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不動産FC本部の人事制度改革|MBO廃止と総合評価の導入

建設・不動産業

変化に対応し事業の成長を支えるための人事制度改革

設立1980年代

従業員約90名(本部社員)

売上約40億円

提供サービス人事制度設計

実施期間1年6ヶ月

支援時期2022年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

関東地方の不動産フランチャイズ本部(不動産仲介のフランチャイザー、支援当時 従業員90〜100名規模)に対し、セレクションアンドバリエーションが人事制度の全面改定を支援した事例である。行動等級と職責等級の二本立てを8等級へ一本化し、MBOによる人事考課を廃止して総合評価と1on1へ移行した。2022年に稼働した等級体系と行動基準は、現在も同社の制度として運用されている。

背景

不動産仲介のフランチャイズ本部である同社は、関東地方に本社を置き、全国の加盟店に対してブランドとシステムを提供している。収益の中心は加盟店から受け取るサービスフィーであり、加盟店の売上に対する定率で決まる。したがって本部の業績は、加盟店の店舗営業がどれだけ動くかに直結する。

感染症の拡大は、この構造を直撃した。外出自粛と対面接客の制約により加盟店の取引が落ち込み、本部のサービスフィー収入も減少した。年度当初には通期の業績見通しを確定できず、業績予想の公表を期中まで延期せざるを得ない事態となっている。営業利益は前年から3割近く減少した。

一方で、加盟希望者向けのセミナーをオンラインに切り替えたところ、対面時よりも参加者が増え、異業種からの参入相談も集まるという逆転も起きた。事業運営の前提そのものが、短期間で入れ替わったのである。

人の側の状況はこうである。本部人員は90〜100名規模、平均年齢は40代後半、平均勤続年数は10年前後という構成であった。前身の人事制度は導入から20年以上が経過しており、創業期の業務スタイルを前提に組み立てられたまま、増改築を重ねた状態にあった。

課題(Before)

支援当時 従業員90〜100名規模の同社において、制度上の課題は次の8点に整理された。

1.行動等級と職責等級が並存していた。両者は呼称の面でほぼ一対一に対応しているにもかかわらず二重に管理されており、社内で言葉の誤用や混同が生じ、制度を説明するたびに解釈が分かれていた。

2.職掌区分が重層化していた。総合職・事務職に加えて専門職・管理職の区分が重なり、どの区分に属するとどの処遇になるのかが、当事者にも人事にも即答しづらい状態であった。

3.昇格に卒業基準と入学基準の双方が置かれていた。上位等級の要件を満たしたことを確認してから昇格させる運用となるため、昇格が実態より後ろ倒しになり、動機づけの手段として機能していなかった。

4.行動基準が職種別に規定されていた。マーケティング、加盟店支援、企画などで別々の評価項目が設定されており、全社共通の物差しが存在せず、部署をまたいだ評価の比較ができなかった。

5.人事考課がMBOに依存していた。環境変化により期初に置いた数値目標が期中に意味を失い、目標を下方修正して達成しても価値ある成果とは言いがたく、評価が実態を映さなくなっていた。

6.評価が行動評価・MBO評価・総合評価の3系統に分かれていた。それぞれが個別に運用されており、制度の立て付けが形骸化し、評価結果と処遇の対応関係が不透明になっていた。

7.給与レンジが等級間で重複していた。上位等級へ昇格しても報酬がほとんど変わらない例が生じ、等級の差が処遇の差として現れていなかった。

8.賞与係数の評価格差が大きく、管理職の報酬が基本給への手当加算方式であった。前者は評価者が上位評価をつけることを避ける誘因となり、後者は同じ役職名でも階層が分かれることで職責が不明確になり、年功的な積み上げが報酬に反映されていた。

目的と設計方針

同社に対し、セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、環境変化の大きい時代に耐える人材マネジメントインフラを構築することであった。制度を作り直すこと自体ではなく、前提が変わっても運用が止まらない構造にすることを到達点に置いた。

設計方針は次の5点である。

1.シンプルかつ論理的に整合した制度へ改定する。複雑さは運用コストであり、説明できない制度は現場で使われないためである。

2.形骸化した細目は、必要性を再検討したうえで廃止する。残す判断と廃す判断を同じ場で行い、増改築の履歴を一度清算する。

3.求める行動の発揮と組織への貢献を認める設計とする。数値成果だけでは、本部機能を担うスタッフ部門の貢献が評価対象から漏れるためである。

4.期初の数値目標に依存しない評価に切り替える。目標の精度を上げるのではなく、目標が崩れても評価が成立する構造に変える。

5.オーナーシップを発揮できる人材が上位に上がる基準にする。等級定義と昇格基準を、その一点で貫く。

実際に構築した制度のポイント

同社において構築した制度の骨格は、総合職5等級と事務職3等級からなる8等級への一本化と、マネジメント職責の独立である。

【等級制度】

1.行動等級と職責等級を統合し、総合職5等級・事務職3等級の8等級に一本化した。呼称は等級に紐づけて発令する形とし、等級と役職名の二重管理を解消した。

2.マネジメント職責を経営職として等級体系から切り離した。管理職は行動等級の延長線上ではなく、ポストへの任用として位置づけ、任用と解任を別ルールで定義した。

3.等級定義を、総合職は結果責任、事務職は遂行責任として書き分けた。理解力・判断力・実行力の3要素で各等級の期待水準を記述している。

4.行動基準を全社共通に再定義した。全等級共通の対人対応行動5項目(コンプライアンス、フェアネス、当事者意識、チームワーク、人材育成)と、等級ごとのタスク対応行動に二分し、後者を昇格判断に用いる構成とした。

5.昇格基準から入学基準を廃止した。卒業基準に一本化したうえで、評価結果の要件を従来より緩和し、同一等級での在籍期間による再現性要件と研修受講要件を新設した。

6.経営職への任用は、ポストニーズの発生を起点とする形に改めた。4等級・5等級からの選出、対人対応行動5項目の充足確認、最終決定というプロセスを明文化している。

7.経営職からの解任プロセスも同時に定義した。人事考課による判断、候補者への通知、1年間の改善期間の設置、最終決定という段階を置いている。

【評価制度】

8.MBOによる人事考課を廃止し、総合評価に一本化した。期初に上司が期待する成果と行動を明示し、期末に本人のアピールと上司の確認を踏まえて総合的に判断する形とした。

9.1on1ミーティングを制度化した。実施頻度と1回あたりの所要時間をルール化し、面談記録を運用管理シートに残して人事部へ提出することを義務づけている。

10.評価ランクを5段階から7段階へ細分化した。標準評価の前後に段階を設けることで、評価者が中間帯で差をつけられるようにしている。

11.評価の調整プロセスを整理した。一次評価者の入力、本部内会議での相対調整、評定者会議での全社視点の甘辛調整という3段階を経て、最終ランクを確定する。

【報酬制度】

12.基本給レンジの重複を解消し、等級間で乖離のあるレンジへ改めた。最上位等級のみ上限側に幅を残し、昇給調整の余地を確保している。

13.評価と昇給の連動ルールを組み替えた。標準評価では等級内の昇給が発生せず、標準を上回る評価で昇給する設計とし、上位等級への昇格が処遇の主たる上昇要因になるようにした。

14.賞与係数の傾斜を緩和した。段階数を増やしつつ標準評価に対する上下の振れ幅を圧縮することで、評価者が上位評価をつけやすい環境をつくっている。

15.管理職の役職手当を廃止し、経営職用の給与体系に統合した。手当の積み上げではなく、職責に対する報酬として決定する方式へ切り替えている。

【移行と浸透】

16.移行時に基本給の金額を動かさない設計とした。実在者の分布に合わせてレンジ幅と号俸数を設定することで、号俸の組み替えは生じても支給額は変わらない状態で新制度に移行できるようにしている。

17.移行シミュレーションを個人単位で実施した。総合職・事務職・経営職のそれぞれについて、新等級・新号俸への割り当て結果を事前に確認している。

18.社内説明と運用準備の期間を設計に組み込んだ。制度の最終化から稼働までの3か月を、説明会、人事システムへの反映、評価者への事前インプットに充てる計画とした。

導入後の変化

不動産フランチャイズ本部である同社の新人事制度は2022年に稼働し、以降も運用が続いている。以下は、同社が公表している人的資本情報から確認できる事実である。

1.8等級の体系が維持されている。公表資料には、正社員が職掌に応じて総合職・事務職あわせて8つの等級に区分され、要件を満たした者が管理職に任用される旨が記載されている。支援時に統合した等級の骨格が、そのまま対外的な制度説明として使われている。

2.行動基準が制度の中核に残っている。全等級共通の対人行動基準5項目と、等級ごとに定めたタスク行動基準(理解力・判断力・実行力)が、評価の柱として運用されている。設計時に整理したこの二層構造は、同社独自の基準として自社の言葉で説明されるようになっている。

3.行動評価と処遇の接続が続いている。行動評価の結果が管理職への任用と基本給の決定に影響し、号俸制の給与テーブルにおいて評価ランクに応じた昇給号数が決まる仕組みが、公表資料に記載されている。

4.評定者会議による調整プロセスが定着している。直属上司による一次・二次評価を経て、本部長以上で構成する会議で相対調整を行い、社長が承認するという流れが運用されている。支援時に設計した3段階の調整プロセスが、そのまま維持されている。

5.エンゲージメント調査が定期的に実施されるようになった。2025年度で3回目となる調査が行われ、同規模他社の平均を上回る水準にあると公表されている。制度が動き始めたあとに、組織状態を定量的に把握する運用が加わった。

6.離職率は低い水準で推移している。2024年3月期は4.6%、2025年3月期は9.3%、2026年3月期は4.6%であり、定年および定年後再雇用期間の満了を除くとそれぞれ3.0%、5.0%、3.0%である。同社は10%以下を目標として掲げている。

7.組織規模は縮小から拡大へ転じた。従業員数は87名(2024年3月期)、85名(2025年3月期)、93名(2026年3月期)と推移し、2026年4月には5年ぶりとなる新卒社員の採用が行われた。人員が入れ替わる局面において、等級と行動基準が採用後の育成の枠組みとして機能する状態にある。

8.感染症対応として広がった働き方が制度として残った。在宅リモートワークと時差勤務が、育児・介護や傷病を抱える従業員を対象とした運用として継続している。緊急対応の措置が、常設の選択肢に変わっている。

人事制度は、導入時点の完成度ではなく、その後に自社で使いこなせているかどうかで評価される。セレクションアンドバリエーションが設計した等級・評価・報酬の骨格は、経営環境の変化と人員構成の入れ替わりを経てなお、同社自身の言葉で説明される制度として運用され続けている。

本プロジェクトの特徴

本案件の判断は、次の6点に集約される。

1.MBOを人事考課から外した。一般的には、目標設定の粒度や期中の修正ルールを整えることで、目標管理の精度を上げる方向に改善する。本案件では、人事考課そのものからMBOを切り離す判断をした。年度当初に会社として業績見通しすら確定できない環境では、期初に置いた個人目標の精度を上げる投資が回収できないためである。

2.評価の空白を1on1で埋めた。一般的には、評価制度を簡素化すると上司の裁量が増え、被評価者の納得性が下がる。本案件では、1on1の頻度と時間をルール化し、記録の人事部提出まで義務づけた。期末の一発判断ではなく、期中の複数回の対話の蓄積を評価の材料にすることで、簡素化と納得性を両立させる狙いである。

3.評価段階を減らさず、増やした。一般的には、制度の簡素化に合わせて評価段階も減らす。本案件では5段階から7段階へ増やし、同時に賞与係数の傾斜を緩めた。段階が少ないと評価者は標準評価に逃げやすく、かといって段階を増やすだけでは処遇の変動が過大になる。この2つを組み合わせることで、差をつけやすく、かつ差がつきすぎない状態をつくった。

4.管理職を等級体系から切り離した。一般的には、管理職を等級体系の上位に接続して連続的に扱う。本案件では経営職として独立させた。ポストは事業の拡大によって発生するものであり、能力の到達点として扱うと、ポストがないのに昇格させる圧力が制度側から生まれるためである。

5.任用ルールと同時に解任ルールを定義した。一般的には、任用の基準とプロセスを整備して終わる。本案件では、解任の判断根拠、通知、改善期間、最終決定までを同じタイミングで明文化した。外す道筋が用意されていなければ、任用は機動的に行えないという判断による。

6.移行時に基本給を動かさなかった。一般的には、新しいレンジに合わせて既存社員の基本給を調整する。本案件では、実在者の分布からレンジ幅と号俸数を逆算し、支給額を変えずに移行できる設計とした。制度の中身を変える改定で金額まで同時に動かすと、社内の議論が金額に集中し、制度の意図が伝わらないまま稼働してしまうためである。

担当コンサルタント: 平康 慶浩

この案件で最も判断を要したのは、目標管理制度を人事考課から外すかどうかでした。会社が年度の見通しを確定できない状況で、個人の目標だけが期初に固定されている。その矛盾を放置したまま目標の書き方を工夫しても、評価への不信は解けないと考えました。代わりに1on1を制度として置き、期中の対話の積み重ねを評価の根拠にする形をご提案しています。制度をシンプルにするほど運用の重さは管理職に移ります。そこを支える設計まで含めて、はじめて簡素化は成立します。

よくあるご質問

Q1. 環境変化が激しい時期に、目標管理制度(MBO)は人事評価の軸として機能するのか。

外部環境が期中に大きく動く局面では、MBOを人事考課の主軸に据えることは推奨しない。期初に設定した数値目標が前提ごと崩れた場合、目標を下方修正して達成しても価値ある成果とは言いがたく、評価結果が実態と乖離するためである。目標管理を事業マネジメントの道具として残しつつ、人事考課からは切り離す整理が有効である。本事例では、MBOによる人事考課を廃止し、期待する成果と行動を期初に明示したうえで期末に総合評価する方式へ移行した。

Q2. なぜ職務等級制度(ジョブ型)ではなく、行動等級への一本化を選んだのか。

職務等級制度は、職務の内容と範囲が安定している組織で効果を発揮する。本事例の組織は100名前後の本部機能であり、一人が複数の役割を兼ね、事業環境に応じて担当範囲が動く。この規模と流動性で職務記述書を整備すると、記述の維持だけで人事部門の工数が埋まり、実態との乖離も早い。行動基準を全社共通に定義し、等級ごとに求める水準を書き分けるほうが、運用可能性と納得性の両面で優れると判断した。

Q3. 評価制度をシンプルにすると、評価の納得性は下がらないのか。

評価項目を減らすこと自体は納得性を下げない。納得性を下げるのは、評価に至る過程が被評価者から見えないことである。したがって簡素化と同時に、期中の対話の量と質を確保する仕組みを置く必要がある。本事例では、1on1の頻度・時間・記録の提出をルール化し、期中に交わした内容が期末の評価根拠になる構造をつくった。

Q4. 評価段階は多いほうがよいか、少ないほうがよいか。

一概には言えないが、評価者が標準評価に集中してしまう組織では、段階を増やすほうが効果がある。段階が少ないと、中間帯にいる社員の差を表現する手段がなく、結果として全員が標準に寄る。ただし段階を増やすだけでは処遇の変動が大きくなりすぎるため、賞与係数の傾斜を緩めるなどの調整を同時に行う。本事例では、評価段階を5段階から7段階へ増やしたうえで、標準評価に対する賞与の振れ幅を圧縮している。

Q5. 人事制度は何年くらいで作り直す必要があるのか。

等級構造そのものは、設計次第で5年から10年の耐用年数を持たせられる。作り直しが必要になるのは、多くの場合、等級の骨格が古びたからではなく、運用ルールや手当が増改築を重ねて説明できなくなったときである。したがって定期的に見直すべきは、骨格ではなく細目である。本事例では、導入から20年以上が経過した制度を刷新し、2022年に稼働した等級と行動基準が、経営環境の変化と人員構成の入れ替わりを経て運用され続けている。

Q6. 人事制度の改定と、基本給の水準の見直しは、同時に行うべきか。

同時に行わないほうがよい場合が多い。制度改定と金額改定を同時に打ち出すと、社内の関心が自分の給与がいくらになるかに集中し、なぜ制度を変えるのかという議論が成立しなくなるためである。水準の見直しが必要な場合も、まず制度の骨格を稼働させ、その運用の中で調整するほうが説明しやすい。本事例では、レンジ幅と号俸数を実在者の分布から設計し、移行時に基本給の支給額が変わらない状態をつくっている。