プロフェッショナルを育成する教育研修体系構築プロジェクト
設立1940年代
従業員約710名(単体・グループ約1,201名)
売上約130億円
提供サービス人材育成・教育研修
実施期間48ヶ月
支援時期2021年~2024年
対象層・対象人数取締役・執行役員・管理職
事例サマリー
背景
中国地方に本社を置く同社は、社会インフラの調査・計画・設計から維持管理までを担う総合建設コンサルタントである。全国に支社・支店を持ち、海外にも現地法人と合弁会社を構えている。
同社は2030年を目標年次とする長期経営方針を掲げ、既存の中核技術を深めるだけでなく、新たな収益事業と海外事業を立ち上げる方針を示した。事業の幅を広げる意思決定である。
そのうえで人の側を見たとき、経営を担える人材が育つ経路が見当たらなかった。同社の技術者は担当分野を深く掘り下げることで評価され、成長してきた。この経路は技術力の源泉である一方、経営資源を横断して判断する経験を積ませる仕組みにはなっていない。
役員の任期には上限がある。就任してから経営を学ぶのでは、任期の前半が習熟に費やされる。候補者の段階で体系的に学んでおく必要があった。
さらに、グループ会社は段階的に増えていた。事業の担い手がグループへ広がる一方、育成は各社に委ねられたままであった。
課題(Before)
従業員700名規模の同社において、経営人材の育成には次の課題があった。
1.新規事業の検討を担える人材が育つ経路がなかった。事業部を軸としたキャリアでは、財務・人材・市場を横断して判断する機会が生まれない。専門性が深まるほど、経営の視点からは離れていく。
2.上位役割ほど、経験だけでは務まらない構造になっていた。扱う変数が増え、過去の成功体験の再現では判断できない領域に入る。それでも登用の根拠は実績に依存していた。
3.体系的なマネジメント教育の機会が社内になかった。階層別の研修はあっても、ヒト・モノ・カネを横断して扱う内容は用意されていない。学ぶ場が社外の個人的な努力に委ねられていた。
4.後継候補の一覧が整理されていなかった。誰をどのポストの候補として見ているかが可視化されていないため、育成の順序も配置の判断も、その都度の個別対応になる。
5.育成と配置が連動していなかった。研修で知識を得ても、それを試す役割が与えられなければ定着しない。学んだ内容が業務のどこで使えるかが本人にも分からない状態だった。
6.育成の対象範囲が定まっていなかった。役員候補と部門長候補では、求められる判断の質も学ぶべき内容も異なる。同じ研修に集めれば、どちらにも中途半端な内容になる。
7.グループ各社の育成が個別に行われていた。会社をまたいで経営を語る共通の枠組みがないため、グループ内での人材の融通も、横断的な事業の立ち上げも進みにくい。
8.拠点が全国に分散していた。集合形式の研修では、参加の可否が拠点の所在に左右され、対象者の選抜そのものが地理に制約される。
目的と設計方針
同社に対し、セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、次世代の経営層を継続的に供給できる状態をつくることである。研修の実施ではなく、後継者計画が動く状態を到達点とした。
設計方針は次の5点とした。
1.研修を「知識の獲得」と位置づけ、「実践経験の蓄積」は配置で担保する。抜擢、プロジェクトリーダー任用、部門異動、グループ会社出向、外部出向を、育成の手段として明示的に扱う。
2.本格実施の前に、役員層への試行を行う。経営自身が内容を体験し、次世代に何を学ばせるかを判断できる状態をつくる。
3.幹部層と管理職層で到達目標を分ける。幹部層は経営方針の策定と意思決定、管理職層は上位方針を受けた部門課題の特定と解決を、それぞれのゴールとする。
4.知識付与型ではなく討議型とし、題材はすべて自社と同業他社の実データとする。研修の成果物がそのまま業務で使える状態を優先する。
5.管理職向けは複数年のローリングとし、グループ各社からも選抜する。単年で終わらせず、対象を親会社に閉じない。
セレクションアンドバリエーションは、この方針に沿ってプログラム設計、講師、アセスメントまでを一貫して担った。
実際に構築した制度のポイント
同社において構築した育成プログラムは、役員層への試行、幹部向け8回、管理職向け8回の3つの段階で構成される。
1.役員層への試行を先行させた。1日あたり4科目の構成で3回実施した。科目はリーダーシップ初級、ロジカルシンキング、顧客理解、環境分析初級、財務諸表分析、ビジネスモデル理解、環境分析、選択肢と将来性、リーダーシップ上級、マーケティング、ビジネスプランニング、様々な競争戦略の12科目である。この結果を踏まえて本格実施の科目構成を組み直した。
2.幹部向けプログラムを全8回、各回6時間で設計した。科目は次のとおりである。Day1 内外環境分析と財務分析、Day2 これからのマーケティング、Day3 ロジカルシンキング・将来性と選択肢、Day4 組織・人事戦略、Day5 リーダーシップ上級、Day6 様々な競争戦略、Day7 ビジネスプランニング、Day8 発表。
3.幹部向けの各科目は、経営資源を横断する構成とした。Day1では自社の強みと弱みを整理する分析手法と財務3表の基礎を扱い、Day3では不確実性下の意思決定と相手のいる状況での選択肢評価を扱う。Day4では要員計画、組織構造、権限配分までを経営幹部の職務として扱った。
4.管理職向けプログラムを全8回、各回4.5時間で設計した。科目は次のとおりである。Day1 リーダーシップ初級、Day2 ロジカルシンキング、Day3 環境分析初級、Day4 内部資源分析、Day5 財務諸表分析、Day6 ビジネスモデル理解、Day7 施策の優先順位付け、Day8 発表と今後の目標設定。
5.管理職向けは、分析から施策決定までを一続きにした。外部環境と内部資源を順に分析し、それをビジネスモデルとして整理し、限られた資源のもとで施策に優先順位をつける。上位方針を部門の課題へ翻訳する手順そのものを科目の並びで表現した。
6.幹部向けと管理職向けで科目名が重なる回も、到達点と成果物を変えた。財務諸表分析は、幹部向けでは公開資料をもとにした特定企業の分析まで、管理職向けでは競合3社の比較分析までを扱う。リーダーシップは、幹部向けが組織変革と影響力の発揮、管理職向けが権限委譲と部下育成である。
7.最終回を役員へのレビュー付き発表とした。幹部向けは個人単位、管理職向けはチーム単位で自社の課題解決提言を行い、役員が質疑とフィードバックを行う。管理職向けの最終回では、今後の目標を本人が全体に対して宣言する時間も設けた。
8.プログラム開始前にマネジメントアセスメントを実施した。同僚と部下からの多面評価により、リーダーシップの型、権限委譲の傾向、行動特性など複数の視点から現在地を提示する。学ぶ前に自分の傾向を知る順序とした。
9.題材をすべて自社と実在企業のデータとした。自社の強みと弱みの評価、競合3社の財務分析、公開資料をもとにした特定企業の分析など、演習の題材を実務と同一にした。汎用のケース教材を使わない判断である。
【移行と浸透】
10.討議、発表、フィードバックを毎回の型とした。知識の提示に続けてグループ討議と発表を必ず置き、各人の発表を必須とする運用も加えた。聞くだけで終わる回をつくらない。
11.遠隔参加と欠席対応を設計に含めた。遠隔参加の接続対応、遠隔参加者のみでの班編成、欠席者向けの録画配信を用意した。参加の可否が拠点の所在に左右されない状態をつくった。
12.回と回の間にナッジメールを配信した。連続研修は間隔が空くほど前回の内容が失われる。次回までの行動を促す短い連絡を挟むことで、学習を業務に持ち帰る頻度を上げた。
13.管理職向けを3か年のローリング運用とし、各年度で新たに選抜した。年度の終わりには配置への反映を置き、選抜、研修、配置、翌年度の選抜という周期を定型業務として組み込んだ。
導入後の変化
1.経営層の後継者計画が実現した。プログラムを通じて候補者の学習状況と多面評価の結果が可視化され、後継者計画が具体的な人選として成立した。役員の交代が、その場の判断ではなく、あらかじめ準備された候補の中から行われる状態になった。
2.グループ横断のつながりが生まれた。管理職向けにグループ各社から選抜したことで、会社をまたいだ受講者が同じ題材を同じ枠組みで議論する場ができた。3か年で延べ100名を超える幹部・管理職が、経営を語る共通の言葉を持つに至っている。
3.経営体制の交代が行われている。プログラム開始後に代表取締役社長が交代し、会長と社長を置く体制となっている。
4.中期経営計画が更新されている。プログラムの実施期間中に新たな中期経営計画が策定された。研修の最終回で受講者が自社への提言を行い、役員がレビューする設計としていたため、計画づくりの議論と育成の場が同じ論点を扱う状態になっていた。
5.グループ会社が増えている。プログラムの前後に複数の企業が新たにグループへ加わっている。設計時に育成手段として位置づけたグループ会社出向について、配置先の選択肢が広がっている。
6.新領域の事業区分が対外的に明示されている。DXおよびGXに関するサービス、公民連携、国際事業が、それぞれ独立した事業領域として掲げられている。幹部向けプログラムで扱ったビジネスプランニングと競争戦略は、これらの領域を検討する際の共通言語にあたる。
7.採用と組織規模が維持されている。新卒・中途の採用が継続し、単体の役職員数は700名規模を保っている(2026年4月時点)。グループでは1,200名規模となっている(2025年8月時点)。
経営人材の育成は、研修を実施したかどうかではなく、後継者を選ぶ場面で候補が揃っているかどうかで評価される。セレクションアンドバリエーションが設計したのは科目の並びだけではなく、役員層の試行から始めて、幹部層、管理職層、グループ各社へと同じ枠組みを広げていく順序そのものである。
本プロジェクトの特徴
本案件で問われたのは、事業領域を広げる長期方針に対して、それを担う経営層をどう供給し続けるかである。研修の満足度ではなく、後継者を選ぶ場面で候補が揃っている状態をつくることを、本案件の企業価値への貢献と定めた。
1.研修から着手せず、後継候補の整理と配置の設計から着手した。
判断の根拠は、知識の獲得だけでは行動が変わらないという実務上の経験である。誰をどのポストの候補と見ているかが決まっていなければ、対象者も内容も決められない。学んだ内容を試す役割が与えられなければ、研修は個人の教養で終わる。抜擢や出向を育成の手段として明示する順序を先に決めた。
2.本格実施の前に、役員層への試行を置いた。
判断の根拠は、育成の意思決定者が内容を知らないまま候補者を送り出す構図を避けることである。役員が同じ内容を先に体験していれば、候補者の発表を評価でき、育成方針そのものを自社の言葉で語れる。試行はプログラムの検証であると同時に、経営の合意形成の工程だった。
3.幹部層と管理職層を、同じ研修に集めなかった。
判断の根拠は、求められる判断の質が異なることである。幹部層に必要なのは経営方針の策定であり、管理職層に必要なのは上位方針を部門課題へ翻訳することである。同席させれば発言量は上位者に偏り、下位層が自分で結論を出す機会が失われる。科目名が重なる回も、到達点と成果物を分けた。
4.管理職向けの選抜対象を、親会社に閉じなかった。
判断の根拠は、事業の担い手が既にグループへ広がっていたことである。会社ごとに育成すれば、会社ごとの経営言語が育つ。同じ題材を同じ枠組みで議論する場をグループ横断で用意したことが、結果としてグループの一体感の醸成にもつながった。
5.汎用のケース教材を使わず、題材をすべて自社と実在企業に置いた。
判断の根拠は、建設コンサルタント業の事業構造にある。公共事業を主たる市場とし、技術提案で受注を得る業態は、一般的なビジネスケースの前提と噛み合わない。自社の資源評価、競合他社の財務諸表を題材にすれば、演習の結論がそのまま業務の材料になる。
6.講師を、経営コンサルタントと行政出身者の2名体制とした。
判断の根拠は、この業種の受講者が持つ二重の関心である。事業戦略や財務の議論には経営コンサルティングの視点が要る一方、公共事業を市場とする以上、政策や制度がどう決まるかを内側から知る視点も要る。両方を同じプログラムの中で提示できる体制を組んだ。
最も迷ったのは、幹部層と管理職層を分けるかどうかでした。一緒に実施したほうが費用も日程も収まりますし、上下で共通言語ができるという利点もあります。それでも分けたのは、同じ場に置くと下の層が考えなくなるからです。自分で答えを出す時間をどれだけ確保できるかが、この種のプログラムの成否を決めると考えています。
行政の側で政策をつくる仕事をしていたので、公共事業を担う企業がどこで判断に迷うのかは想像がつきました。研修で意識したのは、制度は誰かが決めた所与のものではなく、働きかけの対象でもあるという視点をお伝えすることです。受け身で環境を読むのと、環境に働きかける前提で読むのとでは、戦略の立て方が変わってきます。
よくあるご質問
後継者計画の整理から始めるほうがよい。誰をどのポストの候補と見ているかが決まっていなければ、研修の対象者も内容も決められないためである。研修を先に始めると、参加者の選び方が「手が空いている人」に流れやすい。本事例では、試行の実施と並行して後継候補を整理し、翌年度以降の選抜と配置の議論に使える状態をつくった。
Q2. なぜ外部のビジネススクールへの派遣ではなく、自社向けの連続研修を選んだのか。
学んだ内容を自社の課題に直結させるためである。ビジネススクールは体系性と社外人脈の面で優れるが、題材は汎用ケースであり、自社の事業構造に置き換える作業は受講者個人に委ねられる。本事例では、自社の資源評価、競合他社の財務分析、公開資料をもとにした特定企業の分析といった実データを題材とし、演習の成果物がそのまま業務の材料になる構成とした。
Q3. 経営幹部候補と管理職候補は、同じ研修に集めるべきか、分けるべきか。
分けるほうがよい。同席させると発言量が上位者に偏り、下位層が自分で結論を出す機会を失うためである。本事例では、幹部向けを各回6時間、管理職向けを各回4.5時間とし、科目名が重なる回でも到達点と成果物を変えた。最終回の発表も、幹部向けは個人単位、管理職向けはチーム単位と分けている。
Q4. グループ会社の管理職を、親会社の研修に一緒に参加させるべきか。
事業の担い手がグループに広がっているなら、参加させるほうがよい。会社ごとに育成すると、会社ごとの経営言語が育ち、横断的な事業の立ち上げも人材の融通も進みにくくなる。本事例では、管理職向けの選抜対象にグループ各社を含め、同じ題材を同じ枠組みで議論する場を設けた。結果として、グループの一体感の醸成にもつながっている。
Q5. 選抜型の研修は、選ばれなかった社員のモチベーションを下げないか。
選抜の基準と目的を明示すれば、下げるリスクは管理できる。むしろ問題になりやすいのは、選抜の存在を伏せたまま特定の社員だけに機会を与える運用のほうである。本事例では、選抜型のプログラムを全社員向けの教育とは目的の異なる別建ての取り組みとして位置づけ、複数年のローリングによって対象者が入れ替わる設計とした。
Q6. 経営幹部の育成プログラムは何年くらいで一巡させるべきか。
知識の獲得だけなら1年、実践経験の蓄積まで含めるなら3年程度を1つの周期とするのが現実的である。研修で学んだ内容は、それを試す役割を与えて初めて定着するため、配置と昇格の判断が入る周期に合わせる必要がある。本事例では、役員層への試行を経たうえで、幹部向けを1年、管理職向けを3か年のローリングとし、各年度の終わりに配置への反映を置いた。