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印刷・販促支援業のグループ人事制度改革|行動等級と職務等級の二軸設計

製造業

人材育成で業績を高める人事制度改革

設立1960年代

従業員約140名

売上非公開

提供サービス人事戦略策定・人事制度設計

実施期間5か月

支援時期2015年~2016年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

関東地方の印刷・販促支援業グループが、複数社のグループ化によって分かれていた等級・評価・報酬をひとつに束ねた事例である。セレクションアンドバリエーションが支援し、基準の不明確な運用から、経営理念に紐づく行動等級と職務等級の二軸制度へ転換した。

背景

関東地方の印刷・販促支援業グループ(従業員100〜300名規模)は、商業印刷を軸に、企画・クリエイティブ、店頭什器・空間デザイン、物流までを一貫して担う体制を築いてきた。オーナー経営であり、意思決定の速さと現場との距離の近さが強みであった。

同グループの発展は3つの段階を経ている。事業基盤を固めた第一次発展期、デジタル化への対応として制作機能を分社化した第二次発展期、そして複数の制作・印刷会社をグループに迎え入れた第三次発展期である。

支援開始時点で同グループは、次の節目に向けた長期ビジョンを掲げていた。売上高目標の達成、誰もが活き活きと働ける職場の実現、製造現場の環境水準の引き上げの3点である。これを満たすには、事業の拡大と同じ速度で人と組織の質を高める必要があった。

一方で、人・組織の側には構造的な制約があった。グループ化により、出自の異なる複数社の給与体系と処遇慣行が並存していた。職種も営業・制作・製造・物流と多様で、成果の出方が職種ごとに異なっていた。

従業員規模は100名を超え、経営者の思いが直接届く範囲を超えつつあった。加えて新卒採用を継続する方針をとっており、入社直後から全力で走り出せる育成の枠組みが求められていた。

既存の人事の仕組みは、この変化に追いついていなかった。何をすれば評価され、どう成長すれば処遇が変わるのかを説明できる基準が整備されておらず、評価は処遇決定のための作業にとどまっていた。

課題(Before)

印刷・販促支援業グループの人事課題は、制度の細部ではなく、グループ経営の前提そのものに関わるものであった。以下の7点を抽出した。

1.グループ各社・職種ごとに給与構成が異なっていた。同一グループで働きながら処遇の考え方が統一されておらず、人材の相互活用と公平感の担保が難しかった。

2.求める人材像が言語化されていなかった。何をすれば認められるのかが曖昧であり、成長の方向づけが個人の解釈に委ねられていた。

3.等級制度が処遇と成長の基軸として機能していなかった。昇格の要件が不透明であり、次の段階を目指す動機づけが働かなかった。

4.管理職以外の層に業績目標の枠組みがなかった。チームの成果に対する個々の貢献が評価に反映されず、一体となって目標を追う構図をつくれていなかった。

5.評価結果のフィードバックが仕組みとして定まっていなかった。評価が本人に返らないため、日々の行動が変わるきっかけにならなかった。

6.高年齢層の役割と処遇の切り替え点が定められていなかった。雇用延長が進むなかで、ポストの滞留と若手の昇進機会の制約が生じるおそれがあった。

7.勤務ルールと諸手当がグループ内で統一されていなかった。制度以前の運用面で不公平感が生まれやすい状態にあった。

目的と設計方針

印刷・販促支援業グループにおける本プロジェクトの目的は、長期ビジョンの達成に必要な「確実に結果を出す集団」を人事の仕組みによってつくり出すことである。モチベーションの向上そのものを目的とせず、経営の思いと従業員の成長を一体化させ、事業目標の達成に接続することを一貫した基準とした。

セレクションアンドバリエーションは、設計の柱を5点置いた。

1.グループ理念を評価基準へ翻訳し、期待する行動として全社員が読める言葉にする。

2.成長の段階を表す等級と、実際に担う職務の大きさを表す等級を分けた二軸構造をとる。

3.個人業績が明確な職種とそうでない職種とで、業績評価の方法を変える。

4.グループ各社・職種ごとにばらついていた給与構成を一元化する。

5.評価が本人に返り、行動が変わるところまでを制度の範囲として設計する。

設計の起点には、「評価基準こそが人事の中心である」という考え方を置いた。誰を採用するか、何を任せるか、どう教育するか、いくら払うかは、すべて評価基準から導かれる。この構造を経営層と共有したうえで着手した。

着手後はまず、社内アンケートとインタビューを実施した。経営者の思いがどこまで理解されているか、従業員がこの会社でどのように成長したいと考えているかを確認するためである。並行して人事分析を行い、従業員の増減、給与分布、評価履歴から構造的な課題を抽出した。制度の言葉を決める前に、現場の言葉を集める順序をとった。

制度間の整合については2つの判断を行った。第1に、行動等級を基本給に、職務等級を職務給に直結させ、ポストの空きに左右されずに成長を処遇へ反映できる構造とした。第2に、決算期の異なるグループ会社について、評価対象期間・給与改定・昇格の時期を会社ごとに設計した。制度の中身は共通としながら、運用カレンダーは各社の事業サイクルに合わせている。

実際に構築した制度のポイント

印刷・販促支援業グループ向けに構築した制度は、等級・昇降格・評価・報酬・移行の5領域で構成される。

【等級制度】

行動等級と職務等級の二軸で構成した。行動等級は、グループ理念を体現する成長段階として、学習段階・貢献段階・指導段階・革新段階という考え方で定義し、一般社員層から経営層までを一本の軸で貫いた。この等級が基本給の水準を定める。

各等級の定義文には、「理念を学びながら実践する」「プロフェッショナルとして貢献する」「指導できるレベルで体現する」「革新を心がけ次世代を育てる」といった期待を、抽象語ではなく行動として記述した。

職務等級は、実際に担っている職務の大きさに応じて設定し、職務給の水準を定める。担当実務層から管理者層、経営層までを段階化し、対応する役職呼称を整理した。ポストの有無と成長の評価を切り離しつつ、職責の重さは別途処遇できる構造である。

【昇降格】

等級ごとに候補要件と判断基準を明文化した。候補要件は過去数年間の評価実績と上司推薦を組み合わせ、判断基準は上位ポジションでの貢献計画をレポートとして提出させたうえでの上位者面接とした。

管理職層への移行にはマネジメント適性を測る社内テストを、専門職層への移行には専門性を測るテストを介在させた。上位の管理職等級についてはポストの空きを前提条件とし、成長の評価と登用の判断を混同しない設計とした。新卒入社直後の等級は一定期間経過後の自動昇格とし、育成初期の運用負荷を抑えている。

【評価制度】

行動評価は、理念を6つの期待行動(チャレンジ、プロフェッショナルワーク、チームワーク、顧客ニーズ理解、自己研鑽、人材育成)に分解し、等級ごとに求めるレベルとウェイトを設定した。

運用手順は期初・期中・期末に分けて明文化した。期初に求める人材像を本人が熟読して上司と面談し改善点を具体化する。期中は行動発揮と上位者によるコーチング。期末は本人の振り返り、上司評価、面談でのすりあわせ、二次評価、全社での序列化による評価エラーの是正、評価委員会での最終化、本人へのフィードバックという流れである。

業績評価は職種特性で2通りに分けた。個人業績が明確な職種は個人ごとに目標を設定し、達成度で評価する。個人業績が切り出しにくい職種は個別目標を設定せず、チーム目標の達成度を全員の評価基準とし、チームに配分された評価量を個人の貢献度に応じて割り振る方式とした。

後者については、期初に「チーム目標に対して各自がどの役割を担うか」を全員が納得する形で合意する手順を組み込んだ。目標が個人へ機械的に分解されることで生じる部分最適を避けるためである。

行動評価と業績評価のウェイトは職種で変えた。成果が数字で表れやすい職種は業績側を重く、それ以外は行動側を重く配分している。あわせて、無断欠勤・勤怠不良・各種ハラスメントなど、社会人としての基本行動に反する場合の査定上の扱いも明示した。

【報酬制度】

グループ各社・職種ごとにばらついていた給与構成を一元化した。管理職は行動等級に基づく基本給と職務等級に基づく職務給の二本立て、一般社員は雇用区分に応じて時間外相当分を含む構成に整理した。

評価結果は点数化のうえ社内で序列化し、相対分布に基づいて評語を最終化してから給与改定に反映する手順とした。給与構成の変更に伴って退職金の算定基礎額が変動しないよう係数による調整を行い、制度改定が不利益変更とならないようにしている。

【移行と浸透】

決算期の異なるグループ会社ごとに、行動評価の対象期間、上期・下期の業績評価期間、評価実施期間、給与改定と昇格の時期を個別に設計した。

高年齢層については役職定年を導入し、55歳時点で専門職相当の職務等級へ異動する一方、行動等級とそれに基づく基本給は変更しない扱いとした。定年後の再雇用期間の考え方も併せて整理し、労使協議を前提とした段階的な移行スケジュールを示した。

就業ルールについても、所定労働時間の運用、通勤手当の統一、自転車通勤の許可制化、近距離居住を促す住宅補助の新設などを制度としてまとめた。最後に全社説明会を開催し、経営者が自らの思いを語ったうえで、新しい人事の考え方を全従業員が具体的に理解する場をつくった。

導入後の変化

印刷・販促支援業グループが2016年に導入した新人事制度は、その後も運用が継続されている。以下は、その後の同グループに生じた変化である。

1.従業員規模が拡大した。制度改定当時に100名台であった中核会社の従業員数は、140名規模まで増加した。印刷需要の質が構造的に変化するなかで人員を増やし続けられているのは、採用と育成と処遇が同じ基準でつながっているためである。

2.グループ再編が進んだ。制度改定当時に並存していた複数社は、その後、制作会社の吸収合併と新会社の設立を経て再編されている。等級・評価・報酬の共通体系が先に整っていたため、再編のたびに処遇の統合作業を一から行う必要がなかった。制度の統一が、組織再編を実行しやすくする土台として機能している。

3.事業領域が広がった。制度改定当時の中心は印刷・制作・什器・物流であったが、現在はデジタル領域とマーケティングの上流工程まで事業を拡張している。行動等級を職務内容ではなく成長段階で定義したことにより、事業内容が変わっても等級体系を組み替える必要が生じなかった。

4.新卒採用が継続している。制度改定時に、新卒入社直後の等級を一定期間経過後の自動昇格としたことで、育成初期の運用負荷を抑えたまま毎年の採用を続けられる構造となった。求める人材像が評価基準として言語化されていることは、採用基準そのものとしても機能している。

5.改定時に新設した働き方関連の制度が、自社の手で拡張されている。近距離居住を促す住宅補助は10年を経た現在も継続し、対象年齢はむしろ引き上げられた。制度改定時に導入した仕組みが、その後の環境変化に合わせて同グループ自身の判断で調整されている。

6.人事の仕組みが、経営の変化に追随できる状態にある。理念を評価基準へ翻訳する構造を制度として持っているため、経営の掲げる言葉が更新されても、評価の枠組みごと作り直す必要がない。制度の耐用年数は、この接続構造の有無で決まる。

人事制度は、導入時点の完成度ではなく、10年後に自社で更新できているかどうかで評価される。セレクションアンドバリエーションが設計した等級・評価・報酬の骨格は、同グループにおいて、事業構成と組織構成の変化を経てなお運用され続けている。

本プロジェクトの特徴

本案件の制度改革において、判断が分かれた論点は7つある。

1.制度の不具合修正から入らず、経営の発展段階の共有から始めた。一般に制度改定は現行制度の不備を洗い出すところから着手されやすい。本案件では、創業からの発展の履歴と次の節目に向けた長期ビジョンを最初に整理した。制度を変える理由が経営の文脈から語られなければ、従業員にとっては単なるルール変更にしか見えないためである。

2.評価を人事施策の1つではなく、採用・配置・教育・報酬をつなぐ中心軸に置いた。一般に評価制度は処遇決定の手段として設計される。本案件では、評価基準が定まってはじめて採用基準・任用・教育・報酬が一貫するという構造を先に共有した。制度を個別に整備すると相互の矛盾が後から表面化するためである。

3.等級を成長の軸と職責の軸に分けた。一般に単線の等級制度は運用が簡潔で採用されやすい。本案件では二軸に分け、ポストの空き状況に左右されずに成長を認めつつ、担う職務の重さは別建てで処遇する構造とした。ポストが限られる規模の企業では、単線構造は昇格機会が構造的に不足し、成長を処遇へ反映できなくなるためである。

4.業績評価を全社一律にしなかった。一般に目標管理制度(MBO)は全社共通で導入される。本案件では、個人業績が切り出しにくい職種について個別目標を設定せず、チーム目標の達成度を評価基準に置き、配分によって個人差をつける方式を選んだ。切り出しにくい職種に個人目標を課すと形式的な目標が量産され、部分最適が生じるためである。

5.評価の運用手順を期初から明文化した。一般に評価制度では期末の査定手順が中心に定められる。本案件では、期初の基準共有と面談、期中のコーチング、期末のすりあわせとフィードバックまでを一続きの手順として定義した。評価が本人に返らなければ行動は変わらず、制度が処遇決定の作業に戻ってしまうためである。

6.グループ共通の制度としながら、運用カレンダーは会社ごとに分けた。一般にグループ人事の統合では、運用時期も揃えることが効率的とされる。本案件では制度の中身のみを揃え、評価期間と給与改定時期は各社の決算期に合わせた。決算期の異なる会社を同一サイクルへ寄せると、事業の実態と評価対象期間がずれ、業績評価が機能しなくなるためである。

7.制度本体だけでなく、勤務ルール・通勤関連の諸制度・高年齢層の役割転換までを同時に整理した。一般にこれらは制度改定後の運用課題として先送りされやすい。本案件では制度改定と同時に着手した。給与や評価が変わっても、日々の働き方のルールが会社ごとに異なれば公平感は生まれないためである。

担当コンサルタント: 平康 慶浩

最も判断を要したのは、業績評価を全社一律にするかどうかでした。個人目標を全職種に課すほうが制度としては整います。しかし制作や製造の現場では、目標を個人へ分解した瞬間にチームで助け合う動機が失われます。目標管理の精緻さより、チームで勝つ構造を選ぶべきだと申し上げ、経営陣にご決断いただきました。

よくあるご質問

Q1. 行動等級と職務等級を併用する二軸の等級制度は、どのような企業に向いているか。

ポスト数が限られる中堅規模の企業に向いている。単線の等級制度では、昇格がポストの空きに依存するため、成長しても処遇が変わらない層が構造的に生じる。行動等級で成長段階を、職務等級で職責の重さを別々に処遇すれば、ポストがなくても成長を認められる。本事例では、行動等級を基本給に、職務等級を職務給に直結させ、若手の抜擢と再チャレンジの両方を可能にした。


Q2. なぜ全社で目標管理制度(MBO)を統一せず、チーム業績評価を併用したのか。

個人業績を切り出せない職種に個人目標を課すと、形式的な目標が量産され、部分最適が生じるためである。制作・製造・物流のように複数名で1つの成果を出す職種では、個人目標が協働を妨げる方向に働く。本事例では、これらの職種について個別目標を設定せず、チーム目標の達成度を全員の評価基準とし、チームに配分された評価量を貢献度に応じて割り振る方式を採用した。


Q3. グループ会社ごとに人事制度は統一すべきか、各社ごとに分けるべきか。

制度の中身は統一し、運用の時間軸は各社に合わせるのが現実的である。等級・評価・報酬の考え方が会社ごとに異なると、人材の相互活用ができず、公平感も担保できない。一方で決算期が異なる会社を同一の評価サイクルへ寄せると、事業実態と評価対象期間がずれる。本事例では、制度体系を全社共通としたうえで、評価期間・給与改定・昇格の時期を会社ごとに設計した。


Q4. 経営理念を人事制度に反映させるには、具体的に何をすればよいか。

理念を評価基準へ翻訳し、等級ごとに求める行動レベルとして記述することである。理念を掲示するだけでは日々の行動は変わらない。評価基準に落として初めて、何をすれば認められるのかが全員に伝わる。本事例では、グループ理念を6つの期待行動に分解し、等級ごとに求めるレベルとウェイトを設定したうえで、期初の面談で本人と上司が読み合わせる手順を制度に組み込んだ。


Q5. 給与構成を変更する際、従業員の不利益変更をどう回避するのか。

変更の影響が及ぶ周辺制度まで含めて同時に調整することである。給与構成の組み替えは、月例給が同額でも退職金の算定基礎額などに波及し、結果として不利益が生じうる。本事例では、給与構成の一元化に伴い退職金の算定基礎額に係数による調整を行い、改定前後で水準が変わらないようにした。あわせて全社説明会で変更内容と調整方法を直接説明している。


Q6. 人事制度改革にはどの程度の期間が必要か。

制度設計そのものは、対象範囲を絞れば5か月程度で完了する。本事例では、現状分析(社内アンケート・インタビュー・人事分析)、人事理念の設定、等級設計、業績評価・行動評価設計、報酬設計、移行調整、全社説明会までを約5か月で実施した。ただし制度が現場に定着するまでにはさらに時間を要するため、評価者研修とフィードバック面談の運用支援を別途計画することが望ましい。