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インターネットメディア業の人事制度改革|OKR導入とMBO再設計

IT・情報通信

インターネットサービス業界でのチャレンジと専門性を評価する仕組み構築

設立2000年代

従業員約200名

売上約20億円

提供サービス人事制度設計

実施期間15ヶ月

支援時期2017年~2018年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

関東地方のインターネットメディア運営業(地域情報・店舗口コミサービスを運営、支援当時 従業員100〜200名規模、東証一部上場)に対し、セレクションアンドバリエーションが等級・評価・報酬の全面改定と、その翌年の再設計を支援した。

職種ごとの専門性を評価できない旧制度から、複線型の行動等級と職種別の評価ウェイト、レンジレートによる報酬体系へ転換した。

稼働から1年後には、労働市場との接続を理由に目標管理制度を報酬へ再接続し、評価者研修によって運用力を引き上げている。

背景

地域情報・店舗口コミサービスを主力とするインターネットメディア運営業である同社は、関東地方に本社を置き、2015年に株式を上場、2016年には市場区分を変更していた。事業は拡大局面にあり、営業・企画・開発・クリエイティブといった性質の異なる職種が同時に増えていた。

一方で、人事制度は職種構成の変化に追いついていなかった。等級は職種を問わず単一の物差しで運用され、専門性の高い人材が上位等級へ進むには管理職になるしかない構造が残っていた。

同社の経営管理本部人事・総務部からは、既存制度の部分修正案が具体的に示されていた。評価項目のウェイト変更、等級の追加、昇給テーブルの率管理化などである。セレクションアンドバリエーションは、これらの案を「妥当だが、根拠の置き所を先に決めるべきもの」と位置づけ、等級の軸そのものから設計し直す方針を提案した。

課題(Before)

支援当時 従業員100〜200名規模の同社では、事業の成長速度に対して人事制度の設計思想が古いままであり、次の課題が並存していた。

1.技術職・クリエイティブ職の評価に対応できていなかった。評価項目が全職種共通であり、職種ごとに求める行動と成果が定義されていないため、成果を出しても評価に反映されないという認識が生じていた。

2.実際の役割と等級段階が対応していなかった。組織構成の変化に対して等級が5段階のままであり、上位等級の運用が難しくなっていた。等級数を増やすかどうかという議論が先行し、等級の軸をどこに置くかという検討が後回しになっていた。

3.専門人材のキャリアパスが管理職経路しかなかった。専門性を高める道が制度上に存在しないため、上位等級へ進むにはマネジメント職を選ばざるを得ず、専門職の定着に不利な構造となっていた。

4.行動評価の指標が経営理念と一致していなかった。全社に掲げる価値観と評価指標との間に読み替えが生じており、どの行動が評価されるのかが伝わりにくくなっていた。

5.評価と報酬の連動がキャリアと結びついていなかった。等級ごとの賃金レンジが重複しており、昇格しても昇給が実感されにくい構造となっていた。

6.昇給テーブルが実質的に機能していなかった。評価が高くても昇給額の差が小さく、評価結果が処遇の差として伝わらない状態にあった。

7.評価と給与改定が年1回であり、事業の変化速度と噛み合っていなかった。四半期単位で動く事業に対し、処遇の見直しが年1回では行動を促す力が弱かった。

8.管理職が人事制度を用いたマネジメントを学ぶ機会を持っていなかった。制度の巧拙以前に、評価を通じて部下を動かす技術が組織に蓄積されていなかった。

目的と設計方針

同社に対し、セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、「職種と専門性の違いを制度として認めたうえで、社員の行動を事業目標へ集中させること」である。制度の完成度そのものではなく、行動が変わるかどうかを設計の基準に置いた。

設計方針は3点である。

1.等級の軸を先に決める。等級数の増減から入るのではなく、社内にどのような階層が必要か、その軸は能力か職務かを検討したうえで段階を設計する。組織図を検討材料とし、キャリアパスと整合させる。

2.評価と報酬の透明性を最大化する。賃金レンジと昇給テーブルを社員へ公開し、どの評価であればどれだけ昇給するかを事前に示す。処遇の予見可能性が、自発的なキャリア形成の前提になるという考え方である。

3.設計と運用を切り離して考える。制度を設計しても、評価者の技術が伴わなければ機能しない。制度改定と同時に、評価者研修を支援の一部として位置づける。

加えて、入社後10年から20年の賃金カーブを試算したうえで昇給テーブルの妥当性を検証する方針を採り、単年度の調整で終わらせない設計とした。

実際に構築した制度のポイント

同社において構築した制度の骨格は、6段階の複線型行動等級と、経営理念に連動した5つの行動評価指標、そして等級別のレンジレートである。2017年9月に稼働し、2018年9月に評価と報酬の接続部分を再設計した。

【等級制度】

1.等級を5段階から6段階へ再構成した。中位層の等級定義を明確化して名称と定義を刷新し、あわせて専門職コースを新設した。マネジメント職に就かなくても上位等級へ進める経路を制度として確保するためである。

2.最上位2等級には賃金の上限を設けなかった。専門性と経営責任のいずれについても、処遇の天井が意欲の天井にならないようにする意図である。

【評価制度】

3.行動評価の指標を6項目から5項目へ集約し、全項目の定義を経営理念に沿って書き換えた。各指標は「キーワード」「期待する行動」「期待に反する行動」の3構成とし、評価者の解釈のばらつきを抑えた。

4.評価ウェイトを職種別に設定した。等級ではなく職種によってウェイトを変えることで、開発・クリエイティブ職の成果が評価に反映される構造とした。

5.2017年改定では、目標管理制度をOKRへ移行し、評価および報酬から切り離した。達成度による賞与変動をなくし、失敗を許容する目標設定を促す設計である。

6.2018年改定では、目標管理制度を再導入し、給与改定と賞与へ再接続した。評価ウェイトは等級別とし、下位等級は行動評価に、上位等級は目標管理に比重を置いた。責任範囲が広い層ほど成果責任を重く見る構造である。

【報酬制度】

7.シングルレートに近い運用からレンジレート(範囲給)へ移行した。各等級の賃金レンジを上位・中位・低位の3区分に分け、区分ごとに昇給額を設定した。

8.下位等級のレンジ下限を引き上げ、中位等級のレンジ上限を引き下げた。等級間の重複を縮小し、昇格時に昇給が実感される構造へ改めた。

9.評価と給与改定の頻度を年1回から年2回へ変更し、四半期の事業サイクルと接続した。

10.賞与は、2017年改定で個人業績連動を外して全社一律の係数とし、2018年改定では全社業績で原資を決定したうえで、評価分布に応じて配分する設計へ改めた。分布は分布関数による調整を用い、高い評価を得た層へ厚く配分されるようにした。

【移行と浸透】

11.制度移行にあたり、改定初年度の昇給に特別措置を設けた。新旧の改定タイミングの差によって不利益が生じないよう、移行期の昇給額を調整した。

12.賃金レンジと昇給テーブルを全社員へ公開する方針を維持し、改定資料の中で公開の理由を明示した。処遇のルールを知ることが、高い目標設定と自発的なキャリア形成につながるという考え方である。

13.行動目標の記入マニュアルを策定して公開した。制度の説明ではなく、目標を書くという行為そのものを標準化する文書である。

14.評価者研修を期初・期末の2種類で設計し、2018年8月に管理職向けの1日研修を実施した。人事評価の目的論、目標のブレイクダウン、目標の共有、個人面談、アクションプランのスケジュール化、コーチングによるフィードバック、中間フィードバックのロールプレイまでを扱った。

導入後の変化

インターネットメディア運営業である同社の新人事制度は、2017年9月に稼働し、翌2018年9月に評価と報酬の接続部分が再設計された。以降の変化は次のとおりである。

1.制度が1年で見直された。2017年改定は、目標の達成度を報酬から切り離すことで挑戦を促す設計だった。しかし中途採用者を中心に、成果を評価してほしいという声が明確に上がった。制度の内部整合よりも労働市場との接続を優先し、目標管理制度を報酬へ再接続した。

2.等級と行動評価の骨格は動かさなかった。2018年の改定では、等級制度と行動評価指標を変更せず、評価と報酬の接続方法だけを変えている。骨格を固定したうえで接続部分を調整できたのは、等級の軸を先に決めていたためである。

3.評価者の運用力に手当てがなされた。制度改定の翌月に評価者研修を実施し、目標設定から中間フィードバック、期末評価までを一連の技術として扱った。制度を配布するだけでは運用されないという前提に立った支援である。

4.報酬情報の開示方針が維持された。賃金レンジと昇給テーブルの社員公開は、2017年の改定資料で方針として明記され、2018年の改定資料でも継続すると再度示されている。透明性を前提とした報酬運用が、単年度の施策ではなく方針として定着したことを示している。

5.同社は上場を維持し、事業領域を広げている。支援後、オフショア開発を含むDX関連事業、人材紹介事業、広告関連事業へと事業領域が拡張され、複数社の子会社化と合併を経て企業グループが形成された。2025年10月には共同持株会社の設立による経営統合が行われ、大手インターネットグループの一員となっている。

6.有価証券報告書に記載された平均年間給与は上昇している。2017年8月期の502万円に対し、2018年8月期は526万円、2021年8月期は558万円である。これらは公開情報上の事実であり、人事制度改革の効果として示すものではない。制度は、評価に応じた昇給額を等級別・レンジ区分別に定め、その内容を社員へ開示する条件を提供していた。

人事制度は、導入時点の設計思想ではなく、実態と合わなくなったときに直せるかどうかで評価される。セレクションアンドバリエーションが設計した等級・評価・報酬の骨格は、稼働から1年で市場環境との不整合が明らかになった際、骨格を保ったまま接続部分だけを修正できる構造になっていた。

本プロジェクトの特徴

本案件の特徴は、制度を1年で作り直したことを失敗ではなく設計に織り込んだ点にある。

1.一般的には、OKRを導入する際は評価および報酬から切り離すことが定石とされる。達成度が処遇に直結すると、目標が低く設定されるためである。本案件では、その定石どおりに切り離したうえで、1年後に目標管理制度を報酬へ再接続する判断を行った。根拠は労働市場である。中途採用が中心の企業では、成果に応じた処遇が採用時の訴求要素となる。制度の内部整合を優先して外部競争力を失えば、人が採れなくなる。

2.一般的には、制度改定の翌年に再改定を行うことは、初年度設計の失敗と受け取られやすい。本案件では、等級制度と行動評価指標を変更せず、評価と報酬の接続方法のみを変更した。根拠は、骨格と接続の分離である。等級の軸を能力・行動に置くと決めていたため、報酬との接続方法を変えても、社員に示す期待行動は変わらなかった。

3.一般的には、賞与は個人評価に連動させて差をつける設計が採られる。本案件では、原資は全社業績で決定し、配分のみを評価分布で調整する二段構えとした。根拠は、目標管理への不満の本質が「差がないと思っている相手との間に処遇差がつくこと」にあるという理解である。原資の変動要因を全社業績に置けば、個人の努力では動かせない部分が明確になり、不満の対象が分離される。

4.一般的には、賃金レンジや昇給テーブルは社員に開示しない企業のほうが多い。本案件では、開示を継続し、その理由を改定資料の中で説明した。根拠は、処遇のルールが分からなければ、社員は高い目標を自ら設定できないという判断である。

5.一般的には、制度改定に伴う研修は制度説明会になりやすい。本案件では、評価者研修を人事評価の目的論から始め、行動の適正化と人材の育成、そして事業目的の達成が評価の目的であることを扱った。根拠は、制度の実効性を決めるのは評価者のマネジメント技術であるという経験である。目標設定のテクニック、中間フィードバック、面談ロールプレイまでを含めたのはこのためである。

担当コンサルタント: 平康 慶浩

最も判断を要したのは、導入から1年で目標管理制度を戻すかどうかでした。報酬から切り離す設計は理論的に正しく、挑戦も生まれていました。しかし中途採用の現場では、成果が処遇に反映されない会社と映っていたのです。制度の一貫性より、人が採れるかを優先しました。等級と行動評価は動かしていません。期待行動まで変えれば、改定が信用を失うからです。

よくあるご質問

Q1. OKRを導入する際、評価や報酬と連動させるべきか

連動させないことが原則である。OKRは達成が難しい目標を設定して挑戦を促す仕組みであり、達成度が昇給や賞与に直結すると、社員は達成可能な目標しか設定しなくなる。ただし、報酬と連動する評価軸を別に用意しておく必要がある。本事例では2017年の改定でOKRを評価から切り離し、行動評価のみを報酬へ連動させる設計を採用した。

Q2. なぜOKRだけで完結させず、目標管理制度(MBO)を再導入したのか

労働市場との接続を優先したためである。中途採用が中心の企業では、応募者は前職との比較で「成果がどう処遇に反映されるか」を判断する。成果評価が制度上に存在しないと、報酬の伸びしろが見えず、採用競争で不利になる。本事例では、2018年の改定で目標管理制度を再導入し、等級別のウェイトで給与改定と賞与へ接続した。OKRの狙いであった挑戦の促進は、行動評価の指標の中に残している。

Q3. 人事制度を導入した翌年に改定するのは失敗なのか

失敗ではない。制度は仮説であり、稼働させて初めて労働市場や現場との不整合が見える。重要なのは、何を変えて何を変えないかを分けておくことである。等級と評価基準は社員に示す期待そのものであり、頻繁に変えれば信用を損なう。一方、評価と報酬の接続方法は、外部環境に応じて調整してよい。本事例では、等級と行動評価指標を維持したまま、報酬との接続だけを1年後に変更した。

Q4. 賞与は個人評価と会社業績のどちらに連動させるべきか

原資と配分を分けて設計するのが実務的である。原資を会社業績で決め、配分を個人評価で調整すれば、社員は「自分では動かせない要因」と「自分の努力で動く要因」を区別できる。目標管理への不満の多くは、差がないと感じている相手との処遇差から生じるため、この分離が納得性に効く。本事例では、全社業績で原資を決定したうえで、評価分布に応じた係数で配分する設計を採った。

Q5. 賃金レンジや昇給テーブルを社員に公開してよいのか

公開したほうが制度は機能しやすい。どの評価であればどれだけ昇給するかが分からなければ、社員は目標を自ら高く設定できず、キャリアも描けない。公開の前提となるのは、レンジと昇給テーブルが説明可能な論理で設計されていることである。本事例では、支援前から公開されていた方針を維持し、改定資料の中で公開を続ける理由を明示した。

Q6. 人事制度は何年くらいで作り直す必要があるのか

等級構造は5年から10年の耐用年数を持たせられるが、評価と報酬の接続部分はそれより短い周期で見直す必要がある。前者は事業構造と組織階層に、後者は労働市場と業績構造に対応するためである。本事例では、2017年に設計した等級と行動評価の骨格を維持したまま、翌年に評価と報酬の接続だけを改定している。どの層を固定しどの層を動かすかを設計段階で決めておくことが、制度の寿命を延ばす。