──スピード重視で始めたのに、なぜ組織が足を引っ張り始めるのか
セレクションアンドバリエーションの平康慶浩です。
今回は、最近増えつつある、ベンチャー企業とかからのご相談への回答、になります。
大企業における新規事業創出の際にもお答えになります。
前後編に分かれていますので、ぜひご覧ください。
「人が辞める」よりも前に起きていること
新規事業や創業期の立ち上げフェーズでは、プロダクト開発、営業、資金調達などに意識が集中するのが当然です。むしろそれがなければ事業は始まりません。
けれど、ある段階になると、決まって聞こえてくるのがこんな声です。
「うまく立ち上がってきたと思っていたけれど、なぜかチームが回らなくなってきた」
「採用はしてるけど、なんとなく“合わない人”が増えてきた」
「優秀だったメンバーが、ふとしたタイミングで辞めていく」
売上やプロダクトの伸びとは裏腹に、組織が重くなる。チームが疲弊する。現場に「やりづらさ」が滲み出す。
このフェーズで多くの企業が直面するのが、「人の問題」という名の“人事の未整備”です。
よくある「創業期の人材トラブル」
創業期に顕在化する組織の課題は、実はほとんどが「制度」の欠如に起因しています。具体的には、以下のようなものです。
- 優秀な人が辞めるが、理由がよくわからない
→ 評価軸が曖昧で、納得感のある昇給や処遇が設計されていない - 中途採用したマネージャーの力量がバラバラ
→ 職務定義や任用基準が整備されておらず、現場に丸投げされている - 新卒採用を始めたいが、誰がどう育てるのかが不明確
→ キャリアパスや等級制度の設計が追いついていない
こうした問題は、表面上は「人の課題」に見えますが、深掘りすると「制度がないから評価も育成も採用も曖昧だった」という構造的な問題に行き着きます。
人事は後回しでいい? ──答えは「いいえ。でも今すぐ作る必要はない」
私たちが新規事業部門やスタートアップの支援をする中で、よくいただく質問があります。
「社員が10人未満なのに、評価制度や等級制度ってもう必要ですか?」
この問いに対する答えは、「いますぐ完璧な制度は必要ない。でも、未来に向けた設計図は今から描いておくべき」です。
なぜなら、あとで制度を作ろうとすると、
- 「今いる人の処遇を変えづらい」
- 「既得権益や曖昧な期待値が固定されてしまっている」
といった“しがらみ”がすでに組織に根を張っているからです。
制度は後で整備できます。しかし、「制度を考える意思」だけは、今のうちに持っておく必要があります。
2つの人事の考え方──アジャイル型とインフラ型
創業フェーズの人事には、大きく2つのアプローチがあります。
▷ アジャイル型人事
- 経営層自らが1on1などでメンバーのモチベーションと職務を把握
- 報酬は過去比や本人の貢献感を重視して柔軟に調整
- 評価は定性的な要素中心で、定量評価はあくまで参考
これは「人の顔が見える規模」のときに有効なやり方です。人数が少なく、経営者自身がすべてを見ていられる状態では、むしろこの柔軟さが力になります。
▷ インフラ型人事
- 経営層は事業計画に集中し、マネジャーに職務・評価を移譲
- 等級や評価制度、昇給原資などを明確化し、制度で人材を動かす
- 評価者教育や制度運用によって属人性を排除
このフェーズになると、アジャイル型では「統制が効かない」「人件費が膨らむ」「フィードバックが場当たり的になる」といったリスクが高まり、制度による整備が不可欠になります。
「誰をバスに乗せるか」が人事制度の出発点
新規事業において、人事制度を作る最大の意味は、「誰を採用し、どう育て、どこまで任せるか」を明確にすることです。
この意思がないまま、採用だけが先行すると、
- 誰でもいいから採る
- 現場に“なんとなく”任せる
- 問題が起きたら“気合”でカバーする
という“属人・場当たり・精神論”の泥沼に陥ります。
人事制度の核は、「人を見極める視点を、組織として持つこと」です。これは経営戦略そのものといっても過言ではありません。
「制度は小さく、でも設計図は大きく」
ここまでの話をまとめると、次のように言えます。
- 制度は今すぐ導入しなくてもよい
- でも「どんな人と、どんな組織をつくりたいか」は、今決めておくべき
そして、それこそが人事のグランドデザインです。これは、評価制度でも等級制度でもありません。事業の未来に向けて、組織としてどう人と向き合うかという意志と構想です。
新規事業だからこそ、人事制度は“後回しにしない”
新規事業はスピードと柔軟性が命です。しかし、だからこそ「制度は要らない」と考えるのは危険です。
制度は自由を制限するものではなく、自由を守るための“枠組み”です。
次回の後編では、実際にどうやってグランドデザインを描き、等級・評価・報酬制度を設計し、現場で機能させるかをご紹介します。

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