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医療機器メーカーの人事制度改革|ダブルラダー設計で6年継続運用

製造業

環境変化に対応し、継続的に発展するための人事改革

設立1940年代

従業員約270名

売上約140億円

提供サービス人事戦略策定・人事制度設計

実施期間16ヶ月

支援時期2019年~2020年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

北海道と本州に事業基盤を持つ、従業員300名規模の医療機器製造販売業である。セレクションアンドバリエーションは、約10年間更新されていなかった人事制度を、行動等級と職責等級のダブルラダーへ全面的に再構築した。2020年4月に導入した制度は、その後も運用が継続されている。

背景

医療機器製造販売業を営む同社は、性格の異なる複数の事業を1社で抱えている。本州では医療分析装置や体外診断用医薬品を自社で研究開発・製造し国内外へ販売するメーカー事業を、北海道では他社製品も含めた医療機器・理化学機器を医療機関へ供給するディーラー事業を展開し、加えて先端材料分野の事業も併営している。

事業構造の違いは、そのまま人材要件の違いとなる。メーカー事業では独自技術を更新し続ける研究開発力が、ディーラー事業では地域医療の現場と長期の信頼関係を築く営業・サービス力が必要となる。いずれも人に蓄積される能力であり、専門人材の確保と定着なしに事業は継続しない。

しかし人・組織の側には構造的な制約が生じていた。同社では北海道における営業職の採用が年々難しくなり、若手から中堅層の流出が目立つようになっていた。従業員の間では給与水準が他社より低いという不満も生じていた。

現行の人事制度は約10年前に構築されたものである。導入当時は世間の潮流を踏まえた設計であったが、その後の労働市場と働き方の変化を吸収できないまま運用が続いていた。社長交代を機に働きやすい環境づくりが進められるなか、人事制度そのものを事業の継続発展に耐える仕組みへ作り替えるという経営判断が下され、セレクションアンドバリエーションへの相談に至った。

課題(Before)

医療機器製造販売業である同社の人事制度には、着手前の現状分析で次の8点の課題が確認された。

1.現行制度は約10年前に設計されたまま更新されていなかった。制度が現実の労働市場と乖離しているため、処遇の根拠を社員に説明できない状態に陥っていた。

2.役割等級を軸としながら、職務制度、等級内グレード、給与の洗い替え方式が並存していた。仕組みが多層化した結果、何をすれば処遇が上がるのかが本人にも上司にも見えなくなっていた。

3.賃金水準は、社員の半数以上が同業種・同地域・同規模の統計水準を下回る一方、各等級の上位者は都市部の水準を上回っていた。全体としては採用競争力が弱いのに一部では過大という歪みが同時に存在し、限られた人件費が有効に配分されていなかった。

4.隣接する等級間で賃金レンジの重複幅が大きく、一部では非管理職と管理職の逆転が生じていた。責任の重さと処遇の対応関係が崩れ、昇格することの意味が薄れていた。

5.給与は毎年洗い替える方式であり、評価の良し悪しが翌年以降に持ち越されなかった。努力の蓄積が処遇に残らないため、長期的な成長実感が得られず、若手・中堅層が定着する動機になりにくかった。

6.目標管理制度(MBO)は数値目標が中心で、目標の選定水準も評価の厳しさも評価者の裁量に委ねられていた。部署間で評価のバランスが取れず、結果からの逆算による目標設定も起こりやすかった。

7.処遇を伸ばす経路が管理職ポストに事実上限定されていた。ポストがなければ処遇が上がらず、専門性で貢献する人材に将来像を示せなかった。

8.定年再雇用制度は個別対応が中心で、処遇の決定基準もプロセスも明文化されていなかった。シニア層の活躍を前提とした設計になっておらず、本人にも上司にも見通しが立たなかった。

目的と設計方針

医療機器製造販売業である同社に対し、セレクションアンドバリエーションが設定した本プロジェクトの目的は、採用力を高め、若手から中堅層の離職を防ぎ、事業の継続的発展を担う人材を確保・育成できる状態をつくることにある。等級・評価・報酬を個別に手直しするのではなく、一体の人事グランドデザインとして再構築することを前提とした。

設計の起点には「制度から考えない」という方針を置いた。まず経営層と管理職層へのインタビューを行い、全社員を対象とした組織風土診断(エンゲージメントサーベイ)で満足度と優先度の2軸から改善順位を可視化した。

並行して定量分析を実施した。公的統計との比較による外部競争力の検証、等級別の賃金分布による内部公平性の検証、5歳刻みの人員動態分析である。感覚ではなく事実で課題の優先順位を決め、そのうえで求める人材像を言語化して制度に落とした。

設計の柱は5点である。第1に、求める人材像を明文化し、そこから逆算して等級を設計すること。第2に、行動と職責という2つの軸で等級を複線化すること。第3に、事業本部ごとに評価軸を分化させたうえで全社共通軸を併存させること。第4に、洗い替え方式から積み上げ型の賃金テーブルへ転換すること。第5に、定年再雇用制度までを一気通貫で設計することである。

等級の複線化は、この案件における最大の設計判断であった。能力を軸とした等級だけでは能力開発意欲は高まるが人件費の管理が難しく、職責を軸とした等級だけではポストがない限り処遇を上げられず、組織が硬直化し、職責変更のたびに処遇が激変する。両者を併用して緩やかに連動させることで、長期的な育成と早期抜擢を同時に実現し、役職を離れる局面でも能力に対する評価は維持したまま職責のみを見直せる構造とした。報酬・評価の各制度は、この等級構造から一貫して導出している。

実際に構築した制度のポイント

医療機器製造販売業である同社に構築した新制度は、次の5領域で構成される。

【等級制度】

1.求める人材像を3つの文で明文化し、これを「行動としての具体化」と「職責としての具体化」の2方向へ展開した。制度の起点を人材像に置くことで、等級・評価・採用基準が同じ言葉で説明できる構造とした。

2.行動等級(コンピテンシー等級)は7段階とし、各段階に期待される行動水準を、業務の範囲・上位者からの自律度・後進育成への関与・ステークホルダーに対する影響力という観点で定義した。

3.職責等級はマネジメント職を5段階、専門職を3段階とし、社内での責任範囲・対外折衝の重さ・改善改革の度合い・求められる専門性の獲得難度・管理対象という5項目で定義した。専門職コースを設けることで、管理職ポスト以外の処遇経路を確保している。

4.2つの等級は緩やかに連動させ、厳格な紐付けは行わない。これがダブルラダー(複線型等級)の要点であり、能力の伸長と職責の変動を別々に扱えるようにした。従来の職務制度、等級内グレード、洗い替えの仕組みは廃止した。

【昇降格】

1.昇級には卒業基準と入学基準の双方を設けた。卒業基準は行動評価の結果とし、入学基準として最低滞留年数と、一次評価者以上の複数名による推薦書を要件とした。

2.上位等級への昇級では、プレゼンテーション形式の試験と、人事部門・該当本部長・取締役による面接を段階的に課している。

3.上司からの推薦がない社員についても人事部門と役員が確認し、必要に応じて評価者への聞き取りと推薦の追加を促す仕組みを組み込んだ。推薦制は運用次第で埋もれる人材を生むため、その穴を制度側で塞いだものである。

4.降級時には職責の適否を改めて判断し、原則として職責も降格させる。降級に至らない場合でも、職責にふさわしくないと判断されれば職責等級のみを見直せる構造とした。

【評価制度】

1.人事評価を行動評価と数値評価の2本立てとした。半期ごとに実施し、いずれも5段階の基準で評価する。

2.行動評価は全社共通項目3つと事業本部別項目3つの計6項目で構成し、各項目を等級ごとに階層化して定義した。同じ項目名でも下位等級と上位等級では求める水準が異なることを、文章として明示している。

3.事業本部別項目は、経営管理部門、メーカー部門、ディーラー部門、先端材料事業部門でそれぞれ異なる組み合わせとした。事業ごとに成果へ至る行動が異なるためである。

4.数値評価は、各事業部の財務・顧客・業務プロセス・人材の4つの視点であらかじめ整備したKPI群から、上司が個人の目標を選定する方式とした。目標の水準が評価者の裁量に依存する状態を、指標を先に示すことで解消している。

5.チーム業績評価を導入し、チーム共通目標と個人目標を組み合わせてウエイトの上限を定めた。個人評価のみでは組織全体の生産性向上に結びつかないためである。

6.評価ウエイトは等級と職種で変え、下位等級ほど行動評価を重く、営業職と上位等級ほど数値評価を重く配分している。

7.評価は原則2名のマネジメント職が担い、最終評価は委員会で決定する。評価者の甘辛による偏りを、プロセスの側で補正する設計とした。

【報酬制度】

1.管理職と一般社員で異なっていた月例給与の構成を統一し、行動等級で決まる部分と職責等級で決まる部分の2階建てに整理した。構成が職層で異なると、昇格時に何が変わるのかを本人が理解できないためである。

2.賃金テーブルを毎年の洗い替えから積み上げ型の号俸管理方式へ転換し、評価の蓄積が翌年以降にも残る構造とした。

3.同一等級内での滞留が長くなるほど昇給ペースが逓減する段階設定を組み込み、上位等級への昇級が処遇改善の主経路となるよう設計した。

4.賞与は部門単位の考課を廃止し、管理職については職責部分も算定基礎に含めたうえで、業績評価係数を上位等級ほど大きく設定した。責任の重さと変動幅を対応させるためである。

5.住宅補助手当を借上社宅制度へ切り替え、転勤者・単身赴任者・新規入社者それぞれの適用要件と、年数に応じた補助割合の逓減ルールを整理した。税制上の取り扱いを踏まえ、同じ人件費でも従業員の手取りが増える設計としている。

6.家族手当は支給要件を見直し、子女への支給を在学の有無や人数にかかわらず一定年齢までとした。学歴や進学状況によって処遇が変わる構造を外し、判定の簡明さを優先した。

【定年再雇用制度】

1.定年前の行動等級・職責等級を引き継ぐ再雇用等級を定義し、定年前後で評価と処遇の枠組みが断絶しないようにした。

2.働き方をフルタイム・短時間・短日の3コースに分け、本人の希望と組織都合を踏まえて選択する構造とした。

3.処遇決定のプロセスと時期を、対象者のピックアップから面談・処遇決定・雇用契約締結まで、担当者と実施時期を含めて明文化した。

4.世代交代を目的として、各等級に上限年齢を定めた。役職定年制度と同様の機能を、再雇用等級の側に組み込んだものである。

【移行と浸透】

1.移行設計には制度設計と同等の工数を投じた。旧等級から新等級への読み替えルールを職種別に定め、旧制度の評価ランクを新制度の5段階へ読み替える対応表を作成した。

2.上期と下期で評価制度が異なる過渡期の年度については、上期・下期の評価結果を組み合わせて年間評価を決定するマトリクスを別途用意した。

3.導入日を年度初めに置き、給与への反映は遡及して支給することとした。制度の切り替え日と実務の準備期間を分けることで、移行時の混乱を抑えている。

4.導入後は、全社員向けの制度説明会、評価者研修(考課者研修)、新しい目標設定書の導入を数か月にわたって段階的に実施し、関連規程の改訂もあわせて進めた。

5.制度に関する問い合わせは記録が残る単一の窓口へ集約し、回答を全社で共有する運用とした。口頭での個別回答が積み重なると、制度の解釈が部署ごとに分岐するためである。

導入後の変化

医療機器製造販売業である同社の新人事制度は、2020年4月の導入から運用が継続されている。以下は、同社が公開している情報から確認できる事実と、設計時点で意図した変化である。

1.改定時に新設した借上社宅制度が、現在も同社の福利厚生の中核として掲載されている。制度改定にあたって住宅補助手当から切り替えたものであり、6年を経て同社の採用条件の一部として定着している。

2.家族手当の設計判断が、文言のかたちで残存している。改定時に定めた「在学の有無や人数にかかわらず一定年齢まで支給する」という要件は現在も維持され、一方で支給額は同社自身の判断で調整されている。設計した骨格を保ちながら水準だけを自社で動かせている状態は、制度が形骸化せず運用の対象であり続けていることを示す。

3.半期ごとの評価と、明確な基準に基づく昇格の運用が継続している。制度改定で導入した行動評価と数値評価の2本立て、および評価に基づく昇級の仕組みは、導入後も評価サイクルとして機能し続けている。

4.勤務地手当をはじめとする改定時の手当体系が、現在も維持されている。手当は制度改定後に最も削られやすい領域だが、設計時に支給要件を機能として整理したことが、その後の存続につながっている。

5.同社が公表する従業員数は、現在250名を超える規模で推移している。制度改定時に賃金分析の対象とした正社員は150名規模であり、組織は当時より拡大している。等級・評価・報酬の共通体系が先に整っていたため、人員の増加に対して制度の側を作り直す必要が生じていない。

6.昇級に必要な行動が等級ごとの文章として明示されたことで、上司と部下が同じ言葉で成長を語れる状態を意図した。従来は「何をすれば上がるのか」の答えが上司ごとに異なっていたが、行動評価項目そのものが到達目標として機能する構造とした。

7.ポストの有無に左右されない専門職の処遇経路と、定年再雇用の等級・評価・報酬までを一貫させたことで、キャリアの後半に至るまで役割と処遇の接続が保たれる構造とした。管理職を離れた後の位置づけが不明確なまま処遇だけが下がるという断絶を、制度の側で避けている。

人事制度は、導入時点の完成度ではなく、6年後に自社で更新できているかどうかで評価される。セレクションアンドバリエーションが設計した等級・評価・報酬の骨格と、それに連なる福利厚生の仕組みは、同社において運用され続け、水準の調整は同社自身の判断で行われている。

本プロジェクトの特徴

医療機器製造販売業である同社の人事制度改革において、セレクションアンドバリエーションが行った判断は次の7点である。

1.制度設計ではなく、人材像の明文化から着手した。一般的には現行制度の不具合の修正から入りがちだが、それでは「今困っていること」の解消にとどまり、次の10年に耐える制度にはならない。求める人材像を先に定め、そこから等級・評価・採用基準を逆算した。制度の寿命は、その制度が何のためにあるのかを言語化できているかで決まるためである。

2.等級を単一軸ではなく複線構造とした。能力軸のみでは人件費が制御できず、職責軸のみではポスト不足が処遇の天井になる。両者を併用して緩やかに連動させることで、長期育成と早期抜擢を両立させ、役職を離れる局面でも能力評価は維持したまま職責のみを調整できるようにした。処遇の激変緩和を、例外運用ではなく制度構造そのもので担保する判断である。

3.評価項目を全社一律にせず、事業本部ごとに分化させた。管理上は全社統一が容易だが、自社製品を開発・製造する事業と、地域の医療機関へ他社製品も含めて供給する事業では、成果に至る行動がそもそも異なる。事業の違いを制度が無視した瞬間に、現場は制度を人事のための書類とみなす。共通項目で全社の一体性を担保しつつ、事業別項目で現場の実感に接続させた。

4.数値目標については新しい帳票を導入せず、既存の様式を継続した。制度改定に合わせて運用ツールを一新するのが一般的だが、変更点が多いほど定着は遅れる。等級・評価・報酬という骨格を変える年度には、運用の入口はあえて据え置いた。仕組みと運用を同時に変えないという判断が、初年度の混乱を抑えるためである。

5.賃金の問題を「水準を上げるか下げるか」ではなく「分布の歪みを直す」問題として扱った。外部競争力と内部公平性を分けて分析した結果、全体としては地域水準を下回るのに上位層は都市部水準を上回るという歪みが確認された。一律のベースアップでは歪みは残ったまま人件費だけが増える。等級ごとの賃金レンジを再設定し、限られた原資を採用力の弱い層へ振り向ける設計とした。

6.定年再雇用制度を後回しにせず、本体の制度と同時に設計した。再雇用は多くの企業で個別対応のまま残されるが、それでは対象者本人も上司も見通しを持てず、シニア層の戦力化が偶然に委ねられる。定年前の等級を引き継ぐ再雇用等級を定義し、働き方のコースと処遇決定のプロセス・時期を明文化した。

7.移行と浸透を制度設計と同じ重さで設計した。旧制度からの読み替えルール、過渡期の年度における年間評価の決定方法、遡及支給の取り扱い、説明会、評価者研修、規程改訂、問い合わせ窓口の一元化までを一連の設計対象として扱っている。制度は完成した時点ではなく、運用が回り始めた時点で初めて機能するためである。

担当コンサルタント: 松木 宏晃平康 慶浩

最も判断を要したのは、等級をどちらか一方の軸に絞らなかった点です。能力だけを見る等級では人件費が読めなくなり、職責だけを見る等級ではポストの数が処遇の上限になってしまいます。同社は事業の性格が大きく異なる複数の部門を抱えておられましたので、どちらか一方に寄せた瞬間に、必ずどこかの部門が制度に合わなくなると考えました。2つの軸を緩やかに連動させる形をご提案し、ご決断いただいた結果が、現在まで続く運用につながっていると受け止めています。

よくあるご質問

Q1. 人事制度は何年くらいで作り直す必要があるのか。

制度の骨格そのものは10年単位で持たせることができる。ただし、労働市場の変化や法改正に応じて、賃金水準・手当の要件・評価項目といった可変部分を自社で調整し続けられる設計になっていることが条件となる。逆に、細部まで作り込みすぎた制度は、部分的な修正ができず全面改定に追い込まれやすい。本事例の医療機器製造販売業では、2020年4月に導入した等級・評価・報酬の骨格は導入後も運用が継続されており、手当の支給額など可変部分は同社自身の判断で調整されている。

Q2. なぜ職務等級制度(ジョブ型)ではなく、行動等級と職責等級の併用を選んだのか。

職務等級制度は職務内容と処遇が対応するため人件費の管理がしやすい一方で、ポストの数が処遇の上限となり、組織が硬直化しやすい。中堅規模の企業では管理職ポストの数が限られるため、専門性で貢献する人材に将来像を示せなくなる。また職責が変われば処遇が激変するため、役職を離れる局面での運用が難しい。本事例では、能力の伸長を示す行動等級と、職責の重さを示す職責等級を併用し、両者を緩やかに連動させることで、長期育成と早期抜擢の両立、および役職離脱時の激変緩和を制度構造として実現した。

Q3. 給与を毎年洗い替える方式と、積み上げていく方式は、どちらがよいのか。

人材の定着を重視するのであれば、積み上げ型が適している。洗い替え方式は毎年の評価がその年の給与にのみ反映されるため、単年度の業績と処遇は連動するが、努力の蓄積が本人に残らない。数年先の処遇が見通せないことは、若手・中堅層が長期の勤続を選ばない理由になる。本事例の医療機器製造販売業では、洗い替え方式を積み上げ型の号俸管理方式へ転換し、同一等級内での滞留が長くなるほど昇給ペースが逓減する設定を組み合わせることで、定着の動機づけと昇格への動機づけを両立させた。

Q4. 複数の事業を持つ会社の評価項目は、全社共通にすべきか、事業ごとに分けるべきか。

両方を持たせるのが現実的である。全社共通項目だけでは、事業ごとに異なる成果への道筋を評価できず、現場は制度を実態と無関係な書類とみなす。逆に事業別項目だけでは、全社としての一体性や人材の異動可能性が失われる。本事例では、全社共通項目3つで企業としての一体性を担保し、事業本部別項目3つで各事業の実態に接続させる構成とした。あわせて数値目標についても、事業部ごとに財務・顧客・業務プロセス・人材の4視点でKPIを整備している。

Q5. 定年再雇用制度は、本体の人事制度と同時に設計すべきか、後回しでよいのか。

同時に設計すべきである。後回しにすると再雇用が個別対応のまま残り、対象者本人も上司も処遇の見通しを持てないため、シニア層の戦力化が偶然に委ねられる。また、本体制度の等級・評価と切り離して設計すると、定年前後で評価の基準が変わり、本人の納得感が失われる。本事例では、定年前の行動等級・職責等級を引き継ぐ再雇用等級を定義し、働き方のコース、処遇決定のプロセスと時期、等級ごとの上限年齢までを本体制度と同時に設計した。

Q6. 人事制度を変えると、従業員の給与は下がるのか。

適切な移行設計を行えば、改定時点で給与が下がる従業員が出ない形にできる。新等級への格付けの結果、現行給与を上回る者は新制度に基づいて引き上げ、同額の者はそのまま移行し、下回る者には調整給を付与したうえで段階的に調整するのが一般的な手法である。ただし、この移行設計には制度設計と同等の工数がかかるため、設計の当初から工程に組み込んでおく必要がある。本事例では、旧等級からの読み替えルールを職種別に定め、過渡期の年度については上期と下期の評価を組み合わせて年間評価を決定するマトリクスを別途用意した。