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総合商社グループ課長職研修|2017年開講の評価・育成研修を毎年継続

商社

課長職に求められるマネジメント力を可視化し、評価制度を起点とした育成力を強化

設立2000年代

従業員約26,800名(連結)

売上約2兆7,500億円

提供サービス教育研修

実施期間年1回

支援時期2017年~現在

対象層・対象人数管理職

事例サマリー

関東地方に本社を置く総合商社グループ(2017年3月末時点の連結従業員数 約14,200名)の課長職を対象に、セレクションアンドバリエーションが株式会社シナプスと共同で連続型の管理職研修を設計した。管理職の判断基準を言語化し、2017年の開講以降、毎年実施が続いている。

背景

企業間の商取引と事業投資を主力とする同社は、関東地方に本社を置く総合商社である。国内外に数百社の連結対象会社を持ち、事業領域ごとに独立性の高い経営が行われてきた。事業ポートフォリオの入れ替えと、投資先の連結化によって、グループの規模は継続的に拡大している。

この事業構造は、人の側に固有の課題を生む。事業ごとに商材も顧客も収益構造も異なるため、マネジメントの型が各社・各部門で独自に発達する。優れた課長は存在するが、そのやり方が組織の資産として蓄積されない。

本社人事部門の人材育成担当部署は、この状態を「グループとしてのマネジメント基準が存在しない」と定義した。そのうえで、組織のビジョンを正しく理解し、戦略思考を高め、高い実行力を持つ組織をつくるためのリーダーシップを、課長職の段階で共通言語化する方針を立てた。

課題(Before)

支援当時の課長職が置かれていた状態は、次の8点に整理できる。

1.グループ各社に共通する管理職の行動基準が明文化されていなかった。課長職に何を期待するかが会社ごと・部門ごとに異なるため、異動や出向のたびに期待値を学び直す必要が生じていた。

2.マネジメントが個人の経験則に依存していた。成果を出している課長のやり方が他部門へ伝わらず、組織としての再現性が生まれていなかった。

3.目標管理制度が「成果を出した人を評価するための仕組み」として理解されていた。本来の目的である事業目標への行動の集中が働かず、目標設定が個人の得点計算に閉じていた。

4.目標のブレイクダウンが事業計画から切り離されていた。所属目標と個人目標のつながりが説明できないため、個人が目標を達成しても、それが事業計画のどこに寄与したのかを本人も上司も語れない状態が生じていた。

5.評価への不満が、制度の不備として人事部門に還流していた。差をつけられることへの不満は人間の心理として不可避であるにもかかわらず、制度改定によって解消すべき問題と受け止められていた。

6.中間期のフォロー面談が形骸化していた。面談が目標の擦り合わせだけで終わり、部下が抱える不安要素を扱えていなかったため、期末に至って初めて未達が判明する事態が繰り返されていた。

7.労働時間の管理が、報酬と法令順守だけの問題として扱われていた。働き方を変えるには等級・評価・教育・採用が連動する必要があるが、現場では残業削減の指示としてのみ受け止められていた。

8.研修が現場に接続していなかった。座学中心の研修を受けても自部門の課題に落ちないため行動が変わらない、という認識が人材育成担当部署にあった。

目的と設計方針

同社グループに対し、セレクションアンドバリエーションが株式会社シナプスと共同で設定した目的は、課長職が管理職として迷いやすい領域に、自分なりの判断の軸をつくることである。スキルの習得を目的に置かなかった。

設計方針は次の6点である。

1.扱うテーマを「モヤモヤしやすいところ」に絞る。事業環境分析と戦略構築、部下との向き合い方とリーダーシップ、企業経営と人事戦略、労働時間の管理と目標管理・人事評価を対象とした。正解が一つに定まらず、現場の課長が判断を迫られる領域である。

2.座学ではなく、事前課題を起点とした参加型で進める。各回に事前課題レポートの提出を課し、当日はその内容に基づくグループディスカッションと個別ワークで構成する。

3.自社の制度と自社の資料を教材にする。汎用のケースだけでなく、同社の労使協定事項や評価制度の実物を題材として扱い、「自社ではどう運用されているか」を出発点にした。

4.回と回の間に実行期間を置く。1回のセッションで完結させず、次回までに現場で実行し、その結果を修正シートとして提出させ、講師がフィードバックする。

5.多面評価で自己認識のズレを可視化する。上司と本人と部下・後輩からの回答を集め、自分が思うマネジメントスタイルと、周囲から見えているスタイルの差を本人に返す。

6.評価への不満は完全には消えないという前提を、最初に共有する。この前提を置いたうえで、公正性とモチベーションを高めるために何ができるかを考える構成とした。

実際に構築した制度のポイント

構築したプログラムの骨格は、3回構成の連続型セッションと、その間に置いた実行サイクルの2層で成り立っている。

1.3回構成・約5か月の連続型プログラムとした。1回目と3回目は宿泊を伴う2日間、2回目は1日で編成する。断続的に間隔を空けることで、学習と実行を交互に配置した。

2.各回に事前課題レポートを課した。提出先を講師と人材育成担当部署の双方に設定し、当日の議論の材料とする。ファイル名と記載要領まで指定し、提出そのものを研修の一部として運用した。

3.第1回は、管理職の役割定義から始める。マネジメントとは何かを扱ったうえで、事業環境分析と戦略構築、ビジョンと組織計画の立案へ進む。自部門の戦略を自ら描かせることが到達点である。

4.第2回は、部下との向き合い方、リーダーシップ、企業経営と人事戦略を扱う。労働時間の管理、目標管理制度の本来の目的、目標のブレイクダウン、中間フォロー面談の技術を、この回に集約した。

5.目標設定は「目標マトリクス」で可視化する。所属目標を縦軸、施策を横軸に置き、課長自身と各部下の目標を同じ表に配置する。課長自身を必ず表に含めることを条件とした。

6.中間フォロー面談はロールプレイで訓練する。順調に成果を出している部下との面談と、結果を出せずに失意にある部下との面談の2ケースを設定し、上司役と部下役を交代しながら実施する。傾聴を基本に置き、具体的な質問、つまずいた行動の確認、本人に自己評価をさせること、ゴールを本人から引き出すこと、アクションプランを引き直すことの5点を型とした。

7.マネジメントスタイル調査を組み込んだ。上司2〜3名、本人、部下・後輩5〜10名を回答者とし、選択式28問と自由記述1問で構成する。結果は第3回で本人に返却し、行動計画に接続する。

8.第3回は総括に充てる。マネジメントスタイル調査の結果を踏まえ、人材育成と戦略のレビュー、戦略実行と部下理解を扱い、最後に自らのビジョンを発表させる。

9.移行と浸透は、回と回の間の運用で担保した。セッション終了後に期限を切って戦略修正シートを提出させ、講師が個別にフィードバックを返す。研修当日ではなく、現場で最初に実行する時点に働きかける設計である。

10.運営はセレクションアンドバリエーションと株式会社シナプスの共同体制とした。事業環境分析・戦略構築・ファシリテーション設計と、人事制度の設計・運用に基づく評価マネジメントの領域を、それぞれの実務経験に応じて分担している。

導入後の変化

総合商社グループの課長職研修は2017年に開講し、以降も毎年度の実施が続いている。

1.受講者評価は開講初年度から高い水準にあった。2017年11月実施回の受講者アンケートでは、研修満足度が5段階平均4.7、内容への興味が同4.7、講師への満足が同4.5、研修内容を今後活用しようと思うかが同4.6であった。参加型で進める設計が受け入れられたことを示す数値である。

2.受講者側から対象層の拡大を求める声が出た。同アンケートの自由記述では、勧めたい対象として課長代理、次期課長候補、出向先の部長・課長、未受講のマネジメント層が挙げられた。受講者自身が「自分の周囲にも同じ言語が必要だ」と判断したことを意味する。

3.同じアンケートで、改善余地も明確になった。進行スピードの適切さは5段階平均3.7、予習・準備の十分さは同3.3であり、他の設問より低い水準にとどまった。以降の年度では、事前課題レポートの提出要領と提出期限を明文化し、当日の時間配分を見直している。

4.プログラムは固定されず、年度ごとに更新されている。管理職の役割定義、事業環境分析と戦略構築、ビジョンと組織計画、部下との向き合い方、リーダーシップ、企業経営と人事戦略という骨格を維持しながら、扱うテーマと配分を年度ごとに調整している。骨格が言語化されていたため、更新は差し替えで足りている。

5.対象となる母集団は大きく拡大した。連結従業員数は2017年3月末時点で約14,200名、2026年3月末時点で約26,800名である。投資先の連結化とグループ再編が進むなかで、管理職の共通言語を毎年供給し続ける仕組みが、先に存在していた状態になる。

人材育成の仕組みは、導入時点の完成度ではなく、その後に自社の判断で使い続けられているかどうかで評価される。セレクションアンドバリエーションと株式会社シナプスが設計した課長職研修の骨格は、同グループにおいて、組織規模の拡大と事業構成の変化を経てなお運用され続けている。

本プロジェクトの特徴

本案件で行った判断は、次の5点に集約できる。

1.評価への納得性を、目標に置かなかった。
一般的には、評価者研修は「納得性を高める説明技術」を教える構成になりやすい。本案件では、差をつけられることへの不満は人間の心理として消えない、という前提を最初に共有した。前提を伏せたまま技術だけを教えると、管理職は「自分の説明が下手だから不満が出る」と受け止め、面談が防御的になる。不満が残ることを認めたうえで、公正性を高める行動に集中させるほうが、面談の質が上がると判断した。

2.目標管理の定義を、教える前に置き換えた。
一般的には、目標管理は「目標を立てて達成度を評価し、昇給や賞与につなげる仕組み」として説明される。本案件では「事業の目標に対して全員の行動を集中させる仕組み」と定義し直したうえで、技術の説明に入った。定義を変えないまま設定技術だけを教えると、個人最適の目標が精緻になるだけで、事業計画との接続は生まれないためである。

3.研修当日ではなく、現場での最初の実行に働きかけた。
一般的には、集合研修は当日の学びの質で評価される。本案件では、回と回の間に実行期間を置き、期限を切った修正シートの提出と講師フィードバックを組み込んだ。行動が変わるかどうかが決まるのは、研修の翌週に現場で1回目を試す時点であり、そこに外部からの視線が届くかどうかが分岐になると判断した。

4.グループ各社の課長職を、同じ場に集めた。
一般的には、親会社で整えた階層別研修を各社へ展開する形をとる。本案件では、事業も商材も異なる会社の課長職を1期に混在させた。自社の常識を相対化する最も強い手段は、講師の指摘ではなく、前提の異なる同じ立場の人間からのフィードバックだからである。

5.支援体制を、2社の共同運営とした。
一般的には、研修は1社が単独で提供する。本案件では、セレクションアンドバリエーションと株式会社シナプスが共同で設計・運営している。事業環境分析と戦略構築を扱う領域と、人事制度の設計・運用の経験に裏づけられた評価マネジメントの領域とでは、講師に求められる実務経験が異なるためである。

担当コンサルタント: 平康 慶浩

最初の設計で最も迷ったのは、「評価の不満は消えない」という話を、初回のどの位置に置くかでした。技術を教えたあとに出すと言い訳に聞こえますし、最初に出すと投げやりに響きます。結論として、目標管理の目的を定義し直した直後に置きました。目的が事業の達成である以上、不満の有無は目的ではない、という順序が要るからです。ここが決まって、面談の演習まで一本の線になりました。

よくあるご質問

Q1. 管理職研修は、単発の集合研修と連続型のどちらが効果的か
行動を変えることが目的であれば、連続型が有効である。単発の研修は当日の理解度を高められるが、現場で最初に実行する場面には立ち会えない。行動の定着を左右するのは、学んだ内容を初めて試したときに何が起きたかであり、そこを扱うには複数回の構成が要る。本事例では約5か月・3回構成とし、回と回の間に実行期間と修正シートの提出、講師フィードバックを置いた。

Q2. 管理職育成に、汎用の研修パッケージやeラーニングではなく、自社向けの連続型プログラムを選ぶ理由は何か
自社の制度と実物の資料を教材にできるかどうかが分かれ目になる。汎用パッケージは知識の標準化には向くが、「自社の評価制度では、この場合どう判断するのか」という問いには答えられない。管理職が迷うのは知識の不足ではなく、自社の文脈での判断であるため、教材が自社のものでないと現場に接続しない。本事例では、労使協定事項や評価制度の実物を題材とし、汎用ケースと組み合わせて構成した。

Q3. グループ会社の管理職研修は、親会社と各社で分けるべきか、合同で行うべきか
共通言語をつくることが目的なら、合同が望ましい。各社ごとに実施すると、その会社の常識を強化する方向に働きやすい。事業も商材も異なる会社の管理職を同じ場に置くと、自社では当然とされてきた前提が説明を要するものとして立ち現れ、相対化が起きる。本事例では、グループ各社から選抜した課長職で1期を編成し、事業横断のグループディスカッションを中心に据えた。

Q4. 管理職研修のプログラムは、何年くらいで作り直す必要があるのか
骨格と中身を分けて考えるとよい。管理職の役割定義、戦略構築、部下との向き合い方、人事評価マネジメントといった骨格は、事業構造が大きく変わらない限り長期にわたって使える。一方、扱うテーマの配分や事例は、法制度や労働市場の変化に応じて毎年見直す前提を置くべきである。本事例では、2017年に設計した骨格を維持しながら、年度ごとにテーマと配分を調整する運用を続けている。

Q5. 目標管理制度への不満は、制度改定で解消できるのか
制度改定だけでは解消しない。不満の中心は制度の設計ではなく、差がないと思っている相手との間で昇給や賞与に差がつくことへの心理反応にあるためである。制度を精緻にしても、この反応そのものは残る。改定によって減らせるのは、目標と事業計画の接続が説明できないことに由来する不満のほうであり、そこを切り分けて手当てするほうが実効性が高い。本事例では、目標のブレイクダウンとマトリクスによる可視化を管理職側の技術として扱った。

Q6. 管理職研修の効果は、どのように測ればよいか
測定点を3つに分けるとよい。第1に受講直後の反応(満足度、活用意向)、第2に行動の変化(多面評価によるマネジメントスタイルの前後比較)、第3に組織側の変化(面談の実施状況、評価の運用品質)である。反応だけを追うと、満足度の高い研修が行動を変えたかどうかを判別できない。本事例では、受講者アンケートに加えて、上司・本人・部下からの回答による多面評価を組み込み、自己認識と他者認識の差を本人に返す構成とした。