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電気通信機器メーカーの役員報酬制度改革|監査等委員会移行に対応

製造業

グローバル市場を見据えた高水準のガバナンスと持続的成長を目指すための役員報酬制度設計

設立1960年代

従業員約760名(連結)

売上非公開

提供サービス役員制度設計

実施期間3ヶ月

支援時期2022年

対象層・対象人数取締役・執行役員

事例サマリー

関東地方の電気通信機器メーカー(グループ連結数百名規模)において、セレクションアンドバリエーションが役員報酬制度改革を支援した。監査等委員会設置会社への移行を機に、業績連動性の低い報酬構成から、事業計画と株価成長率を評価指標に組み込んだ構成へと転換した事例である。

背景

電気通信機器製造業(ワイヤレス通信機器の開発・製造・販売)を営む同グループでは、売上高の約9割を海外市場が占めていた。国内需要ではなく、海外の市況と為替が業績を左右する収益構造である。

同社は当時、監査役設置会社から監査等委員会設置会社への移行を進めていた。機関設計の転換は取締役会の監督機能と業務執行の関係を組み替えるものであり、役員報酬の決定方針と手続もあわせて再構築する必要が生じた。

加えて同グループは、国内外に子会社を有する持株会社体制のもとで役員体制が複層的であった。このため、中期経営計画および経営戦略と役員報酬との整合性を制度上どう担保するかが、経営課題として浮上した。

セレクションアンドバリエーションは、上場企業の役員報酬制度設計における実績と、機関設計の変更スケジュールに合わせた機動的な対応力を評価され、本プロジェクトへの参画を要請された。

課題(Before)

電気通信機器メーカーである同グループが、役員報酬制度の改革着手時点で抱えていた課題は、次の7点であった。

【1】機関設計が監査役設置会社から監査等委員会設置会社へ移行するにもかかわらず、報酬制度が旧機関設計を前提としたままであった。取締役会の監督機能が強化される一方で報酬がその変化を反映しなければ、ガバナンス改革が形式にとどまる。

【2】コーポレートガバナンス・コード(CGC)が求める報酬決定方針および決定手続の明確化に、制度上の裏付けが十分でなかった。方針が文書化されていなければ、株主に対する説明責任を果たせない。

【3】報酬構成における業績連動部分の比重が低く、単年度の業績責任と報酬の関係が弱かった。経営陣の関心が事業計画の達成へ向かう誘因が、制度上に存在しない。

【4】中期経営計画および経営戦略と、役員報酬の評価指標とが接続されていなかった。計画は策定されても、その達成が処遇に反映されなければ実行力を欠く。

【5】役員体制が複層的であり、役割の大きさと報酬水準の対応関係が説明可能な形で整理されていなかった。役割区分が曖昧なままでは、報酬差の根拠を示せない。

【6】監査等委員でない取締役、すなわち業務執行を担う経営人材のリテンションに関する制度的な手当てがなかった。機関設計の移行直後は役割認識が揺らぎやすく、中核人材の流出リスクが高まる局面である。

【7】外部労働市場から経営人材を招聘する際の報酬水準について、判断の基準がなかった。市場水準との比較軸を持たないまま個別交渉に依存すると、社内の報酬秩序が崩れる。

目的と設計方針

電気通信機器メーカーである同グループの役員報酬制度改革において、セレクションアンドバリエーションが設定したプロジェクトゴールは、監査等委員でない取締役のリテンションを確保し、同社のさらなる企業価値創出につながる報酬制度を構築することであった。

【設計方針1|ガバナンス設計と報酬設計を一体で進める】
CGCを踏まえた新たなガバナンス設計と役員報酬制度を、別個の検討課題として扱わない。機関設計の移行スケジュールに合わせ、同時並行で構築する。

【設計方針2|目指すべき業績水準との相関を持たせる】
報酬レンジは、現状の支給実績からの積み上げではなく、中期経営計画で目指す業績水準との相関から設定する。あわせて外部人材の登用可能性を視野に入れ、市場から経営人材を招聘し得る水準を確保する。

【設計方針3|短期成果と中長期の企業価値向上を両立させる】
短期インセンティブとして業績連動報酬を導入する。その評価指標は事業計画に沿ったものとし、単年度の業績責任を明確化する。同時に、中長期の株主価値向上を促す指標を報酬体系へ組み込む。

【設計方針4|マルチステークホルダーの納得性を要件とする】
監査等委員、従業員、顧客、株主のそれぞれが納得できる報酬額および報酬原資の水準を、設計上の制約条件として明示する。

実際に構築した制度のポイント

電気通信機器メーカーである同グループに対して構築した役員報酬制度の要素は、次の6点である。

【1】役員報酬構成の再設計
固定報酬と業績連動報酬の構成比を再定義し、業績連動性を高めた報酬構成へ転換した。役位ごとに、責任の重さと変動部分の比率を対応させている。

【2】役割区分に応じた報酬体系の切り分け
監査等委員である取締役と、監査等委員でない取締役とで求める役割が異なることを前提に、報酬体系を区分した。監督を担う立場と業務執行を担う立場とで、報酬の性格を分けている。

【3】目指すべき業績水準と連動した報酬レンジ
中期経営計画が示す業績水準との相関を持たせたうえで、外部労働市場からの登用を想定した報酬レンジを設定した。市場比較の視点を、報酬水準の決定根拠として組み込んでいる。

【4】事業計画に沿った業績連動報酬の評価指標
短期インセンティブとしての業績連動報酬について、事業計画に紐づく評価指標を設定した。海外市場が売上の大半を占める事業構造を踏まえ、経営陣が制御可能な範囲で業績責任を問う設計としている。

【5】株価成長率の業績評価指標化
中長期の企業価値および株主価値の向上を報酬に反映させるため、株価成長率を業績評価指標として活用した。算定には直近3か月の平均値を用い、一時的な株価変動による極端な評価を平準化している。単一時点の株価を用いる方式では市況要因で報酬額が大きく振れ、指標としての信頼性を失うためである。

【6】移行と浸透
報酬決定の方針および手続を文書化し、監査等委員会設置会社としての新たな決定プロセスへ接続した。あわせて、報酬構成の変更が各役員の処遇に与える影響を役位別に整理し、移行時の説明資料として提供した。制度の内容だけでなく、その決定根拠を説明できる状態にあることを、移行の要件と位置づけている。

導入後の変化

電気通信機器メーカーである同グループでは、役員報酬制度の改定後、経営の体制と方針が具体的に前進している。

【1】新経営体制への移行が円滑に進んだ
制度導入の翌期に、新たな経営体制が発足した。取締役の役割区分と報酬の対応関係が制度として整理されていたため、経営陣が交代する局面においても、誰がどの責任を負い、それが処遇にどう反映されるかが明確な状態を保つことができた。

【2】グループ共通の企業理念と行動指針が確立された
新体制の発足にあわせ、グループ全体のミッションと、全社員が共有する行動指針が策定・公表された。役員層の役割定義から始まった議論が、全社の価値基準として言語化される流れへとつながっている。

【3】人材マネジメントへの投資が経営方針として明示された
同社は現在、働きがいを高める職場づくりと、社員一人一人の成長および連携による組織強化を、対外的な経営方針として掲げている。役員報酬制度改革を起点とするガバナンス整備が、全社の人事方針へと拡張された形である。

【4】主力事業への投資が継続している
改革後も、新製品の市場投入、海外向け情報発信の強化、業界展示会への継続出展など、主力事業への投資が続いている。ガバナンス強化と成長投資を両立させるという設計時の狙いは、経営行動として維持されている。

本プロジェクトの特徴

【1】機関設計の移行と報酬設計を切り離さなかった
一般に、監査等委員会設置会社への移行は法務・総務主導の機関設計論として進み、役員報酬の見直しは移行完了後の別テーマとして先送りされやすい。本案件では、CGCを踏まえたガバナンス設計と役員報酬制度を同時並行で構築する判断を採った。移行直後は取締役の役割認識が最も揺らぐ時期であり、この局面で報酬が旧来のままであれば、監督と執行の分離という機関設計の趣旨が制度に反映されないためである。

【2】報酬レンジを支給実績からではなく、目指す業績水準から導いた
役員報酬の水準検討は、現行支給額や同業他社の平均値からの調整として行われることが多い。本案件では、中期経営計画が示す業績水準との相関から報酬レンジを設計し、あわせて外部労働市場から経営人材を招聘し得る水準を確保した。売上高の約9割を海外市場が占める事業構造のもとでは、求められる経営人材の要件が国内市場中心の企業とは異なり、既存の社内水準の延長線上では必要な人材を確保できないと判断したためである。

【3】株価を指標として使う際の実務的な信頼性を優先した
株価連動の報酬設計では、期首と期末の株価を単純比較する方式が採られやすい。本案件では、直近3か月の平均値を用いて株価成長率を算定する方式を採用した。単一時点の株価は市況や一時的な需給に強く影響され、経営努力と無関係な要因で報酬が大きく変動する。指標としての納得性を保つには評価期間の平準化が不可欠であると判断したためである。

【4】報酬の納得性を、株主だけでなく複数の立場から検証した
役員報酬の妥当性は、株主および議決権行使助言機関の視点で検証されることが一般的である。本案件では、監査等委員、従業員、顧客、株主のそれぞれが納得できることを、報酬額および報酬原資の設定要件として明示した。海外市場を主戦場とする事業では経営陣への信頼が取引先や従業員の定着に直結し、報酬の説明可能性が事業基盤そのものに関わると判断したためである。

担当コンサルタント: 柳瀬 大地瓜阪 彰悟

最も判断を要したのは、株価をどこまで報酬指標に組み込むかという点でした。株価は海外市況や為替の影響を大きく受けます。それでも中長期の企業価値向上を promote する以上、外すという選択はありませんでした。そこで3か月の平均値を用いる方式をご提案し、指標としての納得性を優先しました。制度は、役員の皆様が納得して受け入れられるかどうかで機能が決まると考えています。

よくあるご質問

Q1. 監査等委員会設置会社へ移行する際、役員報酬制度も同時に見直すべきか。
同時に見直すことが望ましい。監査等委員会設置会社への移行は取締役会の監督機能と業務執行の関係を組み替えるものであり、役員の役割そのものが変わるためである。役割が変わったにもかかわらず報酬が旧来のままであれば、機関設計の趣旨が制度に反映されず、形式的な移行にとどまる。本事例では、CGCを踏まえたガバナンス設計と役員報酬制度を同時並行で構築した。

Q2. なぜ株式報酬ではなく、株価成長率を業績評価指標とする方法を選んだのか。
株式を直接交付する方式は、発行や希薄化に関する手続と株主の理解が前提となり、機関設計の移行と並行して進めるには制度整備の負荷が大きい。株価成長率を業績評価指標として報酬算定に組み込む方式であれば、株主価値の向上という視点を報酬体系に接続しつつ、短期間で導入できる。本事例では、監査等委員会設置会社への移行スケジュールに合わせる必要があったため、この方式を採用した。

Q3. 役員報酬の業績評価指標は、財務指標と株価指標のどちらを重視すべきか。
両方を組み合わせることが基本である。財務指標は単年度の業績責任を明確にするが、中長期の企業価値向上を促す力は弱い。一方で株価指標は株主価値と直結するものの、市況や為替など経営努力の外にある要因の影響を受ける。本事例では、短期インセンティブに事業計画連動の指標を用い、中長期の視点として株価成長率を組み込む構成とした。

Q4. 株価を報酬の評価指標にすると、市況の影響で報酬が乱高下しないか。
評価期間を平準化することで影響を抑えられる。単一時点の株価を用いると、一時的な需給や市況によって報酬額が大きく変動し、経営努力との対応関係が失われる。複数月の平均値を用いれば、極端な評価を排除しつつ株価の趨勢を捉えることができる。本事例では、直近3か月の平均値を用いて株価成長率を算定する方式を採用した。

Q5. 海外売上比率が高い企業の役員報酬は、国内水準に合わせるべきか。
国内の同業他社水準のみを基準とすることは適切でない。海外市場を主戦場とする企業では求められる経営人材の要件が国内市場中心の企業と異なり、外部労働市場から招聘する際の競争相手も変わるためである。報酬レンジは、目指すべき業績水準との相関と外部人材の登用可能性の両面から設定する必要がある。本事例では、売上高の約9割を海外市場が占める事業構造を踏まえ、この観点から報酬レンジを再設計した。

Q6. 監査等委員である取締役と、そうでない取締役の報酬はどう分けるべきか。
役割の性格が異なるため、報酬の構成そのものを区分することが基本である。監査等委員である取締役は監督機能を担う立場であり、業務執行の成果に連動する報酬を適用すると独立性が損なわれかねない。一方で業務執行を担う取締役には、業績責任に対応する変動報酬が必要となる。本事例では両者の役割区分に応じて報酬体系を切り分け、特に監査等委員でない取締役のリテンションを制度上の重点課題として位置づけた。