現場スタッフから基幹社員へ続くキャリアを一本化した等級・報酬・教育の一括改革
設立1990年代
従業員11,000名
売上約410億円
提供サービス人事制度設計
実施期間12ヶ月
支援時期2020年~2021年
対象層・対象人数全社
事例サマリー
背景
製造現場向けの人材サービスを主力とする同社は、近畿地方に本社を置き、全国に営業拠点を展開している。支援当時の売上規模は約400億円であった。
同社は2030年を目標年とする長期ビジョンを掲げ、営業エリアの拡大と拠点の増設を計画していた。営業本部は営業力強化と採用力・定着力の強化を、管理本部は経営管理体制の強化とDXの実現を、それぞれ重点戦略として置いていた。
前年度に、セレクションアンドバリエーションは同社の取締役・執行役員向け制度を設計し、経営層の等級・評価・報酬を刷新していた。上が変わった以上、下がそのままでは接続しない。
人の側の制約は明確であった。拠点を増やすには営業所長と営業部長が要る。その供給源は社内の若手・中堅と、製造現場で働くスタッフである。しかし当時の制度は、この2つの層のどちらからも、上位職への道筋を示せていなかった。
課題(Before)
支援当時 売上規模 約400億円の同社には、従業員層の制度に関して以下の課題があった。
1.等級と職責が対応していなかった。等級区分の中に細かな段階を設けて昇格意欲を喚起していたが、下位等級のまま営業所長を務める者がおり、等級が役割の大きさを示さなくなっていた。
2.現場スタッフのキャリアが途中で断たれていた。技能社員という区分が現場から正社員への道筋として機能していたが、基幹社員との間で給与の逆転が生じ、転換までの期間も長期化していた。人材の供給源が実質的に閉じていた。
3.昇格判断が客観性を欠いていた。推薦、論文、筆記試験、面接と手順は多かったが、適任者が昇格しているとは言い切れない状態にあった。
4.降格が運用されていなかった。基準は存在したが実際には適用されず、等級の上方硬直が生じていた。
5.評価のメッセージが不明確であった。行動評価、能力評価、業績評価の3つを合算して昇格・昇給・賞与のすべてに反映していたため、何を短期で問い、何を長期で見るのかが伝わらなかった。
6.目標設定にばらつきがあった。目標を低く置く傾向があり、高い目標を掲げた者の評価が低くなる逆転が生じていた。部門間で目標設定の基準も揃っていなかった。
7.評価結果を本人に開示していなかった。評点と評語は原則フィードバックされず、何を改善すれば昇格に近づくのかが本人に届いていなかった。
8.基本給が採用競争力の弱点になっていた。年収に占める賞与の比率が高く(およそ4か月分)、求人票に表示される月例給が同業他社に見劣りしていた。
9.専門職のキャリアが存在しなかった。管理職以外に上位等級へ進む道がなく、専門性を高める働き方が処遇に接続していなかった。
10.外国籍社員が昇格要件で不利な立場にあった。日本語による論文提出が要件に含まれており、能力が高くても手続きの段階で滞る構造があった。
目的と設計方針
セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、経営理念を判断基準として全制度の軸に据えたうえで、拠点拡大を担う人材を社内から供給できる構造をつくることである。
方針は5点とした。
1.職責と職務価値に見合った処遇を実現する。等級の段階を整理し、上位層には職務の大きさに応じた処遇を適用する。
2.業績責任を担う職務に挑戦したいと考える若手・中堅を増やす。営業所長・営業部長という職務を、目指す対象として明示する。
3.現場から基幹社員までを一本のキャリアとしてつなぐ。現場の等級上限と正社員の下限を調整し、転換の段差をなくす。
4.長く働くことを選べる基本給を設計する。賞与に寄っていた年収構成を、月例給側に移す。
5.前年度に設計した役員制度と用語と構造を揃える。評価の呼称、コンピテンシーの考え方、目標の置き方を経営層と共通にし、階層をまたいで同じ言葉が通じる状態にする。
進め方は、全社員を対象とした組織風土診断(エンゲージメントサーベイ)と、全営業所長へのインタビュー、拠点視察から開始した。制度案の検討は隔週のプロジェクトミーティングで行い、月1回の経営トップへの報告で意思決定を確定させた。
実際に構築した制度のポイント
構築した制度は、等級を軸に評価と報酬を接続し、現場から管理職までを1つの体系に収めた点に特徴がある。
1.資格等級を6階層に整理した。各階層の定義を、経営理念に基づく判断、部下育成の範囲、業績責任の3つの観点で記述した。階層内には2段階の級を残し、昇格の機会を確保した。
2.上位層に職務等級を適用した。本部長、営業部長、営業所長について、前年度の売上高、営業利益率、取引先件数の3項目を5段階で評価し、合計点で3段階に格付ける。格付けは毎年度末に検証し、翌年度に適用する。等級ではなく職務の大きさで処遇が決まる範囲を、上位層に限定して導入した。
3.職務給をレンジレート(範囲給)とした。格付けごとに上限と下限を設け、評価結果に応じてレンジ内の金額に洗い替える方式である。職務が変わらなくても評価によって処遇が動く構造とした。
4.現場コースを新設した。製造現場のスタッフに独自の等級を設け、報酬の上限を引き上げるとともに、リーダー等の役割を明示した。あわせて基幹社員側の等級下限を引き下げ、転換時の段差を解消した。一定の等級を上限としてコース転換を可能とするルールを定めた。
5.複線型のキャリアを導入した。管理職へ進むコースとは別に、専門性を高めるコースを設けた。等級が上がる段階で本人の適性に応じて分岐する構造とし、拠点運営の職務については専門職を置かない整理とした。
6.勤務地の選択肢を制度化した。全国転勤型と地域限定型の2つを設け、いずれのコースでもキャリアが続く等級・報酬体系とした。
7.昇格要件を卒業基準と入学基準に分けた。卒業基準は昇格ポイントと直近の評価、入学基準は上長の推薦、論文、適性検査、資格である。上位等級への昇格時には外部機関によるマネジメントアセスメント(多面評価と面談)を導入し、決定は人事評価調整会議で行う。積極的に上位職を目指す者が昇格する入学方式を維持した。
8.降格基準を明文化した。2期連続で最低評語となった場合に降格候補とし、人事評価調整会議で判断する。等級の降格と役職の降職を区別して扱う。
9.中途採用に仮格付け期間を設けた。入社時の等級を仮のものとし、3か月後に実際のコンピテンシーと照合して本格付けを行う。等級見直しの可能性は雇用契約時に説明し、合意を得る運用とした。
10.評価を2軸に分離した。従来の行動評価と能力評価を集約してコンピテンシー評価とし、昇格と昇給に反映する。業績評価はコミットメント評価とし、賞与に反映する。長期に問うものと短期に問うものを、反映先で分けた。
11.コンピテンシーディクショナリを作成した。経営理念、個人の成長、業務、人間関係、組織業績の5領域について、等級ごとに求める行動を5段階で記述した。項目は全社員アンケートの結果をもとに整理した。自己開発目標は廃止し、期初に自己改善行動を記入して期末に本人が振り返る形式に置き換えた。
12.コミットメント評価にプロセス評価を組み込んだ。目標数は4個から6個、ウェイトは各10%から30%、達成基準は原則として数値で置く。評価は達成度5段階とアクションプランの適切さ3段階のマトリクスで決定し、達成しても手段が不十分であれば1段階下がる構造とした。賞与に反映するため、最終評語は全社評価調整会議で相対化する。
13.1on1ミーティングを制度化した。毎月末に1回、30分から40分の面談を必須とした。面談はコンピテンシー評価シートとコミットメント評価シートを材料に行い、記録をタレントマネジメントシステムに蓄積する。面談対象者が一定人数を超える場合は権限移譲で対応する。評語は開示することとした。
14.賞与の生活給部分を基本給へ振り替えた。賞与のうち生活給にあたる2か月相当分を月例給に移し、全等級で基本給テーブルを引き上げた。年収の総額が下がらないことを移行ルールとして明示した。残る賞与は業績貢献に対するポイント制とした。
15.昇格昇給を新設した。評価に基づく昇給に加え、昇格時に等級ごとの定額を上乗せする。上位等級の下限額に満たない場合は下限額へ引き上げる調整を組み込んだ。
16.移行と浸透を段階的に設計した。新賃金への移行を評価制度の適用より先に置き、処遇の改善を先に実感できる順序とした。従業員説明会を開催し、評価者研修と被評価者向けの制度活用研修を並行して実施した。期中異動時は異動時点で評価を確定し、異動先へ引き継ぐルールも定めた。
導入後の変化
1.勤務地を選べる制度が採用の訴求になっている。全国転勤型と地域限定型の区分は、新卒採用において勤務地を確約できる仕組みとして案内されており、中途採用の求人でも転勤の有無が条件として明示されている。設計時に置いた選択肢が、募集要項の記載として使われている。
2.現場から基幹社員への登用が経路として機能している。同社は現場スタッフの社員登用の機会を年2回設けており、製造工程を担当していた人材が改善活動を通じてリーダーとなり、部署の責任を担うに至った例が公開されている。制度改定前に給与の逆転とキャリアの長期化を招いていた区分は、通過できる経路に置き換わった。
3.外国籍人材の在籍が拡大している。同社は23か国の外国籍人材が在籍していることを公表している。昇格要件から言語による障壁を取り除く設計は、この構成を前提とした人材活用と方向が一致している。
4.組織規模が拡大した。正社員数は2023年10月時点の1,235名から、2026年4月時点で1,684名となっている。営業拠点は2025年5月時点で全国34か所である。
5.経営層と従業員層で制度の用語が揃った。コンピテンシー評価とコミットメント評価という同一の枠組みが、取締役・執行役員から一般社員までを貫いている。等級が上がるほど求める水準が高まる構造であり、階層をまたいだ異動や昇格の際に評価基準を翻訳する必要がない。
人事制度の価値は、公開した時点ではなく、その後に何人が上に進んだかで測られる。セレクションアンドバリエーションが設計した等級・評価・報酬の体系は、現場から基幹社員へ、基幹社員から管理職へ、そして経営層へと続く1本の経路として、同社に残っている。
本プロジェクトの特徴
1.企業価値への貢献は、人材の供給源を社外から社内へ移すことである。本案件では、等級制度の再設計にあたって、最初に手を付けたのが現場スタッフの区分であった。判断の根拠は、拠点拡大に必要な営業所長・営業部長を外部採用だけで賄うのは、この規模と拠点数では現実的でないためである。自社の現場に人はいた。制度が経路を塞いでいただけであった。
2.企業価値への貢献は、求人票に載る金額を変えることである。本案件では、賞与のうち生活給にあたる部分を基本給へ振り替えた。年収の総額は変えていない。根拠は、採用市場で比較されるのは年収ではなく月例給であり、賞与への配分が厚いほど、同じ人件費を払いながら見劣りするためである。原資を増やさずに競争力を上げられる余地が、配分の側にあった。
3.企業価値への貢献は、階層をまたいで同じ言葉で人を語れる状態をつくることである。本案件では、前年度に経営層へ導入したコンピテンシー評価とコミットメント評価の枠組みを、従業員層にそのまま展開した。根拠は、経営層と従業員層で評価の用語が異なると、昇格の判断のたびに基準の読み替えが必要になり、後継者の議論が階層の境目で途切れるためである。経営層を先に設計しておいたことが、この統一を可能にした。
担当コンサルタント: 平康 慶浩
最も判断を要したのは、賞与を基本給に振り替える範囲でした。振り替えるほど採用時の見え方は良くなりますが、その分だけ業績が悪化したときに動かせる原資が減ります。私たちは生活給にあたる部分だけを移し、業績に連動する部分は賞与に残す線引きを提案しました。処遇の安定と経営の柔軟性は、どちらかを選ぶものではなく、どこで分けるかの問題だと考えています。
よくあるご質問
A. 振り替える範囲を限定すれば管理できる。賞与には、支給額がほぼ固定化している生活給の部分と、業績に応じて変動する部分が混在しているためである。前者は実質的に固定費であり、賞与に置いておいても経営の柔軟性には寄与しない。本事例では、生活給にあたる2か月相当分のみを基本給へ移し、業績貢献に応じる部分はポイント制の賞与として残した。
Q2. 等級制度と職務等級制度は、どちらを選ぶべきか。
A. 二者択一にする必要はない。下位層は職務が頻繁に変わり、職務の大きさで処遇を決めると異動のたびに給与が動いて運用が破綻するためである。一方、上位層は職務の大きさが処遇差の主な理由になる。本事例では、6階層の資格等級を全社に敷いたうえで、本部長・営業部長・営業所長という業績責任を担う職務にのみ職務等級を重ねる二層構造とした。
Q3. なぜ職務等級を単一給ではなくレンジレート(範囲給)にしたのか。
A. 単一給にすると、同じ職務にとどまる限り評価がどれだけ高くても処遇が動かず、昇進以外に報いる手段がなくなるためである。ポストの数には限りがあるため、昇進のみを動機付けの手段にすると、多くの人が数年で頭打ちになる。本事例では、格付けごとに上限と下限を置き、評価結果に応じてレンジ内の金額へ洗い替える方式とした。職務が同じでも成果によって処遇が変わる。
Q4. 現場スタッフから正社員へのキャリアを設計する際の要点は何か。
A. 転換時の段差をなくすことである。現場側の等級上限と正社員側の下限に開きがあると、転換の瞬間に給与が下がるか、逆に現場の熟練者のほうが高くなる逆転が生じ、どちらの場合も転換が進まないためである。本事例では、現場側の報酬上限を引き上げ、同時に基幹社員側の下限を引き下げて重なりをつくった。あわせて、転換できる等級の上限とコース転換のルールを明文化した。
Q5. 評価結果は本人に開示すべきか。
A. 開示すべきである。評語を伏せたまま改善を求めても、本人は自分がどの位置にいるのかを把握できず、昇格に向けた行動が具体化しないためである。ただし開示は評価者の負荷を上げるため、面談の質を担保する仕組みを同時に用意する必要がある。本事例では、評語を開示する方針としたうえで、毎月末の1on1ミーティングを必須化し、評価者研修を制度移行と並行して実施した。
Q6. 人事制度は何年くらいで作り直す必要があるのか。
A. 等級定義とキャリアの骨格は5年から10年の耐用年数を持たせられる。事業の内容が変わっても、求める人材像を経営理念と結びつけて記述しておけば、定義そのものは有効であり続けるためである。見直しの周期が短いのは報酬水準と評価のウェイトであり、こちらは労働市場の動きに応じて調整する。本事例では、2021年に適用した等級とコースの区分が、組織規模の拡大とグループ会社の増加を経て、現在も採用時の説明に用いられている。