企業ロゴ画像
企業ロゴ画像

歯科材料メーカーの人事制度改革事例|複線型等級と定年再雇用制度の設計

製造業

ー正社員から再雇用までー 「求める人材像」を起点に描く、持続的成長を支える人事制度設計

設立1980年代

従業員約140名

売上非公開

提供サービス人事戦略策定・人事制度設計

実施期間18ヶ月

支援時期2023年~2024年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

近畿地方の歯科材料メーカー(従業員約140名)の人事制度改革を、セレクションアンドバリエーションが支援した事例である。5等級の職能等級制度を7等級の複線型行動等級制度へ再設計し、専門性を高めるキャリアでも処遇が上がる構造を新設した。

支援領域:人事戦略(HRポリシー)策定/複線型コンピテンシー・行動等級制度設計/評価制度設計/賃金テーブル設計/定年再雇用制度設計/評価者研修(考課者研修)・被評価者研修
支援期間:2023年〜2024年(約18か月)
業種:歯科材料メーカー(医療機器製造業)
規模:従業員約140名
成果:
1.等級階層:5等級 → 7等級(基礎・専門性習熟・マネジメントの3区分)
2.キャリア経路:単線型 → 複線型(専門職コースを新設)
3.評価軸:3軸(知識・スキル/行動/成果) → 2軸(行動/成果)
4.評価項目:16項目 → 全社共通6指標+部署別3指標へ再編
5.評価段階:4段階 → 5段階
6.評価の反映先:行動評価は昇給、成果評価は賞与へ分離
7.1on1ミーティング:年3回を制度化
8.対象範囲:正社員から定年再雇用社員まで一貫設計
9.昇格要件の移行期間:3年

背景

近畿地方に本社を置く歯科材料メーカー(従業員約140名)は、大手化学メーカーと歯科機器メーカーの合弁により1980年代に設立された。主力製品は長期の臨床実績を持つ歯科用接着材料であり、親会社グループのヘルスケア領域を担う中核会社である。

同社は中期経営計画において、2030年に売上高50億円という目標を掲げていた。達成に向けた成長軸は2つある。国内における高度管理医療機器領域を含む新製品の継続投入と、米国を起点とする海外販売体制の構築である。

歯科材料メーカーである同社にとって、この2つの成長軸はいずれも専門能力の水準に依存する。研究開発・薬事・品質保証といった職務の担い手をどう確保し、どう処遇するかが、そのまま経営課題であった。

しかし現行の人事制度は2012年に策定されたものであり、設計を主導した人事部長は既に退職していた。制度を自社の実態に合わせて再設計できる人材が社内におらず、外部の専門家と組む必要があった。

加えて同社の人事制度は親会社の制度をベースに設計されていた。歯科材料という事業特性や、同社独自の成長戦略に対応した仕組みとはなっておらず、制度と戦略の不整合が生じていた。

同社の経営基盤整備は、組織体制の変更、品質保証・薬事体制の強化、基幹システムの更新と並行して進んでいた。人事制度の見直しは、その経営基盤整備の一環として位置づけられた。

課題(Before)

歯科材料メーカーである同社の現行制度には、次の9点の課題があった。制度設計そのものは丁寧に組まれていたが、設計当時の事業構造と人員構造を前提としていたため、成長戦略との間に不整合が生じていた。

1.等級と役職の連動が定義されていない
等級は5等級で、上位等級が管理職と位置づけられていた。どの等級の人材をどの役職に任用するのかの基準が明文化されておらず、任用の判断が属人的になっていた。

2.キャリアが単線型である
昇進の主線がマネジメント層に限られていた。研究開発・薬事・品質保証など高い専門性を要する職務の担い手を、専門性のまま処遇する受け皿がなく、専門人材ほど処遇の頭打ちに直面した。

3.昇給が経験年数とともに逓減し、昇格に滞留年数要件がある
同一等級内の昇給幅は経験年数の長期化に伴って縮小する設計であった。加えて昇格に必要な経験年数が設定されていたため、優秀者の早期抜擢が制度上できなかった。

4.評価軸が3つあり、総合評価の算出が複雑である
知識・スキル評価、行動評価、成果評価の3軸それぞれにウエイトを乗じて総合評価を算出していた。仕組みが複雑で、社員から見て何を努力すれば処遇が変わるのかが読み取れなかった。

5.評価項目が多すぎる
行動態度で5項目、知識・スキルで11項目が設定されていた。網羅性は高い一方、会社としてのメッセージが拡散し、評価者が一項目ずつを吟味しきれず考課の妥当性が低下していた。

6.評価段階が4段階で、運用に課題がある
評価段階が偶数であること自体は設計上の問題ではない。ただし評価基準の浸透が不十分な状態と組み合わさることで、分布配分や相対調整の運用が難しくなっていた。

7.賃金レンジが乖離型で、全部署同一である
基本給レンジは等級間で重複のない乖離型のレンジレート(範囲給)であり、全部署に同一の賃金体系を適用していた。部門ごとに異なる労働市場水準を反映できず、専門人材の獲得と定着で不利に働いた。

8.年収に占める賞与比率が高い
賞与は設計当時の業績基準を前提としたまま運用され、業績拡大に伴って水準が増加していた。女性比率の高い同社では、月例給を算定基礎とする育児休業給付金等の水準が相対的に低くなる副作用も生じていた。

9.制度の目的と期待役割が浸透していない
評価制度の目的、および各等級・役職への期待役割が、管理監督者を含めて理解されていなかった。社員からは、自分に求められている役割が分かりにくいという声が寄せられていた。

目的と設計方針

歯科材料メーカーである同社の人事制度改革において、セレクションアンドバリエーションが設定した目的は明確である。2030年の売上高目標を実現できる人材が育ち、集まり、活躍し続ける状態を、人事制度と運用の両面から下支えすることである。

設計の柱は次の5点に置いた。

1.経営戦略から逆算した「求める人材像」を先に定義する
2.等級階層を再設計し、各等級・役職の期待役割を言語化する
3.評価を成果と行動の2軸に整理し、反映先を分離する
4.報酬構成を市場水準と生活実態の双方から見直す
5.制度を動かす運用(1on1ミーティングと評価者研修)を制度設計と同時に組み込む

設計の起点には「制度から入らない」という方針を置いた。ビジョン・ミッション・コアバリューと経営戦略から求める人材像を導き、それを等級定義と評価指標へ落とし込む順序をとった。制度改定の技術論から入ると、社員に対して制度の存在理由を説明できなくなるためである。

求める人材像は6要素として整理した。主体性、チャレンジ、チームワーク、専門性、戦略構想力、顧客志向である。この6要素を等級定義・行動評価指標・昇格要件のすべてに貫通させることで、制度間の整合を確保した。

人材像の策定を支えたのは3方向の調査である。経営層インタビューと中期経営計画から「経営の思い」を、社員代表インタビューと社内アンケートから「働く社員の考え」を、人員分析と現行制度分析から「制度の実態」を抽出した。

3者を突き合わせた結果、経営が求める専門能力の水準と、制度が用意している処遇の上限との間に明確なずれがあることが判明した。この一点が改革の中心論点となった。

最も重要な設計判断は、キャリアを複線型人事制度として扱う構造の採用である。専門性を高め続ける道とマネジメントへ進む道を等級体系上で分離しつつ、両者の処遇水準が断絶しないよう賃金テーブルを連続的に設計した。

専門職コースを本線の外に別建てすると、人数が集まらず数年で形骸化する。セレクションアンドバリエーションは、専門職コースを例外扱いにせず、等級体系の本線に組み込む判断をとった。

実際に構築した制度のポイント

歯科材料メーカーである同社では、等級・評価・報酬の3要素に加え、定年再雇用制度と移行措置までを一体で設計した。

【等級制度】

1.5等級から7等級へ階層を再構成した。基礎等級・専門性習熟等級・マネジメント等級の3区分とし、専門性を高めていく過程に複数の等級を置くことで、管理職に就かなくても等級が上がり処遇が変わる道筋を確保した。

2.各等級の定義は機能語で整理した。習得、習熟、判断、貢献、指導・改善(技術伝承)、牽引、監督・交渉である。等級が上がるとは何ができるようになることかを、一文で示せる形にした。

3.役職呼称は複数存在したものを3つに統一した。部をまとめる役割、グループをまとめる役割、高い専門性で成果を創出する役割として定義を分け、等級との対応関係を明示することで任用基準の不明瞭さを解消した。

【昇降格】

4.卒業基準と入学基準の両面から確認する設計とした。卒業基準は現等級での複数年にわたる評価結果とし、専門性習熟等級では行動が着実に発揮されていること、マネジメント等級では成果の創出も伴っていることを要件とした。

5.入学基準は、上位者による推薦を全等級共通の入口とした。管理職への登用にあたっては、社長および複数の部長が担当するプレゼンテーション兼面接を課している。

6.滞留年数は要件ではなく目安として位置づけ直した。要件を満たせば早期に昇格できる構造に改めることで、優秀者の早期抜擢を制度上可能にした。

【評価制度】

7.知識・スキル評価を行動評価へ統合し、成果と行動の2軸に集約した。3軸それぞれにウエイトを乗じて総合評価を算出する複雑な仕組みを廃し、行動評価は昇給へ、成果評価は賞与へ接続する構造とした。

8.行動評価は等級ごとの行動レベルに応じた発揮度を測る形式とした。全社共通指標と部署別指標の2層で構成し、全社共通指標には専門性・人材育成・チャレンジ・チームワーク・リーダーシップ・財務志向を配置した。

9.部署別指標には顧客志向・財務志向・業務効率を配置し、部門特性に応じて適用する指標を変えた。各指標について等級別の具体的行動をコンピテンシーディクショナリとして記述し、評価者と被評価者が同じ文言を参照できるようにした。

10.評価段階は4段階から5段階に改めた。中央の段階を「期待通り」と明確に定義し、判定基準を数値で明文化することで、絶対評価を基本とする運用に切り替えた。

11.成果評価の目標設定は、本人記入と上司合意という既存の目標管理制度(MBO)のプロセスを継続した。当事者意識を担保するプロセスは変えず、目標数・ウエイト・達成基準の記載ルールのみを明文化している。

12.運用面では、期初・中間・期末の業務面談とは別に、年3回の1on1ミーティングの制度化を行った。1回20分から30分程度とし、課題認識、行動支援策の検討、期待と改善点の共有を内容として定めた。

【報酬制度】

13.基本給は等級別・経験年数別の賃金テーブルを設計し、評価結果に応じて昇給額が決まる構造とした。同一等級内では在籍年数が浅い期間の昇給幅を厚くし、経験年数とともに逓減する従来設計を反転させた。

14.期待役割が大きく変わる昇格のタイミングには、昇格インセンティブを設定した。昇格の実感が処遇に表れる設計とすることで、等級を上げる動機づけを制度側から支えている。

15.手当は職責に応じた水準へ改訂した。中間指導職向けの手当は移行措置を設けたうえで廃止し、単身赴任に係る手当は市場水準を踏まえて支給条件と金額を整理、子ども手当は支給条件を簡素化した。

16.賞与は算定基礎の一部を基本給へリバランスしたうえで、残りを固定賞与と業績連動賞与に切り分けた。固定と変動の性格を制度上明確に分離し、支給基準の透明性を高めている。

17.業績連動部分の支給率は全階層で共通とした。階層間の差は原資水準で表現する設計とすることで、評価と支給率の関係を全社員が同じ表で理解できる形にした。

【定年再雇用制度】

18.正社員向けの制度設計をベースに、定年再雇用制度を接続して設計した。経験と知識を活かした継続的な活躍を期待する一方、健康状態やライフスタイルに応じた多様な働き方を選択できる仕組みとした。

19.正社員と定年再雇用社員の制度に一貫性を持たせることで、60歳以前の活躍を前提としながら、60歳以降にも期待役割を明示する構造を実現した。シニア人事制度を正社員制度の延長線上に置く設計である。

【移行と浸透】

20.昇格要件には3年間の移行期間を設定した。初年度は直近1年、2年目は直近2年の評価結果で判定し、3年目から本来の運用に移行する段階設計とした。

21.廃止する手当は2年をかけて段階的に減額した。制度の一貫性を保ちながら、不利益変更が突然生じることを避けている。

22.制度確定後の全社員向け説明会は、経営戦略と求める人材像から説き起こす構成とした。制度変更の内容だけでなく、なぜ変えるのかを伝えることを説明資料の設計要件に据えている。

23.施行後は、全3回の評価者研修(考課者研修)と被評価者研修を実施した。制度を運用する側と運用される側の双方に、同じ制度理解を持たせることを目的としている。

導入後の変化

歯科材料メーカーである同社において、本プロジェクトが設計時点で意図した変化は次の3点である。

1.専門性を高めるキャリアが等級体系上に明示されたことで、研究開発・薬事・品質保証といった職務の担い手が、管理職への転換を経ずに処遇の向上を見通せるようになった。高度管理医療機器領域や海外展開に必要な専門人材の確保・定着に直結する変化である。

2.滞留年数を要件から目安へ改めたことで、要件を満たす人材の早期登用が可能になった。等級階層を7段階に増やしたことと合わせ、若手が数年単位で次の等級を目標として設定できる状態が生まれている。

3.評価項目の絞り込みと1on1ミーティングの制度化により、評価者が一人ひとりの行動に向き合う時間の総量が増えた。評価への納得感は評価項目の精緻さではなく対話の量から生まれるという設計思想を、運用ルールとして具体化したものである。

実際の反応としては、新制度の説明会と各種研修を経た現場から、自分に求められていることが分かるようになったという声が寄せられている。等級定義と行動評価指標を同じ言葉で記述したことの効果である。

本プロジェクトの特徴

1.等級階層を減らさず、増やした

一般的に、近年の人事制度改革では等級を統合して階層を減らす方向が主流である。階層が増えれば運用負荷も上がるためである。

本案件では逆に、5等級から7等級へ増やす判断をとった。同社の課題が「昇格の機会が遠すぎること」にあり、階層の少なさが専門人材の処遇の頭打ちを生んでいたためである。制度の見た目の簡素さより、社員が次の目標を持てる刻みの細かさを優先した。

2.評価項目を精緻化せず、削減した

一般的に、評価の納得感を高めようとすると、項目を増やして網羅性を高める方向に傾きやすい。

本案件では16項目あった評価要素を統合・絞り込みし、削減で生まれた負荷を年3回の1on1ミーティングへ振り向けた。項目数を増やすことは評価者一人当たりの検討時間を薄め、かえって考課の妥当性を落とすためである。納得感の源泉を項目数から対話量へ置き換える判断である。

3.評価段階を偶数から奇数へ変更した

一般的に、奇数段階は中心化傾向を招くため偶数が望ましいと言われる。

本案件では4段階から5段階へ変更した。同社の実態は分布配分と相対調整の運用難にあり、中央の段階を「期待通り」と明確に定義して判定基準を数値で明文化すれば中心化は抑制できると判断したためである。定石ではなく、その企業の運用実態に照らして選択している。

4.行動評価指標を全社共通と部署別の2層構造とした

一般的に、行動評価指標は全社共通で統一するか、部署別に細分化するかの二者択一で議論される。

本案件では2層構造とし、管理職層については全社共通指標に一本化した。全部署同一では研究開発と営業と生産の専門性の差を捉えられず、部署別のみでは会社としてのメッセージが拡散するためである。階層が上がるほど部門最適から全社最適へ視点が移る構造を、評価指標そのもので表現した。

5.賞与構成の検討に、生活実態からの逆算を含めた

一般的に、賞与比率の見直しは業績連動性やインセンティブ設計の観点から論じられる。

本案件では、月例給を算定基礎とする育児休業給付金等への影響までを検討範囲に含めた。女性比率の高い同社において、賞与比率の高さが従業員の実際の受給額に影響していたためである。制度の理屈だけでなく、その制度で暮らす人の手取りから逆算して構成比を決めている。

6.廃止する手当に2年間の段階的削減を設計した

一般的に、廃止が決まった手当は次年度から一括で停止することが多い。

本案件では2年をかけて段階的に減額する移行措置を設計した。制度改定において最も不信を招くのは、合理的な理由があっても不利益が突然生じることだからである。廃止の判断そのものは動かさず、時間軸だけを緩やかにすることで、制度の一貫性と現場の納得を両立させた。

7.正社員制度と定年再雇用制度を連続して設計した

一般的に、定年再雇用制度は正社員制度とは別枠の仕組みとして後から設計される。

本案件では正社員向け制度の設計をベースに、同じ設計思想で定年再雇用制度まで一貫して設計した。制度が分断されると、60歳を境に期待役割の説明が途切れ、シニア層の活躍が制度上位置づけられなくなるためである。60歳以前の活躍を前提としながら、60歳以降にも期待役割を明示する構造とした。

担当コンサルタント: 松木 宏晃瓜阪 彰悟

最も悩んだのは、評価項目を増やすか減らすかでした。納得感を高めようとすると項目を細かくしたくなりますが、それでは評価者が一項目に向き合う時間がなくなります。現場のお話を伺うほど、不満の中心は項目の粗さではなく対話の少なさにあると感じ、項目を絞って生まれた時間を1on1ミーティングへ振り向けることをご提案しました。この方針をお選びいただけたのは、人事部の皆様が現場の声を正面から受け止められたからです。

よくあるご質問

Q1. 専門職コースをつくっても人が集まらないのはなぜか

専門職コースが機能しない最大の原因は、それが等級体系の本線から外れた別枠として設計されているためである。別枠に置くと、管理職になれなかった人の受け皿という社内認識が生まれ、優秀な専門人材ほどそこを避ける。結果として人数が集まらず、数年で形骸化する。本事例の企業では専門職コースを別建てにせず、基礎等級・専門性習熟等級・マネジメント等級という3区分のうちの1区分として等級体系の本線に組み込み、賃金テーブルもマネジメント等級と連続する形で設計した。


Q2. なぜ職務等級制度(ジョブ型)ではなく、複線型の行動等級制度を選んだのか

従業員規模が数百名以下で職務が固定していない企業では、複線型の行動等級制度のほうが機能しやすい。職務等級制度(ジョブ型)は職務記述書の作成と維持に相応の工数を要し、職務内容が頻繁に変わる組織では記述と実態の乖離が早期に生じるためである。本事例の企業では、研究開発・薬事・品質保証など専門職務の担い手を処遇することが目的であり、職務の定義ではなく行動レベルの定義で専門性の高さを測る設計が適していた。等級ごとの行動レベルをコンピテンシーディクショナリとして記述する方式を採用している。


Q3. 等級数は多いほうがよいか、少ないほうがよいか

等級数は、社員が次の昇格までに何年を要するかで決めるべきである。等級を減らすと制度は簡素になるが、1つの等級に滞在する期間が長くなり、昇格への動機づけが働きにくくなる。逆に増やせば運用負荷が上がる。本事例の企業では専門人材の処遇が頭打ちになっていたことが課題であったため、5等級から7等級へ増やしたうえで、各等級の期待役割を機能語で定義し直した。


Q4. 評価項目は多いほうが納得感が高まるのか

評価項目を増やしても納得感は高まらず、むしろ低下することが多い。項目が増えると評価者が一項目に割ける検討時間が減り、実質的な吟味が行われないまま形式的な採点になるためである。また項目が多いほど、会社が何を重視しているのかというメッセージが拡散する。本事例の企業では、行動態度5項目と知識・スキル11項目の計16項目を統合・絞り込みし、削減で生まれた時間を年3回の1on1ミーティングに振り向けた。


Q5. 人事評価の段階数は5段階と4段階のどちらがよいか

段階数は、その企業の評価分布の実態から選ぶべきである。奇数段階は中心化傾向を、偶数段階は寛大化傾向を招きやすいとされるが、どちらのリスクが現に生じているかは企業によって異なる。中心化を避けたい場合でも、中央の段階を「期待通り」と明確に定義し判定基準を数値で示せば、実務上は抑制できる。本事例の企業では、4段階での分布配分と相対調整の運用に課題があったため、5段階へ変更したうえで中央の段階の定義を明文化した。


Q6. 賞与比率を下げると、社員にとって不利になるのではないか

賞与比率の引き下げは、多くの社員にとって不利にはならない。月例給が上がることで、育児休業給付金や傷病手当金など月例給を算定基礎とする各種給付の水準が上がり、住宅ローンの審査など生活面でも有利に働くためである。年収総額が変わらなければ、変動部分を固定部分へ移すことは生活の安定に寄与する。本事例の企業では、賞与の算定基礎の一部を基本給へリバランスしたうえで、残りを固定賞与と業績連動賞与に分離した。


Q7. 手当を廃止する場合、どのような移行措置が必要か

手当の廃止には、複数年にわたる段階的な減額措置を設けることが望ましい。制度改定において社員の不信を招く最大の要因は、変更の合理性ではなく不利益が突然生じることだからである。廃止という判断自体を撤回せずに時間軸だけを緩やかにすれば、制度の一貫性と現場の納得は両立できる。本事例の企業では、中間指導職向けの手当について2年をかけて段階的に削減し、その後に廃止する設計とした。