若手活躍とベテランの再活性化を実現する人事制度改定プロジェクト
設立1950年代
従業員約830名(連結)
売上約280億円
提供サービス人事戦略策定・人事制度設計
実施期間16ヶ月
支援時期2022年〜2024年
対象層・対象人数全社
事例サマリー
改定前は全社員が単一のキャリアコースに乗り、年齢給と年功的な昇格運用が処遇を決めていた。改定後は、管理職を職務等級制度(ジョブ型)、一般社員を職種別の複線型専門職等級として二層に分け、年齢給を廃止した。
新制度は2024年4月に等級・評価から適用を開始し、報酬制度は2024年12月の賞与、2025年4月の月例給与へと段階的に移行した。現在も同社の基幹人事制度として運用されている。
背景
近畿地方の木質内装建材メーカーである同社は、天然木の突き板を活かした内装建材を主力とし、原木から製品までを自社工場で一貫生産する企業である。業界内で高い商品評価を得てきた一方、新設住宅着工数の減少という構造的な市場縮小に直面していた。
同社は中期経営計画において、外部環境の変化に対応しながら収益力を強化する方針を掲げた。事業戦略は明確である一方、それを実現する組織体制づくりと人員配置が安定しないことが、経営層の共通認識となっていた。
人の側では、採用難、若手・中堅の離職増加、社内の年齢構成の高齢化が同時に進行していた。事業戦略の実現に必要な人材を、確保し、育て、報いる仕組みが機能していない状態であった。
現行の人事制度は30年以上前に設計されたものである。長期雇用には適していたが、「頑張っても給与や昇進のスピードは変わらない」という受け止めが、特に若手層に広がっていた。
課題(Before)
近畿地方の木質内装建材メーカーである同社の改定前の人事制度には、次の課題があった。経営層へのインタビュー、全社員向けのエンゲージメント・サーベイ、賃金・従業員動態の定量分析を通じて整理したものである。
1.年功昇給の傾向が強く、人員数が変わらなくても人件費総額が増え続けていた。事業規模が拡大していない局面では、そのまま収益を圧迫する構造である。
2.管理職以上はポジション単位の昇進であるため滞留傾向が強く、一方で報酬は年功で増加していた。役割が変わらないのに人件費だけが上がるという、責任と処遇の不一致が生じていた。
3.一定の等級までは年功的な昇格運用が行われていた。その結果、営業・開発・技術系の若手人材の昇格が遅れ、成長実感を得にくい状態を招いていた。
4.総合職・一般職・製造職・営業職と業務内容が大きく異なるにもかかわらず、等級も賃金も一律の制度であった。職種ごとに異なる労働市場の水準差に対応できず、採用競争力の低下につながっていた。
5.絶対評価で運用しながら、最終段階で相対評価による調整を行っていた。評価結果の理由を上司が説明しきれず、納得性が低下していた。
6.給与区分が多く、評価制度も複数が併存していた。制度が複雑であることは、それ自体が運用の形骸化を招く。
7.職種に関係なく賃金体系が一律であったため、職種別の要員確保や配置転換の判断に制度が使えなかった。
8.評価結果が月例給与と賞与の双方に大きく反映される設計であった。結果として評価が処遇査定に偏り、育成の手段として機能していなかった。
9.管理職以外に昇級と活躍の場が乏しいという声が、社員から上がっていた。専門性を高める道を選んだ人材が、処遇上は報われない構造であった。
10.評価基準が不明確であり、評価結果のフィードバックも十分に行われていないという声が、同じく社員から上がっていた。
目的と設計方針
セレクションアンドバリエーションは、近畿地方の木質内装建材メーカーである同社の人事制度改革にあたり、制度の部分修正ではなく、人材方針の明文化から着手する方針を採った。何を評価し、何に報いるのかを先に決めなければ、等級・評価・報酬のどれを直しても整合しないためである。
設計方針の第1は、管理職層と一般社員層で等級の考え方を分けることである。管理職は組織上の職責の大きさで、一般社員は個々の専門能力の発揮度で処遇を決める。両者を同じものさしで測ってきたことが、滞留と若手の昇格遅れを同時に生んでいた。
設計方針の第2は、専門性を高める道を、処遇上も実効性のあるものにすることである。専門職の最上位等級を管理職相当の水準まで届かせなければ、複線型は名目に終わる。
設計方針の第3は、評価の反映先を分けることである。中長期の行動変革は昇給と昇格に、短期の目標達成は賞与に接続する。1つの評価結果を両方に強く反映させる従来設計が、評価を査定に偏らせていた。
設計方針の第4は、遵法と組織文化への配慮である。過去の功労者への配慮と、これから活躍が期待される層への傾斜配分を両立させ、不利益変更を回避する移行設計を前提とした。
実際に構築した制度のポイント
近畿地方の木質内装建材メーカーである同社で構築した制度の要素は、次のとおりである。
1.人材方針を明文化した。社員に求めることと、会社が社員とどう向き合うかを対にして定義し、以降の等級・評価・報酬設計の判断基準とした。
2.等級体系を、基礎等級・専門職等級・管理職等級の3層に再構成した。単線1本のキャリアコースを、役割の性質によって分岐させる複線型人事制度である。
3.専門職等級を職種別に設計した。事務・企画、営業、技術の3職種を設定し、それぞれ3段階の等級を置いた。職種ごとに求める専門性が異なる以上、等級定義も分けるという考え方である。
4.専門職の中位等級から、管理職への任用にチャレンジできる経路を設けた。最上位等級まで昇格しなければ管理職を目指せない構造を解消するためである。
5.専門職の最上位等級の賃金レンジを、管理職の初級等級と一部重複させた。専門性の発揮によって管理職相当の処遇に到達できることを、賃金テーブル上で明示した。
6.社外でも市場価値が認められる人材に対し、高度専門職の枠を設けた。社内の階層とは別の基準で処遇するためである。
7.管理職等級には職務等級制度(ジョブ型)を採用した。人ではなくポジションに求められる職責によって等級が決まるため、任用と同時に等級が確定する。段階的な昇格を経ずに上位等級へ任用することも可能である。
8.管理職の任用要件を二軸で定義した。現等級での高い業務パフォーマンスと、組織をまとめる力の発揮である。後者の判断根拠として行動評価を用いる。
9.昇格試験の受験資格となる評価基準を引き上げた。あわせて、年齢や等級在籍年数に関わらず受験資格を得られる特別推薦制度を新設した。
10.行動評価を新設した。従来の成績・能力・意欲の3項目のうち、保有しているかどうかを問う能力・意欲を、発揮しているかどうかを問う行動へと統合したものである。
11.行動評価項目を、全社共通項目と職種・階層別項目の2階層で構成した。行動指針と組織風土診断(エンゲージメントサーベイ)の結果を根拠として設定し、コンピテンシーディクショナリとして具体的な行動例まで明文化した。
12.評価の反映先を分離した。行動評価は年1回実施し昇給と昇格に、成果評価は半期ごとに実施し賞与に反映する。
13.期初面談と期末面談に加え、四半期ごとのフォロー面談を新設した。評価を査定の場から成長支援の場へ転換するための、運用上の仕掛けである。
14.年齢給を廃止し、基本給に一本化した。あわせて資格給・業績給・資格手当・統括手当などを整理し、手当構成をスリム化した。
15.等級ごとに基本給の上限と下限を設けるレンジレート(範囲給)を導入した。上位等級ほど下限を引き上げ、同一等級に滞留し続けた場合は基本給が頭打ちとなる設計である。
16.みなし残業を含む手当の実態を見直した。営業手当と勤務手当に含まれていたみなし残業相当分を分離し、実残業時間に応じた時間外手当として支給する形に改めた。あわせて稼働日数の差を休日日数の調整で解消した。
17.移行と浸透。全社員について新等級への格付けと新旧給与の差額を個別に確認し、下がる者には調整給を付与して段階的に解消する方針とした。プロジェクトメンバーが全拠点を回り、制度説明会を計20回実施した。規程類の改定案作成も並行して支援した。
導入後の変化
1.評価・昇給・昇格の実務が新制度で回り始めた。制度導入から2年が経過し、等級判定と処遇決定が新しい基準で実施されている。設計した仕組みが年間サイクルとして定着したことを意味する。
2.管理職の任用判断の基準が変わった。年齢・過去の功労・経験年数ではなく、その職務を遂行する実力があるかどうかで判断するという認識が、管理職層に広がっている。職務等級制度は、任用の根拠を職責に置く仕組みであり、この変化はその直接の帰結である。
3.若手の抜擢が行いやすくなった。ポジションに等級が紐づくため、在籍年数を経ずに上位役職へ任用することが制度上可能になったためである。
4.組織設計の起点が「人」から「役職・ポジション」へ移った。従来は人に役職を付けていたため役職者が増え、組織が細分化していた。ポジションを先に定義する設計に変えたことで、戦略に基づいて組織の形を決められるようになっている。
5.一般社員層でも、等級や役職に見合った能力を発揮すれば処遇が上がるという理解が広がりつつある。年齢給の廃止により、年齢と給与の対応関係が制度上なくなったためである。
6.制度改定の3年後にあたる2025年、同社は組織風土診断(エンゲージメントサーベイ)を再実施した。各項目に対する満足度に大きな変化は見られなかった一方、重要度は全体的に上昇した。会社の取り組みに対する関心と期待が高まったことを示す結果であり、浸透施策を継続する根拠となっている。
7.経営メッセージとの接続が生じた。2025年に就任した新経営トップは、中期経営計画に人的資本経営を掲げている。その契機となったのが、制度改定時に実施したエンゲージメント・サーベイの結果であった。制度改革のために取得したデータが、その後の経営方針の起点になっている。
人事制度は、導入時点の完成度ではなく、その後に自社の意思決定を支える基盤として使われ続けるかどうかで評価される。セレクションアンドバリエーションが設計した等級・評価・報酬の骨格は、同社において、経営体制の交代を挟んでなお運用され、人材への投資判断の前提として機能している。
本プロジェクトの特徴
1.管理職と一般社員で等級の考え方を分けた。
一般的には、ジョブ型を導入すると決めた企業は全社一律で職務等級に切り替えようとする。制度の一貫性が保たれ、説明もしやすいためである。本案件では、管理職のみを職務等級制度とし、一般社員は職種別の複線型専門職等級とした。
判断の根拠は、同社の課題が「管理職ポストの滞留」と「若手・専門人材の昇格の遅れ」という異なる2つであった点にある。ポジション数が有限で職責の差が明確な管理職層には職務等級が適合するが、担当業務の専門性を積み上げる一般社員層に同じ基準を当てれば、ポスト不足がそのまま処遇の頭打ちになる。課題が違えば、処方も分ける。
2.複線型を、賃金テーブル上の重複で担保した。
一般的には、複線型人事制度は等級体系図の上で管理職コースと専門職コースを並べて完成とされることが多い。しかし体系図上で並列でも、賃金レンジが管理職より明確に下であれば、社員は専門職コースを「昇格できなかった人の受け皿」と受け取る。
本案件では、専門職の最上位等級の賃金レンジを管理職の初級等級と意図的に重複させた。同時に、管理職の中位等級と上位等級のレンジは重複させず、上位管理職を目指す動機も残した。どこを重ねてどこを離すかという設計が、複線型が機能するかどうかを決める。
3.評価の反映先を分け、四半期の面談を義務づけた。
一般的には、評価制度の改定は評価項目と評価基準の見直しに集中する。しかし同社の課題は、評価結果が月例給与と賞与の双方に強く効くために、評価が査定の場になっていたことであった。本案件では、行動評価を昇給・昇格に、成果評価を賞与に分けて接続し、そのうえで期初・期末に加えて四半期ごとのフォロー面談を制度として設けた。評価の目的を育成へ転換するには、項目を書き換えるだけでは足りず、上司と部下が期中に会う回数を仕組みとして増やす必要がある。
4.制度完成後の浸透を、プロジェクトの一部として設計した。
一般的には、制度設計プロジェクトは説明会の実施をもって完了とされる。本案件では、経営層の合意は比較的早期に得られた一方、現場への浸透に時間を要することが設計段階から予見されていた。そのため、プロジェクトメンバーが全拠点を回る計20回の説明会を組み込み、さらに制度稼働後の評価者研修・被評価者研修を後続フェイズとして最初から計画に含めた。制度は、稼働した日から運用が始まる。
担当コンサルタント: 柳瀬 大地 、 瓜阪 彰悟 、 平康 慶浩
最も判断を要したのは、専門職の最上位等級の賃金レンジを、管理職の等級とどこまで重ねるかという点でした。重ねなければ複線型は名目に終わり、重ねすぎれば上位管理職を目指す動機が失われます。私たちは、専門職の最上位と管理職の初級は重ね、管理職の中位と上位は重ねないという線の引き方をご提案し、経営層とご議論のうえで決定いただきました。制度は、図ではなく金額で信じられるものだと考えています。
よくあるご質問
分けてよい。むしろ、両者の課題が異なる場合には分けるべきである。管理職はポジション数が有限であり職責の差が明確なため、職務等級制度(ジョブ型)が適合する。一般社員は担当業務の専門性を積み上げる層であるため、能力・行動を基準とする等級のほうが機能する。全社一律の等級思想にこだわると、どちらかの層で必ず無理が生じる。本事例では管理職を職務等級、一般社員を職種別の複線型専門職等級として設計した。
Q2. なぜ全社一律のジョブ型ではなく、複線型の専門職等級を選んだのか。
全社をジョブ型にすると、ポスト数の上限がそのまま全社員の処遇の上限になるためである。ポジション数が限られる企業で一般社員層まで職務等級を適用すれば、専門性を高めても処遇が上がらない層が大量に生じ、若手の離職要因を解消できない。本事例では、管理職層にのみ職務等級を適用し、一般社員層は職種別の専門職等級として、専門性の深化が処遇に反映される経路を確保した。
Q3. 複線型人事制度が「名ばかり」にならないようにするには、何が必要か。
賃金レンジの重複設定が必要である。等級体系図の上で管理職コースと専門職コースを並列に描いても、専門職の賃金上限が管理職の下限に届いていなければ、社員は専門職コースを昇格できなかった人の受け皿と受け取る。本事例では、専門職の最上位等級のレンジを管理職の初級等級と重複させ、専門性の発揮によって管理職相当の処遇に到達できることを金額で示した。
Q4. 年齢給を廃止すると、社員の反発は避けられないのではないか。
移行設計と説明の量で管理できる。年齢給の廃止それ自体より、廃止によって個人の給与がいくら下がるかが反発の要因となる。本事例では、全社員について新等級格付け後の新旧給与差を個別に確認し、下がる者には調整給を付与して段階的に解消する方針を採った。あわせて、プロジェクトメンバーが全拠点を回り制度説明会を計20回実施した。不利益変更を回避する設計と、説明の絶対量の両方が必要である。
Q5. 人事制度は何年くらいで作り直す必要があるのか。
制度そのものの寿命ではなく、前提の変化で判断する。等級・評価・報酬の骨格は、事業構造・人員構成・労働市場の3つが設計時の前提から乖離した時点で見直しが必要になる。本事例の改定前制度は30年以上運用されており、その間に市場は縮小し、年齢構成は高齢化し、採用競争は激化していた。年数そのものより、「この制度は、いま採りたい人材を採り、活かせているか」を問うほうが実務的である。目安としては、中期経営計画の2サイクル程度で骨格の点検を行うことを推奨している。
Q6. グループ会社を含めて、人事制度は統一すべきか。
事業と職種の性質が近いのであれば、等級・評価・報酬の骨格は共通化するほうがよい。制度が分かれていると、グループ内の人材異動のたびに処遇の読み替えが必要になり、組織再編時には統合作業が発生する。本事例では、製造を担うグループ会社を含めて共通の等級・評価・報酬体系を設計し、職種別の等級を設けることで業務特性の違いを吸収した。統一と個別対応は二者択一ではなく、どの階層で共通化しどの階層で分岐させるかの設計問題である。