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建設コンサルタントの評価者研修|人事制度を形骸化させない継続教育設計

建設・不動産業

制度改定に合わせて教材を作り替え続ける、評価者研修の継続実施

従業員約710名(単体・グループ約1,203名)

提供サービス浸透支援・評価者教育

実施期間200ヶ月以上

支援時期2011年から継続実施

対象層・対象人数管理職

事例サマリー

中国地方の総合建設コンサルタント(従業員700名規模)に対し、セレクションアンドバリエーションが評価者研修を継続して実施している。2011年以降、制度改定のたびに教材を作り替え、評価と面談の運用を管理職の共通スキルとして定着させてきた。

背景

同社は中国地方に本社を置き、社会インフラの調査、計画、設計、維持管理を担う総合建設コンサルタントである。技術者一人ひとりの専門性が事業の基盤であり、その成長を促す仕組みとして、2002年から2003年にかけてコンピテンシー評価と目標管理制度を構築した。

制度は設計した時点では動かない。動かすのは評価者である。

同社が制度を運用し始めた時期は、建設コンサルタント業にとって厳しい環境が続いた時期でもあった。公共事業関係費が大きく縮小し、発注価格の低下が採算を圧迫した。

その結果、制度が本来意図していた「成長が認められて処遇が上がる」という体験が成立しにくくなった。評価は、評価する側にとって説明の負担となり、受ける側にとっては処遇が上がらない理由の通告になりかねない状況にあった。

制度が悪いのではなく、運用する人が支えられていなかった。評価者研修は、この認識のもとで継続的な取り組みとして位置づけられた。

課題(Before)

評価者研修の継続的な実施に踏み切った時点で、同社には次の課題があった。

1.制度は整っていたが、運用が評価者個人の解釈に委ねられていた。評価基準の文言は共通でも、それを行動のどこに当てはめるかは各人の判断に任されていた。

2.評価作業が負担として受け止められていた。目標の設定、期中の確認、期末の記述という一連の作業が煩雑だという声が管理職から寄せられていた。

3.自己評価を参考にした評価が行われていた。被評価者の申告が評価者の判断に影響し、自己主張の強い者が有利になる傾向が生じていた。評価者自身の観察力が育たない構造でもあった。

4.評価と処遇の関係を、管理職が部下に説明できなかった。どの評価がどう処遇に反映されたのかを言葉にできないため、部下が翌年の目標を立てる材料にならない。

5.面談が実施されているかどうかを確認する仕組みがなかった。面談を経ずに評価だけが通知された場合、被評価者には不服を申し立てる経路すら残らない。

6.拠点が全国に分散し、評価の目線が拠点ごとにばらついていた。同じ等級の同じ行動が、拠点によって異なる評価を受ける可能性があった。

7.評価が処遇抑制の通告として受け取られやすい環境にあった。厳しい事業環境のもとで、評価の場が成長を認める場として機能しにくくなっていた。

8.制度を改定しても、旧制度の運用習慣が残った。フォーマットや評価時期が変わっても、評価者の見方が変わらなければ、実質的な運用は変わらない。

9.管理職の入れ替わりがあった。研修を一度実施しただけでは、数年後には制度を学んでいない評価者が増える。教育を単発で終わらせられない構造がある。

目的と設計方針

同社に対し、セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、評価の運用能力を個人の資質ではなく組織の能力にすることである。誰が評価者になっても一定の水準で運用できる状態を到達点とした。

設計方針は次の6点とした。

1.研修の主題を「評価の付け方」ではなく「部下の成長を促す運用」に置く。点の付け方だけを教えると、評価が作業として理解される。

2.制度改定のたびに教材を作り替える。制度が変わったのに研修内容が前年の使い回しであれば、評価者は旧制度の運用習慣を維持する。

3.ケース教材は自社の等級と職種に即して作る。一般的なビジネスケースでは、自分の部下に当てはめる作業が受講者任せになる。

4.主要拠点を巡回し、同一内容を複数回実施する。全員が同じ内容を同じ順序で受けることが、評価目線をそろえる前提になる。

5.期初と期末で内容を分ける。目標を立てる場面と評価を伝える場面では、必要な技術が異なる。

6.管理職から寄せられた批判を、研修の冒頭で開示する。制度への不満を伏せたまま運用を求めても、納得は得られない。

セレクションアンドバリエーションは、この方針に沿って教材の設計、年度ごとの改訂、講師までを継続して担っている。

実際に構築した制度のポイント

同社において構築した評価者研修は、制度の理解、ケースによる判断訓練、面談技術の3層で構成される。

1.制度の位置づけを共通の比喩で共有する構成とした。コンピテンシー評価を進む方向を決めるハンドル、目標管理制度を目的地に至るロードマップ、スキルと経験をエンジン、モチベーションを燃料になぞらえる。4つの要素のうち、本人だけでは扱えない部分があるからこそ評価者が必要である、という順序で説明する。

2.評価者の役割を4つの行動に分解した。部下がとるべき行動を理解すること、行動を観察して是正または伸長を促すこと、進捗を把握して問題を共有すること、まず褒めるために日々の行動を観察することである。

3.自社の等級と職種に即したケーススタディを作成した。営業職と技術職の2つの人物像を設定し、期初の状況、1年後の期末の状況を具体的に記述する。受講者は期初に3つの助言を書き、期末に評価を付け、その理由を本人に伝える一文を書く。

4.同じケース人物を、制度改定と業務実態の変化に合わせて改訂し続けた。等級と職種の設定は維持しつつ、評価項目の構成、扱う案件の種類、働き方に関する論点を、その時点の制度と現場に合わせて書き換えている。過去の教材との連続性が保たれるため、長く在籍する管理職ほど変化の意味を理解しやすい。

5.評価段階の定義を、点の高低ではなく行動の説明として提示した。要求される行動をどの程度の内容と期間にわたって発揮したか、その実績を本人が具体的に示せるかどうかを、段階ごとに文章で定義している。

6.目標のブレイクダウンの型を扱った。上司と部下が同じ立場で作業を分担するだけの状態を避けるため、部下の目標の合計が上司の目標と一致する型と、上司と部下で課題もゴールも異なるが合わせると全体が達成される型の2つを示し、組織の性格によって使い分ける。

7.チームの生産性に関する行動科学を組み込んだ。人数が増えるほど一人あたりの発揮が下がる現象、集団内の圧力による判断の偏り、議論の過程で意見が極端になる傾向を扱い、そのうえで同質型と補完型のチーム編成の使い分けを示した。

8.コミュニケーションによる報酬という考え方を扱った。金銭と役職だけでは限界があることを前提に、承認とフィードバック、そして傾聴を管理職の技術として位置づけた。

9.期末面談を4つのステップに整理した。緊張をほぐす段階、評価結果を伝える段階、部下の認識を聴き取る段階、翌期への期待と改善を伝える段階である。各段階で避けるべき行動を具体的に示した。

10.面談における具体的な技術を扱った。評価結果を伝える前に組織全体の状況を話して視点をそろえること、通達の前に自己評価を確認しないこと、事実と本人の認識にずれがある場合に問いかけによって合意を促すことなどである。

11.期初編と期末編に分割した。期初編では部下の現状と評価基準の差を整理し、面談で自発的な行動を引き出す方法と、組織目標から個人目標への落とし込みを扱う。期末編では期中の振り返り、成長状況に応じた支援、評価に向けた準備、翌期につなげる面談を扱う。

【移行と浸透】

12.制度改定の年度には、制度説明を研修の前段に組み込んだ。何がどう変わり、なぜ変えたのかを、社内通達の文言と対応させて説明する構成とした。

13.管理職アンケートの結果を研修の冒頭で共有した。制度への賛同だけでなく、運用への批判や疑問もそのまま提示し、それに対する考え方を示したうえで本題に入る形をとった。

14.主要拠点を巡回して開催した。同一内容を複数の会場で実施し、参加できない管理職が生じないようにした。

15.年度ごとに教材を改訂し、複数年を見通した版として整備した。研修を単年度の行事ではなく、継続する運用支援として位置づけている。

導入後の変化

評価者研修は2011年に本格的な実施を開始し、以降も年度ごとに継続している。

1.制度改定に評価運用が追随する状態になった。2011年の制度改定、および2023年のコンピテンシー改定のいずれにおいても、新しい評価項目と評価時期に合わせて教材を全面的に作り替えている。制度を変えても運用が旧来のままという状態が生じにくい構造ができた。

2.制度への評価が管理職から確認できた。制度改定の直後に実施した管理職向けのアンケートでは、賃金の仕組み、評価の簡素化、目標管理の変更のいずれについても、賛同または許容と回答した管理職が大多数を占めた(2012年実施)。同時に寄せられた運用面の指摘は、その後の研修内容へ反映されている。

3.研修が単年度の行事ではなくなった。複数年を見通した版の教材が策定されており、期初編と期末編に分かれた構成が定着している。評価サイクルのどの局面で何を扱うかが、あらかじめ決まっている状態である。

4.ケース教材が資産として蓄積された。同じ人物設定を維持したまま改訂を重ねてきたため、制度と現場の変化がケースの記述の変化として残っている。新任の管理職に対しても、過去の受講者と同じ土台で議論できる。

5.経営体制の交代を経て継続している。支援開始後に代表取締役社長の交代があり、会長と社長を置く体制となっているが、評価者研修の実施は継続している。特定の担当者や経営者の意向に依存しない取り組みとして定着している。

6.採用と組織規模が維持されている。新卒・中途の採用が継続し、単体の役職員数は700名規模を保っている(2026年4月時点)。グループでは1,200名規模となっている(2025年8月時点)。

人事制度は、設計した瞬間から劣化を始める。制度が変わらなくても、運用する管理職は入れ替わるためである。セレクションアンドバリエーションが同社で担ってきたのは、制度の設計そのものよりも、その制度を毎年動かし続ける人を育てる作業であった。

本プロジェクトの特徴

本案件で問われたのは、設計した人事制度をどれだけ長く機能させられるかである。制度の完成度ではなく、運用能力が組織に残り続けることを、本案件の企業価値への貢献と定めた。

1.研修を単発で終わらせず、制度改定に追随させ続けた。

判断の根拠は、制度と研修が別々に更新されると運用が旧制度のまま残るという構造にある。評価項目が変わっても、評価者の見方が変わらなければ実質的な運用は変わらない。制度改定の年度には、制度説明を研修の前段に組み込み、変更点と変更理由を社内通達の文言と対応させて示した。

2.汎用のケース教材を使わず、自社の等級と職種に即したケースを作った。

判断の根拠は、建設コンサルタント業の評価が扱う対象の特殊性である。指名競争入札とプロポーザル案件では営業行動が異なり、技術部門と営業部門では成果の出方が異なる。一般的なビジネスケースを使えば、自分の部下に当てはめる作業が受講者任せになる。自社の等級表と評価シートをそのまま使うことで、研修の結論が翌日の業務に直結する。

3.同じケース人物を、制度改定のたびに書き換え続けた。

判断の根拠は、教材の連続性が理解の深さを生むことである。人物設定を作り直せば、その年の受講者にとっては新しい話でしかない。設定を維持したまま、評価項目の構成や扱う案件、働き方の論点を書き換えることで、長く在籍する管理職は「同じ人物を、今の制度ではどう評価するか」という形で変化を捉えられる。

4.研修の主題を「評価の付け方」ではなく「部下の成長を促す運用」に置いた。

判断の根拠は、点の付け方だけを教えると評価が作業になるという経験である。制度をハンドルとロードマップになぞらえ、本人だけでは扱えない部分があるからこそ評価者が必要であるという順序で説明した。承認、傾聴、面談の進め方を研修の中心に据えたのは、この順序を守るためである。

5.管理職から寄せられた批判を、研修の冒頭で開示した。

判断の根拠は、不満を伏せたまま運用を求めても納得は得られないという判断である。評価の客観性への疑問、処遇への反映が説明できないという指摘、面談が実施されていないという事実の指摘を、そのまま提示したうえで本題に入る構成とした。制度を守らせる研修ではなく、制度を使う側の言い分から始める研修にしている。

6.主要拠点を巡回し、同一内容を複数回実施した。

判断の根拠は、評価目線のばらつきが拠点間で生じやすいことである。全国に支社・支店を持つ組織では、参加しやすい拠点とそうでない拠点が生まれる。同一内容を複数の会場で実施することで、参加の可否が所在地に左右されない状態をつくった。

担当コンサルタント: 平康 慶浩

長く続けている案件ですが、毎年いちばん気を遣うのは教材の書き換えです。使い回しは受講者にすぐ伝わりますし、なにより制度が変わっているのに前年と同じ話をすれば、評価者は前年と同じ運用を続けます。ケースの人物設定だけは変えずに、扱う案件や論点を今の現場に合わせて書き直す。地味な作業ですが、この積み重ねが評価運用の水準を支えていると考えています。

よくあるご質問

Q1. 評価者研修は何年ごとに実施すべきか。

制度が変わらなくても、毎年実施するのが望ましい。制度が同じでも評価者は入れ替わるため、実施の間隔が空くほど、制度を学んでいない管理職の比率が上がるからである。本事例では、2011年以降、年度ごとに内容を見直しながら継続して実施しており、制度改定のあった年度には教材を全面的に作り替えている。

Q2. なぜeラーニングではなく集合形式の研修を選んだのか。

評価の判断は、他者の判断と突き合わせないと精度が上がらないためである。評価基準の文言を覚えることは映像でもできるが、同じ部下の同じ行動に対して自分と他人の評価が食い違う経験は、その場に複数の評価者がいなければ得られない。本事例では、同じケースに対する評価をチーム内で共有し、自分の評価傾向の偏りに気づく時間を組み込んでいる。

Q3. 評価者研修のケーススタディは、汎用教材と自社仕様のどちらがよいか。

自社仕様のほうがよい。汎用教材は業種の事情を捨象しているため、自分の部下に当てはめる作業が受講者任せになるからである。本事例では、自社の等級表と評価シートをそのまま使い、営業職と技術職の2つの人物像を設定した。同じ人物設定を維持しながら、制度改定と業務実態の変化に合わせて内容を書き換え続けている。

Q4. 評価者研修を行えば、評価の甘辛はそろうのか。

完全にはそろわないが、ばらつきの幅は縮められる。評価者自身が自分の傾向を自覚していないことが、ばらつきの主な原因だからである。本事例では、同一のケースに対する評価と、その理由をチーム内で共有する時間を設け、他の評価者との差を本人が確認する構成としている。加えて、主要拠点を巡回して同一内容を実施し、拠点間で内容が異なる状態を避けている。

Q5. 人事制度を改定したとき、評価者研修はいつ実施すべきか。

新制度の運用が始まる前に、制度説明と一体で実施すべきである。制度の変更点だけを通知しても、評価者の見方は旧制度のまま残るからである。本事例では、制度改定のあった年度に、何がどう変わり、なぜ変えたのかを社内通達の文言と対応させて説明する構成を研修の前段に組み込んだ。そのうえで、新しい評価項目に基づくケーススタディへ進む形をとっている。

Q6. 評価者研修の効果はどのように測ればよいか。

受講直後の満足度ではなく、面談の実施率と評価分布の変化で測るのが実務的である。研修の目的が評価の運用にある以上、確認すべきは運用の状態だからである。本事例では、制度改定後に管理職へのアンケートを実施し、制度への賛否と運用上の指摘を収集した。そこで寄せられた指摘を、その後の研修内容へ反映する形をとっている。