の効果を単独で切り出すのは困難である。制度が果たせるのは、昇格・昇給の基準を明示し、専門職を含む複数のキャリア経路を用意することで、「この会社にいても先が見えない」という理由による離職の条件を減らすことである。本事例では、管理職ポスト以外の処遇経路と、早期抜擢を可能にする職責等級を同時に設けている。