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デジタルコンテンツ制作業の報酬水準調査|資格手当で専門人材を確保

マスメディア・出版

取得難易度と業務有用度の二軸で対象資格と支給水準を設計した報酬水準調査

設立1990年代

従業員約120名

売上非公開

提供サービス報酬制度改定

実施期間2ヶ月

支援時期2022年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

近畿地方で放送関連のグラフィック・字幕・Web制作を手がける企業に対し、セレクションアンドバリエーションが報酬水準の市場比較と資格手当制度の設計方針策定を支援した。

背景

近畿地方に本社を置く同社は、親会社である放送局から独立する形で設立され、番組に関連するグラフィック制作、字幕・解説放送制作、データ放送、Web制作、デザインを事業領域としてきた。放送関連の受託を安定的な基盤としつつ、行政や一般企業からの受託業務へも領域を広げている。

事業構造の転換にともない、人材要件が変わりつつあった。番組制作に付随する定型的な制作業務の遂行に加え、Webサイトの企画・設計・開発を担う技術者と、事業そのものを立ち上げる企画人材が必要になっていた。

一方でこの両職種は、労働市場において最も採用競争が激しい領域である。給与水準が採用市場と乖離していれば、確保も定着も難しくなる。同社の経営課題は、親会社からの発注単価の適正化と、グループ外からの受注獲得の2点にあり、そのいずれもが人材の確保を前提としていた。

課題(Before)

同社が抱えていた課題は次の6点である。

1.自社の給与水準が労働市場と比べて高いのか低いのかを、客観的な根拠をもって説明できなかった。感覚的な議論しかできないため、引き上げの是非も引き上げ幅も決められない状態にあった。

2.比較対象とすべき市場が1つに定まらなかった。放送関連の制作業務は同一地域の系列制作会社が比較対象となる一方、WebエンジニアやWebデザイナーは全国のWeb制作企業が比較対象となる。同じ会社の中に、性質の異なる2つの労働市場が同居していた。

3.親会社からの発注単価が、人件費水準の上限を実質的に規定していた。給与水準の引き上げは、稼働の増加または単価の向上とセットでなければ収益を圧迫する構造にあった。

4.給与を理由とした人材流出のリスクが顕在化しつつあった。採用難の職種ほど市場価格の上昇が速く、社内の賃金テーブルがその速度に追随できていなかった。

5.専門性の習得を処遇に結びつける仕組みがなかった。制作の品質を左右するのは個々の技能であるにもかかわらず、技能の獲得を評価・報酬の側から後押しする手段が用意されていなかった。

6.職種ごとに求められる専門性が大きく異なるため、一律の育成投資では効果が出にくかった。字幕・解説放送、デザイン、Web、コーポレートの各領域で、必要な知識の性質がそもそも違っていた。

目的と設計方針

同社に対し、セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、報酬水準の妥当性を客観的な数値で確定させ、その上で処遇の打ち手を選択できる状態をつくることであった。

設計方針は次の4点である。

1.給与水準を規定する要因を、上限側と下限側に分けて整理した。上限側はビジネスモデル上の制約、非金銭報酬の設計余地、親会社からの発注価格であり、下限側は最低賃金への法対応、労働市場との対応、従業員との関係性である。この6要因のうち、今回は労働市場との対応を重点的に検証する対象と位置づけた。

2.市場水準の調査を、統計情報と個別情報の二系統で行うこととした。政府統計は業種全体のマクロな傾向を示すが、職種単位の実態までは映さない。ベンチマーク企業の求人情報は職種単位の実額を示すが、母集団が小さい。双方を突き合わせることで、片方だけでは判断を誤る領域を特定できる。

3.調査対象の地域を単一に固定しなかった。制作の現場業務は本社所在地の労働市場と対応する一方、Web系職種はリモートワークが成立しやすく、他地域の水準が採用競争に直接影響する。地域を分けて比較する設計とした。

4.報酬水準の是正手段を、賃金レンジの調整だけに求めなかった。専門性の獲得に報いる資格手当の新設を並行して検討し、固定的な人件費の増加と、技能獲得への動機づけとを切り分けて設計できる状態を目指した。

実際に構築した制度のポイント

同社において整理した打ち手の骨格は、次の5点である。

1.報酬水準の検証を、比較軸ごとに結論を分けて提示した。同一地域の系列制作会社との比較では、基本給水準はやや見劣りするものの、役職手当や裁量手当を含む月例給では同等以上に位置していた。Web制作企業との比較では、若手層はほぼ同等である一方、上位層で設定されている報酬の上限が低いという結論を得た。

2.賃金レンジの妥当性を、あるべきレンジと実在者の分布を重ね合わせる形で可視化した。レンジそのものは業界平均を実現できる設定であったが、昇格年齢と昇格割合が低いため、実在者の年収が結果として市場水準を下回るという構造を特定した。

3.処遇改善の方向性を2つに整理した。1つは賃金レンジの上方拡大による全体の底上げであり、もう1つは早期昇格の実現による個別の引き上げである。前者は収益への影響が大きいため、稼働の増加または単価の向上とセットで検討すべき打ち手として位置づけた。

4.資格手当制度について、対象資格の抽出、支給水準の決定、支給方式の選択の3段階に分けて設計方針を提示した。対象資格は、現在の業務に必要な技能と、将来の事業に必要な技能の双方から抽出し、20を超える候補を職種群ごとに整理した。

5.支給水準の決定に、取得難易度と業務有用度の二軸を用いた。取得難易度は学習期間と取得費用から、業務有用度は定型業務への寄与か非定型業務への寄与かという段階で評価する。軸を先に定めることで、後から資格を追加する際にも同じ基準で判断でき、金額の妥当性を継続的に説明できる。

【移行と浸透】

支給方式については、一時金、期間限定の月例給加算、永年の月例給加算の3方式を、目的への適合と管理負荷の両面から比較した。一時金は取得の動機づけとして見た目の効果が大きく管理も容易である一方、支給後の定着には寄与しにくい。月例給への永年加算は定着に寄与するが、人件費が固定化し、中途採用者との処遇の整合を取りにくくなる。制度の主目的を採用難職種の確保と教育の補完に置くのであれば、どちらを優先するかで方式が決まるという形で判断材料を整理した。

対象資格の選定にあたっては、現場へのヒアリングを行った。ただし調査の趣旨は「業務上有用と考えられる資格の把握」に限定し、資格手当そのものへの期待を先行させない進め方とした。制度化の可否が決まる前に期待だけが高まると、見送りの判断が難しくなるためである。

導入後の変化

本プロジェクトの検討結果は2022年3月に提出され、以降、資格取得を支援する仕組みが同社で運用されている。

1.資格取得の支援が、福利厚生の一項目として社外に案内されている。対象となる資格を取得した場合に一時金を支給する形式であり、支給方式の比較検討において一時金方式が選ばれたこと、および対象資格の範囲が定義されたことを示している(出典:同社が利用する求人媒体の企業情報ページ)。

2.組織規模は拡大している。支援当時は従業員100名規模であったが、2025年4月1日時点の従業員数は121名である(出典:同社Webサイトの会社情報)。

3.採用活動が継続している。番組グラフィックの制作、テロップ制作、CGデザイナーの各職種で募集が行われており、未経験者を受け入れる枠が設けられている(出典:求人媒体の掲載情報)。

4.事業領域はグループ外へ広がっている。放送関連業務を基盤としつつ、行政や一般企業からの受託業務、Web制作、システム開発を事業として掲げている。

報酬水準の調査は、それ自体が制度ではない。しかし調査によって「どの職種のどの層が市場と乖離しているか」が確定すれば、その後の処遇判断は感覚ではなく数値に基づくものになる。セレクションアンドバリエーションが提示した二軸の評価基準は、資格が追加されるたびに同じ物差しで金額を決められる形で設計されており、初回の設計以降も自社で運用できる構造となっている。

本プロジェクトの特徴

【企業価値への貢献はなにか】

この案件で企業価値に直結していたのは、報酬水準そのものではなく、報酬を決める根拠の有無であった。親会社からの発注単価の適正化を交渉するにも、グループ外から受注するにも、人材が確保できていることが前提となる。その人材確保の可否を左右する給与水準について、客観的な根拠を持たないまま議論していれば、経営判断は先送りされ続ける。

【本案件ではどう判断したか】

セレクションアンドバリエーションは、比較対象を1つに絞らず、性質の異なる2つの労働市場に対してそれぞれ結論を出す設計を選んだ。放送関連の制作職には同一地域の系列制作会社を、Web系職種には全国のWeb制作企業と職種別の民間統計を対応させ、比較軸ごとに別々の結論を提示した。

また、水準のギャップを賃金レンジの引き上げだけで埋めようとはしなかった。レンジ自体は市場水準を実現できる設定であり、実際の乖離は昇格の運用から生じていた。制度の設計値ではなく運用の結果を見なければ、誤った打ち手を選ぶことになる。

【その判断の根拠】

同じ会社の中で職種によって労働市場が異なる場合、全社平均での比較は必ず判断を誤らせる。平均で「業界並み」と出た水準の内側に、採用競争で負けている職種と、過剰に払っている職種が同時に存在しうるためである。

資格手当の設計において評価軸を先に固定したのも同じ理由による。金額を個別に決めていく方式では、資格が増えるたびに整合性が崩れ、数年で説明できない支給体系になる。軸を先に定めれば、制度の判断を社内に引き渡すことができる。

担当コンサルタント: 松木 宏晃

も判断を要したのは、比較対象をどこに置くかでした。同じ会社の中に、地域の系列制作会社と競う職種と、全国のWeb企業と競う職種が同居しています。全社平均で比較すれば「業界並み」という結論になりますが、それでは採用で負けている職種が見えません。あえて結論を2つに分けてご提示しました。資格手当についても、金額そのものより先に評価の軸を決めることをご提案しています。軸さえあれば、資格が増えても御社ご自身で判断を続けられるからです。

よくあるご質問

Q1. 自社の給与水準が高いか低いかは、どう調べればよいのか
政府統計と同業他社の求人情報の両方を使う。政府統計は業種全体の傾向と規模別の分布を示すが、職種単位の実態までは映さない。求人情報は職種単位の実額を示すが、母集団が小さく、固定残業代や手当の扱いが各社で異なるため、条件をそろえる補正が必要になる。本事例では、地域と職種を分けて双方を突き合わせ、比較軸ごとに別々の結論を提示した。

Q2. 給与レンジは業界平均並みなのに、社員が処遇に不満を持つのはなぜか
レンジの設定値と、実際に支払われている金額は別のものだからである。レンジが市場水準を実現できる設計であっても、昇格年齢が遅く昇格割合が低ければ、実在者の年収はレンジの下半分に滞留する。処遇の見劣りは制度の設計ではなく運用から生じることが多い。本事例でも、あるべきレンジと実在者の分布を重ねることでこの構造を特定した。

Q3. なぜ賃金レンジの引き上げではなく、資格手当の新設を並行して検討したのか
賃金レンジの引き上げは固定的な人件費の増加に直結し、収益構造への影響が大きいためである。とくに親会社や特定の取引先からの受注が売上の中心を占める場合、発注単価の見直しとセットでなければ、引き上げた分がそのまま利益を圧迫する。資格手当は、対象と金額を限定した形で専門性の獲得に報いることができ、全体の水準引き上げとは切り分けて判断できる。

Q4. 資格手当は一時金と月例給のどちらで支払うべきか
制度の主目的によって答えが変わる。取得そのものを促したいのであれば、同額でも一時金のほうが動機づけとしての効果が大きく、管理も容易である。定着に寄与させたいのであれば月例給への加算が有効だが、人件費が固定化し、中途採用者との処遇の整合を取りにくくなる。期間を限定した月例給加算という中間案もあるが、支給の継続可否を毎月確認する運用負荷が生じる。

Q5. 資格手当の金額はどう決めればよいのか
金額を先に決めず、評価軸を先に決める。取得難易度(学習期間と取得費用)と業務有用度(定型業務への寄与か、非定型業務への寄与か、その資格がなければ遂行できない業務か)の二軸で資格を評価し、評価結果を金額の段階に対応させる方式が扱いやすい。この方式であれば、後から資格を追加する場合も同じ基準で判断でき、支給体系の整合性を長期にわたって保てる。

Q6. 報酬水準の調査だけを依頼することはできるのか
できる。制度改定を前提とせず、現状の水準が市場と比べてどの位置にあるかを確定させるだけでも、経営判断の材料としては十分な価値がある。本事例の支援期間は約2か月であり、調査と方向性の整理までを範囲とした。調査の結果として、水準の引き上げではなく昇格運用の見直しが打ち手になる場合もある。