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製造派遣・請負業の人事委員会設置|後継者を切らさない経営幹部の供給管理

人材派遣・請負業

執行役員の評価確認と後継者計画を定例議題化した人事委員会の設置運営

提供サービス人事運用

実施期間12ヶ月

支援時期2020年~2021年

対象層・対象人数取締役・執行役員

事例サマリー

近畿地方に本社を置く製造派遣・請負業(支援当時の売上規模 約400億円)に対し、セレクションアンドバリエーションが人事委員会を設置し、運営を支援した。設計した役員制度を、後継者を管理する経営の会議体として動かした事例である。

背景

製造現場向けの人材サービスを主力とする同社は、近畿地方に本社を置き、全国に営業拠点を展開している。支援当時の売上規模は約400億円であった。

同社は2030年を目標年とする長期ビジョンを掲げ、そこから5つの骨子を導いていた。次世代経営幹部の早期育成、継続的・計画的な人材育成システムの構築、成長戦略に合致した組織戦略、企業規模にふさわしい組織デザイン、持続的成長をもたらす経営システムの構築である。

前年度に、セレクションアンドバリエーションは同社の取締役・執行役員向け評価制度を設計し、執行役員層を新設していた。制度としての骨格は整った状態にあった。

しかし、制度は運用されて初めて機能する。誰が評価結果を確認し、誰が後継者を決め、誰が採用の基準を承認するのか。その判断を担う場が、経営の側に存在していなかった。制度を動かす会議体をつくることが、この年度の主題となった。

課題(Before)

支援当時 売上規模 約400億円の同社には、役員制度の運用に関して以下の課題があった。

1.新しい評価制度を確認し判断する場がなかった。制度は設計されていたが、評価結果を持ち寄り、賞与や任用に反映する意思決定の場が定例化されていなかった。

2.新任の執行役員が制度どおりに評価されているか検証されていなかった。階層を新設した直後であり、基準の運用が現場任せになると、制度が形だけ残る危険があった。

3.後継者計画が存在しなかった。部長以上の役職者について、後任候補が誰であるかが組織として把握されていなかった。

4.部長層の適否を判断する客観的な材料がなかった。上長の主観に依存した評価では、後継者計画の前提として使えなかった。

5.経営幹部候補の外部採用が場当たり的であった。必要ポストの定義、職務定義書の作成、人材紹介会社への提示、選考の進め方が標準化されていなかった。

6.営業所長層の供給が拠点拡大の計画に追いついていなかった。営業所長および代理は29名在籍していたが、次の候補層が計画的に育っていなかった。

7.外部から入社する経営幹部の立ち上がりを支える仕組みがなかった。同業他社の出身者であっても、自社固有の経営管理の考え方を短期間で理解する道筋が用意されていなかった。

8.外部環境の急変に評価が対応できなかった。2020年は事業環境が大きく変動し、期初に設定した業績目標の前提が期中に崩れた。目標の達成度をそのまま評価に反映してよいかを判断する場が必要になった。

目的と設計方針

セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、前年度に設計した役員制度を、経営が毎四半期に使う道具として定着させることである。制度の追加設計ではなく、運用の型をつくることに範囲を絞った。

方針は5点とした。

1.人事委員会を四半期ごとの定例機関として設置する。参加者は社長、取締役、外部コンサルタントとし、事務局は経営企画部門が担う。

2.議題を3本に固定する。取締役・執行役員層の活躍支援、執行役員・部長層の後継者計画の管理、次世代経営幹部層の採用推進である。毎回この3本を扱い、議題の入れ替えを行わない。

3.評価は点数まで試算したうえで委員会に提示する。議論の出発点を印象ではなく数値に置く。

4.外部者を常時同席させる。社内の力学から独立した見解を、評価と任用の議論に必ず1つ入れる。

5.後継者計画は上位ポストから順に着手する。全階層を同時に扱わず、取締役・執行役員から始めて部長級、営業所長級へ降ろす。

実際に構築した制度のポイント

本案件で構築したのは、制度そのものではなく、制度を動かす年間の運用サイクルである。

1.四半期定例の会議体を設置した。開催月を月初の経営会議直後に固定し、経営の意思決定サイクルに組み込んだ。事務局を経営企画部門に置き、人事部門は採用の実行を担う分業とした。

2.年間の議題設計を先に確定した。第1回は配置協議、人材要件に基づく部長評価、後継者計画の検討、外部採用ルートの検討。第2回は四半期面談の結果に基づく評価確認と組織体制の確認。第3回は半期結果の振り返りと具体的な支援策の検討。第4回は中期の組織体制確認と翌年度の育成計画とした。

3.求める人材像を3軸に集約した。前年度に定義した7項目のコンピテンシーを、専門性、リーダーシップ、理念の3軸に整理した。階層が上がるほど理念の比重が高まる構造とし、部長から執行役員への昇進層では専門性、リーダーシップ、人と組織の育成を重点項目とした。

4.評価を点数で提示する運用とした。コンピテンシー評価に30%、コミットメント評価に70%のウェイトを掛けて総合点を算出し、5段階のランクに変換したうえで、賞与の月数係数まで示した。

5.評価結果の解釈を委員会の議題とした。外部環境の変動により、利益目標は達成したが売上は大きく未達という状況が生じた。点数どおりのランクを適用するか、相殺関係を踏まえて調整するかを、委員会で明示的に議論する運用とした。

6.マネジメントアセスメントを部長級・部長代理級まで実施した。損益責任を持つ営業部門と、それ以外の管理・間接部門の双方について多面評価を行い、後継者計画の客観的な材料とした。

7.後継者計画のフレームを定めた。採用計画、教育計画、異動計画、任用計画の4つを、事業ライン別に整理する形式である。営業部門は上位等級層の評価が高いことから拠点拡大に合わせた抜擢を、管理部門は他部門からの若手任用による部門間異動を、それぞれ方針として置いた。

8.経営幹部の外部採用を標準化した。必要ポストの明確化、職務定義書の作成、複数の人材紹介会社への一斉提示、選考プロセスのルーチン化、採用後のフォローという5段階の流れを定義した。要件は1社との面談で整理し、それを各社へ展開する進め方とした。

9.中途入社する経営幹部の受け入れ設計を行った。自社の沿革、経営理念、中長期ビジョン、採算管理の考え方、業界固有の法規制と業務知識、人事制度、主要取引先との関係、社内キーパーソンを講義形式で学ぶ短期プログラムを設計した。あわせて現地視察と会議体での提案を実践編に置いた。

10.入社直後の期待役割を明文化する手順を定めた。教育完了時点でコンピテンシーシートにより期待を示し、1か月から3か月の対話期間を経てコミットメントシートに落とし込む。加えて社長または専務との隔週の定期面談を設定し、採用後半年程度で多面評価を実施する流れとした。

11.翌年度以降の連続型幹部教育を計画に落とした。部長以上を対象とするリーダー向け連続型プログラム(LIP)を先に実施し、その修了者を経営幹部向けプログラム(EIP)へ接続する2年連続の設計とした。各年度の受講者からの経営改善提案を、翌年度の人事異動の検討材料とする運用を組み込んだ。

導入後の変化

人事委員会は2020年5月に第1回を開催し、以降、四半期ごとの定例機関として運営されている。

1.評価が経営の意思決定に接続した。取締役および執行役員について、四半期ごとに点数化した評価が委員会に提示され、賞与への反映が委員会の場で確定した。制度の適用が個別の面談に閉じず、経営の合議体で扱われる状態になった。

2.外部環境の変動に対する評価の扱いが議論の対象になった。利益目標は達成したが売上は未達という状況について、点数どおりに扱うかを委員会で検討した。翌期の目標設計では、単一指標への依存を下げ、担当顧客の成長率や担当部門の達成割合、新規拠点の設置といった指標を選択肢として検討する方向が示された。評価の前提を毎期見直す運用が、制度の初年度に組み込まれた。

3.後継者計画が組織の共有情報になった。部長級・部長代理級までのマネジメントアセスメントを実施し、事業ライン別の後継者計画として整理した。取締役・執行役員から着手し、営業所長級までを対象範囲に含めた。

4.後継者計画の対象者が実際に任用された。当時、後継者計画のなかで部長級として管理されていた人材が、その後、執行役員として本部機能の責任者に就いている。計画が名簿の作成にとどまらず、任用の判断に使われたことを示している。

5.経営幹部の階層が定着し、拡張された。前年度に新設した執行役員および上席執行役員の区分は、現在も同社の役職名称として用いられている。人員は増加しており、正社員数は2023年10月時点の1,235名から、2026年4月時点で1,684名となっている。営業拠点は2025年5月時点で全国34か所である。

6.グループの拡大に体制が対応した。同社は2021年と2022年に、それぞれ1社を子会社化している。経営幹部の評価と後継者管理の枠組みが先に整っていたため、拡大した組織の責任者を位置づける議論を、既存の委員会の議題として扱うことができた。

人事制度は、設計した時点ではまだ何も動いていない。動きはじめるのは、経営が毎四半期にその制度を使って人を決める場ができたときである。セレクションアンドバリエーションが設置を支援した人事委員会は、経営体制の交代と組織の拡大を経てなお、同社の経営幹部を管理する場として運営されている。

本プロジェクトの特徴

1.企業価値への貢献は、設計した制度を毎四半期に使われる状態にすることである。本案件では、制度の追加設計を行わず、運用の会議体を設置することに範囲を絞った。判断の根拠は、前年度に骨格は完成しており、機能していない理由が設計の不足ではなく、判断する場の不在にあったためである。制度を足すほど運用は重くなる。足りなかったのは分量ではなく、使う機会であった。

2.企業価値への貢献は、後継者の議論を印象から数値へ移すことである。本案件では、評価点を試算したうえで委員会に提示し、部長級まで多面評価を実施してから後継者計画に着手した。根拠は、後継者計画が「誰が有望か」という会話にとどまる限り、参加者の発言力の差がそのまま結論になるためである。数値は結論ではないが、議論の出発点を揃える。

3.企業価値への貢献は、外部の視点を意思決定の場に常設することである。本案件では、外部コンサルタントを人事委員会の参加者として毎回同席させた。根拠は、経営幹部の評価と任用は社内の人間関係から独立させにくく、単発の助言では力学を変えられないためである。定例の議席として組み込むことで、独立した見解が毎回1つ必ず場に出る状態をつくった。

担当コンサルタント: 平康 慶浩

最も判断を要したのは、外部環境が急変した年に、点数どおりの評価を通すかどうかでした。目標の前提が期中に崩れた以上、そのまま適用すれば納得は得られません。それでも、初年度に例外をつくれば、以後は毎年の交渉になります。私たちは点数を先に示したうえで、調整するかどうかを委員会で議論していただく形を選びました。

よくあるご質問

Q1. 役員評価制度をつくったあと、運用は誰が担うべきか。
A. 経営の合議体が担うべきである。人事部門に運用を委ねると、役員の評価という人事部門より上位の判断を扱えず、実質的に社長の個別判断に戻るためである。合議体には社長と取締役が参加し、事務局は経営企画部門など経営に近い部署が担うのが機能しやすい。本事例では、社長、取締役、外部コンサルタントで構成する人事委員会を四半期ごとに開催し、経営企画部門を事務局とした。

Q2. 後継者計画(サクセッションプラン)はどこから着手すべきか。
A. 上位ポストから順に着手する。全階層を同時に扱うと情報量が過大になり、どの階層についても結論が出ないためである。取締役と執行役員の後任を先に議論すると、その候補となる部長層に必要な要件が具体化され、下位階層の議論が自動的に絞り込まれる。本事例では、取締役・執行役員から着手し、部長級、部長代理級、営業所長級へ順に対象を広げた。

Q3. なぜ人事部門主管の運用にせず、外部コンサルタントを会議体に常時同席させたのか。
A. 経営幹部の評価と任用は、社内の人間関係から独立させることが構造的に難しいためである。単発の助言では、その場では受け入れられても、日常の力学に戻ると結論が変わる。定例の議席として外部者を組み込めば、独立した見解が毎回必ず場に出る。本事例では、外部コンサルタントを人事委員会の正規の参加者とし、評価の試算と後継者計画の仮案を毎回提示する役割を担った。

Q4. 外部環境の急変で期初目標の前提が崩れた場合、評価をどう扱うべきか。
A. 点数を先に算出し、そのうえで調整の要否を合議で判断するのがよい。計算前に配慮を織り込むと、何をどれだけ調整したのかが記録に残らず、翌年以降の判断基準にならないためである。調整する場合も、指標そのものの見直しを翌期の目標設計に反映させる。本事例では、単一の利益指標への依存を下げ、担当顧客の成長率や担当部門の達成割合などを目標の選択肢として検討する方向を示した。

Q5. 経営幹部を外部から採用した場合、立ち上がりに何が必要か。
A. 自社固有の経営管理の考え方を、最初に集中して伝えることが必要である。同業他社の出身者であっても、採算の見方や意思決定の順序は会社ごとに大きく異なり、そこを曖昧にしたまま成果を求めると、判断の食い違いが後から表面化するためである。本事例では、沿革、経営理念、中長期ビジョン、採算管理の考え方、業界固有の法規制、人事制度、主要取引先との関係を講義形式で扱う短期プログラムを設計し、期待役割の明文化と社長または専務との隔週面談を組み合わせた。

Q6. 人事委員会のような合議体は、何年くらい続ける必要があるのか。
A. 期限を切らずに常設するのが前提である。後継者の育成は5年から10年の時間軸で進むため、数年で終了すると、育成の途中経過を誰も引き継げなくなるためである。外部者の関与は、運用が定着した段階で頻度を下げる調整が可能である。本事例では、2020年5月に設置した委員会が、経営体制の交代とグループ会社の増加を経て、現在も経営幹部を管理する場として運営されている。