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人材紹介業の組織人事戦略策定|個人業績依存から組織で稼ぐ構造へ

人材派遣・請負業

個人業績依存の成長構造に組織で稼ぐ仕組みを加えた人材紹介業の組織人事戦略

設立2000年代

従業員約90名

売上非公開

提供サービス人事戦略策定

実施期間3ヶ月

支援時期2021年

対象層・対象人数全社

事例サマリー

関東地方の人材紹介業(支援当時 従業員100名規模)に対し、セレクションアンドバリエーションが組織人事戦略を策定した。個人業績依存の成長構造に、組織で稼ぐ仕組みと新領域を生む経路を加えた。等級と報酬の枠組みは稼働以降も運用されている。

背景

プロフェッショナル人材の紹介を主力とする同社は、関東地方に本社を置く。金融、コンサルティング、IT、経営層といった高度専門領域に特化し、業界経験を持つコンサルタントが企業と候補者を直接つなぐ事業モデルをとる。

同社の成長は、シンプルなインセンティブ基準によって個々のコンサルタントの自律的な活動を促す経営方式に支えられてきた。セレクションアンドバリエーションはこれをインセンティブ型HRMと定義している。収益性の維持とマネジメントの簡素さに優れる一方、組織としてのケイパビリティと成長率が頭打ちになりやすい特性を持つ。

支援に先立つ時期、同社は人材紹介以外の領域へ事業を広げつつあった。DX支援をはじめとする新規領域は、既存の紹介事業とは収益の立ち方が異なる。既存事業と同じインセンティブ基準を当てる限り、新しい事業に自ら人を割く合理性が個人の側に生まれない。

加えて、感染症の拡大を契機とした働き方の非同期化が進み、日々の行動の共有によって維持されていた組織風土の前提が変わった。事業の拡張と働き方の変化の双方に対応するため、制度の個別改定ではなく、組織人事戦略そのものの策定から着手することとなった。

課題(Before)

支援当時 従業員100名規模の同社において、経営層への聴取と人事データの分析から抽出した課題は次のとおりである。

1.等級は9段階であり、上位等級ほど滞留期間が長い。ベース給は等級ごとに単一額を定めるシングルレート(単一給)であるため、昇格しない限り基本給が動かず、動機づけの働かない期間が生じる。

2.採用時の個別条件によって支給していた調整給に、解消のルールがない。同一等級であっても入社経緯によって支給額が異なる状態が続き、等級と処遇の対応関係が崩れる。

3.昇格と降格の基準が明文化されていない。判断が個別協議に委ねられるため、対象者は何を達成すれば処遇が変わるのかを事前に把握できない。

4.インセンティブは四半期ごとに一括支給されている。支給月とそれ以外の月で受取額の落差が大きく、日々の行動と報酬の結びつきが弱い。

5.入社4年目以降の中堅層に、組織への貢献を求める仕組みがない。個人業績のみで処遇が決まるため、組織全体で解くべき課題が誰にも引き受けられないまま残る。

6.新規事業の領域に、自発的な改善行動を促すインセンティブが設定されていない。既存の紹介事業と同じ基準を当てると、立ち上がりの遅い領域を担うほど個人にとって不利になる。

7.個人別の生産性に大きな分散がある。再教育と配置転換の基準がないため、成果が出にくくなった人材に対する打ち手が、退職以外に用意されていない。

8.制度が自律した個人を前提としており、新卒入社者を受け入れる設計になっていない。育成の担い手を定める仕組みがなく、新卒採用を本格化させる前提が整わない。

目的と設計方針

同社に対し、セレクションアンドバリエーションが設定した目的は、既存の成果主義を弱めることなく、組織としてのケイパビリティを上乗せすることである。個人の業績で報酬が決まる構造は同社の強みであり、これを平準化すれば成長の源泉そのものを失う。

そのうえで、設計方針を3つのゴールに整理した。

1.コア人材を伸ばす。仕組みの中で最大限に成果を上げる人材をコア人材と定義し、この層の処遇の刻みを細かくする。成長が処遇に反映されるまでの間隔を短くすることが狙いである。

2.稼ぐ仕組みを改善する。既存の収益活動の改善を、有志の善意ではなく役割として定義する。担う者に報い、担わない者が原資を拠出する構造を置く。

3.新しい仕組みをつくる。新規事業や新商材の構築を独立したミッションとして切り出し、達成時の褒賞を業績評価に接続する。

制度設計にあたっては、モチベーションマネジメントとリソースマネジメントの2軸で全体を整理した。前者は金銭・非金銭、安心・挑戦の2軸で施策を配置し、後者は採用から育成、配置、代謝までの流れとして設計する。

実際に構築した制度のポイント

15段階に細分化した等級体系を骨格とし、報酬・育成・組織貢献の3領域を接続した。

1.等級体系を細分化した。従来の9段階を15段階へ分割し、等級ごとのベース給の刻み幅を一定額に統一した。等級とベース給が一対一で対応するため、自分の現在地と次の到達点が本人から見える。

2.調整給の解消ルールを定めた。採用時の個別加算は、昇格しない限り一定期間ごとに逓減し、本来のベース給へ収束する。給与明細上でベース給と調整給を分けて表示することも併せて設計した。

3.昇格基準を業績評価に一本化した。在籍期間に応じた目標の達成と、行動水準を定めたフェーズ基準の達成を併用し、上位等級では通期目標の複数回達成を要件とした。

4.降格基準は緩やかに設計した。業績と人件費の連動は賞与によって調整されるため、降格は複数期連続の未達に限定し、未達後に改善期間を置いた。役割を外れた後の再挑戦を制度上可能とし、社内の流動性を確保した。

5.インセンティブを月次に配賦した。四半期ごとに確定した金額を、翌四半期の各月へ按分して支給する。高業績者は上がった月次受取額を基準として認識し、中位層は月次額の引き上げを目標として認識する。

6.新卒向けの等級ラインを別に設けた。全体の等級とベース給を共通としたうえで、新卒向けには3段階の等級を置き、インセンティブ比率を低い水準から始める。一定の行動水準に到達した時点で通常の等級へ移行する。

7.育成担当者を1対1で設定した。新卒入社者が上げた収益の一定割合を育成担当者へ配分し、育成を負担ではなく成果として扱う。育成担当者は後述の拠出の対象から除外する。

8.組織ミッションと拠出ルールを導入した。入社4年目以降でマネジメント役割に就いていない者は、四半期の収益の一部を拠出する。拠出分は、組織ミッションを担う者への定性評価の原資として積み立てる。

9.ミッションを3類型に分けた。新しい仕組みや商材を構築するもの、既存の仕組みを改善するもの、放置されがちな定常業務を引き受けるものに分類し、類型ごとに達成時の業績加算額を設定した。

10.スキルマップを導入した。行動観察によってスキルの保有をフラグで記録し、知見のある業界を一元管理する。運用はタレントマネジメントシステムの活用を前提とした。

11.リサーチ・ナレッジマネジメント機能を設置した。顧客情報の調査、業界動向の配信、社内ナレッジの管理、研修の企画運営を専任の職務として定義し、コンサルティングのサイクルを短縮する組織的支援を置いた。

【移行と浸透】

12.半期ごとの等級改定と四半期ごとの業績評価を、運用の基本サイクルとした。等級改定に先立って新制度の説明会と目標額の確認を行い、四半期ごとの振り返り会議でミッション担当を決定する。年2回の多面評価(360度評価)を配置転換の判断材料に接続し、制度が運用の中で更新される経路を確保した。

導入後の変化

人材紹介業である同社の新しい人事の骨格は、2022年からの適用を前提に設計された。稼働以降、等級と報酬の枠組みは維持されている。

1.等級ごとの報酬テーブルが社内に開示されている。同社は自社の採用サイトで、職位・等級ごとの報酬テーブルを開示していることを明示している。等級とベース給の対応を一意に定めた設計であるため、開示しても運用上の矛盾が生じない。処遇の透明性が採用時の訴求材料としても使われている。

2.新卒採用が継続し、育成担当者を置く仕組みが定着している。同社は新卒採用を継続し、技術面と業務面のメンターを組み合わせた育成体制を採用サイトで公表している。中途採用者を前提とした制度とは別に新卒向けの等級ラインと育成担当者を設けた設計が、その後の採用活動の前提になっている。

3.事業領域が人材紹介の外へ広がった。同社は人的資本経営の支援、人的資本情報の開示支援、DX支援を事業として展開している。組織ミッションの仕組みは、既存の収益活動の外側にある取り組みへ人を割く根拠を、制度上に用意するものであった。

4.人員を大きく増やさずに領域を広げた。2026年4月1日時点の従業員数は96名であり、支援当時の規模から大きく変わっていない。等級の細分化とインセンティブの配賦変更は、増員ではなく1人あたりの成果分布を動かす方向に働く設計である。

5.人事戦略が、その後の経営判断の枠組みとして使われている。組織体制、中核人材モデル、リソースマネジメント、モチベーションマネジメントを単一の文書に統合したため、個別の意思決定を同じ基準に照らして検討できる。

人事戦略は、策定時点の完成度ではなく、その後の意思決定でどれだけ参照されたかで評価される。セレクションアンドバリエーションが策定した組織人事戦略は、同社において、事業領域の拡張と採用対象の拡大を経てなお、判断の基準として用いられている。

本プロジェクトの特徴

本案件の判断は、次の4点に集約される。

1.個人の成果に依存した収益構造は、人を増やさない限り伸びない。本案件では、成果主義そのものは維持したまま、等級の刻みを細かくする判断をした。等級が粗く、かつ単一給である状態では、昇格しない限り処遇が動かず、上位等級ほど処遇の変わらない期間が長くなるためである。刻みを細かくすれば、同じ人件費総額のまま動機づけの頻度だけを上げられる。

2.報酬は、支払総額ではなく支払タイミングによって行動が変わる。本案件では、四半期ごとに確定したインセンティブを翌四半期の各月へ按分する判断をした。一括支給では受取額が支給月に集中し、他の月の行動と報酬が心理的に切り離される。月次に平準化すれば、高業績者は上がった水準を維持する動機を持ち、中位層は水準の引き上げを目標として認識する。

3.改善活動は、善意に頼る限り継続しない。本案件では、組織ミッションを役割として定義し、担わない者が原資を拠出する構造を置いた。個人業績のみで処遇が決まる組織では、組織全体の課題に時間を使うことが、そのまま自分の処遇を下げる行為になる。拠出を制度化することで、担う側と担わない側の双方に説明のつく関係を成立させた。

4.中途採用のみで成り立つ組織に新卒を入れる場合、既存制度の延長では機能しない。本案件では、新卒向けに別の等級ラインを置き、育成担当者へ収益の一部を配分する判断をした。自律した個人を前提とする制度に新卒を接続すると、育成は誰の成果にもならない持ち出しになる。育成を収益に接続することで、育成の担い手が制度上に成立する。

担当コンサルタント: 平康 慶浩

最も判断を要したのは、成果主義をどこまで残すかでした。個人の業績で報酬が決まる仕組みは、この会社の強さそのものです。弱めれば成長は止まります。そこで報酬の決め方そのものは変えず、等級の刻みと、支払いのタイミングと、組織へ貢献する経路だけを加えました。既存の強さを壊さずに、組織としての能力を後から足す設計です。

よくあるご質問

Q1. 成果主義やインセンティブ中心の組織は、どの時点で人事制度の見直しが必要になるのか。

個人の成果に報いる仕組みだけで成長してきた組織は、事業領域を広げる段階で見直しが必要になる。既存事業の基準をそのまま当てると、収益の立ち上がりが遅い新規領域を担うことが個人にとって不利になり、誰も引き受けなくなるためである。本事例では、新規領域への取り組みを独立したミッションとして切り出し、達成時の褒賞を業績評価へ接続した。


Q2. 等級の数は多いほうがよいのか、少ないほうがよいのか。

処遇が動く頻度を上げたい組織では、等級は多いほうがよい。等級ごとに単一額を定めるシングルレート(単一給)を採る場合、等級が粗いと昇格までのあいだ処遇がまったく動かず、上位等級ほど滞留が長くなるためである。逆に、等級内に幅を持つレンジレート(範囲給)を採るなら、等級数は少なくても昇給の機会は確保できる。本事例では単一給を維持したまま等級を9段階から15段階へ分割した。


Q3. なぜ職務等級制度(ジョブ型)ではなく、業績基準による等級の細分化を選んだのか。

職務の大きさで処遇を決める設計が、この事業モデルと合わなかったためである。人材紹介のコンサルタント職は職務内容が横並びであり、差がつくのは職務の中身ではなく成果の量である。職務等級制度を当てても等級はほとんど分化せず、既に機能している成果連動の仕組みを弱める結果になる。本事例では、職務ではなく在籍期間に応じた目標達成度と行動水準で等級を分けた。


Q4. インセンティブは四半期ごとの一括支給と月次への按分のどちらがよいのか。

行動の継続を促したい場合は月次への按分が有効である。一括支給では、受取額が支給月に集中し、それ以外の月の行動と報酬の結びつきが本人の実感として弱くなるためである。ただし按分は資金繰りと会計処理の設計を伴うため、支給ルールの明文化が前提となる。本事例では、四半期で確定した金額を翌四半期の各月へ配賦する方式を採った。


Q5. 中途採用が中心の組織に新卒採用を組み込む場合、何から決めるべきか。

育成の担い手に何が返るかを先に決めるべきである。自律した個人を前提とする制度に新卒を接続すると、育成に使った時間が誰の成果にもならず、育成が持ち出しになるためである。研修プログラムの中身よりも、育成を担う側の処遇上の扱いを決めるほうが先に効く。本事例では、育成担当者を1対1で設定し、新卒入社者が上げた収益の一定割合を育成担当者へ配分した。


Q6. 人事戦略は、どのくらいの期間、経営判断の基準として使えるのか。

組織体制・中核人材モデル・リソースマネジメント・モチベーションマネジメントを統合した人事戦略は、一般に5年から10年の耐用年数を持たせられる。個別の制度は事業環境に応じて改定する必要があるが、判断の基準そのものは事業構造が変わらない限り有効だからである。本事例で策定した組織人事戦略は、事業領域の拡張と採用対象の拡大を経てなお、判断の枠組みとして参照されている。