年数による一律減額を役割に応じた処遇へ転換した定年再雇用制度改革
従業員約710名(単体・グループ約1,202名)
提供サービス再雇用制度設計
実施期間8ヶ月
支援時期2023年
対象層・対象人数再雇用者
事例サマリー
背景
同社は中国地方に本社を置き、河川・道路・鉄道などの社会基盤に関する調査、計画、設計、維持管理を担う総合建設コンサルタントである。技術士をはじめとする有資格者の数と配置が、受注できる業務の幅と量を規定する業態にある。
この業態では、有資格者が現場から退くことは、単なる人員の減少ではない。管理技術者や照査技術者として配置できる人がいなければ、受注そのものができなくなる。
同社の年齢構成を見ると、60歳以上の職員が全体に占める割合は、10年後には3倍を超える見通しであった。定年後の年齢層に属する有資格者も、同じ期間で数倍規模に増える。
外部環境も同じ方向に動いていた。高年齢者雇用安定法により70歳までの就業機会の確保が努力義務とされ、発注者である地方自治体では公務員の定年が2023年度から段階的に引き上げられ、2031年度に65歳となることが決まっている。
発注者側の担い手が長く現役を続ける一方で、受注者側が定年を境に戦力を落とせば、対等な技術対話が成り立たなくなる。再雇用制度は福利厚生の論点ではなく、受注能力の論点であった。
課題(Before)
有資格者の配置が受注要件となる同社において、改定前の再雇用制度には次の課題があった。
1.再雇用後の処遇が、再雇用からの経過年数に応じて段階的に引き下がる仕組みだった。担う役割の違いが処遇に反映されないため、何を期待されているのかが本人に伝わらない。
2.規程はあったが、実態は個別の判断で運用されていた。引下げ幅は人によって大きくばらつき、制度と運用が乖離していた。基準のない差は、説明を求められた時点で維持できない。
3.再雇用後の期待役割が定義されていなかった。組織の長を続ける者と、上長の指示のもとで業務に従事する者が、同じ枠組みで扱われていた。
4.再雇用期間中に評価の仕組みがなかった。年度ごとの貢献が処遇に反映される経路がないため、意欲を持って働く理由が制度上どこにもない。
5.有資格者の年齢構成が上方へ移っていた。資格保有者の配置が受注の要件となる業態において、その層が実質的に戦力から外れることは、受注可能な業務量の縮小に直結する。
6.同一労働同一賃金の観点で、正社員と再雇用者の職務の違いを説明する材料が整理されていなかった。処遇差の根拠を職務内容と責任の程度に即して示せない状態だった。
7.働き方の選択肢が乏しかった。健康状態や本人の事情に応じた勤務形態、副業の可否といった選択肢が用意されておらず、就業継続の条件が一律だった。
8.管理職ポストの継続と後継者育成の関係が整理されていなかった。人員が不足すれば再雇用者が管理職を続けることになるが、期限も後継者育成の義務も定めがない。結果として、下の世代のポストが空かない。
9.65歳を超えた後の扱いが決まっていなかった。就業機会の確保が努力義務化されているにもかかわらず、会社としての判断基準がない。
目的と設計方針
同社に対し、セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、定年後の社員を事業の戦力として位置づけ直すことである。処遇の引下げ幅を調整する作業ではなく、期待する役割を定義し直す作業として設計した。
設計方針は次の6点とした。
1.年齢や経過年数ではなく、役割で処遇を決める。定年後の何年目かではなく、何を担うかを処遇の基準に置く。
2.期待役割を先に定義し、処遇はその後に決める順序とする。処遇水準から議論を始めると、役割の定義が水準を正当化するための後付けになる。
3.再雇用期間中にも年次の評価を置き、賞与と翌年度の役割区分に反映する。一度決まった役割が固定されない構造とする。
4.同一労働同一賃金の枠組みに沿って、正社員との職務の違いを整理する。職務内容、責任の範囲と程度、職務内容および配置の変更範囲という3つの軸で差異を記述できる状態にする。
5.報酬水準は市場調査を踏まえて検証する。社内の相場観だけで決めず、外部の分布と照らして妥当性を確認する。
6.既に再雇用されている社員も適用の対象に含める。新旧の制度が併存すると、同じ職場に説明のつかない差が残る。
セレクションアンドバリエーションは、この方針に沿って現状分析、事例収集、市場水準調査、制度設計、役員への説明までを担った。
実際に構築した制度のポイント
同社において構築した再雇用制度は、期待役割を2系統5区分で定義することを骨格とする。
1.役割を「組織マネジメント」と「組織活動支援」の2系統に分けた。前者は組織の長またはその補佐を継続する役割、後者は生産活動と技術継承を担う役割である。両者は求められる行動が異なるため、同じ物差しで測らない。
2.組織マネジメント系統を2区分とした。上位区分は、管理職ポストのある部組織の長を代行職として継続する役割である。下位区分は、支店・課・室組織の長、または部・支社組織の管理補佐として上位役職を補佐する役割とした。
3.組織マネジメント系統に従事可能期間の上限を設けた。上位区分は3年を限度とし、その期間中の後継者育成を義務づけた。下位区分は最長5年とした。期間経過後は、役割に応じて組織活動支援系統へ移る。
4.組織活動支援系統を3区分とした。上位区分は管理技術者または業務責任者として受注と生産活動に従事し、生産単位のマネジメントと部下の育成、技術継承を担う。中位区分は照査技術者・担当責任者として同様の活動に従事する。下位区分は担当従事者・照査員として、上長から指示された業務に従事する。
5.技術系と営業・管理系で、同じ区分でも業務イメージを分けて定義した。営業・管理系については、担当部門のキャリアパスに示される資格とスキルを基準とし、組織のミッション達成にどの立場で関わるかで区分した。
6.処遇を役割区分に連動させた。役職手当の扱い、転勤および単身赴任の対象範囲、副業の可否を、いずれも役割区分ごとに定めた。組織マネジメント系統は転勤の対象とし副業を認めず、組織活動支援系統は転勤の対象外とするといった形で、責任の範囲と働き方の自由度を対応させている。
7.再雇用期間中の評価として、年次の業績貢献度評価を新設した。行動評価は行わず、業績への貢献のみを評価対象とする。定年後の限られた期間において、行動の変容ではなく成果の発揮を求める趣旨である。
8.評価結果を賞与と翌年度の役割区分の双方に反映する構造とした。評価が処遇の一部だけに効く設計では、役割の見直しが行われない。
9.年度の初めに役割と期待を本人へ表明する運用を組み込んだ。期末に貢献度を評価し、その結果を翌年度の役割期待として再び示す。1年を1周期とする循環にした。
10.65歳を超えた後の扱いを定めた。それまでの活躍状況に応じて会社が継続の可否を判断する。継続する場合は転勤および単身赴任の対象外とし、副業を可能とし、健康状態に応じた出勤日数の限定も認める。
11.正社員と再雇用者の職務差異を整理する様式を作成した。業務の概要、権限の範囲、必要な知識や技能の水準、部下の有無、トラブル発生時の対応、成果への期待の程度、転勤の有無と範囲を項目化し、職種ごとに記述できるようにした。
【移行と浸透】
12.役割の選択肢を定年到達前に提示する手順とした。定年前の数年間を評価の参考期間とし、再雇用前の役割、評価の状況、保有資格をもとに、会社側から選択肢を示す。本人の健康状態と希望を踏まえて確定する。
13.再雇用契約を1年単位とし、以後も同様に更新する形とした。評価と役割の見直しが年に一度必ず行われる状態を、契約の形式によって担保している。
14.既に60歳以上となっている社員へ新制度を適用した場合の影響を試算し、移行方針を検討した。改定前の運用が規程どおりでなかったため、現行の実態を基準として個別に確認する手順とした。
導入後の変化
1.処遇の根拠が説明できる状態になった。改定前は、同じ再雇用者の間にある処遇差の理由を職務に即して示す材料がなかった。役割区分と職務差異の整理様式を設けたことで、差の根拠を職務内容と責任の程度に即して記述できるようになった。
2.管理職ポストの滞留に期限が入った。組織マネジメント系統に従事可能期間の上限と後継者育成の義務を置いたことで、ポストが空かないまま次の世代が待つ構造に歯止めがかかった。
3.定年後の働き方に選択肢が生まれた。転勤の対象範囲、副業の可否、出勤日数の限定を役割区分ごとに定めたことで、健康状態や本人の事情に応じた就業の形を制度の中で選べるようになった。
4.外部環境の変化が想定どおりに進行している。発注者である地方自治体の定年年齢は、2023年度に始まった段階的な引上げが継続しており、2031年度に65歳となる予定である。設計時に前提とした環境認識は、その後も維持されている。
5.有資格者の確保が引き続き経営上の要件となっている。同社は保有資格ごとの有資格者数を対外的に公開しており、技術士が最も多い資格として掲載されている(2026年4月時点)。
6.採用と組織規模が維持されている。新卒・中途の採用が継続し、単体の役職員数は700名規模を保っている(2026年4月時点)。グループでは1,200名規模となっている(2025年8月時点)。
定年後の処遇を考えるとき、議論は引下げ幅の調整に流れやすい。セレクションアンドバリエーションが行ったのは、その手前にある「何を担ってもらうのか」を定義し直す作業である。役割が決まれば処遇は導ける。順序を逆にすると、どちらも決まらない。
本プロジェクトの特徴
本案件で問われたのは、有資格者の配置が受注要件となる業態において、定年後の技術者をどう戦力として保つかである。人件費の抑制でも高齢者雇用への対応でもなく、受注能力の維持を、本案件の企業価値への貢献と定めた。
1.処遇水準の議論から始めず、期待役割の定義から始めた。
判断の根拠は、処遇から入ると役割の定義が後付けになるという構造にある。水準を先に決めれば、役割の記述はその水準を正当化するために書かれる。逆の順序であれば、担ってほしい仕事から水準が導かれる。定年後の処遇は、この順序を守れるかどうかで内容が変わる。
2.組織マネジメントの継続を認めたうえで、期限と後継者育成の義務を付けた。
判断の根拠は、人員不足という現実と、ポストの滞留という副作用の両立である。管理職を続けてもらわなければ組織が回らない一方、期限がなければ下の世代のポストが空かない。継続を認めないのでも無条件で認めるのでもなく、期間を区切り、その間に後継者を育てることを役割の一部として定義した。
3.再雇用期間の評価から、行動評価を外した。
判断の根拠は、定年後に求めているものが行動の変容ではないことである。現役世代の評価は将来の成長を促すために行動を見る。定年後の限られた期間で見るべきは、その年度に何を成したかである。評価項目を減らすことは手抜きではなく、目的に合わせた設計である。
4.正社員との職務差異を記述する様式を、制度と同時に作った。
判断の根拠は、同一労働同一賃金への対応が説明責任の問題だからである。処遇差そのものが問題になるのではなく、差の根拠を職務に即して示せないことが問題になる。制度を作った時点で説明の材料も揃っている状態にした。
5.既に再雇用されている社員を適用対象から外さなかった。
判断の根拠は、同じ職場に新旧の基準が併存することの不利益である。新制度を新規適用者に限れば、設計上は簡単になる。しかし同じ業務を担う者の間に、入り口の時期だけを理由とする差が残る。影響を試算したうえで、既存の再雇用者も対象に含める方針とした。
再雇用の議論は、放っておくと「何割にするか」の話になります。今回それを避けたのは、割合を決めても現場は動かないと考えたからです。管理技術者を続けてほしいのか、後進を育ててほしいのか、指示された業務を確実に仕上げてほしいのか。求めるものが違えば処遇も違って当然です。役割を先に言葉にしたことで、ご本人にも会社にも説明のつく制度になったと考えています。
よくあるご質問
役割の違いが大きい会社では、一律の率は維持できない。同じ率を適用しても、組織の長を続ける人と指示された業務に従事する人では納得の度合いが正反対になるためである。本事例では、期待役割を2系統5区分で定義し、区分ごとに処遇、役職手当の扱い、転勤の範囲、副業の可否を定めた。
Q2. なぜ定年年齢の引上げではなく、再雇用制度の改定を選んだのか。
役割と処遇の対応関係を先に作る必要があったためである。定年年齢の引上げは、60歳以降も同じ制度を適用するという意味を持つ。役割の定義が曖昧なまま適用期間だけを延ばせば、処遇と貢献の不一致がそのまま持ち越される。本事例では、定年後の期待役割を先に定義し、区分ごとの処遇と評価を設計した。
Q3. 再雇用者に評価制度は必要か。
年度ごとの貢献を処遇に反映する経路がなければ、就業を続ける理由が制度上どこにもなくなるため、必要である。ただし現役世代と同じ評価をそのまま適用する必要はない。本事例では行動評価を行わず、業績への貢献のみを年次で評価し、その結果を賞与と翌年度の役割区分の双方へ反映する構造とした。
Q4. 再雇用者が管理職を続けることは認めるべきか。
人員が不足している組織では認めざるを得ないが、期限を設けるべきである。期限がなければ後任のポストが空かず、次の世代の育成機会が失われる。本事例では、部組織の長を代行する区分は3年を限度とし、その期間中の後継者育成を役割の一部として義務づけた。組織の補佐にあたる区分は最長5年としている。
Q5. 同一労働同一賃金への対応は、再雇用制度の設計でどこまで必要か。
処遇差の根拠を職務に即して記述できる状態まで必要である。処遇に差があること自体が問題になるのではなく、差の理由を職務内容と責任の程度に即して説明できないことが問題になる。本事例では、業務の概要、権限の範囲、必要な知識と技能の水準、部下の有無、成果への期待の程度、転勤の有無と範囲を項目化した様式を、制度と同時に整備した。
Q6. 既に再雇用されている社員に、新しい制度を適用すべきか。
適用するほうがよい。適用しなければ、同じ業務を担う社員の間に、再雇用の開始時期だけを理由とする差が残るためである。本事例では、既に定年後の年齢に達している社員へ新制度を適用した場合の影響を試算したうえで、対象に含める方針とした。改定前の運用が規程どおりでなかったため、現行の実態を基準として個別に確認する手順を併せて設けている。