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オフィス用品卸売業の教育体系|行動等級と連動し経営層を供給する

卸・小売業

OJT偏重の育成を3階層の連続型プログラムへ再編した行動等級連動の教育体系

設立1940年代

従業員約80名

売上約70億円

提供サービス教育制度設計・研修

実施期間36ヶ月

支援時期2024年~2026年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

中国・四国地方の文具・オフィス用品卸売業(オフィス空間の構築提案を含む、支援当時 従業員80〜100名規模)に対し、セレクションアンドバリエーションが階層別教育体系を構築した。OJT偏重で等級と接続していなかった育成を、新入社員・リーダー社員・次世代経営層候補の3階層を貫く連続型プログラムへ再編した。

背景

同社は中国・四国地方を営業基盤とする文具・オフィス用品の卸売販売業であり、文具・事務用紙製品の販売から、オフィス家具・什器、間仕切りなどの空間構築提案までを事業領域とする。

事業の重心は、単品の販売から働き方の提案へと移っていた。顧客のオフィス環境そのものを設計対象とする以上、営業担当者に求められるのは商品知識ではなく、顧客の課題を構造化して提案に翻訳する力である。

この転換は人材要件を変える。従来の育成は現場でのOJTを主軸とし、2年半という育成期間は明確に設定されていた。一方でOFF-JTは会社の歴史や社員の心得を伝える内容が中心であり、業務遂行能力の獲得とは接続していなかった。

同社には5段階の行動等級(学習・貢献・率先・指導・変革)が既に整備されていた。等級の定義はあるが、その段階に到達するための教育が用意されていない。これが支援開始時点の状態である。

加えて、経営層の世代交代が視野に入っていた。従業員80〜100名規模の組織では、経営を担える人材の層の厚さがそのまま事業継続性に直結する。

課題(Before)

従業員80〜100名規模の同社において、セレクションアンドバリエーションが整理した課題は8点である。

1.教育の主軸がOJTに置かれ、育成の質が配属先の上司に依存していた。同じ年次で入社しても、配属によって成長速度が大きく変わる。属人性を放置したまま人員を増やせば、ばらつきはそのまま拡大する。

2.OFF-JTの内容が会社の歴史と社員の心得に偏っていた。理念の共有は必要だが、それだけでは日々の業務遂行に転用できない。研修を受けても行動が変わらないという評価が定着しやすい。

3.育成期間が2年半と設定されている一方で、期間中の振り返り機会が設けられていなかった。到達度を確認する時点がないため、遅れが顕在化するのは期間が終わったあとになる。

4.行動等級が定義されているにもかかわらず、各段階に必要な能力を獲得するための教育が用意されていなかった。等級は評価と処遇には接続していたが、育成には接続していない。

5.新入社員が、社会人としての意識と行動を整える段階を踏まないまま現場に配属されていた。この段階を飛ばすと、業務スキルの習得以前に上司とのやり取りが成立しない。

6.リーダー社員が、チーム内での期待役割を言語化されないまま任されていた。役割が曖昧な状態でメンバーを動かそうとすると、指示の伝達に頼らざるを得ず、主体性を引き出せない。

7.次期経営層候補が、現経営層の定めた目標を前提に戦略を立案する経験しか積んでいなかった。目標や組織をゼロベースで設計する機会がないため、その能力を持っているかどうか自体が把握できていない。

8.候補者同士の横のつながりが乏しかった。部門を越えて経営課題を議論する場がなく、自部署の視点から抜け出す契機が生まれない。

目的と設計方針

セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、経験と教育のサイクルを回すことである。OJTを置き換えるのではなく、OFF-JTを組み込むことで、現場経験を振り返り、次の実践へ接続する回路をつくる。

設計方針は4点である。

1.行動等級との連動性を担保する。各等級で求められる行動を起点に、それを獲得するための研修を配置する。教育を等級の付属物にせず、等級到達の手段として位置づける。

2.3階層を1つの体系として設計する。新入社員向け・リーダー社員向け・次世代経営層向けを個別の研修としてではなく、段階が積み上がる構造として組み立てる。

3.積み上げの順序を、社会人化、組織人化、成果創出の3段階とする。ビジネスパーソンとしての前提を整えたうえでチームへの貢献を学び、その先にチームである意義を活かした成果を置く。

4.次世代経営層については、到達点を「与えられた目標に対して戦略を立てられる」から「目標と組織をゼロベースで設計し、重要な局面で会社を代表できる」へ引き上げる。経営層に求められるのは、業界全体の流れを把握したうえでの目標設定と戦略策定だからである。

実際に構築した制度のポイント

構築した教育体系の骨格は、行動等級に対応する3階層のOFF-JTである。

1.新入社員向けプログラムを4本、各3時間で設計した。ビジネスマインドとストレスコントロール、報連相、チームワーク、ロジカルシンキングの順に配置し、社会人化から組織人化への移行を段階的に進める構成とした。

2.新入社員向けの各回にワークを組み込んだ。プロになるとはどういうことか、正確さと速さのどちらが重要か、といった問いに自分の言葉で答えさせることで、知識の伝達ではなく意識の転換を狙った。

3.リーダー社員向けプログラムを4本、各3時間で設計した。プロフェッショナルマインド、コミュニケーション(巻き込み)、イシューの特定、インバスケットを配置し、個人としての業務遂行からチームによる価値創出へ役割を移行させる構成とした。

4.リーダー社員向けでは、心理的安全性と1on1ミーティングを扱った。傾聴と発信を実践形式で行い、部下との関係構築を技術として習得させる設計とした。

5.次世代経営層育成研修を全6回、1回あたり4時間の連続型プログラムとして設計した。組織を動かす、内外環境分析、財務諸表分析、ビジネスモデル理解、競争戦略、そして最終回の発表という順序で、経営判断の構成要素を積み上げる構成である。

6.次世代経営層育成研修の事前課題として、自己客観視のための多面評価を実施した。他者から見た自分を出発点に置くことで、リーダーシップの議論を一般論ではなく自分の課題として扱えるようにした。

7.最終回では、研修を通じて掘り下げた自社の課題への対応方針を、個別に発表する場を設けた。学習の到達点を、知識の再現ではなく経営陣に対する提言に置いた。

8.移行と浸透:遠方からの参加者が多い階層別教育については、2つの研修を1日にまとめて実施できる運用を用意した。移動負担が受講機会を制約しないようにするためである。

9.移行と浸透:研修後のフォローメールを定期配信し、内容の想起と実践を促した。研修当日の理解で完結させず、実務での適用まで接続することを目的としている。

10.移行と浸透:各回の終了後に受講者アンケートを実施し、理解度・有用性・講師評価・気づきの4観点で回収した。次回の難度と進行速度を調整する材料として用いた。

導入後の変化

次世代経営層育成研修は2025年7月に開始し、2026年1月の最終回まで継続して実施された。以下は受講者アンケート(第1回から第4回、回答17件)に基づく実測値と、支援範囲の推移である。

1.気づき・学びの獲得は、17件の回答すべてが「ある」であった。設問は研修を通じた気づき・学び・課題認識の有無を問うものであり、4回すべてで例外がない。難度の高い内容を扱いながら、持ち帰るものがない回が生じなかったことを示す。

2.業務への有用性は、「役に立つ」14件、「やや役に立つ」2件、「どちらとも言えない」1件であった。自由記述では、リーダーとしての役割を担い始めた時期と重なったこと、事業戦略を見つめ直す契機になったことが理由として挙げられている。研修内容が受講者の職責と接続していたことがうかがえる。

3.講師評価は、「良かった」8件、「やや良かった」5件、「普通」2件、「やや良くなかった」2件であった。低い評価の理由はいずれも内容の分量と進行速度に関するものであり、内容そのものへの否定的評価は現れていない。

4.理解度は、「理解できた」2件、「やや理解できた」9件、「どちらとも言えない」6件であった。理由の記述には、その場では理解したが他者に説明できるまでには至っていない、テキストを読み返したい、といった内容が並ぶ。到達水準を自分で設定できる状態になったことの表れでもある。

5.実践意図が具体的な行動として言語化された。自由記述には、メンバーの状況を理解するために対話と傾聴に重点を置く、内外部の環境分析をチーム長と共に実施する、人事ポリシーの軸を定めてメンバーに浸透させる、といった記述が現れている。研修が概念の理解にとどまらず、翌日の行動計画として持ち帰られている。

6.部門を越えた議論の場としての価値が認識された。同じ立場で異なる部署のリーダーと共に考える場が、社内の意識合わせとして有効であるという評価が自由記述に現れた。課題として整理していた候補者間の横のつながりの不足に対応するものである。

7.支援対象の階層が拡張された。2024年に新入社員層とリーダー社員層への階層別教育から着手し、2025年には次世代経営層候補層へと対象が引き上げられている。下位階層から着手した教育体系が、経営層の後継育成にまで接続した。

教育体系は、実施した研修の本数ではなく、等級のどの段階に何を用意できているかで評価される。セレクションアンドバリエーションが構築した3階層の骨格は、新入社員の社会人化から次世代経営層の目標設計能力までを、1つの行動等級のうえに並べたものである。

本プロジェクトの特徴

本案件の特徴は3点である。

1.企業価値への貢献は、経営層の供給である。従業員80〜100名規模の組織において、経営を担える人材の層の厚さは事業継続性そのものを規定する。本案件では、次世代経営層育成研修を単独の施策として設計せず、新入社員層・リーダー社員層への教育と同じ行動等級のうえに積み上げた。理由は、経営人材が最上位だけを切り出して育つものではないためである。下位階層で役割を言語化されないまま昇進した人材に、最上位でだけ経営視点を求めても定着しない。

2.研修の難度を、受講者の理解度に合わせて下げなかった。アンケートでは理解度の評価が他の設問より低く出ている。ここで内容を薄める判断も取り得たが、採らなかった。理由は、経営層に求められる能力の水準は社内の現状によって決まるものではないためである。代わりに、事前課題の多面評価で自分の課題を特定させ、最終回に提言発表を置き、フォローメールで想起を促した。1回の講義で完結させず、復習と実践に接続する構造で補っている。

3.次世代経営層育成の入口を、知識ではなく自己客観視に置いた。第1回のテーマをリーダーシップと組織を動かす方法とし、事前課題として多面評価を実施した。理由は、経営知識の習得は自分の現在地を認めた者にしか起こらないためである。実際に、自己評価と他者評価のギャップを課題として言語化した記述が第1回のアンケートに複数現れている。

担当コンサルタント: 松木 宏晃

最も判断を要したのは、研修の難度をどこに置くかでした。理解度の評価が下がることは想定していましたが、経営層に必要な水準は社内の現状で決まるものではありません。ですから内容は下げず、自己客観視の課題と最終回の提言発表を前後に置き、1回で理解しきれないことを前提とした構造にしました。受講者の皆さまが「読み返したい」と書いてくださったことは、狙いが伝わった証だと受け止めています。

よくあるご質問

Q1. 従業員100名程度の会社でも、階層別の教育体系を整備する意味はあるか。
ある。むしろ規模が小さいほど、1人あたりが担う役割の幅が広く、育成の属人性が事業に与える影響が大きい。教育体系の役割は研修の本数を増やすことではなく、等級のどの段階に何を用意するかを決めることであり、これは規模を問わず成立する。本事例では、既に整備されていた5段階の行動等級に、3階層のOFF-JTを対応させる形で体系化した。

Q2. なぜ外部の公開講座への派遣ではなく、自社向けの連続型プログラムを選んだのか。
公開講座は知識の獲得には有効だが、自社の課題を扱えない。本事例で目的としたのは、経営知識の習得に加えて、候補者同士が部門を越えて議論する関係を築くことであった。派遣型では受講者が各自の職場に戻るだけで、この関係は生まれない。全6回を同一メンバーで進め、最終回に自社課題への提言発表を置いたのは、この2つを同時に満たすためである。

Q3. 次世代経営層向けの研修は、どのくらいの回数で設計するのが適切か。
扱う論点の数から逆算する。経営判断の構成要素として、組織を動かす方法、内外環境の分析、財務諸表の読解、ビジネスモデルの理解、競争戦略の選択は、いずれも省略できない。本事例ではこの5論点に最終回の発表を加えて全6回とし、1回あたり4時間を月1回のペースで配置した。回数を減らすと論点を落とすことになり、増やすと業務との両立が難しくなる。

Q4. 研修の理解度アンケートが低く出た場合、内容を易しくすべきか。
必ずしもそうではない。理解度の低下が内容の水準に起因するのか、進行速度や分量に起因するのかを切り分ける必要がある。本事例では自由記述から、内容そのものへの否定ではなく分量と速度への指摘であることが読み取れたため、水準は維持し、事前課題と最終回の発表、および研修後のフォロー配信で復習の機会を増やす方向で調整した。

Q5. 教育体系は等級制度と連動させる必要があるか。
連動させたほうがよい。等級と切り離された研修は、受講者にとって「なぜ今これを学ぶのか」が説明されない状態になり、参加動機が上司の指示に依存する。等級で求められる行動を起点に研修を配置すれば、受講は昇格要件の準備として理解される。本事例では、学習・貢献・率先・指導・変革という行動等級の定義に、新入社員層・リーダー社員層・次世代経営層候補層の研修を対応させている。

Q6. 新入社員研修とリーダー研修を、同じ設計思想で組み立てることはできるか。
できる。両者は到達点が異なるだけで、構造は共通である。本事例では、社会人化、組織人化、成果創出という3段階を全体の背骨とし、新入社員層には前半2段階を、リーダー社員層には後半の役割移行を割り当てた。共通の背骨を持たせることで、階層を上がるときに前の学習内容が前提として機能する。